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将来一国の主になることを約束されている身にとって最も大切で興味深いのは他国の歴史である。特に理研特区のようなうちとは全然違った文化を持つ地域の歴史は学ぶ価値がある。この地の歴史は300年程だが“ 現在の”理研特区はまだ100年も生きていないらしい。というのもかつて電子工学研究科と生態研究科の対立が政府を巻き込んだ戦争に発展し理研特区は崩壊しかけたからである。当時を知るものはもう生きてはいないだろうが今の発展した街を見れば恐るべき復興速度に驚くことだろう。ただこの地の歴史について少々気になることがある。教科書だけでなく書庫にある歴史書やインターネットでの情報、人から得られる情報、どれをあたっても所々に穴があるのだ。例えば最初は圧倒的優勢であった電子工学研究科の海軍がある日を境に壊滅の道を急進したこと、政府が生態研究科と手を組んだことなどの理由が不明である。外国人の俺には入手不可能な情報のようだが恐らくこの地の者もほとんどが知らないのであろう。ここには何か深い闇かある、そう感じた。
「歴史を勉強しに来た訳では無いのだが…どうにも気になる。」
とはいえ隠された情報をどこから手に入れればよいのだ。歴史…そうだ、ちょうどこの地に歴史の専門家がいる。ここは彼の故郷若市とさほど離れてはいない。もしかしたら当時のことを知っているかもしれない。やはり頼るべきは年の功だな。
「…それで俺を探し出したわけか。」
「この間聞けばよかったな。」
「そうだな。そうすれば無駄足にはならなかっただろうに。」
「無駄足?ということはやはりあなたも知らないのか。」
「仮にここに来たことがあったとして、俺はただの旅人だぞ?そんな裏事情なんて知るか。」
「それもそうか。…いや、すまない。俺はあなたが全知全能だと勘違いしていたようだ。」
「…なんかムカつく言い方だな。」
世間はちょっとした混乱状態にあるが、会社や学校、研究機関、公共交通機関など社会システムはいつも通り動いている。理研特区の人口と寄生された人の数を照らし合わせてみるとまだ全体の5%に満たないようだ。とはいえ全人口の5%も理性を失った人間がいれば大きな事件も起こりかねない。
「直也様、お探しのものでございます。」
「ああ、ありがとう。」
学校から帰宅すると頼んでいた歴史書が届いていた。…といっても恐らく今回も大したことは書かれていないのだろう。大抵の書籍や資料には電子工学研究科が規則違反を犯したとあるが、一体どの規則を破ったのかは明確にはされていないし、最初優勢だった電子工学研究科が壊滅した理由もさっぱりである。当時の生態研究科のトップはうちの先祖だったようだが、だとしたら電子工学研究科への制裁として始めたこの戦争に勝利した一文路一族はむしろ英雄になるのではないだろうか。
「重罪人の一族…か。」
あの日本部の研究室で俺に向けられた目を思い出す。きっと自分の無知を訴えても聞き入れてはもらえなかっただろう。それほどまでに“ 一文路”は恐ろしいことをしたのだろうか。
将来一国の主になることを約束されている身にとって最も大切で興味深いのは他国の歴史である。特に理研特区のようなうちとは全然違った文化を持つ地域の歴史は学ぶ価値がある。この地の歴史は300年程だが“ 現在の”理研特区はまだ100年も生きていないらしい。というのもかつて電子工学研究科と生態研究科の対立が政府を巻き込んだ戦争に発展し理研特区は崩壊しかけたからである。当時を知るものはもう生きてはいないだろうが今の発展した街を見れば恐るべき復興速度に驚くことだろう。ただこの地の歴史について少々気になることがある。教科書だけでなく書庫にある歴史書やインターネットでの情報、人から得られる情報、どれをあたっても所々に穴があるのだ。例えば最初は圧倒的優勢であった電子工学研究科の海軍がある日を境に壊滅の道を急進したこと、政府が生態研究科と手を組んだことなどの理由が不明である。外国人の俺には入手不可能な情報のようだが恐らくこの地の者もほとんどが知らないのであろう。ここには何か深い闇かある、そう感じた。
「歴史を勉強しに来た訳では無いのだが…どうにも気になる。」
とはいえ隠された情報をどこから手に入れればよいのだ。歴史…そうだ、ちょうどこの地に歴史の専門家がいる。ここは彼の故郷若市とさほど離れてはいない。もしかしたら当時のことを知っているかもしれない。やはり頼るべきは年の功だな。
「…それで俺を探し出したわけか。」
「この間聞けばよかったな。」
「そうだな。そうすれば無駄足にはならなかっただろうに。」
「無駄足?ということはやはりあなたも知らないのか。」
「仮にここに来たことがあったとして、俺はただの旅人だぞ?そんな裏事情なんて知るか。」
「それもそうか。…いや、すまない。俺はあなたが全知全能だと勘違いしていたようだ。」
「…なんかムカつく言い方だな。」
世間はちょっとした混乱状態にあるが、会社や学校、研究機関、公共交通機関など社会システムはいつも通り動いている。理研特区の人口と寄生された人の数を照らし合わせてみるとまだ全体の5%に満たないようだ。とはいえ全人口の5%も理性を失った人間がいれば大きな事件も起こりかねない。
「直也様、お探しのものでございます。」
「ああ、ありがとう。」
学校から帰宅すると頼んでいた歴史書が届いていた。…といっても恐らく今回も大したことは書かれていないのだろう。大抵の書籍や資料には電子工学研究科が規則違反を犯したとあるが、一体どの規則を破ったのかは明確にはされていないし、最初優勢だった電子工学研究科が壊滅した理由もさっぱりである。当時の生態研究科のトップはうちの先祖だったようだが、だとしたら電子工学研究科への制裁として始めたこの戦争に勝利した一文路一族はむしろ英雄になるのではないだろうか。
「重罪人の一族…か。」
あの日本部の研究室で俺に向けられた目を思い出す。きっと自分の無知を訴えても聞き入れてはもらえなかっただろう。それほどまでに“ 一文路”は恐ろしいことをしたのだろうか。
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