【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯

文字の大きさ
上 下
36 / 66
第五章

第36話『なんて尊敬できる人なんだ』

しおりを挟む
「報告いただきありがとうございます。こちらでもその情報を確認しております」

 和昌は、つい先ほどあった内容を受付嬢へ報告した。

 例の如く、他人に情報を聞かれることのない場所にて顔を合わせている。

「それで、被害に遭った男性は大丈夫でしたか?」
「はい。支部長がすぐに救急車を手配して運ばれていったとのことです」
「そうだったんですね。サイレンの音が聞こえなかったので少しだけ心配だったんです」
「だとしたら、たぶん人気を避けてサイレンを鳴らさずに来てもらったのでしょう」
「ははぁ……そんな手段があるんですね」

 終始、支部長への関心を寄せる和昌。

「しかし不自然は増すばかりですね」
「何かあったのですか?」
「いまいち理解できないのが、葭谷よしたに様の報告によると腹部などによる出血ということでしたが……」
「そうですね。細部まで確認したわけではないですが、刃物等による刺し傷だと思います」
「……しかし、支部長からの報告によると『転倒による打撲と出血』になっていました」
「え?」

 支部長の姿があまりにも尊敬に値するものだったから、もしかしたら自分の記憶に補正が掛かっているかもしれない可能性を見出す。

「俺の記憶違いだったかもしれないです」
「本当にそうでしたか?」

 その問いに記憶を辿ると、改変していないことは明白だった。

「……間違いなく、空いている手で腹部を押さえていました。そして、白いシャツが腹部を中心に広がっていたと思います」
「なるほど……」

 受付嬢は眉間に皺を寄せ、右手に持っているペンをカチカチと芯を出し入れする。

「もしかしたら、今も被害が増大していっている可能性があります。そのせいで、支部長の記憶も曖昧になってしまい、報告書に記入する内容を誤記してしまった」
「それはそれでかなり問題ですよね」
「ですね。一刻も早く問題解決をしなければ、いずれ死人が出てしまう可能性も出てきてしまいます」
「……犯人の目的がわかれば、少しは捜査しやすいと思うんですけど」
「今のところは、男性新人探索者が無差別に襲われている、ということしかわかっていませんからね」
「んー……何か他に共通点があったりしないんですかね。もしくは、犯人のレア装備についてとか」

 今までの出た情報の記憶を辿っても、ヒントすら出てこない。

「不謹慎かもしれないですけど、自身の欲求を満たすためだけの犯人だとしても、相手を殺さないって何故なんでしょうね。まるで、なにかを探しているような気もしてきませんか?」
「……そうですね。もしかしたら犯人は何かを探している。そして、ある程度の特徴――男性新人探索者というものだけを把握してて、手当たり次第に襲撃している可能性があるかもしれません」
「え」
「あくまでも、そういった可能性がある。という話です」

 和昌は、この後に受付嬢から発せられる言葉が予言できてしまう。

「つい最近、犯人が手に入れたいレア装備を手に入れた男性新人探索者を探している。とか」
「……」

 実際に言葉で耳に届くと、かなり血の気が引いてしまう。
 なぜなら、和昌はその項目に当てはまり過ぎているから。

「ちなみに、その仮説が100%当たっていた場合、俺の確率ってどれぐらいになるんですか?」
「そうですね。100%、1分の1。絶対。という言葉が当てはまるのではないでしょうか」
「えぇ……」

 全身の血の気が一気に引いていき、嫌な汗が背中を伝う。

「は、ははは。も、もしかしたらっていう可能性ですよね。だ、だって、そこまで情報を手に入れられる人間ってそうそう居ないじゃないですか?」
「普通であれば、その情報を持っている人間は少ないでしょうね。ですが、葭谷よしたに様は配信者としても活動を開始しているのですよね?」
「うっ、あっ、そうですね……」
「そして、最近はチャンネル登録者数も右肩上がりだとか?」
「随分と詳しいじゃないですか」
「それはまあ、監視対象の情報ですから」
「こわっ」

 自分のプライバシー保護はいったいどうなっているんだ、と思うと同時に、真綾まあや天乃そらの芹那せりなの顔が脳裏に過る。

「え、じゃあもしかして……配信を情報源として使われているなら、俺だけじゃなくみんなも危険なんじゃないですか」
「その可能性も十分にありえます」
「一体どうしたらいいんだ……」
「精神的には難しいかもしれないですけど、そのままに活動しておくことをお勧めします」
「でもそれじゃあ――」
「こうも考えてください。もしも急に配信をしなくなったら、犯人は焦るかもしれません。その場合、標的が増えてしまうかもしれません。当然それは、パーティメンバーの方々にも」
「……そうですね。わかりました」
「まあ、地上での襲撃を目論む姑息な犯人ですからダンジョン内では安全だと思われます。配信で映っている通り、葭谷様と正面からやり合おうとする無謀な真似はしないでしょうから」
「なんともずる賢い犯人ですね」
「そのせいで、犯人の足取りすら掴めていないですからね」

 和昌はなんともいえないような表情を浮かべる。
 心境も平静を保っていられないが、犯人の周到なところに関心を寄せてしまう。

「それでは、ここまでにしましょう。私も緊急で代打に入ってもらっていますので」
「あれ? そういえば、俺は従業員から懐かしい目線を向けられていましたけど、リストの事って周知されているんじゃないんですか?」
「そうですね。私も向けていたあの目線でお気づきになられた通り、リストの件を知っているのはそこまで――」

 急に言いやめるものだから、和昌は首を傾げる。

「どうかしたんですか?」
「いえ何も。また連絡をしたり・・・しますので、時間に余裕をもってスケジュールを組んでおいてください」
「ん? わかりました」

 意味ありげな言葉に、疑問を抱きつつも、『事件解決までは、ダンジョンへ狩りに行く頻度を抑えるように』という意味だと察して返事だけはしておいた。

「それでは、これにて解散となります」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...