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第二章

第7話『私の体力はこんな感じです』

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「今日の体育は、前半が持久走で後半が球技かぁ?。はぁ?辛い?」

 美姫は体操を終えただけでそんな弱音を吐いている。

「いいじゃん、体育。私は体を思いっ切り動かせるから好きだよ」
「そりゃあそうでしょうよ。私を美夜みたいな活発女子と一緒にしないで」

 実際に体を動かすのは好きだから、そう言われても別に悪い気はしない。

「はぁ?。先生の準備がもう少し長引かないかな。なんなら、このまま座っていたい」
「それはそれで気持ちが良さそう」
「でしょ」

 私が悪乗りしていしまうぐらいには、雲ひとつない空と何回でも深呼吸してしまうほど美味しい空気は魅力的だ。
 さらには心地よい風も吹いているものだから、これがピクニック日和というんだろうね。

「はーい、じゃあまずはウォーミングアップから始めるわよ?」

 体育の先生は女性なんだけど、どこかで見るような厳しい先生ではなく、逆にのほほんとしている先生。
 そんな感じだから、よくみんなからは『たえちゃん』なんて愛称で呼ばれている。

 ちなみに、先生の本名は神斬かみきり絶栄たえ
 神様を斬り、繁栄を途絶えさせる。
 それはまるで男の子が与えられるような名前。
 氏から名までとんでもないほど恐ろしい意味合いで構成されているから、一度も怒った姿を見たことはないけど、教師の中では一番怒らせてはいけない要注意人物として有名になっている。

「美姫、ウォーミングアップは一緒に走ろ」
「いいけど、その言葉をわからずに使っているなお主」
「なんのこと?」
「いや、答えはすぐにわかるよ」

 ウォーミングアップといっても、校庭をゆっくりと先生の合図があるまで走るだけ。

 スタートラインとして引かれた白線に2列で並ぶ。

「はーい。それではー、よーいドンっ」

 これがなにかの大会だったら、選手一同の引き締まった気までゆるまってしまいそうな合図で、一斉に走り始めた。

 隣を美姫が走る。
 中には最初から歩いているのとあまり変わらないペースで走る人がいたり、ウォーミングアップなのかとつい疑ってしまうほどの速さで走っている人も。
 私と美姫は、速いとはいえないペースではあるけど、しっかりと足並みを揃えている。

 この時期は体力測定があるはず。
 だからこうして項目にもある持久走の練習をしているんだけど……。

「はぁ……」

 どこか近くでため息のような息遣いが聞こえてきたような気がする。
 美姫もこんなペースで走るに飽きちゃったのかな。

 じゃあ。

 本番前にもう少し体を動かしておきたいから、もう少しスピードを上げよっ。

 体がどんどん温まっている感じがわかる。
 風を切っている感じがして気持ちいい。
 今日、とっても調子がいいかもっ。



「はーい、そこまで~」
「はぁ――はぁ――」

 神斬先生の合図が出て、ウォーミングアップ終了。

 そしてすぐ、背後から抱きつかれる。

「ほらね、こうなるんだよ」
「どうしたの美姫」
「え? 私を追い抜かしたの気づいてなかったの?」
「え? 美姫って私の後ろにいたんじゃないの?」
「これは重症ですわ。体力無尽蔵お化けですわ」

 美姫が言っていることがあまり理解できないものだから、私は首を傾げた。

 それからすぐに背中の方で頬擦りをされているような気がする。

「美姫、何してるの?」
「疲れたから、美夜成分を補給中」
「なにそれ」
「いいからもうちょっと~」
「じゃあとりあえず座ろうよ」
「おーう」

 本番は、二組に分かれるらしい。
 これから少しだけ休憩をした後に始まる。
 
 ちなみに私達はその二組目。

「本番は私を気にしなくていいからね」
「せっかくなら一緒に走ろうよ」
「いやいや、普段から運動をしていない私には到底ついていけませんよ」
「そう? だってさっきは一緒に走って――」
「だからね? 私は自分の世界に入った美夜に置いていかれてたんですよ~」
「ふむぅ、全然記憶にない」
「そりゃあ自分の世界に入っていらっしゃいましたので」

 俄かには信じがたいことだけど、美姫が嘘を吐く意味もないからそうだったのかもしれない。

 むむぅ……。

「はぁ~い。じゃあ一組目、始めるわよ~」

 一組目に割り振られて人達が白線ラインに並び始める。

「いくよ~。よーい、どんっ!」

 一斉にみんなが走り始めた。
 と同時に、美姫は私から離れる。

「そういえばさ、美夜ってテストの勉強はどんな感じなの?」
「うぐっ」
「まあそうだよね。だって、その日の課題に苦戦しているぐらいだもんね」
「今、実はかなり危機感を抱いている」
「え、そんなに?」
「うん。全部を頑張るって決めた割に、結局のところ全部が中途半端になっちゃってるから。テストが終わったりしたら、事務所の方にも結果を報告しないといけないだろうし」
「うわぁ……それは大変だ」

 自分で言っていながら、本当に情けない。

 それに、前回の中間テストで事務所の人にお叱りを受けたばかり。
 探索者としての活動は休んでいるということを伝えてあるから、このままでは印象が最悪になってしまう。

「そこでよろしくないご報告です」
「ん?」
「私、人生で初めてのアルバイトをすることになりまして。といっても、親戚のお手伝いで畑作業を手伝うだけなんだけど」
「おぉ、おめでとうっ」
「ありがとう。でもね、そうなっちゃうと私も自分で精一杯になっちゃうだろうから、勉強の手伝いをしてあげられないんだよ」
「いいよ、気にしないで。自分だけでも頑張るから」
「タイミングが悪いよね。ごめん」

 美姫は声のトーンが低くなった。
 
 その気遣いはありがたいんだけど、こんな自分が情けない。
 友達に心配させ続けるなんて、ダメだよね。

「私、ちゃんと頑張らないと」

 闘魂注入。
 自分で両頬をパチッと叩く。

「無理しすぎないでね」
「疲れているなんて言っていられないもん。よーし、頑張るよぉ」
「だけど、目の前の――持久走も?」
「持久走も頑張るっ」
「本当に、ほどほどに無理だけはしないでね」
「うんっ」

 何かを犠牲にして頑張るんじゃ成長できない。

 全部頑張るぞーっ!
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