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Noir
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「ねぇ、あの落ちこぼれはこのまま帰って来ないかな。」
「…まったく、いつになったら呼び方を改めてくれるのですか。ホルニッセ王子はあなたの兄君ですよ。」
「ふん、あんなものが僕の兄なんて納得できないね。父上だって大袈裟なんだよ、あれが失踪した程度で国全体の催しを禁止するなんて…」
「確かに経済へのダメージは大きいですが…。でもそれくらい国王はホルニッセ様のことが大事なのでは。」
「まああれは”蜂の名”を持つからね。死んだとは限らないのに既にお通夜ムードにもなるよ。」
”蜂の名”…王家の長男は代々Hornisseと名付けられ、王位が約束されるというしきたりだ。確か今の国王が5代目だから、仮に兄君様が即位されればHornisse=Zacharias6世になるのか。基本的に他の兄弟に王位継承権が移ることはなく、もし兄君様がこのまま帰らなければ前代未聞の出来事である。
「国王がホルニッセ様を大事にされているのはそれだけではないでしょう」
「他に何があるんだい。父上だってあんなルールが無ければ僕を国王にしたいだろうに。」
「いや、国王だってこれ以上…」
「これ以上、なんだ?」
「あ、いえ…」
しまった、アルフォンス様の前で亡き王妃の話は禁句だった。だが王もこれ以上家族を失いたくないという焦りからあそこまで大袈裟なことをしているに違いない。国民に負担をかけることで早くこの状況から解放されたいと思った彼らはホルニッセ様の捜索に協力的になるかもしれない。そうだ、きっと王はそれを考えて…!
「そういえばアマリア、お前の弟は確かあの出来損ないの近衛兵だったな。」
「…!」
そういえば最近マルコの姿を見かけていない。まさか…
「可哀想に、あいつの身勝手な行動ゆえの失踪の責任を負わされるんだよね。まあ居場所がなくなったら僕の護衛として拾ってあげるよ。お前の弟ならまあ使えるだろうし。」
「は、はあ…。それはありがとうございます。しかし、ホルニッセ様の身勝手な行動とは?」
「え、知らないの?あいつ見張りの目を盗んで一人で街をうろつく癖があるんだよ。ほら、お前ら姉弟を見つけてきたのもたぶんその時。」
確かに言われてみればなんとか色々なところで働いて食いつないでいた私たちを王子自らスカウトしたことだけでも奇跡のような出来事であったが、あの時王子は護衛も付けず1人だった。”うちで働かないか”とスカウトされ、たどり着いた職場が王宮だった時には腰を抜かしたものである。
「それは…随分と困った方ですね。」
「でしょ!そのことについては父上も手を焼いていてさ。王族なんだからもっと気を付けろってさ。だから今回のことを聞いてざまあみろって思ったよ。」
「こら、そんなこと言ってはいけませんよ。」
「だって自業自得じゃないか。あいつ魔法も使えないくせに変に鍛えちゃってさ、魔法が使えないなら自分がその分強くなればいいとか言ってるけどさ、そもそも僕たちは先頭に立って戦う必要ないの!なのにあの脳筋は…」
しかしそうは言いつつもアルフォンス王子は兄君様の話をしている時が一番生き生きとしているように見える。2人の間に何があったか詳しくはわからないがこの悪態も構って欲しさゆえのものだとしたら可愛らしいとは思う。
「そうだ、なんか最近あのポンコ…兄上の無事を祈る歌みたいなのが街で流行っているって聞いたんだけど。」
「ああ、確かPiece Noireの烏丸エリックがプロデュースしている獅子堂倫音のことですね。ライブ配信の形を取っていたので禁止されていたイベントには含まれないという…。全く、上手い抜け道を見つけたものですね。」
「Piece Noire?だったら別にそんな抜け道探さなくてもいくらでも父上とのコネを使えば良かったのに…。いや、さすがに今回ばかりは特例を許したら国のイメージが悪くなるか。」
やはりどこの国でも国の中枢との繋がりによって儲けを得る輩は絶えない。しかし烏丸は一体どうやって王家とのコネを得たのだろうか。裏金?でもPiece Noireは歴史の浅い、新興企業だという話だ。設立者の烏丸エリックはまだ23歳。元々資産家の生まれ?彼の才能?それとも他に…?
「…あ、姉さん。」
「マルコ!なんでここに…」
いや、元々私もマルコも他に行き場が無かったため王宮に住まうことを許可されている。別に彼がここにいることは何もおかしくはないが…
「しばらく街で会った旅人さんと色んな宿や空き家を点々としていたんだけど、ちょっと用があってさ。」
「ホルニッセ様のことがあってから1度も顔を見せなかったじゃない!…良かった、無事で…」
「大袈裟だなぁ。おれはあの時別件で護衛から外れてたんだけど、それでもここには戻りづらいから街中をうろつきながら情報を集めてたんだよ。」
「…そう。」
久々の家族との再会に声が震えそうになる。それにしてもあのマルコが随分と強くなったものだ。いや、それはお互い様か。
「そうだ、それでさ、姉さんに頼みたいことがあるんだった!」
「頼みたいこと?」
「うん。おれには難しいけど姉さんならもしかしてと思ってさ。今話題のアーティスト、ロンって知ってる?」
「うん、知ってるよ。それがどうしたの?」
「ロンをプロデュースしているPiece Noire、烏丸エリックが契約時のルールを破ってまで彼を売り出しているんだ。例えばプライバシー保護を約束しておきながら烏丸自身が情報を流したり、後はそもそも契約の条件だった彼の実家への金銭的支援の約束を反故にしたり…」
「マルコ…」
「ロンがおれの友達だってのもあるけど、そんな悪徳企業を放っておくなんて出来ないよ!お願い…」
「…ごめん、それは出来ない。」
「…そっか。確かに姉さんは王子の側近であって国王の側近ではないもんね…。」
「…そうだね、私の立場じゃ無理な問題かな。」
マルコは残念そうに笑いながら帰っていった。だが国王の側近だとしても、いや国王の側近ならば尚更一市民の生活ではなく、国に必要な力を取るだろう。それが例え悪だとしても。
「…まったく、いつになったら呼び方を改めてくれるのですか。ホルニッセ王子はあなたの兄君ですよ。」
「ふん、あんなものが僕の兄なんて納得できないね。父上だって大袈裟なんだよ、あれが失踪した程度で国全体の催しを禁止するなんて…」
「確かに経済へのダメージは大きいですが…。でもそれくらい国王はホルニッセ様のことが大事なのでは。」
「まああれは”蜂の名”を持つからね。死んだとは限らないのに既にお通夜ムードにもなるよ。」
”蜂の名”…王家の長男は代々Hornisseと名付けられ、王位が約束されるというしきたりだ。確か今の国王が5代目だから、仮に兄君様が即位されればHornisse=Zacharias6世になるのか。基本的に他の兄弟に王位継承権が移ることはなく、もし兄君様がこのまま帰らなければ前代未聞の出来事である。
「国王がホルニッセ様を大事にされているのはそれだけではないでしょう」
「他に何があるんだい。父上だってあんなルールが無ければ僕を国王にしたいだろうに。」
「いや、国王だってこれ以上…」
「これ以上、なんだ?」
「あ、いえ…」
しまった、アルフォンス様の前で亡き王妃の話は禁句だった。だが王もこれ以上家族を失いたくないという焦りからあそこまで大袈裟なことをしているに違いない。国民に負担をかけることで早くこの状況から解放されたいと思った彼らはホルニッセ様の捜索に協力的になるかもしれない。そうだ、きっと王はそれを考えて…!
「そういえばアマリア、お前の弟は確かあの出来損ないの近衛兵だったな。」
「…!」
そういえば最近マルコの姿を見かけていない。まさか…
「可哀想に、あいつの身勝手な行動ゆえの失踪の責任を負わされるんだよね。まあ居場所がなくなったら僕の護衛として拾ってあげるよ。お前の弟ならまあ使えるだろうし。」
「は、はあ…。それはありがとうございます。しかし、ホルニッセ様の身勝手な行動とは?」
「え、知らないの?あいつ見張りの目を盗んで一人で街をうろつく癖があるんだよ。ほら、お前ら姉弟を見つけてきたのもたぶんその時。」
確かに言われてみればなんとか色々なところで働いて食いつないでいた私たちを王子自らスカウトしたことだけでも奇跡のような出来事であったが、あの時王子は護衛も付けず1人だった。”うちで働かないか”とスカウトされ、たどり着いた職場が王宮だった時には腰を抜かしたものである。
「それは…随分と困った方ですね。」
「でしょ!そのことについては父上も手を焼いていてさ。王族なんだからもっと気を付けろってさ。だから今回のことを聞いてざまあみろって思ったよ。」
「こら、そんなこと言ってはいけませんよ。」
「だって自業自得じゃないか。あいつ魔法も使えないくせに変に鍛えちゃってさ、魔法が使えないなら自分がその分強くなればいいとか言ってるけどさ、そもそも僕たちは先頭に立って戦う必要ないの!なのにあの脳筋は…」
しかしそうは言いつつもアルフォンス王子は兄君様の話をしている時が一番生き生きとしているように見える。2人の間に何があったか詳しくはわからないがこの悪態も構って欲しさゆえのものだとしたら可愛らしいとは思う。
「そうだ、なんか最近あのポンコ…兄上の無事を祈る歌みたいなのが街で流行っているって聞いたんだけど。」
「ああ、確かPiece Noireの烏丸エリックがプロデュースしている獅子堂倫音のことですね。ライブ配信の形を取っていたので禁止されていたイベントには含まれないという…。全く、上手い抜け道を見つけたものですね。」
「Piece Noire?だったら別にそんな抜け道探さなくてもいくらでも父上とのコネを使えば良かったのに…。いや、さすがに今回ばかりは特例を許したら国のイメージが悪くなるか。」
やはりどこの国でも国の中枢との繋がりによって儲けを得る輩は絶えない。しかし烏丸は一体どうやって王家とのコネを得たのだろうか。裏金?でもPiece Noireは歴史の浅い、新興企業だという話だ。設立者の烏丸エリックはまだ23歳。元々資産家の生まれ?彼の才能?それとも他に…?
「…あ、姉さん。」
「マルコ!なんでここに…」
いや、元々私もマルコも他に行き場が無かったため王宮に住まうことを許可されている。別に彼がここにいることは何もおかしくはないが…
「しばらく街で会った旅人さんと色んな宿や空き家を点々としていたんだけど、ちょっと用があってさ。」
「ホルニッセ様のことがあってから1度も顔を見せなかったじゃない!…良かった、無事で…」
「大袈裟だなぁ。おれはあの時別件で護衛から外れてたんだけど、それでもここには戻りづらいから街中をうろつきながら情報を集めてたんだよ。」
「…そう。」
久々の家族との再会に声が震えそうになる。それにしてもあのマルコが随分と強くなったものだ。いや、それはお互い様か。
「そうだ、それでさ、姉さんに頼みたいことがあるんだった!」
「頼みたいこと?」
「うん。おれには難しいけど姉さんならもしかしてと思ってさ。今話題のアーティスト、ロンって知ってる?」
「うん、知ってるよ。それがどうしたの?」
「ロンをプロデュースしているPiece Noire、烏丸エリックが契約時のルールを破ってまで彼を売り出しているんだ。例えばプライバシー保護を約束しておきながら烏丸自身が情報を流したり、後はそもそも契約の条件だった彼の実家への金銭的支援の約束を反故にしたり…」
「マルコ…」
「ロンがおれの友達だってのもあるけど、そんな悪徳企業を放っておくなんて出来ないよ!お願い…」
「…ごめん、それは出来ない。」
「…そっか。確かに姉さんは王子の側近であって国王の側近ではないもんね…。」
「…そうだね、私の立場じゃ無理な問題かな。」
マルコは残念そうに笑いながら帰っていった。だが国王の側近だとしても、いや国王の側近ならば尚更一市民の生活ではなく、国に必要な力を取るだろう。それが例え悪だとしても。
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