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第二章
第10話『二人でデート?』三連休二日目
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現時刻は午前十時ちょうど。
先程のやりとりを思い出してた。
「ねえねえ! せっかくだし現地集合にしようよ!」
「え、2人で同じ場所に行くのに? 家から一緒に行けばいいと思うんだけど……」
「それじゃあ面白くないでしょ~。こういうのは雰囲気が大事なのよっ」
ということがあって、集合時間は十時三十分。先に家を出て来たけど、少し早すぎただろうか。理解はできていないけど、こういうことであっているだろうか。
見上げれば晴れ渡る青空、想像が膨らむ様々な形をした雲々。
視線を戻せば仲睦まじい笑顔咲く家族、頬を赤めらせながらぎこちなく手を繋ぐ恋人たち。
三連休の中日だから人の波を心配していたけど、運良く想定の半分ぐらいで一安心。
「おっまたせー」
馴染みある声の方向へ振り向と、そこには普段の印象とは真逆な服装をしている守結姉が立っていた。
普段の印象は純白。制服はともかく、部屋着や普段着は水色や白を基調とした服装ばかり着ているからだ。
今というと、黒を基調とした半袖のワンピースに、コバルトブルーのハイヒールという真逆のコーデ。真っ黒というわけではなく、ひらひらと揺れるスカートや袖からは純白のレースを覗かせていて、バランスの良いコーディネートになっている。さらに、ヒールと同じ色の横長ショルダーポーチを組み合わせている。
そんな姿を見て、新鮮な気持ちになった。
「とか言っても2人して集合時間より早く来てたんじゃ、どっちも待ってないってね」
「ほんとそうだよ。てっきり、五分前に来ると思ってたよ」
「当初はそのつもりだったんだけど……家事とか準備も早めに済んじゃったってのもあるけど、しーくんなら早く出発してると思ってね」
そう言い終えると、守結姉はモジモジとし始めた。
「そ、それで……どう、かな?」
小恥ずかしそうに目線を下げながら、上目遣いで何かについて問いかけてきた。
「え? どうって?」
「い、いやさ。そのー……あの、この服とか、さ?」
こんな時、気の利いた一言が思い付けばいいのだけど、生憎とそんな言葉は思い付かない。
「あー、えーっと……に、似合ってるよ」
一生縁がないと思っていた台詞を吐いたことに背中がむず痒くなって、今すぐこの場から走り去りたい。が、ぐっと堪えて顔と目線を逸らした。
「え、そうかな? えっへへ……ありがとう」
守結姉は頬を赤く染めて下を向いた。普段の天真爛漫で活発な性格とは真逆な反応。
こういうことに疎いため、次の言葉がみつからない。
こんな状況のなか、守結姉は更なる追い打ちをかけてきた。
「それでね、しーくん。あのね、お願いがあるんだけど……」
細々としおらしく、普段の半分ぐらいしかない声量で続けた。
「今日、今日だけで良いんだけど、その……名前の呼び方を変えてもらえないかなぁー、なんて――」
「つ、つまり……?」
「今日だけ……今日だけは、守結って呼んでほしいなって」
俯きながら小言で喋っていたけど、途端にパッと顔を上げて真っ赤に染まる顔を露にした。
その問いに対して、純粋な疑問を訊き返した。
「それなら毎日そう呼んでない?」
「お姉ちゃんじゃなくてね、名前だけでってことなんだよね。いい歳になったことだし、この期に変えていけたらなーって思って……」
「……そっか、わかったよ」
「ほ、ほんと!? じゃあじゃあ、よろしく!」
と、両手で頬を二度叩いてハキハキと答えた。
「そういえばこの前、ブレスレットが欲しいって言ってなかった?」
「あーっ、たしかに言ってたかも?」
「じゃあ、今日の目標はそれでいこう」
本日の目標も決まり、僕たちは歩き出した。
人の波は少ないけど並ぶ店はかなりの数。全部周るのは今日だけでは無理がある。
守結がパンフレットを眺めながら最初の行き先を服店に決めてくれた。なにやら嫌な予感がしつつも入店。
店内へ入るやすぐに、予感が的中。服を眺め始める前に、1人の女性店員がこちらへ近づいてきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのような服をご入用ですか?」
「は、はい。今日は様子見程度に、と思い――」
「是非、私にお手伝いさせてください! お似合いになりそうな商品を数点お持ち致しますので少々お待ちくださいね!」
そういうと女性定員は足早に意気揚々と去っていく。が、ものの数分もしない内に戻って来た。その手には、いや両腕に服を抱えながら。
流れるままに試着室へ連れていかれ、ファッションショーが開催されることになった。
「あらあらあらお客さん、とってもお綺麗ですね~」
「い、いえそんなことは……」
「とっっってもお綺麗ですよ。モデルさんみたい! ねっ、彼氏さんもそう思いますよね?!」
「そうですねとても似合ってると思います。あいや僕は……」
「そんな、謙遜なさらず存分に彼女さんを褒めてあげてくださいっ。さっ、さっ、これとかもいかがですか? これなんかもっ!」
コーデ毎に感想を求められるが、我が姉ながらどれに似合う。正直、どのコーデも外れがなく、店員のセンスがいいというのもある。
七変化する様に驚いている時間はなかった。新しい組み合わせが次々と用意され、ヒョイヒョイと手渡されては、ファッションチェンジを繰り返した。
守結も最初こそは遠慮していたけど、段々と調子好き始めて、気づけば小一時間が経過していた。
店を出た僕たちは、若干の疲労感からベンチに腰掛けていた。
「いやあ~、私もついはしゃいじゃったなぁ。付き合ってくれてありがとね」
「あんな姿初めて見たから、かなり新鮮味があって面白かったよ」
「あー、今ひょっとして、子供っぽくて面白かった、なんて思ってないよねー?」
雑談をしていると『ぐぅぅぅぅぅ』と、腹の音が鳴った。
気恥ずかくも手で腹部を覆い隠し、恐る恐る目線を合わせると、
「「今の聞こえた?」」
お互いの仕草を見るに、同時に空腹音を鳴らしていたのがわかった。
一瞬の恥じらいを、僕たちは笑いに変えて言葉を続けた。
「あっはは、お腹空いちゃったねぇ~」
「だね。時間的にちょうどいいし、ご飯にしよ」
守結がパンフレットを取り出し覗き込んで食事処を探し始めた。
「ガッツり系にする? 今ならなんでもお腹に入るような気がするっ!」
「確かに、朝食をいつもより少なくしてたもんね」
「な、何故それをっ!」
顔とお腹を隠して、芸人さながらに驚き退いている。そんな守結に追撃の一言。
「配膳係は僕だよ?」
「な、なるほどー……」
守結はかーっと赤面した頬を両手で覆い隠し始めた。
その後、熱を冷ますようにパタパタと顔を仰ぎながら、「そ、そういうことだから、ははは早く決めちゃお!」と言葉詰まらせている。
数分話し合った結果、カフェレストランに決まった。
◇◇◇◇◇
気づけば沢山の店を回っていた。
最初は寄り道程度の感覚だったけど、目新しいものの数々が好奇心に火をつけて体を突き動かしていた。
空は茜色に染まり、そろそろ帰らないといけない。
「たっくさんお店見ちゃったね。そろそろ帰ろっか」
「じゃあその前に、最後のお店であそこに入ろうよ」
「え?」
「やっぱり、完全に忘れてたでしょ」
ポカンとしている守結にそう言うと、一番近いアクセサリー店に指を差した。
時間の猶予的に長居できないけど店内へと足を運んだ。
店内には様々な小物が並べられている。
パッと値段を見るに、良心的な値段設定になっている。
そのためか店内の客層は、自分たち含め若者が中心となっている。
「うわーっ! すっごい沢山あるねー!」
「確かに凄い数だね。こんなにあったら、いい感じのやつ見つけられそうじゃない?」
「ほんとそう……選びたい放題なのはいいけど、もっと早く来てればよかったなぁ。こういうの決めるの時間かかっちゃうし……」
時間を惜しんでいた割に、守結は商品の山へと飛び付き始めた。
一緒に品定めをしているけど、数が数だけあってかなり目移りしているようだ。
「あ~これもいいし、これも可愛い。あ~これなんかも可愛い、ここから一つなんて決めれないー!」
「普段はテキパキと決めれるのに、こういうのは違うんだね」
「それはそれ、これはこれだよ。小物一つで印象って変わってくるんだから」
「ふーん、そういうもんなんだね」
でも、今回は時間があるわけではない。
守結の決めかねる姿を見て、ある提案を持ち掛けた。
「じゃあさ僕が決めよっか?」
「え?」
「時間も時間だし、勢い良く選んだ方が名残惜しくなくていいんじゃない?」
「確かに……ほうほう。うん、いいねそれ! じゃあお願いしちゃおうっかな、スパッといっちゃって!」
そう言い切ると、手に持っていたブレスレットを元の位置へと戻し、ビシッと気を付けの姿勢で目を閉じて待機し始めた。
僕は考えた。
今日初めて知った一面。清楚系な明るいイメージからは真逆と言える深みのある色をチョイスするのもありだ。色合いは絞れても確かにこれは誰が見ても選ぶのに時間が掛かる。
顔を上げて目を閉じる――そして、パッと目を開いて視線を元に戻し最初に視界に入って来た物を手に取った。
一際目立つ物ではない。だけど、不思議と引き込まれるものを感じた。革製で装飾がほとんどない落ち着いた藍色のブレスレット。
「ま、守結。これとかどうかな」
「うん、うんうん! これに決めた!」
そう言うと、腕に飛び付いてはブレスレットを持って会計へと駆けていった。
表情は見えなかったけど、嫌々な態度ではなかったようで一安心。
店を出て、茜色の夕陽を背にしての帰路。
肩を並べて歩きながら守結はブレスレットを何度も眺めては表情を緩めている。
「しーくん今日はありがとね」
「急にどうしたの」
「いやね、急なお願いだったからさ」
「こっちに来て日が浅いし、こういう探検みたいな感じなの好きだから、僕も楽しかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しい! 私も楽しかったー!」
思い切りのよい背伸びをしながらそう言い、言葉通りのスッキリしたような、清々しい表情を見せている。
「そういえば先生が来週は忙しい的なこと言ってたけど、そっちの先生は何か言ってた?」
「いやー? こっちは覚悟しておいた方が良いよ。とか言ってたね」
「その時になったらわかりそうだし気にしなくて大丈夫そうかな」
今考えても仕方ないし週明けを楽しみにしておこう。
「うーん、今日の晩御飯何がいいかな? というか何食べたい?」
「さっぱり系のとか良さそうかも」
「あ、それ賛成!」
こうして連休二日目は幕を閉じた。
先程のやりとりを思い出してた。
「ねえねえ! せっかくだし現地集合にしようよ!」
「え、2人で同じ場所に行くのに? 家から一緒に行けばいいと思うんだけど……」
「それじゃあ面白くないでしょ~。こういうのは雰囲気が大事なのよっ」
ということがあって、集合時間は十時三十分。先に家を出て来たけど、少し早すぎただろうか。理解はできていないけど、こういうことであっているだろうか。
見上げれば晴れ渡る青空、想像が膨らむ様々な形をした雲々。
視線を戻せば仲睦まじい笑顔咲く家族、頬を赤めらせながらぎこちなく手を繋ぐ恋人たち。
三連休の中日だから人の波を心配していたけど、運良く想定の半分ぐらいで一安心。
「おっまたせー」
馴染みある声の方向へ振り向と、そこには普段の印象とは真逆な服装をしている守結姉が立っていた。
普段の印象は純白。制服はともかく、部屋着や普段着は水色や白を基調とした服装ばかり着ているからだ。
今というと、黒を基調とした半袖のワンピースに、コバルトブルーのハイヒールという真逆のコーデ。真っ黒というわけではなく、ひらひらと揺れるスカートや袖からは純白のレースを覗かせていて、バランスの良いコーディネートになっている。さらに、ヒールと同じ色の横長ショルダーポーチを組み合わせている。
そんな姿を見て、新鮮な気持ちになった。
「とか言っても2人して集合時間より早く来てたんじゃ、どっちも待ってないってね」
「ほんとそうだよ。てっきり、五分前に来ると思ってたよ」
「当初はそのつもりだったんだけど……家事とか準備も早めに済んじゃったってのもあるけど、しーくんなら早く出発してると思ってね」
そう言い終えると、守結姉はモジモジとし始めた。
「そ、それで……どう、かな?」
小恥ずかしそうに目線を下げながら、上目遣いで何かについて問いかけてきた。
「え? どうって?」
「い、いやさ。そのー……あの、この服とか、さ?」
こんな時、気の利いた一言が思い付けばいいのだけど、生憎とそんな言葉は思い付かない。
「あー、えーっと……に、似合ってるよ」
一生縁がないと思っていた台詞を吐いたことに背中がむず痒くなって、今すぐこの場から走り去りたい。が、ぐっと堪えて顔と目線を逸らした。
「え、そうかな? えっへへ……ありがとう」
守結姉は頬を赤く染めて下を向いた。普段の天真爛漫で活発な性格とは真逆な反応。
こういうことに疎いため、次の言葉がみつからない。
こんな状況のなか、守結姉は更なる追い打ちをかけてきた。
「それでね、しーくん。あのね、お願いがあるんだけど……」
細々としおらしく、普段の半分ぐらいしかない声量で続けた。
「今日、今日だけで良いんだけど、その……名前の呼び方を変えてもらえないかなぁー、なんて――」
「つ、つまり……?」
「今日だけ……今日だけは、守結って呼んでほしいなって」
俯きながら小言で喋っていたけど、途端にパッと顔を上げて真っ赤に染まる顔を露にした。
その問いに対して、純粋な疑問を訊き返した。
「それなら毎日そう呼んでない?」
「お姉ちゃんじゃなくてね、名前だけでってことなんだよね。いい歳になったことだし、この期に変えていけたらなーって思って……」
「……そっか、わかったよ」
「ほ、ほんと!? じゃあじゃあ、よろしく!」
と、両手で頬を二度叩いてハキハキと答えた。
「そういえばこの前、ブレスレットが欲しいって言ってなかった?」
「あーっ、たしかに言ってたかも?」
「じゃあ、今日の目標はそれでいこう」
本日の目標も決まり、僕たちは歩き出した。
人の波は少ないけど並ぶ店はかなりの数。全部周るのは今日だけでは無理がある。
守結がパンフレットを眺めながら最初の行き先を服店に決めてくれた。なにやら嫌な予感がしつつも入店。
店内へ入るやすぐに、予感が的中。服を眺め始める前に、1人の女性店員がこちらへ近づいてきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのような服をご入用ですか?」
「は、はい。今日は様子見程度に、と思い――」
「是非、私にお手伝いさせてください! お似合いになりそうな商品を数点お持ち致しますので少々お待ちくださいね!」
そういうと女性定員は足早に意気揚々と去っていく。が、ものの数分もしない内に戻って来た。その手には、いや両腕に服を抱えながら。
流れるままに試着室へ連れていかれ、ファッションショーが開催されることになった。
「あらあらあらお客さん、とってもお綺麗ですね~」
「い、いえそんなことは……」
「とっっってもお綺麗ですよ。モデルさんみたい! ねっ、彼氏さんもそう思いますよね?!」
「そうですねとても似合ってると思います。あいや僕は……」
「そんな、謙遜なさらず存分に彼女さんを褒めてあげてくださいっ。さっ、さっ、これとかもいかがですか? これなんかもっ!」
コーデ毎に感想を求められるが、我が姉ながらどれに似合う。正直、どのコーデも外れがなく、店員のセンスがいいというのもある。
七変化する様に驚いている時間はなかった。新しい組み合わせが次々と用意され、ヒョイヒョイと手渡されては、ファッションチェンジを繰り返した。
守結も最初こそは遠慮していたけど、段々と調子好き始めて、気づけば小一時間が経過していた。
店を出た僕たちは、若干の疲労感からベンチに腰掛けていた。
「いやあ~、私もついはしゃいじゃったなぁ。付き合ってくれてありがとね」
「あんな姿初めて見たから、かなり新鮮味があって面白かったよ」
「あー、今ひょっとして、子供っぽくて面白かった、なんて思ってないよねー?」
雑談をしていると『ぐぅぅぅぅぅ』と、腹の音が鳴った。
気恥ずかくも手で腹部を覆い隠し、恐る恐る目線を合わせると、
「「今の聞こえた?」」
お互いの仕草を見るに、同時に空腹音を鳴らしていたのがわかった。
一瞬の恥じらいを、僕たちは笑いに変えて言葉を続けた。
「あっはは、お腹空いちゃったねぇ~」
「だね。時間的にちょうどいいし、ご飯にしよ」
守結がパンフレットを取り出し覗き込んで食事処を探し始めた。
「ガッツり系にする? 今ならなんでもお腹に入るような気がするっ!」
「確かに、朝食をいつもより少なくしてたもんね」
「な、何故それをっ!」
顔とお腹を隠して、芸人さながらに驚き退いている。そんな守結に追撃の一言。
「配膳係は僕だよ?」
「な、なるほどー……」
守結はかーっと赤面した頬を両手で覆い隠し始めた。
その後、熱を冷ますようにパタパタと顔を仰ぎながら、「そ、そういうことだから、ははは早く決めちゃお!」と言葉詰まらせている。
数分話し合った結果、カフェレストランに決まった。
◇◇◇◇◇
気づけば沢山の店を回っていた。
最初は寄り道程度の感覚だったけど、目新しいものの数々が好奇心に火をつけて体を突き動かしていた。
空は茜色に染まり、そろそろ帰らないといけない。
「たっくさんお店見ちゃったね。そろそろ帰ろっか」
「じゃあその前に、最後のお店であそこに入ろうよ」
「え?」
「やっぱり、完全に忘れてたでしょ」
ポカンとしている守結にそう言うと、一番近いアクセサリー店に指を差した。
時間の猶予的に長居できないけど店内へと足を運んだ。
店内には様々な小物が並べられている。
パッと値段を見るに、良心的な値段設定になっている。
そのためか店内の客層は、自分たち含め若者が中心となっている。
「うわーっ! すっごい沢山あるねー!」
「確かに凄い数だね。こんなにあったら、いい感じのやつ見つけられそうじゃない?」
「ほんとそう……選びたい放題なのはいいけど、もっと早く来てればよかったなぁ。こういうの決めるの時間かかっちゃうし……」
時間を惜しんでいた割に、守結は商品の山へと飛び付き始めた。
一緒に品定めをしているけど、数が数だけあってかなり目移りしているようだ。
「あ~これもいいし、これも可愛い。あ~これなんかも可愛い、ここから一つなんて決めれないー!」
「普段はテキパキと決めれるのに、こういうのは違うんだね」
「それはそれ、これはこれだよ。小物一つで印象って変わってくるんだから」
「ふーん、そういうもんなんだね」
でも、今回は時間があるわけではない。
守結の決めかねる姿を見て、ある提案を持ち掛けた。
「じゃあさ僕が決めよっか?」
「え?」
「時間も時間だし、勢い良く選んだ方が名残惜しくなくていいんじゃない?」
「確かに……ほうほう。うん、いいねそれ! じゃあお願いしちゃおうっかな、スパッといっちゃって!」
そう言い切ると、手に持っていたブレスレットを元の位置へと戻し、ビシッと気を付けの姿勢で目を閉じて待機し始めた。
僕は考えた。
今日初めて知った一面。清楚系な明るいイメージからは真逆と言える深みのある色をチョイスするのもありだ。色合いは絞れても確かにこれは誰が見ても選ぶのに時間が掛かる。
顔を上げて目を閉じる――そして、パッと目を開いて視線を元に戻し最初に視界に入って来た物を手に取った。
一際目立つ物ではない。だけど、不思議と引き込まれるものを感じた。革製で装飾がほとんどない落ち着いた藍色のブレスレット。
「ま、守結。これとかどうかな」
「うん、うんうん! これに決めた!」
そう言うと、腕に飛び付いてはブレスレットを持って会計へと駆けていった。
表情は見えなかったけど、嫌々な態度ではなかったようで一安心。
店を出て、茜色の夕陽を背にしての帰路。
肩を並べて歩きながら守結はブレスレットを何度も眺めては表情を緩めている。
「しーくん今日はありがとね」
「急にどうしたの」
「いやね、急なお願いだったからさ」
「こっちに来て日が浅いし、こういう探検みたいな感じなの好きだから、僕も楽しかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しい! 私も楽しかったー!」
思い切りのよい背伸びをしながらそう言い、言葉通りのスッキリしたような、清々しい表情を見せている。
「そういえば先生が来週は忙しい的なこと言ってたけど、そっちの先生は何か言ってた?」
「いやー? こっちは覚悟しておいた方が良いよ。とか言ってたね」
「その時になったらわかりそうだし気にしなくて大丈夫そうかな」
今考えても仕方ないし週明けを楽しみにしておこう。
「うーん、今日の晩御飯何がいいかな? というか何食べたい?」
「さっぱり系のとか良さそうかも」
「あ、それ賛成!」
こうして連休二日目は幕を閉じた。
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