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第二章
第9話『トレーニング開始』
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「……が、その前に」
ミシッダはアルクスが持つ直剣に目線を送る。
「それはなんだ」
「あはは……気になっちゃいます?」
「そりゃあな」
「で、ですよねー」
コートの一枚も羽織っていない今の状態で、どうやっても隠しきれない二本の木刀。
言い訳などできないこの状況に、アルクスは諦めるしかなかった。
「練習してたんです」
「……ほう。それは興味深いな」
「僕はずっと短剣で戦ってきました。……でも、攻撃面や回避面を考えた時、リーチの長い武器も扱えるようにしておいたほうがいいんじゃないか。と、思うようになりました」
「だから、私の居ない間にこっそりと、か」
「い、いや! このまま黙ってるつもりじゃなくて、ちゃんと今日帰ったら言うつもりだったんです!」
疑いの視線を向けられたアルクスは必死に言い訳をする。
も、ミシッダは盛大に笑いだす。
「あっはは、冗談だ冗談。別に怒ってもいないし、良い心意気じゃないか。強くなるため、自分を疑う――普通の人間には到底できないことだ」
「あ、ありがとうございます!」
「自分を疑い、自分に問う。これこそが強くなるための道筋だ、忘れるな」
「わかりました!」
「じゃあまずは、短剣は後にしてそっちの方でやってみるか。――っと、そういえば私の木刀ってどこにあるんだったっけ?」
ミシッダは首の後ろに手を回し、「ごめんごめん」とふやけた笑顔で平謝りを始める。
「あ、場所はわかるんですけど、この木刀を作った時にミシッダさんのも一緒に作ったんです! せっかくなので、そっちを持ってきますね」
「そうだったのか、ありがとな。ちなみにそれはどこにあるんだ?」
「あそこの椅子に立て掛けてあります」
アルクスが指差す方向へミシッダは目線を移す。
そこにあるのは、休憩を目的にして二人で作ったベンチがあった。
その座る場所に横たわる、傷一つない綺麗な木刀が一本。
「随分と上手くなったな。料理といい、作る系の才能も本当に凄いな」
「ありがとうございます!」
「だが……残念ながら、そんな綺麗なのを使うのは少しばかり躊躇ってしまうな。すまんが、お古のやつを持ってきてくれないか」
「そうですか……わかりました」
アルクスは左手で二本の木刀を持ち、最後の記憶を辿って川の付近にある倒木へと駆け出した。
「お待たせしました!」
「あいやーっ、ごめんごめん。完全にド忘れしてた」
「大丈夫です。誰にでもそんなことはありますよ」
「ありがとな。じゃあ改めて、始めるか」
「お願いします!」
ミシッダは片手で木刀を握り、正面に構える。
対してアルクスは先ほど同様に前、後ろに構える。
「――いくぞ」
ミシッダは開始早々正面からの突進攻撃を仕掛ける。
「ふんっ!」
「ほう……いいじゃないか」
アルクスは後ろに構えていた剣を当て、攻撃を防いだ。
常日頃、練習で登場させていた妄想上のミシッダとほとんど同じ。
姿かたちがないにしても、そのスピードは今まで一度たりとも忘れたことはなかった。
人間離れしているような存在を相手していたのだから、これも想定の内。
――やっぱり、早すぎる! それに……。
「どうしたどうした。防ぐだけか?」
「まだまだっ!」
右の剣でミシッダの剣を抑えるのに必死だった。
両手で力を込めるミシッダに対し、アルクスは片手一本。
このまま剣を合わせ、力比べになってしまえば勝ち目はない。
あの速度にしてこの力。
一瞬でも気を緩めてしまえば、一撃で地に臥せることになる。
下げてしまっていた左の剣を攻撃に回す。
――当たれッ!
「ふんっ!」
「なっ!?」
ミシッダは右利きだ。
だから、もしも片手だけに持ち替えて攻撃してくるとすれば、左手。
その手で防がれたのなら、まだ理解できる。
だが、あろうことか右足でアルクスの左手を蹴り上げ、剣を宙に飛ばしてきた。
「まだまだ――だなっ!」
予想だにしない行動をとられ、呆気にとられてしまい右手の力が緩んでしまった。
ミシッダはそれを見逃さない。
勢いそのままにアルクスの右剣を弾き、姿勢を崩したところに腹部へ木刀を叩き込んだ。
「うぐっ――はっ」
めり込んでくる木刀の先端は、姿勢を崩すには十分すぎた。
「うーん。筋は全然悪くないんだけどな」
「あ……あはは……全然、ダメでしたね」
「いや、初めて見た時はお遊びに付き合うぐらいにしか思っていなかったんだが、つい力が入ってしまった。二刀流ってのは、やっぱり私の知識外だからな。短剣同様で詳しいことは教えられないが……」
「いえ! やっぱり、まだまだ練習が必要そうです」
「まあな。まずは一本で練習した方がいいような気もするが」
「うっ」
アルクスはミシッダの的確な指摘に胸がチクッと傷んだ。
「でもな、短剣だとあそこまで扱えるのにどうしてなんだろうな。ちょっと長くなっただけでそんなに感覚が変わるものか?」
「そうですね。感覚的に大分違いを感じます」
「それもそっか。今だったらアルの方が短剣の扱いに長けてるしな。本当、冗談抜きで」
「そうなんですか? 僕なんてまだまだですよ」
『頼むから、それは自分の力量を自覚している謙遜であってくれ』と、心の中で願うもアルクスの純粋な眼差しに『これは無自覚なやつだ』と諦めるミシッダ。
「次に稽古してもらう時までにもっと練習しておきます! じゃあ次は短剣の稽古をお願いします!」
キラキラとした目線を放つアルクス。
なんという速さだ。あっという間に武器を持ち替え、その手には二本の木短剣が握られている。
「早すぎるだろ……だが、残念ながらアルに頼みたい事があったのを思い出してしまった」
「どうしたんですか?」
「いやな、なんてことはない。買い物を頼みたいんだ。ほら、あの嬢ちゃんがいるだろ。だからさ、タオルやら着替えやらをお願いしたいんだ」
「確かにそうですね。全然気が付きませんでした」
「ああ、下着に関しては私が買ってきてやるからその心配はいらないぞ」
「し、しししし下着ですか!? え、あの、その! 僕は決していかがわしいことなんて――」
「いや、誰に言い訳してるんだ」
顔をこれでもかというぐらいに真っ赤に染めるアルクス。
謎の身振り手振りをしている様は、変な踊りを披露しているようにしか見えない。
そんな面白い光景に口角を上げるミシッダ。
「てなことで、急ではあるんだけど買い物を頼む。木刀はそこのベンチに全部まとめて置いておいてくれ。後で私が片付けるから」
「いやいや、片付けぐらい僕が」
「いやぁ、今すぐに頼む。ほら、想像してみろ。アルと同い年の少女が、下着を履かずに服を着ている姿を。ちょろっと風が吹くだけで、あらよとあらよとあんなところやこんなところが目の前に晒される姿を」
「あ、あ、あ、あ、あ‼‼ 大変です、大変ですーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼」
再び顔を真っ赤にしたアルクスは、手に持つ二本の短剣をベンチに置き、自身の最速を記録する速度でこの場から走り去っていった。
「さて、邪魔者はいなくなったぞ。出てこい」
ミシッダはアルクスが持つ直剣に目線を送る。
「それはなんだ」
「あはは……気になっちゃいます?」
「そりゃあな」
「で、ですよねー」
コートの一枚も羽織っていない今の状態で、どうやっても隠しきれない二本の木刀。
言い訳などできないこの状況に、アルクスは諦めるしかなかった。
「練習してたんです」
「……ほう。それは興味深いな」
「僕はずっと短剣で戦ってきました。……でも、攻撃面や回避面を考えた時、リーチの長い武器も扱えるようにしておいたほうがいいんじゃないか。と、思うようになりました」
「だから、私の居ない間にこっそりと、か」
「い、いや! このまま黙ってるつもりじゃなくて、ちゃんと今日帰ったら言うつもりだったんです!」
疑いの視線を向けられたアルクスは必死に言い訳をする。
も、ミシッダは盛大に笑いだす。
「あっはは、冗談だ冗談。別に怒ってもいないし、良い心意気じゃないか。強くなるため、自分を疑う――普通の人間には到底できないことだ」
「あ、ありがとうございます!」
「自分を疑い、自分に問う。これこそが強くなるための道筋だ、忘れるな」
「わかりました!」
「じゃあまずは、短剣は後にしてそっちの方でやってみるか。――っと、そういえば私の木刀ってどこにあるんだったっけ?」
ミシッダは首の後ろに手を回し、「ごめんごめん」とふやけた笑顔で平謝りを始める。
「あ、場所はわかるんですけど、この木刀を作った時にミシッダさんのも一緒に作ったんです! せっかくなので、そっちを持ってきますね」
「そうだったのか、ありがとな。ちなみにそれはどこにあるんだ?」
「あそこの椅子に立て掛けてあります」
アルクスが指差す方向へミシッダは目線を移す。
そこにあるのは、休憩を目的にして二人で作ったベンチがあった。
その座る場所に横たわる、傷一つない綺麗な木刀が一本。
「随分と上手くなったな。料理といい、作る系の才能も本当に凄いな」
「ありがとうございます!」
「だが……残念ながら、そんな綺麗なのを使うのは少しばかり躊躇ってしまうな。すまんが、お古のやつを持ってきてくれないか」
「そうですか……わかりました」
アルクスは左手で二本の木刀を持ち、最後の記憶を辿って川の付近にある倒木へと駆け出した。
「お待たせしました!」
「あいやーっ、ごめんごめん。完全にド忘れしてた」
「大丈夫です。誰にでもそんなことはありますよ」
「ありがとな。じゃあ改めて、始めるか」
「お願いします!」
ミシッダは片手で木刀を握り、正面に構える。
対してアルクスは先ほど同様に前、後ろに構える。
「――いくぞ」
ミシッダは開始早々正面からの突進攻撃を仕掛ける。
「ふんっ!」
「ほう……いいじゃないか」
アルクスは後ろに構えていた剣を当て、攻撃を防いだ。
常日頃、練習で登場させていた妄想上のミシッダとほとんど同じ。
姿かたちがないにしても、そのスピードは今まで一度たりとも忘れたことはなかった。
人間離れしているような存在を相手していたのだから、これも想定の内。
――やっぱり、早すぎる! それに……。
「どうしたどうした。防ぐだけか?」
「まだまだっ!」
右の剣でミシッダの剣を抑えるのに必死だった。
両手で力を込めるミシッダに対し、アルクスは片手一本。
このまま剣を合わせ、力比べになってしまえば勝ち目はない。
あの速度にしてこの力。
一瞬でも気を緩めてしまえば、一撃で地に臥せることになる。
下げてしまっていた左の剣を攻撃に回す。
――当たれッ!
「ふんっ!」
「なっ!?」
ミシッダは右利きだ。
だから、もしも片手だけに持ち替えて攻撃してくるとすれば、左手。
その手で防がれたのなら、まだ理解できる。
だが、あろうことか右足でアルクスの左手を蹴り上げ、剣を宙に飛ばしてきた。
「まだまだ――だなっ!」
予想だにしない行動をとられ、呆気にとられてしまい右手の力が緩んでしまった。
ミシッダはそれを見逃さない。
勢いそのままにアルクスの右剣を弾き、姿勢を崩したところに腹部へ木刀を叩き込んだ。
「うぐっ――はっ」
めり込んでくる木刀の先端は、姿勢を崩すには十分すぎた。
「うーん。筋は全然悪くないんだけどな」
「あ……あはは……全然、ダメでしたね」
「いや、初めて見た時はお遊びに付き合うぐらいにしか思っていなかったんだが、つい力が入ってしまった。二刀流ってのは、やっぱり私の知識外だからな。短剣同様で詳しいことは教えられないが……」
「いえ! やっぱり、まだまだ練習が必要そうです」
「まあな。まずは一本で練習した方がいいような気もするが」
「うっ」
アルクスはミシッダの的確な指摘に胸がチクッと傷んだ。
「でもな、短剣だとあそこまで扱えるのにどうしてなんだろうな。ちょっと長くなっただけでそんなに感覚が変わるものか?」
「そうですね。感覚的に大分違いを感じます」
「それもそっか。今だったらアルの方が短剣の扱いに長けてるしな。本当、冗談抜きで」
「そうなんですか? 僕なんてまだまだですよ」
『頼むから、それは自分の力量を自覚している謙遜であってくれ』と、心の中で願うもアルクスの純粋な眼差しに『これは無自覚なやつだ』と諦めるミシッダ。
「次に稽古してもらう時までにもっと練習しておきます! じゃあ次は短剣の稽古をお願いします!」
キラキラとした目線を放つアルクス。
なんという速さだ。あっという間に武器を持ち替え、その手には二本の木短剣が握られている。
「早すぎるだろ……だが、残念ながらアルに頼みたい事があったのを思い出してしまった」
「どうしたんですか?」
「いやな、なんてことはない。買い物を頼みたいんだ。ほら、あの嬢ちゃんがいるだろ。だからさ、タオルやら着替えやらをお願いしたいんだ」
「確かにそうですね。全然気が付きませんでした」
「ああ、下着に関しては私が買ってきてやるからその心配はいらないぞ」
「し、しししし下着ですか!? え、あの、その! 僕は決していかがわしいことなんて――」
「いや、誰に言い訳してるんだ」
顔をこれでもかというぐらいに真っ赤に染めるアルクス。
謎の身振り手振りをしている様は、変な踊りを披露しているようにしか見えない。
そんな面白い光景に口角を上げるミシッダ。
「てなことで、急ではあるんだけど買い物を頼む。木刀はそこのベンチに全部まとめて置いておいてくれ。後で私が片付けるから」
「いやいや、片付けぐらい僕が」
「いやぁ、今すぐに頼む。ほら、想像してみろ。アルと同い年の少女が、下着を履かずに服を着ている姿を。ちょろっと風が吹くだけで、あらよとあらよとあんなところやこんなところが目の前に晒される姿を」
「あ、あ、あ、あ、あ‼‼ 大変です、大変ですーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼」
再び顔を真っ赤にしたアルクスは、手に持つ二本の短剣をベンチに置き、自身の最速を記録する速度でこの場から走り去っていった。
「さて、邪魔者はいなくなったぞ。出てこい」
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