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第一話『聖騎士アイナと勇者クディア』
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私は特殊部隊所属、隊長であり聖騎士のアイナ・ブリギット。
この部隊は、主に国外の脅威に対し派遣される部隊だ。
そして現在は王命により魔物の討伐任務に就き林道を進んでいる。
「アイナ様~! もうすぐ目的地ですよ!」
「ラナ、いつも言っているけど、様なんて付けないでって」
天津爛漫の少女ラナは元気を振り撒きながら私にそう語り掛ける。
眩しいほどの笑顔に、邪なこととは無縁の彼女。
素直に可愛いとはいえない地竜の上に跨っていなければ、愛嬌の塊とでも言えるのにね。
「がっはは、確かにな、二人は同い年なんだからもっと仲良くしろよなっ」
「ガルムさんは、もう少し気を使って欲しいんですけどね~?」
白髪白髭のガルムは高笑いをし、ラナと私をおちょくり始めた。
そんなガルムにラナは反発するが、まるで仲の良い兄妹喧嘩にしか見えない状況。
私はそんな二人の面白いやり取りに、赤毛の髪を耳に掛けつつ笑みを零す。
こんな光景はこの部隊では日常茶飯事。
地竜に跨り歩く部隊は、総勢30名。
他と比べると少数であり、このお気楽さに奇異の目を向けられることは珍しくない。だがこれが罷り通るのは、やはり実力がものをいっている。
あらゆる権力すらも通用しない強さ。この部隊が国の敵に回れば国に勝機はないほどに。ただ、一人の例外を除けばの話なんだけど。
「ラナ、お願い」
「はいはーい、お任せあれーっ」
ラナは、いつものように偵察へ向かってくれた。
笑いが絶えない部隊はこのままゆっくりと進み、そろそろ目的地に着く。
先行偵察から戻ったラナは眉を細めつつ報告を始める。
「これはまた酷いですね……」
「そうね……」
目的地手前、木々は薙ぎ倒れ、馬車の残骸などが散乱している。
姿は見えないが、敵意を感知――私は声を張り号令をかけた。
「総員、戦闘準備!」
号令に全員の笑顔はスッと消え、警戒心を尖らせて戦闘態勢に入った。
そして、みんなが自分の地竜の喉を撫で、合図を出す。この行為は戦闘開始の合図になっていて、地竜は普段より数倍もの察知能力が向上する。
私の判断は正しかった。
地竜が喉を鳴らし始め、姿勢を低くする。これは敵は既に接近している証拠。
『ぐるぁぁぁ!』
『ギイィィィ!』
姿を現したのは、一体や二体ではなかった。
人間の三倍の大きさの巨人種。四足歩行の獣種。それらがこちらを包囲するのにそう時間はかからなかった。
このスピード感、間違いなく待ち伏せ。
「あちらにも優秀な索敵が居るようですね」
「どうするよ隊長」
「決まっている。まずは正面突破、態勢を整え掃討」
ガルムは口笛を一度鳴らす。それに応えるように私も左頬を吊り上げ鼻で笑った。
「総員、私に続けーっ!」
抜刀し突き出し、私が先頭で敵群へ突撃。
聖剣が赤く輝きだし、正面に一薙ぎ。半月状の光が巨人種の三体を上下真っ二つに切断。
部隊はそのまま突破口になだれ込み、離脱に成功した。
魔物群から距離を置けた私達は、陣形を整え残党掃討に成功。
犠牲者や負傷者を出すことなく完遂した部隊は、野営の準備を始めていた。
「あら、終わっちゃったみたいだね。皆さんお疲れ様です」
どこからともなく現れた一人の男。銀髪をふさふさと生やし、細身だが隆起した筋肉は甘えの無い体。
そう、彼は勇者クディア・マーカス、唯一の例外である。
「おーう。クディアの坊主、来てくれたのか」
「ガルムさん、お元気な姿が見れて僕も元気が出てきましたよ」
「あーっはっは、相変わらず口が上手だなーっ。お、そうだそうだ――おーい、隊長ー! クディアが来たぞー!」
「あー、もう知ってる知ってる。こっちだって忙しいのよ」
そんなに大声で呼び出されなくてもわかる。
聖剣を持つ者同士は、ある程度の距離ならば存在が認識可能になっているのだから。
「んおー! 忙しい隊長さんの代わりに働かないとなーっ。ほら、ラナ行くぞー」
「えーっ、私もですかー? 自分の寝床できてないんですけどー」
「俺が後で手伝ってやるから、みんなの手伝いに行くぞー」
「はぁ、わかりましたー。ということでアイナ様、一旦失礼致します」
ルナは私へ丁寧に一礼をし、ガルムの後を小走りで追いかけていった。
この場に残された私とクディアは、薪用に切り揃えた丸太の上に腰を下ろす。
「今回も全員無事だった?」
「もちろんよ。みんな優秀なんだから」
「それもそうだけど、また無茶したね?」
「なーによその言い方、私がいつも無茶してるみたいじゃない。それに、もしそうだったとしても私は聖騎士、誰よりも頑張らないといけないじゃない」
「はぁ……」
私の言葉を聞くにクディアはため息を吐きながら、片手で頭を押さえている。
「アイナは初めて会った時から全然変わらないよね」
「何が言いたいわけ?」
「だってさ、任命式後に初めて話した時、『私が皆を守ります』と志高く宣言してたよね」
「そんなこともあったわね」
「あの時僕は思ったんだ。あーこの人、責任感強めの人だなーって」
「なにそれ」
「それから、何かあったら全部自分が悪いって抱える人だってね」
その言葉に私は何も言い返せなかった。
クディアが言っていることは全てが当たっている。
それに、日に日に増す敵の強さへ危機感を抱き始めていたということも相まって。
「それで、あなたは私に説教をしに来たってわけ?」
「そ、そんなつもりじゃないよ。みんな元気してるかなってさ」
「そういえばあなた、王命で遠征してなかった?」
「そうそう、それが終わったからみんなに会いに来たってわけ」
「ふぅーん」
全身を見渡すに大それた負傷が見られず。
怪我どころか服すら損傷していない。
それもそうだ。彼は勇者。一国を敵に回しても、単身で相手取ることができるほどの強さ、心配するだけ無駄だということはわかっている。
「それにしても、あなたはいつも余裕そうよね。それに、いつも笑顔だし」
「あっはは、それは褒め言葉として受け取っておくよ」
「私もあなたぐらい強かったらそれぐらいの余裕も出るのかしら」
「そんなことはないさ。アイナだって、今や他の追随を許さないぐらい強いじゃないか。誇って良いと思うよ」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、国内敵無しの勇者様に言われると、皮肉にしか聞こえないわよ」
クディアは相変わらずの笑顔で私の嫌味を受け流し、顎が外れそうなぐらいの欠伸をした後、立ち上がり言った。
「じゃあそろそろ僕は行かないと。王様に報告しないといけないんだ」
「そう……」
「じゃあ、これからもよろしくね」
この場から立ち去ろうとしたクディアに私はつい言葉を投げてしまった。
「あ、あの……ちゃんと体調を崩さないようにしなさいよね。まあ、あなたには無用な心配だろうけど」
「あっはは、ありがとう。報告を終えたら一休みすることにするよ。それじゃまたね、アイナ」
はぁ、なんで私はあんな言葉しか掛けれないんだろう。
本当はもう少し、ほんのもう少しだけ話していたいのに。
もっと優しい言葉を掛けてあげたいのに。
またね。そんな言葉も口に出せない私は、ただ去りゆくクディアの背中を眺めることしかできなかった。
次に会った時は、もっと自分に素直になろう。と、心に決めて――。
この部隊は、主に国外の脅威に対し派遣される部隊だ。
そして現在は王命により魔物の討伐任務に就き林道を進んでいる。
「アイナ様~! もうすぐ目的地ですよ!」
「ラナ、いつも言っているけど、様なんて付けないでって」
天津爛漫の少女ラナは元気を振り撒きながら私にそう語り掛ける。
眩しいほどの笑顔に、邪なこととは無縁の彼女。
素直に可愛いとはいえない地竜の上に跨っていなければ、愛嬌の塊とでも言えるのにね。
「がっはは、確かにな、二人は同い年なんだからもっと仲良くしろよなっ」
「ガルムさんは、もう少し気を使って欲しいんですけどね~?」
白髪白髭のガルムは高笑いをし、ラナと私をおちょくり始めた。
そんなガルムにラナは反発するが、まるで仲の良い兄妹喧嘩にしか見えない状況。
私はそんな二人の面白いやり取りに、赤毛の髪を耳に掛けつつ笑みを零す。
こんな光景はこの部隊では日常茶飯事。
地竜に跨り歩く部隊は、総勢30名。
他と比べると少数であり、このお気楽さに奇異の目を向けられることは珍しくない。だがこれが罷り通るのは、やはり実力がものをいっている。
あらゆる権力すらも通用しない強さ。この部隊が国の敵に回れば国に勝機はないほどに。ただ、一人の例外を除けばの話なんだけど。
「ラナ、お願い」
「はいはーい、お任せあれーっ」
ラナは、いつものように偵察へ向かってくれた。
笑いが絶えない部隊はこのままゆっくりと進み、そろそろ目的地に着く。
先行偵察から戻ったラナは眉を細めつつ報告を始める。
「これはまた酷いですね……」
「そうね……」
目的地手前、木々は薙ぎ倒れ、馬車の残骸などが散乱している。
姿は見えないが、敵意を感知――私は声を張り号令をかけた。
「総員、戦闘準備!」
号令に全員の笑顔はスッと消え、警戒心を尖らせて戦闘態勢に入った。
そして、みんなが自分の地竜の喉を撫で、合図を出す。この行為は戦闘開始の合図になっていて、地竜は普段より数倍もの察知能力が向上する。
私の判断は正しかった。
地竜が喉を鳴らし始め、姿勢を低くする。これは敵は既に接近している証拠。
『ぐるぁぁぁ!』
『ギイィィィ!』
姿を現したのは、一体や二体ではなかった。
人間の三倍の大きさの巨人種。四足歩行の獣種。それらがこちらを包囲するのにそう時間はかからなかった。
このスピード感、間違いなく待ち伏せ。
「あちらにも優秀な索敵が居るようですね」
「どうするよ隊長」
「決まっている。まずは正面突破、態勢を整え掃討」
ガルムは口笛を一度鳴らす。それに応えるように私も左頬を吊り上げ鼻で笑った。
「総員、私に続けーっ!」
抜刀し突き出し、私が先頭で敵群へ突撃。
聖剣が赤く輝きだし、正面に一薙ぎ。半月状の光が巨人種の三体を上下真っ二つに切断。
部隊はそのまま突破口になだれ込み、離脱に成功した。
魔物群から距離を置けた私達は、陣形を整え残党掃討に成功。
犠牲者や負傷者を出すことなく完遂した部隊は、野営の準備を始めていた。
「あら、終わっちゃったみたいだね。皆さんお疲れ様です」
どこからともなく現れた一人の男。銀髪をふさふさと生やし、細身だが隆起した筋肉は甘えの無い体。
そう、彼は勇者クディア・マーカス、唯一の例外である。
「おーう。クディアの坊主、来てくれたのか」
「ガルムさん、お元気な姿が見れて僕も元気が出てきましたよ」
「あーっはっは、相変わらず口が上手だなーっ。お、そうだそうだ――おーい、隊長ー! クディアが来たぞー!」
「あー、もう知ってる知ってる。こっちだって忙しいのよ」
そんなに大声で呼び出されなくてもわかる。
聖剣を持つ者同士は、ある程度の距離ならば存在が認識可能になっているのだから。
「んおー! 忙しい隊長さんの代わりに働かないとなーっ。ほら、ラナ行くぞー」
「えーっ、私もですかー? 自分の寝床できてないんですけどー」
「俺が後で手伝ってやるから、みんなの手伝いに行くぞー」
「はぁ、わかりましたー。ということでアイナ様、一旦失礼致します」
ルナは私へ丁寧に一礼をし、ガルムの後を小走りで追いかけていった。
この場に残された私とクディアは、薪用に切り揃えた丸太の上に腰を下ろす。
「今回も全員無事だった?」
「もちろんよ。みんな優秀なんだから」
「それもそうだけど、また無茶したね?」
「なーによその言い方、私がいつも無茶してるみたいじゃない。それに、もしそうだったとしても私は聖騎士、誰よりも頑張らないといけないじゃない」
「はぁ……」
私の言葉を聞くにクディアはため息を吐きながら、片手で頭を押さえている。
「アイナは初めて会った時から全然変わらないよね」
「何が言いたいわけ?」
「だってさ、任命式後に初めて話した時、『私が皆を守ります』と志高く宣言してたよね」
「そんなこともあったわね」
「あの時僕は思ったんだ。あーこの人、責任感強めの人だなーって」
「なにそれ」
「それから、何かあったら全部自分が悪いって抱える人だってね」
その言葉に私は何も言い返せなかった。
クディアが言っていることは全てが当たっている。
それに、日に日に増す敵の強さへ危機感を抱き始めていたということも相まって。
「それで、あなたは私に説教をしに来たってわけ?」
「そ、そんなつもりじゃないよ。みんな元気してるかなってさ」
「そういえばあなた、王命で遠征してなかった?」
「そうそう、それが終わったからみんなに会いに来たってわけ」
「ふぅーん」
全身を見渡すに大それた負傷が見られず。
怪我どころか服すら損傷していない。
それもそうだ。彼は勇者。一国を敵に回しても、単身で相手取ることができるほどの強さ、心配するだけ無駄だということはわかっている。
「それにしても、あなたはいつも余裕そうよね。それに、いつも笑顔だし」
「あっはは、それは褒め言葉として受け取っておくよ」
「私もあなたぐらい強かったらそれぐらいの余裕も出るのかしら」
「そんなことはないさ。アイナだって、今や他の追随を許さないぐらい強いじゃないか。誇って良いと思うよ」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、国内敵無しの勇者様に言われると、皮肉にしか聞こえないわよ」
クディアは相変わらずの笑顔で私の嫌味を受け流し、顎が外れそうなぐらいの欠伸をした後、立ち上がり言った。
「じゃあそろそろ僕は行かないと。王様に報告しないといけないんだ」
「そう……」
「じゃあ、これからもよろしくね」
この場から立ち去ろうとしたクディアに私はつい言葉を投げてしまった。
「あ、あの……ちゃんと体調を崩さないようにしなさいよね。まあ、あなたには無用な心配だろうけど」
「あっはは、ありがとう。報告を終えたら一休みすることにするよ。それじゃまたね、アイナ」
はぁ、なんで私はあんな言葉しか掛けれないんだろう。
本当はもう少し、ほんのもう少しだけ話していたいのに。
もっと優しい言葉を掛けてあげたいのに。
またね。そんな言葉も口に出せない私は、ただ去りゆくクディアの背中を眺めることしかできなかった。
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