The Last Word~ノークスの手記(千年放浪記完結編)

しらき

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兄弟の嘘

夢見る作家の時空を越えた旅

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 …面白い、実に面白いね!まさか空間だけでなく時間まで越えて移動していたとは!いや、当然と言えば当然か。そもそも転移系のファンタジーでは文化も時代も異なる世界に辿り着くのが定番で、だからこそ面白いのである。こんな暦が似通っていてほぼ100年シフトしただけの物語なら、見え隠れするシュールさに読者は興ざめしてしまうことだろう。そもそも異世界の住人に著作権法の話をふる私もどうかしている。だが結果的に少し通じたのもなかなか…、いや物語によっては読者が入り込みやすいようあえて地球の常識を一部適用しているものもある。とは言えそれは地球人の誰かが意図的に創り出した世界だからこそのことであり、私がフィクションの人物ではない以上この世界ではそんな都合のいい設計の恩恵が受けられることはないはずだ。となればやはりここは”裏地球”と言うだけあって地球と似たような世界なのであろう。
「驚きはしたが、なるほど…もしかして表と裏では100年くらい暦がずれているのか?」
「いや、そんな話は聞いたことないが…。マルコたちがどうだかは知らんが少なくとも俺の知り合いは時代はそのまま空間だけ平行移動してきたって感じだったと思うぞ。」
「ほう…まあそもそも異世界に飛ばされた時点で”今はいつだ?”よりも”ここはどこだ?”に気を取られて時代の移動までは考えないのが普通だろうな。そうだ、そういう情報こそ『世界論』に載っているのではないか!?やはりまずはあの書物の内容をいつでも確認できるようにこいつに保存しなければ!」
「ほいほい、だったらここで騒いでないでさっさと出発しようぜ。…そういえば1つ気になったのだが、表地球はそれなりに科学が発展しているのだろう?昔向こうから持ってきたカメラをそのまま使っているやつがいたんだが、お前は何か情報端末のようなものとか持ってきてないのか?すぐにタブレット端末を調達しようという発想に至ったことを考えるとこういうのが向こうにもあるってことだよな。」
「…鋭いなぁ」
「ん?」
「いや、なんでも。私も手ぶらで来たわけではないが、流石にスマートフォンほどの精密機械となると時空を移動している間に壊れてしまうようでな。」
「ああ、なるほど。確かにな。理研特区の連中が使っているものと同等なら繊細な道具だろうし使えなくなっている方が普通か。」
「残念だがな。アナログな道具の方がこういう事態には強いことがわかったよ。」
…実際元いた世界と同じ電波が飛んでいるわけもなくネットに接続する必要がある機能は全く使えない。だがオフラインで使用できる機能は本体が動く限り使用できたのは奇跡である。こちらの端末にデータを移すことは恐らく不可能であるだろうし、なんとか生き残ってくれたこのスマホだけが私の手がかりなのだ。人に言えば笑われるような果ても確証もない、無謀な探索の。
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