愛、信じますか?

椿紅颯

文字の大きさ
上 下
5 / 6

抱き枕にしては最高だ

しおりを挟む
 鼓膜を叩くアラーム音が部屋に鳴り響く。寝室に鳴り響く高音は正直不快だ。
 ふかふかだが体が沈み過ぎない心地良いベッド。心地良い朝に、すべすべもちもちの手触り。つい夢のような感触を味わいたく抱き寄せた。

「――はわ……ふ、ふににゃっ」

 聞き馴れた声。腕の中に感じる体温。体の中に染みる甘い匂い。
 目を開ける前、夢見心地の気分からは完全に抜けた。サーッと血の気が引ける中、ゆっくりと目を開いた。
 もぞもぞと動く正体――リサ。

「あー、リサ……おはよう」
「おふぁよ、ふみや」

 離れるどころか、挨拶を返すと俺の胸に顔を埋め始めた。俺が拘束を緩めると、逆にリサが俺の背中に腕を回し始めた。

「リ、リサ。朝だぞ、起きるぞ」

 返事は無かったが、大きく数回深呼吸したリサは俺から離れてくれた。
 アラームは気づけば止まっていて、俺達は起き上がった。

「ちょっと朝風呂にする。その間に朝食の準備お願い」
「はいはーい。でも、昨日入ったよね? それに、朝風呂って入っていたっけ?」
「い、いーんだよ。きょ、今日は何となく入りたくなっただけ!」

 一体誰のせいだと思ってるんだ。お、俺だって男だぞ。あんな状況で正気を保ってた方ことを褒めてほしい。
 洗濯物が増えてしまうが仕方がない。洗濯機を回す時間は無いからリサに頼もう。

 洗濯機に服を投げ入れ、風呂場の扉に手を掛けた。

 ◇◇◇

「ふぅ、朝に飲むホットミルク美味しいなあ」
「ふふっ、文哉って本当に好きだよね~。ついでに焼き立てパンのマーガリン塗りとか、ね」
「なんてったって大好物だからな。リサもその内気に入ってるよ」

 そんなこんなしているうちに出勤の時間になってしまった。食器を水道まで運び、俺は玄関に腰を落とし、靴を履いていた。

「文哉ー、鞄忘れてるよー」
「あー、ほんとだ。ありがとう」
「あーっ、ほら、ネクタイ曲がってるよ」

 俺は立ち上がり、リサから鞄を受け取る。その流れで、リサは崩れたネクタイに手を掛け整えてくれた。

「……ありがと」
「ふふっ、なんだか新婚さんみたいだねーっ」
「なっ」
「冗談冗談、ささっ、いってらっしゃーい」

 リサにくるりと体を半回転させられ、背中を押された。
 流れるような一時だったが、俺の顔は熱く火照っていた。リサの顔は見えなかったが、よくもまあ恥じらいなくあんなセリフが言えたもんだ。本当にこっちの気も知らないで。
 だけど、新しい生活に何一つ不安はなく、出勤時間も心が躍る。
 返ったら何をしようか。リサと何を話そうか。今から楽しみで仕方がない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>

BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。 自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。 招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』 同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが? 電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!

荒野.jp

空川億里
SF
 核戦争で荒野となり果てた日本。2人の若い男女は1台のホバー・タンクに乗りこみ、あてどもなくさすらっていたが、そこへ何者かが襲撃をかけてきた‼️

東からの侵略者

空川億里
SF
 21世紀前半。東欧の大国が、西にある小国に侵略するが……。

時の織り糸

コジマサトシ
SF
アパレル業界に身を置く二人の主人公、ユカとハヤカワの物語。時代は2005年…29歳のユカは急成長するアパレルショップのトップ店長として活躍し、充実した日々を送っています。そんなユカが、ほんの少し先…未来を感じる事が出来るという奇妙な能力に気付き、本来の能力をさらに発揮するようになります。一方で2025年、50歳のハヤカワはかつて、ユカと共に成功を収めた人間でしたが、今は冴えない落ちぶれた日々。そんなある日、とあるきっかけで20年前に戻り、再び若き日のユカと出会います。ハヤカワは過去の失敗を繰り返さないために、未来を変えるために奮闘する、過去と未来が交錯するアパレル業界SFストーリーです。

ホワイト・クリスマス

空川億里
SF
 未来の東京。八鍬伊織(やくわ いおり)はサンタの格好をするバイトに従事していたのだが……。

遥かなる故郷は宇宙

原口源太郎
SF
月の希少資源をめぐり、宇宙で暮らす人々と地球の人々との戦争が起こった。宇宙同盟軍の前線基地のエースパイロット、ジョン・スカイは、幼いころ慕っていたルー・ソシアが地球連邦軍の新型戦艦撃墜のために部隊を率いて地球にやってきたと聞き、ルーの部隊に加わりたいと基地の指揮官に願い出る。

スペースウォーズアドベンチャー

SF
「スペースシティはもう宇宙の町ではない‼宇宙都市国家である」これはスペースシティ・F号の初の市長になったM内田の言葉である。スペースシティに住む多くの人々が、自分達の努力が地球で認められ、誰もが地球の国連でスペースシティの国家独立を信じていた。しかし、その期待はある事件によって崩壊した。

ファントム オブ ラース【小説版】

Life up+α
SF
「俺には復讐する権利がある。俺は怪物も人間も大嫌いだ」 ※漫画版とは大筋は同じですが、かなり展開が異なります※ アルファポリスの漫画版【https://www.alphapolis.co.jp/manga/729804115/946894419】 pixiv漫画版【https://www.pixiv.net/user/27205017/series/241019】 白いカラスから生み出された1つ目の怪物、ハルミンツは幼い日に酷い暴力を受けたことで他人に憎悪を抱くようになっていた。 暴力で人を遠ざけ、孤独でいようとするハルミンツが仕事で育てたのは一匹の小さなネズミの怪物。暴力だけが全てであるハルミンツから虐待を受けてなお、ネズミは何故か彼に妄信的な愛を注ぐ。 人間が肉体を失って機械化した近未来。怪物たちが収容されたその施設を卒業できるのは、人間の姿に進化した者だけ。 暴力が生み出す負の連鎖の中、生み出された怪物たちは人間に与えられた狭い世界で何を見るのか。 ※二部からループものになります

処理中です...