【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯

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第1部・第一章

第3話『配信者としても活動できるんじゃ?』

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 探索者の登録を終え、その足で早速ダンジョンに足を運んだ。

 ありがたいことにダンジョンに入ったところ付近には誰も居ない。これを好機とみた和昌は、抜刀して構える。

「こうして、こうか?」

 まずは、剣道の見様見真似で上段から振り下ろしてみる。
 ブンッ、という風切り音に若干テンションが上がりつつも、想定以上に体に負担が掛からないことに驚く。

「これだったら、片手でもいけそうだな」

 日々のトレーニングをしていた過去の自分に、心の中で感謝を伝えつつ、ゲームやアニメでやっていた構えをとってみる。左足を前に、右足を引いて、剣を握る右手を前に、左手を若干前に浮かせて。

「たしかに、この空いている左手に盾を持っていた方が効率はよさそうだ。初心者装備に剣と盾って、理に適っていたんだな」

 受付の人に言われたことを思い出しながら、何度かゲームで何度も対峙していた初期に戦うモンスターを思い浮かべて宙を斬ってみる。
 それはもう不格好に剣を振り回している姿は、自分でも若干恥ずかしさを覚えるも、誰も居ないしいいか、と体を動かす事に集中した。
 想像上のモンスターを何度か討伐し終え、ほんの少しだけ自信をもつ。

「エアーで戦っていても、ただのチャンバラごっこだからな」

 天井にビッシリと詰まった光苔がハッキリと通路を照らしている中、ぎこちなくも辺りを警戒しつつ進行する。
 さすがのゲーマーであっても、その通りにモンスターがこちらの準備を待ってくれるはずはない、と理解しているから。だからこそ、ついさっき手に入れたばかりの微量な自信は既に消え去り、剣を握る手には汗が滲む。
 太陽に照らされている地上よりは暗いが、視界は良好。しかし、ダンジョンというだけで心臓の音がうるさいぐらいに聴こえる緊張感は、呼吸を浅く早くさせていく。

「頼むから、最初に戦うモンスターは可愛い見た目をしていてくれ」

 各物語によって、最初に登場するモンスターは異なる。肌が緑色のゴブリンだったり、地を這う芋虫だったり、ほとんど攻撃を仕掛けてこないスライムだったり。当然、ご所望しているのはスライム。

 ダンジョンでの死者数が多い、というニュースが地上ではあまり流れていない。
 つまり、新米探索者が亡くなってしまうような強いモンスターは序盤からでてこないということだ。そうは理解していても、想像と現実はかけ離れている。現に、たった50メートル程度だけ移動した今の疲労度はかなりのもの。

「……おぉ」

 モンスターを発見。
 安堵したのは、視界に入ってきたのが神頼みしていたスライムだったからだ。

「よし――」



「――ふう」

 30分が経過し、壁を背に腰を下ろし休憩。
 ポケットに詰め込んだ魂紅透石ソールスフィアを取り出し、天井から降り注ぐ光に照らす。

 蒼白い光が透き通っているのを、幻想的で綺麗だな、と思いながら手首を捻って角度を変えてみる。
 魂紅透石ソールスフィアは名前通りに透き通った紅色をした石。ガラス破片のように小さい。地上でいうところのルビーの宝石みたいなもの。
 モンスターを討伐した時にドロップするのだが、魂紅透石は各モンスターの中に球体――核=心臓の役割を担っており、それを破壊することによって討伐することができる。が、人間のように、核を破壊せずともダメージの蓄積や強力な一撃によって討伐することも可能だ。

「最弱モンスターから落ちる魂紅透石を……10個ぐらい集められたけど、いくらぐらいになるんだろう」

 魂紅透石についてやダンジョンが下に続いている、ということは手続きの時に軽く説明してもらった。換金方法や軽い予備知識も。
 しかし、形状や重量によって変わる上下する値段については、換金時にしかわからない。ともなれば、時間が許される限り狩り続けなければ、今後の生活が厳しくなってしまう。

「ゲームだったら、疲れるとかないからもっと戦えるのになぁ……。あ~、ダンジョンってぐらいだから宝箱とかからレアアイテムとか出ないかなー」

 静かな空間に、そんな愚痴を零す。

「いや待てよ。こういうのを配信するのって以外とありなんじゃないか」

 急に、元ゲーム実況者の血が騒ぎだした。

「ストーリー系のゲームなら、進行していかないと視聴者は飽きてしまう。しかし、ゲーム配信となれば別だ。MMORPGやバトルロイヤルゲームなんかは、物資を集めたり経験値を集めたりしながら雑談をメインとして配信している人が居る。そして、ちょっとしたスパイスとして戦闘があり、それが緊張感を生んだりして緩急となる。――まさにこの状況がそれに当てはまるじゃないか。しかも俺は初心者だし、中途半端なタイミングから始めるよりも視聴者も成長を応援できる」

 しかし、数日前の記憶が蘇る。
 再びあの業界に飛び込んだとして、人気になったら陰謀のような炎上をまた巻き起こされるのではないか、と。

 アカウント削除された後、和昌はアカウントを新たに作成し、事の流れを検索してみた。
 すると、芹那せりなが教えてくれたままの展開になっていた。

 身の潔白を証明したくとも、いくらでも細工ができてしまうため、もはや先にそう言った情報を出された時点で逆転は不可能。異議申し立てをしようにも、通報の嵐でアカウントは削除されてしまっている。
 八方塞がりな状況に陥ってしまったから、こうして探索者となったのに、同一人物だとバレてしまえば今度こそ本当の終わりだ。

「……あれ。バレることなんてなくね……?」

 思い出す。自分は、どのような活動者であったか、を。

「俺、個人を特定できるようなものを一切ネットに上げてないじゃん」

 本名、自身の出身地、通っていた学校について、アルバイトについて、年齢、身長、性別。それら個人情報を全く出していなかったのだ。そして、声でさえもボイスロイドで代用していたため、心配しなくていい。
 あえて言うのであれば、葭谷よしたに和昌かずあき=【カザマ】ということを知っている、安久津あくつ芹那せりなという存在だけ。
 今回の騒動を誰よりも早く報告してくれたことから、敵側ではないと思いたいが、あちら側からすれば半信半疑であろうことぐらい容易に想像がつく。

「活動を始めるとしたら、まずは芹那への誤解をなんとかしないとな」

 現状でもダンジョン配信というのはチラホラとされていたり、動画も投稿されている。
 しかし、そのどれもが探索者で稼いだ金で大食いや買い物をするといったものだった。そして皆、初心者から抜け出して生活が安定している者ばかり。和昌のような崖っぷち初心者はまずいない。

「とりあえず、配信機材を購入するお金を稼がなければならないし、もっと魂紅透石ソールスフィアを集めないとな」

 和昌は地面に置いた剣を握って立ち上がり、歩き出す。

「なん……だと……」

 立ち上がり、再び戦闘を繰り広げようとした時だった。
 目を凝らして視線を向ける先に、金色のスライムを発見してしまったのだ。これはいわゆるレアモンスター。

 すぐに辺りを確認。

「よし、誰も居ないな。じゃあ――善は急げっ!」

 スライム種のレアモンスターであるわけだが、超初心者の和昌はその強さを把握していない。しかし、ゲームで得た知識から、目の前に居る金色のスライムは希少性が高いだけでなく、有益なアイテムや素材をドロップするであろうことが脳裏に過る。
 ならば、誰も居ないこの瞬間に千載一遇のチャンスを取り逃すわけにはいかない。

 和昌かずあきは一目散に走る。走る。走る。
 他のスライムには脇目を振らずに一直線に。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 10メートル――5メートル――3メートル――2メートル。

「はあぁっ!」

 和昌は助走からの踏み込み、前方にジャンプしながら上段からスライムへ剣を振り下ろした。
 スライム独特の、むにゅっとした感触の後、金色のスライムはドロドロに溶けて地面の染みになってしまう。

 様々なドロップアイテムを想像し、最初に思い浮かんだのは大きい魂紅透石。
 若干遠目から視認した際、通常のスライムと同等に感じていたが接近すると少し大きかった。ならば大きい魂紅透石をドロップし、換金して結果的に大金が手に入る、という流れまで込みで。

 しかし、地面に転がり落ちていたのは、そんな想像からかけ離れた物。一言で表すならば、鍵。

「なんだこれ。え? まさか、ダンジョンのどこかに隠し扉があって施錠されているってこと? んなことある?」

 ダンジョンの隠し部屋と言えば、壁が床にずれたり、地図に映らない洞穴と相場が決まっている。
 たまにゲームである隠し扉といえば、こういった洞窟状とは違うダンジョンだ。と、和昌はゲーマーであるが故にそんなことをパッと思い浮かべていた。

 片眉を持ち上げ首を傾げながら鍵を持ち上げる。形状は、よくゲームなどで観るキーリングにまとめられるようなもの。裏を返しても特に刻印などはなく、匂いを嗅いでみても無臭。
 一体、こんなものでなにができるのか、いや、扉を開ける他に役割はないのだろうが。

「期待したが、まあこんなもんだよな。これの使い道は、たぶんどこかでわかる時が来るだろう」

 未来への期待を残し、輪の部分に指を入れてクルンっと回した時だった。

「え」

 鍵の部分がスポッと抜け、それがちょうど顔の目の前まで飛んでくる。
 そして次の瞬間、和昌の体は光に包まれ転移させられてしまった。
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