上 下
9 / 129
第二章

第8話『戦術授業』

しおりを挟む
 これからは座学授業。
 作戦、戦略、戦術などの戦略面の内容を主に進行する。

「昨日、実技授業で感覚を取り戻したと思います。皆さんの中には毎日が実技授業なら、と望む人もいるかと思いますが、実際のダンジョンでは戦った、勝っただけのシンプルなものではなりません」

 先生の手には教本ではなく、代わりに数枚の資料書がありそれらの枚数を数え始めた。

「この資料を基に進行します。ですが、残念ながら全員に配ることはできないので、五つのグループに分かれてください。移動が面倒だと思うので今回は前後の席で組むんでください」

 先生は軽い説明を交えながら資料を各グループへと配布。
 それには、少ない説明文と数個の図が描かれていた。

「今から少しだけ設定を解説します。っとその前に、初めて同士の人もいると思うので自己紹介などしておいてください」

 最高段に集まる僕たちは自己紹介を始めた。
 まず初めに口を開いたのは桐吾とうご

「2人とは初めましてだね。僕は白刀はくとう桐吾とうご、クラスはウォーリア、よろしく」
「次は僕……かな。楠城くすのき志信しのぶです。クラスはアコライト、よろしく」

 流れのまま何気ない顔で、すらすらと言葉を並べたけど、つい目線で口元や顔色を窺っている。
 そんな内心とは裏腹に2人は、順々に自己紹介を進めた。

「こうやってしっかりお話しするのは初めてよね。あたしは古宇田こうだ彩夏さやか、メイジよ。よろしくー」

 そういば古宇田こうださんは、守結まゆ姉のことを根掘り葉掘り訊かれていたときに居た記憶がある。
 活気があるというか、気が強そうな印象がある。

「最後は私ね。月森つきもり美咲みさき、クラスはプリーストです。よろしくお願いします」

 少し大人しそうで、落ち着いて淡々と話すその口調からは、感情をあまり表に出さなそうな印象を抱いた。
 自己紹介を終えたタイミングで、先生の説明が始まった。

「では、そろそろ始めますね。まず第一項――初の初層へ到達したとします。序層で、討伐済みのモンスターと色違いだが瓜二つの姿形をするモンスターに遭遇した場合、目の前に居る一体と少し離れたところの三体、どちらを優先するべきしょうか。理由など記入せず三十秒以内に判断してください」

 課題伝達が終了後、すぐに各所から討論の声が上がり始める。
 話を切り出したのは桐吾とうご

「みんなはどちらだと思う?」
「あたしは初めの一体で良いと思うわ」
「私もそう思います」
「うん、僕もそうだと思う」

 僕たちのグループ全員の意見一致にして即決だった。

「はい、では以上では時間です。一体は右手を、三体は左手を挙げてください。――はい、ありがとうございます。圧倒的にというか一つのグループ以外は三体の方を選んだようですね。効率的に考えれば、もっともな解答だと思います。が、ダンジョン内での正解は一体の方です」

 周りのグループからは不服と疑問を嘆く声が次々に上がる。
 先生はその声々を掻き消すように授業を進め始めた。

「何故かというと、モンスターには瓜二つの姿形をしていても、色や模様によって名称が分かれています。ということはもちろん、攻撃パターンや行動パターンなどが違います。そのような状態で、効率だけを考慮してしまうと対処法を図り違える可能性があります。そうならないために、まずは孤立しているモンスターを相手に思慮深く戦う必要があるというわけです」

 解説を耳にしても、不服を漏らす声が残る。が、先生はそれらを無視して進行を続けた。

「次は陣形についてです。これは現在の各グループ毎のクラス編成で思索してもらいます。図面上に登場するモンスターはそれぞれランダムで設定してありますので、最善策を導いてみてください。制限時間は三十分にします」

 先生は最後に制限時間を告げた後、教卓に置時計を乗せた。
 資料図には、中心の小さい円。そして、前方にモンスターと見做す小さい円が六個。と、問い文が『前方六体のモンスターを討伐するには』と短い文がある。
 このグループは他の所に比べてアンバランスだ。人数だけなら比較的簡単に対処可能であろうけど、前衛職が1人しかいないため、これぐらいの設定は運が良いかもしれない。

「僕たちの編成は後衛職が多いから僕が単独最前線、後衛職は後方で展開するのがセオリーだよね」
「うん、そうね。あたしたち後衛はできるだけ展開、視界を広くしつつ戦闘する方がいいよね」
「そう……かな? 私は彩夏さやかちゃんが最後方、志信しのぶ君と私は白刀はくとう君の近くで断続的に回復をした方が良いのかなって思うかな。こう、一直線陣形な感じで」

 各々が意見を積極的に出し合っているなか、僕は1人思考を巡らせてた。

「確かに、僕を起点とするならその方が良さそうかも……んー、志信はどう思う?」
「そう……だね。これは推測論で過剰警戒かもしれないんだけど、この場合だと桐吾は最前線で立ち回る感じは変わらず、僕たち後衛職は古宇田こうださんを中心に密集陣形をとった方がいいと思う」
「え、でも、それじゃ白刀君の回復が遅れちゃうし、何より密集した方に敵が来たら対応できないんじゃ?」
「確かに回復の循環は遅くなるかもだけど、それも視野に入れた戦術でもあるんだ。――それに、敵は常に前だけではない」

 納得のいかなそうな顔をしているのは月森さん。だけど、話に耳を傾けていた古宇田さんがある点に気づいたようだ。

「あっ、そっかなるほど。ヘイト管理ね」
「なるほど、僕の行動に制限を掛けないようにできるというわけか。だけど、敵は前だけじゃないってどういうこと?」
「えっと――ヘイト管理を主に考えると、ヘイト管理から外れた敵が左右側面から攻めてこられると対処できない、ということ。それに、ダンジョン内では正直に前だけから攻めてくるわけないよね。そこを、密集して僕と月森さんで警戒することによって、古宇田さんを攻撃魔法だけに集中してもらうって感じ。それと、支援職には盾を有効活用して時間稼ぎもできるからね」

 落ち着いた口調だったからか、みんなは目を丸くして僕に視線を一点に向けて口を開けている。まるで、驚愕を隠せないでいるかのように。

「た、確かに……うん、僕は志信の意見を尊重したいと思う。2人はどうかな?」
「あたしは文句の付け所すらないと思ったわ。守ってもらう側からすれば死界がなくなって心強いし、何よりこのバランスの悪いパーティでも心配なく戦えるから同じく賛成」
「――私も、賛成……かな。私にヘイトが向いた時の対処もできるってことだよね。ということは、後衛職が全員でカバーし合えるから孤立する心配もなくなることにもなるし」
「じゃあ、意見の一致ということで、僕たちの解答は決まりだね」

 資料へ自分たちの立ち位置と陣形を記入終了。
 そして、程無くして先生から終了の合図が出た。

「では、各グループの資料を前まで持ってきてください」

 僕が提出することになり、前に行くことになった。
 手渡しする際に先生は「ほほう」と、興味を示しているような反応を見せてたけど、特に質問をされることもなくそのまま自席に戻った。

「今回の授業は盤面戦術という形でやっていきましたが、本来はこのような判断をその場しなければなりません。今回のようにその場その場で対処していては対処しきれないことがあります。ですので、これらをより潤滑に進めるため必要なのが作戦です。そして、これらをまとめ上げるようなものが戦略です」

 先生の言ってることはピラミッド型に置き換えて説明できる。
【戦略】が階層を攻略するためのシナリオ。
【作戦】が戦略達成するために必要な大小の目標。
【戦術】は戦略や作戦を成功に導くための陣形や配置。
【戦法】は実戦においての立ち回りやスキルの使い回し方。
 このように上から成り立てることができる。

「なので、今まで通り目の前にいる敵のことだけ考えていてはダメというわけです。皆さんが今後、ダンジョンから無事に生還するために必要なことですので、必ず心得ておいてください。――では、本日はここまでとなります。明日からお休みですので、三連休だからといって予習復習を欠かさないように。週明けには大規模実戦演習を行いますので覚悟しておいてください」

 先生は気になる言葉を言い残し、授業を締め退出していった。
 授業が終わるやすぐにクラス内は歓喜の声で溢れて騒がしくなっている。

 三連休かあ、特に予定もないしどうしようかな。
 それに、大規模実戦演習――三連休の内に色々と想定しておかないとかな。
 よし、かえで椿つばきと一緒に、勉強会でもしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

World End

nao
ファンタジー
 法術という異能によって成り立った世界で、無能力者の少年ジンは狂った神が人間の魂に刻み込んだ魔物化の呪いによって姉や友人、彼を包んでいた世界の全てを失う。  失意のドン底にあった彼は善神と自称する神ラグナから世界の真実を伝えられる。彼は狂った神への復讐を誓い、ラグナの庇護の下で力を蓄えて狂神を打倒するために力を蓄える。やがて新たな旅に出た彼は仲間と出会い、そして運命の出会いを遂げる。   大切な仲間達と出会い、別れ、人間世界に仇なす者となっても彼は旅を続ける。強大な力の前に、数多くの仲間を失い、傷つきながらも最後まで戦い抜いた末に彼が辿り着いたのは世界の終焉と安息だった。  これは人々から怨まれ、多くを失いながらも最後まで戦い続けた男の物語である。

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...