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兄弟の嘘
ツァハリアス家
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ホルニッセが王位継承権を退けた時には王宮は大混乱だった。それもそのはず、”Hornisse”とはヴァッフェル王族の長男に代々受け継がれる名で王位を継げるのはその名を持つ者だけであると決められているのである。だからこそ母上はホルニッセのことを身を挺して守ったわけだし、父上もあれが行方を眩ませた時には決して冷静とは言えない手段を用いてまでも見つけ出そうとしたのだ。それほどまでにこのヴァッフェル王国では”蜂の名”を冠する者は大事な存在である。
「それなのに全て放り捨てて…両親だけでなく国民の期待まで裏切った最低野郎だよ、あれは。」
「私は深い事情を知りませんが、それでもホルニッセ様はそんな方だとは思えませんよ。何か事情があるのでは…」
「あれは外面だけはいいからね。アマリアは知らないだろうが、マルコはなかなかにあれの身勝手さに手を焼いていたようじゃないか。」
「確かにホルニッセ様はよく王宮を抜け出して街を散策してましたが…、そもそもそれがきっかけで私たち姉弟はここに仕えているわけですし…。でも責任感はある方だと思いますよ。」
「責任感ねぇ…」
「殿下、やはり何か私に隠していることがあるのでは?これでも付き合いは長いほうですし、はっきりとはわからないまでも殿下がホルニッセ様の話をする時何か違和感があることはわかります。」
「…なるほど、僕も昔と比べれば冷静になったとは思うがやはりお前には隠せないものの方が多いな。」
アマリアの中では僕たち兄弟の仲は王位によって引き裂かれたものとなっているのだろう。だが実際はそうではない。ある人物が介入しなければもしかしたら僕たちもアマリアたちのように仲が良く互いに信頼し合える兄弟になっていたかもしれないのだ。
「僕だって物事を客観的に見ることができるようになった。今なら話せるよ、お前の中で欠けているピースの正体と過去の目も当てられないみじめな僕についてを」
俺と共に旅をしたいと言ってきたコウだったが、とある物を準備するまでは待って欲しいと言い残ししばらくヴァッフェルの街で何かをしていたようだ。
「私の都合で振り回してしまってすまない。あなたも暇ではないだろうに…」
「いや、時間はたくさんあるからいいのだが…」
「なら良かった。そのついでにもう一度Mr.剣崎の家について来て貰えないだろうか。」
「剣崎の家に?この前読めなかった分の『世界論』を全部読む、とかじゃないだろうな?」
「いや、さすがにあれを一気には読み切れない。だからこれを用意したのだ。」
「これは…小型のタブレット端末か?いつの間にこんなものを…」
「膨大な量の『世界論』を持ち運ぶためにはこれが一番だと思ってな。この世界にもこういった電子機器があってよかった。」
「まあ理研特区との繋がりが強いヴァッフェルなら性能の良い機械は手に入るわな。だが、どうやって手に入れたんだ?」
「日雇いのアルバイトなどを探して必要な資金を稼いだんだ。ここでの勝手がわからず苦労したがなんとか稼ぐことができた。」
「適応力が高すぎる…」
「それにしてもこの世界の電子機器はすごいな!魔法のようなエネルギーを使っているのか、電池切れの概念がないらしい。私のいた表地球ではありえないことだ。」
「へぇ、以前理研特区に行った時はそんな感じじゃなかったし時代と共にテクノロジーも進化しているのか、それとも魔法と科学両方に強いヴァッフェルならではなのか…」
「魔法と科学の融合か…、この世界は常に私をわくわくさせるな。…とにかく『世界論』のポータブル化が実現できれば旅の最中空いた時間に読み進めることができて便利だろう?」
「ああ、それは良いアイデアだと思うぞ。剣崎もメモを持ち歩かずそういった端末で記録すれば便利だろうに。」
…と口では言うが俺も剣崎も古い時代の人間だし、そもそも俺たちの出身地の若市がテクノロジー後進国であったために未だにアナログ機器の方が落ち着く性分なのだ。『剣崎雄の世界論』の電子化はまだまだ先になることだろう。
「まあとにかくもう一度剣崎家に行くか。別に『世界論』の内容を勝手に持ち出しても怒られはしないだろ。むしろ読者が増えてあいつも喜ぶんじゃないかな。」
「私としたことがすっかり失念していた。そうか、知り合いのあなたがいれば剣崎邸に足を踏み入れること自体は問題がないだろうが、全く赤の他人である私が『世界論』の内容を許可なく撮影するのは著作権法に触れるのでは…」
「著作権法?…ああ、芸術分野での特許みたいなものか。」
自身が法外な存在であるし、旅ばかりでどこかに長期間留まることもないので正直法についてはそのへんの少年より疎いかもしれない。一応為政者のところにいたことがあるので断片的な知識はあるが、それも100年以上前の情報だし…。
「もしかしてこの世界には著作権に関する厳格な規定はないのか?」
「さあ?ヴァッフェルならまだしも剣崎家がある若市にはそんなものはないと思うが。あったとしてもそういうのって個人利用の範囲なら大丈夫なんじゃなかったっけか。」
「はあ、ここの法は随分と遅れているのだな。確かに表地球でも私が生まれる20年前、2020年くらいまではそうだったと聞くが2050年にはもう著作物の二次利用に関する規制はかなり厳しくなっていたぞ。」
「ん?2050年?」
「ああ。なんだ、その物言いたげな顔は。私がここに飛ばされたのは高校に入ってからだったと思うから今は2060年くらいだろう?」
「いや…今は2169年だが」
「え、今なんて…」
「だから、今は22世紀だぞ?」
「それなのに全て放り捨てて…両親だけでなく国民の期待まで裏切った最低野郎だよ、あれは。」
「私は深い事情を知りませんが、それでもホルニッセ様はそんな方だとは思えませんよ。何か事情があるのでは…」
「あれは外面だけはいいからね。アマリアは知らないだろうが、マルコはなかなかにあれの身勝手さに手を焼いていたようじゃないか。」
「確かにホルニッセ様はよく王宮を抜け出して街を散策してましたが…、そもそもそれがきっかけで私たち姉弟はここに仕えているわけですし…。でも責任感はある方だと思いますよ。」
「責任感ねぇ…」
「殿下、やはり何か私に隠していることがあるのでは?これでも付き合いは長いほうですし、はっきりとはわからないまでも殿下がホルニッセ様の話をする時何か違和感があることはわかります。」
「…なるほど、僕も昔と比べれば冷静になったとは思うがやはりお前には隠せないものの方が多いな。」
アマリアの中では僕たち兄弟の仲は王位によって引き裂かれたものとなっているのだろう。だが実際はそうではない。ある人物が介入しなければもしかしたら僕たちもアマリアたちのように仲が良く互いに信頼し合える兄弟になっていたかもしれないのだ。
「僕だって物事を客観的に見ることができるようになった。今なら話せるよ、お前の中で欠けているピースの正体と過去の目も当てられないみじめな僕についてを」
俺と共に旅をしたいと言ってきたコウだったが、とある物を準備するまでは待って欲しいと言い残ししばらくヴァッフェルの街で何かをしていたようだ。
「私の都合で振り回してしまってすまない。あなたも暇ではないだろうに…」
「いや、時間はたくさんあるからいいのだが…」
「なら良かった。そのついでにもう一度Mr.剣崎の家について来て貰えないだろうか。」
「剣崎の家に?この前読めなかった分の『世界論』を全部読む、とかじゃないだろうな?」
「いや、さすがにあれを一気には読み切れない。だからこれを用意したのだ。」
「これは…小型のタブレット端末か?いつの間にこんなものを…」
「膨大な量の『世界論』を持ち運ぶためにはこれが一番だと思ってな。この世界にもこういった電子機器があってよかった。」
「まあ理研特区との繋がりが強いヴァッフェルなら性能の良い機械は手に入るわな。だが、どうやって手に入れたんだ?」
「日雇いのアルバイトなどを探して必要な資金を稼いだんだ。ここでの勝手がわからず苦労したがなんとか稼ぐことができた。」
「適応力が高すぎる…」
「それにしてもこの世界の電子機器はすごいな!魔法のようなエネルギーを使っているのか、電池切れの概念がないらしい。私のいた表地球ではありえないことだ。」
「へぇ、以前理研特区に行った時はそんな感じじゃなかったし時代と共にテクノロジーも進化しているのか、それとも魔法と科学両方に強いヴァッフェルならではなのか…」
「魔法と科学の融合か…、この世界は常に私をわくわくさせるな。…とにかく『世界論』のポータブル化が実現できれば旅の最中空いた時間に読み進めることができて便利だろう?」
「ああ、それは良いアイデアだと思うぞ。剣崎もメモを持ち歩かずそういった端末で記録すれば便利だろうに。」
…と口では言うが俺も剣崎も古い時代の人間だし、そもそも俺たちの出身地の若市がテクノロジー後進国であったために未だにアナログ機器の方が落ち着く性分なのだ。『剣崎雄の世界論』の電子化はまだまだ先になることだろう。
「まあとにかくもう一度剣崎家に行くか。別に『世界論』の内容を勝手に持ち出しても怒られはしないだろ。むしろ読者が増えてあいつも喜ぶんじゃないかな。」
「私としたことがすっかり失念していた。そうか、知り合いのあなたがいれば剣崎邸に足を踏み入れること自体は問題がないだろうが、全く赤の他人である私が『世界論』の内容を許可なく撮影するのは著作権法に触れるのでは…」
「著作権法?…ああ、芸術分野での特許みたいなものか。」
自身が法外な存在であるし、旅ばかりでどこかに長期間留まることもないので正直法についてはそのへんの少年より疎いかもしれない。一応為政者のところにいたことがあるので断片的な知識はあるが、それも100年以上前の情報だし…。
「もしかしてこの世界には著作権に関する厳格な規定はないのか?」
「さあ?ヴァッフェルならまだしも剣崎家がある若市にはそんなものはないと思うが。あったとしてもそういうのって個人利用の範囲なら大丈夫なんじゃなかったっけか。」
「はあ、ここの法は随分と遅れているのだな。確かに表地球でも私が生まれる20年前、2020年くらいまではそうだったと聞くが2050年にはもう著作物の二次利用に関する規制はかなり厳しくなっていたぞ。」
「ん?2050年?」
「ああ。なんだ、その物言いたげな顔は。私がここに飛ばされたのは高校に入ってからだったと思うから今は2060年くらいだろう?」
「いや…今は2169年だが」
「え、今なんて…」
「だから、今は22世紀だぞ?」
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