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心機一転、新学期と修羅場の始まり

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 春休みも終わり、新学期がスタート。
 偶然か必然か、俺、真理恵まりえ恵美理えみりは同じクラスになった。
 俺は相変わらず、エイラムちゃん推しで変わりないが、俺達の関係性は変わりつつあった。

「まさか、この顔ぶれが一緒とはな」
「ねーっ、以外だけど良かったーっ」
「二年連続って、本当にあるのね」

 俺の席を中心に恵美理が左、真理恵が右に位置している。
 いつものボジションに落ち着きさえ感じる。
 だが、今までのような適切な距離感は存在していなかった。

「こうだいくん、今日のバイトさ、時間帯同じだから一緒に行こーっ」
「それは良いけどさ、くっつき過ぎじゃないか」
「えー? そんなことないよ、普通普通」
「そ、そう?」

 いや、そんなことある?
 この状況は喜んで良いの? 反応したら負けなの?
 そんなことよりある人・・・ある人からの視線が痛い。

 恵美理は、俺の腕に自分の腕を絡めて密着している。それはもう腕だけで至る所の柔らかさが伝わり、ボディラインが脳内形成できてしまうくらいに。
 温かいく柔らかい感触とは裏腹に、凍てつく眼差しがグサリグサリと、何度も右側を突き刺してくる。
 その主に俺は謝罪を述べ始めた。

「あ、いや、エ……真理恵さん? この状況について、俺に無罪だと思いませんか?」
「どうして康大くんは私に・・言い訳をしているのかな? やりたいように・・・・・・・すれば良いじゃない」

 あはは、完全にキレてますよ。
 だってほら、表向きにしか笑ってないですもん。
 言葉なんて殺気に満ち溢れてるし、背後に鬼が腕を組んで仁王立ちしてるように見えるしっ!

 こんな状況で既に両隣席の主は居ない。
 恵美理は既に左席を奪い座っている。
 真理恵がこちらに近づいてきた。殴られると覚悟を決めた俺。だが真理恵は予想外の行動を起こした。

「――私もやりたいようにするけどね」

 そう言うと、右隣席を俺の真横に置き、腰を下ろした。
 真理恵ほそではないが、握り拳一つほどの距離。

 なんだよこの状況、最近の女子高生ってこんなスキンシップをするほどフレンドリーなのかよ。
 落ち着け俺、落ち着け俺、俺の推しは誰だ。
 そうだ、エイラムちゃんだ。
 忘れるな。忘れるな。
 あれ、でも、エイラムちゃんは真理恵で、真理恵がエイラムちゃんで。
 あー! もう俺はどうしたらいいんだよ!


 ――この状況を理解出来ていなかったのはこの場に居る三人だけだったのかもしれない。
 彼女達に心が振り回されるが、なんとか自我を保つ御崎康大《みさきこうだい》。
 無邪気にも気持ちの赴くまま行動してしまう羽根恵美理《はねえみり》。
 自らの正体を明かし行動を制限するような発言をした新田真理恵《にったまりえ》。
 恋愛素人な三人以外の人々は、完全に理解しているだろう。
 そうこれは、ただの修羅場・・・修羅場、なのだと。
 そしてこれから始まる地獄の予感を――。
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