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第四章

第28話『え、コメントしてもらえてる』

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「たしかこうだったよね」

 ネックレスをトントンッと2回叩く。

 とりあえず、昨日の夜に取扱説明書をパラパラと眺めてみたけど、やっぱり頭の中に詰め込むには量が多すぎた。

 だけどこれって、今回は無料でいただいたという話だけど、言い方を変えれば使用した感想とかをちょうだい、ということでもあるよね。
 こういうのは使用頻度を増やしていけば慣れると思うし、早速始めよう。

「よーしっ、今日はウルフを20体討伐するぞーっ」

 あれでもこれ、独り言も放送に流れるってこと?
 うわあ~、全部が全部配信されちゃっているなんて考え始めたら、ちょっとだけ緊張してきた。

 恥ずかしい気持ちを抱えながら歩き進んでいると、2体のウルフと遭遇。

「よし――」

 既に武器を出現させているため、剣を正面に構えて集中する。

『グルルルルルルルル』
『グウゥ』

 どこからでもかかってきなさい。

《お、配信が始まってるじゃん》
《こんにちは~》

 ウルフはなんてない、いつも通りの突進を仕掛けてくる。
 ここら辺のモンスターは、基本的にはわかりやすい攻撃以外を行ってはこない。
 だとしたら、こちらとしては馬鹿正直に正面から立ち向かう必要性はない……んだけど、個人的には戦闘が長引くのは望ましくないから――。

 前進。

「はぁああっ!」

《おいマジかよ、ここで自分から斬り込んでいくとかヤバ》
《なにこれゲーム?》
《配信主って声からして女の子だよね?》

 真正面から右のウルフへ剣を突き、その軌道は脳天へ。
 両方の勢いも相まって一撃で灰と化す。

 次。

《うっほ》
《スピード感ありすぎて気持ええな》
《いけいけやったれー!》

 振り向きざまの左拳バックブローをウルフにぶちあてて、飛び交ってきていたのを叩き落す。

《え、今何が起こったん》
《おいおいおい、今の映ってないって》

 横たわるウルフへ、追撃で横腹に剣を突き下ろして、灰となって消えた。

《うっひょーっ》
《おおおおおおおおおおおおおおおおおお》
《お願いだから、もっとちゃんと映してクレメンス》
《主は配信初心者っぽいし、多少はね?》

「ふぅ」

 次は――いない。

《黒髪がこんな目の前に!?》
《前が見えないけどこれはこれであり》
《いい匂いしそう》
《変態ばっかで草》

 あ、そういえばネックレスで配信をしているなら、髪をまとめた方がいいのかな。
 今までは隠れながらって条件だったから帽子を被っていたけど、今はこうして変装とかはしなくていいし。
 でもどうなんだろう、戦闘中に髪の毛が邪魔だなって思ったことはないから、うーん……とりあえず、今はヘアゴムとかはないし後からでいいっか。

 それにしても、配信を開始してからもう5分ぐらい? 経過したと思うんだけど、誰か観に来てくれていたりするのかな?
 もしもコメントをしてくれていたら、それを確認する術はないしなぁ。

 じゃあいっそのこと、語りかけてみちゃう……とか?

「あ、あの。配信を観に来てくださっている方がいらっしゃったら、こんにちは」

《なんぞなんぞ、これって俺達に言ってるんご?》
《これはびっくらぽん》
《あれか、視聴者人数とかを確認できないぐらいの初心者ってことか》

「ごめんなさい。皆さんが思っているより、私は超超超配信初心者です。だから映りが悪いとかあると思いますが、温かい目で見守ってくださるとありがたいです」

 誰も観ていなかったとしても、こういうのは大事だよね。
 それに、配信者さんって基本的には誰かと一緒にやっているわけじゃないんだし、1人喋りみたいな練習も必要だから慣れないと。

「そしてごめんなさい。私は今、かなり特殊な環境で配信をしていまして、どれくらいの人が観てくれているかとか、コメントをリアルタイムで確認することができません」

《おー、なるほどね。納得》
《だからさっきから変な感じだったのか》
《そうやって説明してくれると、こっちもその気でいられるからありがたいわ》
《声的にめっちゃ若そうなのにしっかりんな》

「今日の配信目安なんですけど、目標として今戦ったウルフってやつを合計で20体を倒そうと思っています。あ、モンスターを討伐したら落ちる魔鏡石っていうのも、できれば集めていきたいとも思っています」

《説明サンクス》
《今のを後18体も倒すってマジぃ!?》
《ガッツありすぎて頼もしいな》
《じゃあこの配信は1時間ぐらいって感じか》

 勉強する意気込みでゲーム配信をしている人を何回か観てみた。
 その時はとんでもない人のコメントがぶわーって流れていて、とてもじゃないけど目で追うことができなかったのを憶えている。
 配信者さんもあんまりコメントを返せていなかったけど、あのペースを全部返していたらゲームなんてできないもんね。

 まあでも、私の配信活動はまだ始まったばかりだし、視聴者が0人だったとしても頑張らないと。

「よし、次行きます――」



「――はぁ……はぁ、はぁ」

 絶好調、とは言えなくても、最初に目標としていたウルフ20体を討伐し終えた。

 最後はまさかの連続戦闘になってしまって、流石に疲れて膝へ手をついて呼吸を整えている。

《いやぁ、圧巻だった》
《すんごいものを観させてもらった》
《高揚感がエグイな。こっちは観ていただけが》
《お疲れ様でした!》
《吐息最高》
《やべー四字熟語みたいなのできてて草》
《お巡りさん、この人です》
《お前らだって、女の子のいい匂いがする髪は好きだろ? 吐息だって(ry》
《通報した》
《通報した》
《通報した》

 いつ襲われるかわからない状況でいつまでも休憩していられない。

「それでは、後は帰るだけなので配信はここで終了しようと思います。お疲れ様でした」

《お、せやな。お疲れ様!》
《おつおつー》
《楽しかった!》
《余裕で登録した。お疲れ様でした!》
《配信時間は大体どれぐらいになるんだろうなぁ》
《次が楽しみだよな》

 配信を終わる時も一緒で、指で2回、とんとんっと。

 早く外に出て、どんな感じだったか観ようっ。



「え、コメントしてもらえてる」

 すごい、スゴい、凄い!
 わあ!

「やった、やったっ、やったぁ!」

 こんなに嬉しくて、ガッツポーズを抑えられるはずがない。
 ついでにジャンプしちゃったり、笑顔が止まらなかったり。

「これって夢じゃないよね」

 そんなことを思ってほっぺを抓ってみるけど、ちゃんと痛い。

「ふふっ、なにこれ。みんな楽しそうにコメントしてくれている。それだけじゃなくて、配信を愉しんでくれているのがすぐにわかる。――でもこれ、この発言とかは変態さんだよね」

 どのタイミングでコメントしてくれたものか、正確にはわからないけど、コメントを順番に目で追っていくとついおかしくて笑っちゃう。

「実際に匂いとかが伝わるわけじゃないから、これは許してあげましょう」

 自分でもしっかりとわかるぐらい、私は今とてもニヤニヤが止まらない。

 配信って、こんなに楽しいんだっ!
 これがもしコメントしてくれる人達と会話みたいなのができるようになったら、もっと楽しくなりそう。
 でもそんな欲張りを言っちゃダメだよね。

 今私にできることは、こんな感じに丁寧な説明を忘れず、観てくれる人を少しでも楽しませられるようにすること。
 1人で喋り続けるって、ものすっごく大変だっていうことがわかった。
 緊張して、いつものようにハキハキと発言できなかったもん。
 どこかでなにかで練習したいけど……ん~、今はわからないから帰ったらいろいろと調べてみよう。

 あ、だとしたら、配信者さんを観ているって言っていた美姫に聞いてみるのもいいかもっ。

 美姫と夜に話をするのはテスト前以来だから、楽しみだなぁ。
 そう考えるとまた嬉しくなっちゃう。
 早くお家に帰ろっ。
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