【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯

文字の大きさ
上 下
18 / 66
第三章

第18話『呼び名が変わるだけで変わるものとは?』

しおりを挟む
 先へ進む前に、カズアキはタルトールを【叶化の剣エテレインソード】で試し切りをした結果――まさかの剣を弾いた甲羅を斬って1撃で消滅させてしまった。

 その後、一行は敵をなぎ倒し続けるカズアキを先頭に、マアヤとソラノが行き先を指定して第2階層への移動路へ向かう。

「ねえカズアキ。みんながチャンネル名を知りたいって言ってるんだけど、教えちゃっていいかな?」
「……ああ」

 もしかしたら、視聴者が増えてしまえば前の自分を知っている人がいるかもしれない。であれば、なにかしらの言い訳をしてはぐらかしてしまった方がいいのでは、と思ったが、そもそも名前も声も顔も個人情報の類のものは出していないことを思い出して許可を出す。

 装備にものを言わせながらカズアキは半ば自暴自棄に足を進める。
 途中、初見のモンスターがいたり、複数体と遭遇したとしてもお構いなしに。

[無双状態で草]
[強すぎワロタ]
[つよつよ]

 左視界端に文字列が並び、カズアキもそれに気が付く。当然、初見であれば驚くところだが、その見慣れた文字は反応するまでもない。
 先ほどマアヤが視聴者に対してカズアキのチャンネル名を教えた。その後すぐに移動または2窓して視聴している人が出てきた結果だ。

 つい先ほどまで視聴者は0人だったのに、気づけば30人に。

「カズアキ、そこの先に移動路があるよ」

 一行は階層移動用の移動路である階段まで辿り着き、降り始める。

「そっちにどれぐらいの人が観に行ってる?」
「視聴者数ってどこでみるんだ?」
「左右のどちらかに視線を寄せるとコメントと視聴者が確認できるよ」
「お、ほんとだ。これは便利だな。集中してる時なんかは見えないようになっているのか」
「そうそう。コメントとかきてるんじゃないかな」
「今は35人――おぉ、視聴者数も増えてるし、コメントまでしてもらえてる」

 まるで初めてそういう類のことを知るかのように、わざと大袈裟に喜んで反応してみせる。

 セリナは、誰にもバレないように「演技臭い」と腹の中で嗤い、表情に出ないよう必死に堪えていた。

[強さに対する知識量がアンバランスすぎるだろ]
[初心者さんって本当だったんですね!]
[もはやその剣だけでいいんじゃないか]

 カズアキは、故郷に戻ってきたような懐かしさを覚える。

(安定して、顔を変え、名前を変え、声を変えたところで視聴者はどこも差がないもんなんだな。本当に好き放題言ってくれる)

 活動者が本名で活動していないと同時に、視聴者もインターネット上での名前がある。匿名性をいいことに好き放題言っている人も居るが、それもまた古きよき文化。
 普段の名前とは違うことで、新しい自分になれる。いつもは言わないことを言葉にしてみたり、現実ではできないような挑戦をしてみたり。

 カズアキは大炎上を経験したからこそ、この中では誰よりもそれを実感している。だからこそ、ちょっと憎まれ口を利かれたとしても多少のダメージすら負うことはない。寧ろ、友人に出迎えてもらったかのような温かさを感じていた。

「そういえば、マリナ達のチャンネルって登録者数ってどれぐらいなんだ?」
「今は、1万人を突破したぐらいだよ」
「それで、1万人突破記念でいつもより先に行こうって企画だったの」
「ああそれで」
(どうせ、視聴者に乗せられてのことなんだろうが……正直、もっと危機感を持つべきだったぞ。あの状況で、もしもあの瞬間に俺が来なかったら――自分も大体は同じ立場だから、内心であってもこれ以上の説教はブーメランでしかない、か)

 ついさっきまで感情で突き進んでいた自分を振り返り、反省する。

 階段も30段ぐらい降りたところで、マリナは突拍子もないことを言い出す。

「そうそう、言い忘れてた。あのね、私達と助けてくれたあの時も配信をしていたんだけど、あれを切り抜き動画にしてもらってアップロードしたら、すっごいバズっちゃったの」
「ん?」
「『バズった』っていうのは、簡単に言うと凄い人達に満たれるだけじゃなく沢山の人に拡散されているってことなの。今のところ、PV数が5万を突破した感じ」
(なん……だと。登録者数が3万人を突破した俺の動画でさえ、そんな初速を叩き出したことはない。大体は登録者数よりかなり低く、後から伸びていたんだぞ)
「ご、5万……?」
「あんまり実感はないと思うし、正直こっちも実感がないんだけどね」
「私だって未だに信じられてない」

 当事者でありながら他人事みたいなことを2人は言っているが、実際はそんなものだ。
 普通に考えれば、数十、数百と視聴されているだけで多い方だ。実際に数十人が目の前に立てば多いと感じるし、数百人となれば視界に収まりきらないほどでもある。それが、ただの数字でしか表示されていないのだから実感がないのも仕方がない。しかも今回が初めてということであれば。

(たったの数日でその様子なら、もしかしたらこのまま伸び続ける可能性は非常に高い。……って、それって本当に大丈夫なのか)

 いくら全てが変わっているからといって、そこまで拡散されると一気に不安が押し寄せてくる。

「それって、多分凄いことなんだと思うけど、直接的な影響ってどれぐらいあるものなんだ?」
「んー、どうなんだろう。切り抜きを作ってもらった人とか視聴者のみんなには、私達だっていうのがわからないようにしてもらってる」
「具体的には、チャンネル名を出さないでもらったり、名前を呼んでいるところは編集でカットしてもらってる。だから、直接的な影響がどれぐらいかっていうと、あんまりなさそうな気もする」
「なるほど」
(だが、自分の視聴者達は既に俺のことを知っているから、こうして流れてきているってことか)

 なら一安心……と言い切れるものでもなく、もしかしたら誰かが漏洩させるかもしれない危険は孕んでいる。

[あの時あの瞬間、熱い戦いと感動をありがとう]
[俺達の推しを護ってくれて、本当にありがとう]
[俺は物語のような英雄の姿を目の当たりにした]

 というコメントが並んだ後、投げ銭が送られてきた。
 1万、1万、1万。

「え、マジかよ」
「なにかあったの?」
「視聴者の人達から、お金が」
「え、本当に!? よかったじゃんおめでとうっ」
「それは素直に喜んでいいこと。視聴者は自分の感情に素直だから、そのお金は正当な対価だと思っていいんだよ」
「そ、そうなのか……皆さん、本当にありがとうございます。これで今月の家賃を支払うことができます」

[素直なのはどっちもだったなwwwww]
[なんだなんだ、崖っぷちな生活すぎるだろ]
[もっと登録者数を増やしてサブスク機能を実装してクレメンス]

 カズアキは、あまりの嬉しさに飛び跳ねてはしゃぎたい気持ちをグッと堪える。
 なんせ、今までは生配信というものをやったことがなく、数少ない実践時に投げ銭などいただいたことはなかった。しかも最低額の100円ではなく、飛び越えて最高額の1万円なのだから。

「と、いうことなんで」
「お、おう」
「やったねカズ・・。このまま右肩上がりで私も養ってよ」
「冗談やめてくれよ。今は自分だけでいっぱいいっぱいなんだから」
「な、え! 今!」
「マアヤ、急にどうかしたの? 私が"カズ・・"に対して変なことでもした?」
「今のは私も聞き逃さなかった」

[なんだなんだ]
[急に修羅場展開]

(どういうこと?)
「今、カズアキのことを『カズ』って言ってた」
「うんうんっ。そんなの許せない!」
「どうして? 私とカズはかれこれ3年目の付き合いで、こうやって呼ぶことだって珍しくないでしょ?」
「ぐぬぬ……」
「そう言われると、私達の関係性はたったの数日。何も言い返せない」

 セリナは鼻で笑う。
 どうして急にそんな勝ち誇った態度をとり始めたかは本人にしかわからないが、確実にマウントを取り出している。

「呼び方でなにかが変わるものなのか? なら、俺も2人の呼び方を変えるが。マアヤはマーチャン、ソラノはソーチャン、とか?」
「センスない」
「なんか違う」
「えぇ……」
「さすがの私でもそのネーミングセンスを疑う」
「俺はいったいどうしたら良いんだ」

[どんまい]
[心配するな、俺達が居る]

 コメント欄に励まされ、カズアキもこの時ばかりはさすがに視聴者に対して仲間意識を持つ。

「じゃあこの際、呼び方を変えよう」
「ソラノ、それだっ」
「だけど、私は変わらず『カズアキ』って呼ぶけどね」
「なんと……なら、私は『カズくん』で」
「それ、私と同じじゃないの?」
「いーや、違いまーす。全然違いますー」
(まるで俺が3人いるみたいで混乱しそうだ)
「じゃあそろそろ、第2階層進出ってことでいいか?」
「あ、忘れてた」
「同じく」
「おい頼むぞ」

 話に夢中になっていたせいで、階段を降りきっているのに目的を忘れていた一行。
 いや、カズアキだけは、目と鼻の先にある階層入り口になっている通路を前に、飼い犬の『待て』を強いられているような気持ちになっていた。

「流石にここからは、道を知っている私とソラノが先導するね」
「ああ頼む」

 こうして一行は束の間の休息を経て、再びダンジョン攻略へと歩み進むのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界帰還者、現実世界のダンジョンで装備・知識・経験を活かして新米配信者として最速で成り上がる。

椿紅颯
ファンタジー
異世界から無事に帰還を果たした、太陽。 彼は異世界に召喚させられてしまったわけだが、あちらの世界で勇者だったわけでも英雄となったわけでもなかった。 そんな太陽であったが、自分で引き起こした訳でもないド派手な演出によって一躍時の人となってしまう。 しかも、それが一般人のカメラに収められて拡散などされてしまったからなおさら。 久しぶりの現実世界だからゆっくりしたいと思っていたのも束の間、まさかのそこにはなかったはずのダンジョンで活動する探索者となり、お金を稼ぐ名目として配信者としても活動することになってしまった。 それでは異世界でやってきたこととなんら変わりがない、と思っていたら、まさかのまさか――こちらの世界でもステータスもレベルアップもあるとのこと。 しかし、現実世界と異世界とでは明確な差があり、ほとんどの人間が“冒険”をしていなかった。 そのせいで、せっかくダンジョンで手に入れることができる資源を持て余らせてしまっていて、その解決手段として太陽が目を付けられたというわけだ。 お金を稼がなければならない太陽は、自身が有する知識・装備・経験でダンジョンを次々に攻略していく! 時には事件に巻き込まれ、時にはダンジョンでの熱い戦いを、時には仲間との年相応の青春を、時には時には……――。 異世界では英雄にはなれなかった男が、現実世界では誰かの英雄となる姿を乞うご期待ください!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

処理中です...