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第四章

第25話『兄妹デートはパイス村で』

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「いらっしゃいませー、ごゆっくりどうぞ~」

 木造建築の店内に入ったアルクスとルイヴィス。
 姿は見えないものの、店員の明るい声色が店内に響く。店内のみ私は良く、様々な種類の服が折り畳まれて棚に置かれている。

 しかしここは辺境の地。高望みできるほどの高価な物はなく、目立つオシャレができる物があるわけでもない。

 ――ど、どれも一緒にしか見えない。

 ――どうしよう、相談に乗るって胸を張って自信満々に宣言したけど……あまりにも難しすぎる。

 今なき兄妹の似た感覚が共有されているわけではないが、二人はほぼ認識を抱く。

「その人は、普段の服装ってどんな感じなの?」
「まだ来たばかりだから、服を借りているんだ。でも身長の差があって、ちょっとスカートの裾が床を擦っちゃってるんだ」
「その子は私とほとんど同じ体系って言ってたよね?」
「そうだね。髪も長いんだ」
「なるほどねぇ……じゃあここはもう、私が試着しまくって選ぶしかないって事ね」

 ルイヴィスは深く考えるのをやめ、行動する事を決めた。

「派手めな色の服はない。だったらもう、安くっても数で勝負よ」
「できれば、僕が一人で持ち替えられる量に留めてもらえると助かるよ」
「たしかにそうね。目安としては何着ぐらい?」
「購入した服は袋に詰め込んでもらえるから……頑張っても十着ぐらいじゃないかな。食べ物も買って帰りたいし」
「そうと決まれば、さっそく始めちゃおっ」

 ――灰色とか薄い色が入っている服がほとんどね。でもこれがここでの日常で、外仕事とかをやる人にとっては汚れが目立たない効果があるという事。そして、アルクスが服をプレゼントしようとしている人もまた同じ。

 視界に入る服をバババッと手に取り、試着室へ向かう。

「私はワンピース型の服を探すから、アルクスは半袖とズボンみたいな組み合わせを探して」
「わ、わかった」

 それぞれが自分にできる事を行動に移す。

「ん~、自分の好みで服を選ぶならともかく……誰かにプレゼントをする服を選ぶのは初めてだしなぁ」

 ルイヴィスは複雑な心境で服を着替え、鏡で確認し、次の服へと着替え始める。

「今まで、派手で鮮やかな服ばかりを着ていたからわかなかったけど、こういう落ち着いた色の服もいいなぁ」

 鏡に映る自分を、こうしてゆっくりと眺めたのは初めてだ。
 ほぼ全てをメイドなどにやってもらっている。だから、髪の毛を整えてもらっている時ぐらいしか鏡を眺める機会はほとんどなかった。

 しかし今、ルイヴィスには別の視点で自分を見つめていた。

 ――これが、私の知らない国民の普通なんだよね。いや……私が、素人もしていなかったごく当たり前の生活なんだ。自分達だけの心配をしているなんて、国民に聞かれでもしたらどんな顔をされちゃうのかな。

 身にまとうもの全てが普通となり、自身の在り方を迷う。

 ――お姉様は、誰がどう見ても能天気と言うか平和ボケしている人だと思われている。私だって、自分の事を考えて騎士を任命し、それをしていないお姉様をそう思っていた時期がある。

 だからこそ、今の現状がルイヴィスにも深く突き刺さる。

 ――お姉様はいつだって、自分の事より誰かのため……国民のために考え、行動し、発言していた。それはお城であってもそう。私も何回かは手伝った事があるけど、どこの国に第一皇女が床や道なんかの掃除をしているところがあるのよ。

 誘拐されてしまったという現状から、他の姉弟もやはり第一皇女は平和ボケしている、という認識になっている事であろう。
 そして関係者は皆、こう思う。
『あんな皇女が皇位を継ぐというのなら、いっそ消えてはもえないだろうか』と。

 でも、だからこそルイヴィスは思った。
『誰よりも国民の事を第一に考えられる第一皇女こそ、次の皇帝としての座に座るべきであろう』と。
 だから、こうして自身の身に危険が及ぶかもしれない状況に率先して動いているのだ。

 ――お姉様、無事で居てね。私が、絶対に探し出してあげるから。

「ルイヴィス、こっちも店員さんに相談しながら決めてみたんだ」
「――う、うん。私も五着ほど決められたよ」

 ルイヴィスは急いで元の服に着替え直し、幕から外へ出る。

 計五着を互いに見せ合い、反対の意見がなく、すぐに会計を済ませて二人は店を後にした。

「本当に助かったよルイヴィス、ありがとうね」
「ううん、これぐらいの事だったらいつでも頼ってね。一応確認なんだけど、下着の方は大丈夫そうなの?」
「どうなんだろう。下着も借りているみたいだけど、大きさとかは全然わからないや。窮屈そうにしていなかったから大丈夫なんじゃないかな? どっちにしても、男の僕より女性同士で相談していたりするんじゃないかな」
「確かに、それはそうね。でももし、そっちの件でも相談に乗ってあげられるだろうから聴いてね」
「ありがとう、本当に助かるよ」

 ――ああもう、本当にお人好しなんだから。なんでそんなにであったばかりの人を想って行動できるのよ。だけど、そんなところが好きなんだけどね。

 店員さんが気を利かせてくれて紐付きの手提げ袋にしてくれたおかげで、両手が空いている二人。
 それに気が付いたルイヴィスは、夢の時のように腕へ抱き付こうとするも違和感に気が付く。

 ――あ、あれ。前だったら何のためらいもなく、あの腕に抱き付いていたのに。あ、あれ? あれ。な、なんだか恥ずかしくってできない。

 道行く人々の目があるから、自身の生まれ育った環境のせいなのか、顔を合わせる事なく長い月日が経過してしまったからなのか。もしかしたらそのどれでもないのか。
 ルイヴィスは、その理由を理解できない。夢の中では考えなしでやってたのだとしても、今は様々な要因が容易に想像できてしまうからなのかもしれない。

 困惑するルイヴィスへ向かい、アルクスは正反対に嬉々としていた。

「ルイヴィスってこの後に予定とかあったりする?」
「と、特にはないよ」
「じゃあさ、せっかく会えたんだし、時間もあるし、手伝ってもらったお礼もしたいから一緒に村を歩き回らない?」
「え! いいの!?」
「うん、ぜひとも」

 ルイヴィスはごちゃごちゃとしていた思考が一気に吹き飛んでしまう。

「じゃあまずは一番のオススメから行っちゃおう」

 アルクスとルイヴィスは肩を並べて歩き出す。

「こう見えて、私はかなりの量を食べられます」
「ほほう、それは興味深い」
「この村に来てまだ日が浅いけど、みんな楽しそうね」
「だよね。僕も最初にこの村へ来た時、同じ事を思ったよ。そして、今も」
「なんだか不思議な感じで、活気ある声が飛び交っているだけでこっちも楽しくなってくるもの」
「わかるわかる。みんな当たり前に助け合って、笑い合ってるもんね」
「歩いているだけで、この村を十分に堪能できちゃうもんね。私、この村が好きになっちゃった」
「僕もルイヴィスと同じで、この村が、この村に住んでいる人達が好きだ」

 アルクスが行く道に、ルイヴィスも憶えのある場所に近づいてきた。

「ここがね、僕が一番好きなところなんだ」

 看板には【味付け肉店】の文字が。

「あ、ここ私も知ってるよ」
「おぉ、それは目の付け所が良いね」
「やばい、よだれが」

 もはや忘れられない味付けの匂いが漂ってきて、体が勝手に反応してしまう。

 ではさっそく商品を見てみましょうと視線を落とすより先に、奥から店主の婦人が姿を現す。

「おうアル! いつもの……って、まさかの女の子と一緒なんて随分と珍しい……って、あの時の子じゃないかい」

 いつものテンションでアルと会話をしようとした店主は、ルイヴィスに自然と目線が吸い寄せられてしまい記憶が強制的に蘇ってしまった。

「その節は、ありがとうございました。味付けの干し肉、本当においしかったです」
「いやぁ~アル、やるねぇ。こんなかわいい子をナンパするなんて」
「ち、違いますよ! どっちかっていったら、僕がナンパされた方です」
「そんなわけあるかい。こんなかわいい子がそんな事するわけ――」
「ごめんなさい、それ本当なんです」

 現実を受け止められずに、店主の婦人は目を丸くする。

「こちゃあたまげたよ」
「というわけでして、これからアルクスと村を回って歩くんです」
「あらあら、そうだったんかい。じゃあ、食べ歩きならうちのをわけね」
「はいっ。こちらの味付け干し肉がもう忘れられなくって、また買いに来ちゃいました」
「あらあらあら、嬉しい事を言ってくれるじゃない。今回は値引きしちゃおうかしらねぇ~」
「ありがとうございますっ」

 完全に蚊帳の外になっているアルクスは、『どうして僕の話は信じてくれないんですか?』という内の感情が表情に出てしまう。

「悪かったって。二人分の料金を値引きするからさっ」
「複雑な心境です」

 もはや一食分の量の味付け干し肉を購入。

「おまけでつけといたからさっ、この村を楽しんでおいでな」
「ありがとうございますっ」
「ありがとうございます」

 アルクスとルイヴィスは頭を下げ、夕方まで楽しいひと時を過ごしたのであった。
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