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第二章

第12話『恐怖を克服するための再戦』

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「無我夢中で戦いすぎたか」

 カズアキは今までで一番積極的に戦闘を繰り広げ続けた。

 その間、自分がゲームや映画の主人公になった気分で果敢な姿を見せていた。

「いやぁ~、ビックリしたけど置いていかれないように必死だったよ~」
「急にやる気全開って感じで、見ている側は楽しかったけどね」
「そんなだった?」
「そりゃあ凄かったわよ。戦闘する姿はさながらパラディンみたいだった」
「マジか!」

 それぞれの物語で登場する聖騎士パラディン
 この役職に抱く印象は、一言で十分。カッコいい。
 大盾を自由自在に操りながらも剣で攻撃を繰り出す。時には馬やペガサスなどに騎乗しながら戦う純白の騎士。
 人々を救うだけではなく、お姫様などを守る役職でもあり、その様は憧れの的になりやすい。

「戦い方はスマートってわけじゃないけど、まあそう見えるわね」
「うっひょおおおおっ。俺今、かっこいい? いい感じ? 決まってる?」
「カッコ良かったよ!」
「そうね」
「どちらかといえばそうだったわね」
「うおおおおおおおおおおっ」

 カズアキは、誰からもツッコミを入れられず褒められたものだから尚更テンションが上がってしまう。

「それ以上飛び跳ねたりするのはやめてよね。もしも私達に当たりでもしたらどうなっちゃうかわからないんだから」
「――ああ、ごめんごめん」

[俺もやってみてええええええええええええええええええええ]
[かっけええええええええええええええええええええ]
[冗談抜きで強すぎワロタ]

 セリナからの制止に従いつつも、賑わうコメント欄に同情して無言で頷く。

(わかるわかるぞその気持ち。俺だって、無限に湧き出てくるようなパワーを一生懸命に止めているんだ)

 無限に湧き上がってくる厨二心の間違いではあるが。

「それにしても、本当に夢中だったんだろうけど……盾だけで戦っていた時はあんなに体力の消耗が激しかったのけど、今はそうでもなさそうだね」
「な、なんと……ソラノの言う通りだ。言われてみれば、確かにそこまで息が上がっていないな」
「急に無自覚系な感じを出すじゃん?」
「そんなことを言われても、そのまんま無自覚だったんだから仕方がない」

 マアヤ・ソラノ・セリナも同様に息が上がっていない。しかしそれは、カズアキの猪突猛進にひたすら追うだけだったから。

 しかしそんな他愛のない話も束の間、ふと冷静になった視聴者からのコメントに血の気が引いていく。

[観ていて爽快感MAXで気持ちがよかったけど、ここって何階層?]
[かなり進んできているようだけど、大丈夫?]
[てかさ、今って第9階層じゃない? ヤバくない?]

「な、なあみんな。今、俺達が居る階層って何階層なんだ……?」
「え、あ……たぶん、9階層目だと思う」

 マアヤが答えるも、その自分の口から出た言葉に背筋が凍る。

「流石に進み過ぎた気がするから、戻らない?」
「私もソラノの提案に乗るよ」

 しかし、因縁のあいつが姿を現す。

「ねえ――あれって……」

 ゆっくりと、しかし確実にカズアキ達へ足を進めるモンスタ――【サルイ】。
 セリナは危機を察知して武器を構えるも、マアヤとソラノはあの時のトラウマがフラッシュバックしてしまい手足が震えてしまう。
 カズアキもまた同じく。

「ねえ、やるの? 逃げるの?」

 セリナは冷静に、カズアキへそう問いかける。

「……」

 カズアキも、戦闘を避けられるのならばそうしたいと思っている。
 しかし、振り向いて撤退の指示を出そうとしたが……マアヤとソラノの怯えている姿が視界に入ってしまう。

(今の俺達なら、あいつを討伐することはできる。人数が増えて戦力は明らかに上がっている。連携力だってそうだ。だけど……この状況で、思い描いたような戦いができるわけがない)

 現状でまともに動けるのは、カズアキとセリナだけ。
 まだ【サルイ】との距離はあるから、強引に頬を叩いて正気に戻すなり担いで逃げることだってできる。

 だが――。

(戦うのが怖い。怖い。怖いんだけど――戦って勝たなければ、これからも逃げ続けることになってしまう。なら――)

 カズアキは意を決する。

「セリナ、2人を頼んでいいかな」
「え、まさか1人で戦うっていうの? あいつは、演習場で戦った映像なんかじゃないんだよ。下手したら死ぬんだよ」
「わかってるよ。俺だって馬鹿じゃない。でも俺さ、実はあいつを3体ほど倒してるんだぜ?」
「だから何よ。今回も余裕で勝てるって保証はあるわけ? 偶然に偶然が重なっただけかもしれないじゃない」
「だから、わかってるって。そうだよ、あの時は間違いなく運だけで勝った」
「じゃあ――」

[そうだよ、逃げようよ!]
[詳細はわからないけど、危なそうだから無理はしないで]
[戦わなくて良いから!]

 距離が近づいてくるサルイの全貌が少しずつ明らかになっていくにつれ、セリナや視聴者からの心配が大きくなっていく。
 それと同じくして、マアヤとソラノは立っていることすらままならなくなってしまい、地面にへたり込んでしまった。

「セリナ、他のモンスターから襲撃されたら俺はカバーできない。だから頼む」
「……本当に大丈夫なんでしょうね」
「情けないけど、断念はできない」
「はぁ……カズらしいっていうか、なんというか」
「つまらないプライドなのかもしれないけど、ここで戦わなきゃダメな気がするんだ」
「わかったわよ、行ってきなさい。そして、あんなやつぶっ飛ばしてきなさい」
「ああ、任せろ」

 カズアキは前進し、サルイも臨戦態勢へ移る。

『ブルッ、ブルッ』
「あの時の俺はキッチリと返す――とかカッコつけたいところだが、あの時のサルイとは違うんだよな。倒したのは俺だし」

 サルイは頭を少し下げ、その場に留まったまま右足で地面を擦る。
 対するカズアキは、威勢こそ張っているものの早まる心臓は呼吸を浅く短くさせていた。

(既に討伐している相手だし、演習場でも恐怖を振り払うように1撃で倒した。だが、情けないことに本物を前にするとビビッちまってる)

 拳に力が入り、戦闘に集中しなければいけないのにいろんなことを思考してしまう。

(だけど、前回と状況は同じだ。回避は絶対に許されない)

 まだまだ時間の猶予が欲しい、と素直な気持ちを抱いているものの、モンスターがそれを理解し容認するはずがない。

『ブッルルルッ!』
「ああ、やってやるさ!」

 正真正銘の一騎打ち。

 カズアキは今、恐怖に立ち向かおうをしている。
 そして、剣はそれに応える。

 叶化の剣エテレイン・ソードは、その本来紅く輝いている色から天井から降り注がれるのと同じ蒼色へと変わっていく。

「やってやる。やってやる。やってやる!」

 駆け向かってくる恐怖の象徴を打ち砕くべく、剣はカズアキの願いを叶えるべく光が膨張し威力を増していく。

「はぁああああああああああああああああああああっ!」
『――』

 膨張した光は、まるで剣が伸びたかと錯覚してしまうほどであった。
 しかしそれは幻影などではなく、たしかに伸びた剣は、サルイをたった振り下ろされた1撃で消滅させてしまったのだ。

[うおおおおおおおおおおっ!]
[やったああああああああああっ!]
[いやっふぉおおおおおおおおおおっ!]
[ナイスファイト!]
[くあぁあ! 痺れるぅ!]

「や……やった、やった! サルイを倒した!」

 今まで味わうことのできなかった達成感に包まれ、心が満たされていく。
 見事、恐怖の対象であったモンスターを己の意思で打倒してみせたカズアキは、嬉しさのあまり警戒などせず飛び跳ねる。

「今度こそ、ちゃんと倒したんだ。俺は勝ったんだ。勝ったんだ! うおおおおおっ!」

 それはもう、自分が所持している剣と盾がどれほどの代物かを忘れてしまうほど、ぐわんぐわん振り回したり、上下前後に動かしに動かしている。

「――ねえカズってば!」
「え?」
「嬉しいのはわかるんだけど、早く肩を貸してよ。安全なところまで一旦戻らないと」
「あ――うん」

 セリナの声で我に返ったカズアキは、完全に腰が抜けてしまっているマアヤとソラノへ視線を向けた。
 サルイが討伐されたことによって震えなどは収まっている。しかし、すぐに「じゃあ気を取り直して狩りを続けよう」とはならない。

 カズアキはマアヤを、セリナはソラノへ肩を貸して今より安全な場所まで戻ることになった。
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