愛、信じますか?

椿紅颯

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夢のような現実

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「――はよう――みや。――てば、ねえってば!」
「ん……」

 俺は身に覚えのないアラーム音に目を覚ました。
 片目の霞む視界には白色の天井。そして、ピンク色に肌色。身に覚えのない色彩に、未だ夢の中だと錯覚し目を擦った。
 視界が晴れた俺は、更に驚愕することになった。

「あー、やっと目が覚めた。おっはよー、文哉」
「ああ、おはよう、リサ……?」

 俺は声の主を見て、思考が停止した。
 聴き馴染みある声につい、その名を口に出したが、そこに居るのはアンドロイドのリサだ。だが、喋り方、仕草、それら全てはAIのリサだ。

 なんだこの状況。やっぱり夢の中にいるのか?
 いやでも、俺は今布団を手にしている。感触は確かにある。じゃあこれは一体……。

「リサ、朝食モード実行」
「ん? 何それ」

 音声認識コードが認識されない。それどころか受け答えをし始めた。
 この行動自体に不可解なことはない。これらの行動は全て音声入力で幾らでも可能なのだから。
 俺はベッドから立ち上がり、再びコードを口にした。

「リサ、休日外出支度モード」
「え? だから、何を言ってるのかわからないよ。え、って、え? ちょ、ちょっと!」

 俺は衣類を上半身から脱ぎ捨て始めた。
 通常ならこのまま俺は風呂場に向かい、事を済ませると脱衣所には着替えが用意されている。
 そのはずなのだが、まさかの反応が返って来た。

「す、ストーップ! 文哉、脱ぐのストーップ!」
「はい?」
「ぬ、脱ぐなら私の見えない所で、お、お願い……」

 リサは頬を赤く染め、両手で自らの目を覆っている。
 今会話しているのはアンドロイドだ。会話の受け答えが可能なのは理解ができるが、このような感情表現が可能ということは初めて聞いた。説明書にもそのような記述はされていない。
 俺は、行動ではなく対話を試みることにした。

「んー、えっと、質問していいかな。キミの名前は?」
「リサだよ?」
「キミはいつも僕のお世話をしてくれているね?」
「えー? 私、文哉のお世話なんてしたことないよ? あっそうそう、忘れてた! ちょっと、聞いてよ文哉! 私、お外に出ちゃって、動けてるの! 凄くない!?」

 話が見えてきた。
 つまり、今目の前に居るのは、いつも現実で接していたアンドロイドのリサではなく、パソコンの中に居たアシスタントAIのリサというわけだ。
 まだまだ考察しないといけないだろうが、今は何より感情・・について考慮しなければならない。

「とりあえず、俺は風呂に入ってくるから、そこら辺で休んでて」
「うん、わかった!」

 元気の良い返事と共に、ひらひらと揺れるフリル付きのメイド服が、リサの動きと連動してふわりと揺れ動く。
 現状を愉しむようにクルクルと回った後、ベッドにストンッと腰を落とした。
 ベッドの感触を楽しむリサを見届けた俺は、脱ぎ捨てた衣類を拾い風呂場へと向かった。

 ◇◇◇

「あっ、やっべ」

 俺はバスタオルで体を拭きながら後悔していた。
 いつもの要領でいたら、着替えを運び忘れていた。このままだと、リサにガミガミと説教されそうだ。と、思っていたが、洗面所の縁に衣類一式が掛けてあった。考えるのは後にして、着替え終えた俺は、リサが待つ寝室へと戻った。

「リサ、着替えを探し出してくれてありがとう」
「ふっふーん偉いでしょ、もっと褒めて!」
「うん、助かったよ」

 胸を張り、得意げに鼻を鳴らしているリサへ感謝の意を伝えた。すると、何やら不思議なことを言い始めた。

「あー、でもねでもね、私も驚いたんだけど勝手に体が動いたと言うか、考えなくても衣類の場所がわかったと言うか」
「ほう? んー、じゃああれか。これは憶測にすぎないけど、聞いてくれ。意識的なものはAIのリサ。潜在的なものはアンドロイドのリサ、という感じに融合とまでは言わずとも、そんな感じになってるんじゃないかな」
「たぶんそうだね」
「随分と物分かりが良いな」
「まーね!」

 流石、学習型アシスタントAI。状況把握能力に優れていると素直に感心する。だがこの表情、そして動作。一挙手一投足が人間のそれと類似、いや正に人間そのものだ。
 興味をそそられる状況ではあるが、ここでインターホンが鳴り、話は中断。来訪者を確認すると、引っ越し業者だった。
 俺達二人は急ぎ準備し、慌てふためきながら引っ越し作業が始まった。
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