上 下
3 / 16

Lesson

しおりを挟む
Lesson
 将来一国の主になることを約束されている身にとって最も大切で興味深いのは他国の歴史である。特に理研特区のようなうちとは全然違った文化を持つ地域の歴史は学ぶ価値がある。この地の歴史は300年程だが“ 現在の”理研特区はまだ100年も生きていないらしい。というのもかつて電子工学研究科と生態研究科の対立が政府を巻き込んだ戦争に発展し理研特区は崩壊しかけたからである。当時を知るものはもう生きてはいないだろうが今の発展した街を見れば恐るべき復興速度に驚くことだろう。ただこの地の歴史について少々気になることがある。教科書だけでなく書庫にある歴史書やインターネットでの情報、人から得られる情報、どれをあたっても所々に穴があるのだ。例えば最初は圧倒的優勢であった電子工学研究科の海軍がある日を境に壊滅の道を急進したこと、政府が生態研究科と手を組んだことなどの理由が不明である。外国人の俺には入手不可能な情報のようだが恐らくこの地の者もほとんどが知らないのであろう。ここには何か深い闇かある、そう感じた。
「歴史を勉強しに来た訳では無いのだが…どうにも気になる。」
とはいえ隠された情報をどこから手に入れればよいのだ。歴史…そうだ、ちょうどこの地に歴史の専門家がいる。ここは彼の故郷若市とさほど離れてはいない。もしかしたら当時のことを知っているかもしれない。やはり頼るべきは年の功だな。
 「…それで俺を探し出したわけか。」
「この間聞けばよかったな。」
「そうだな。そうすれば無駄足にはならなかっただろうに。」
「無駄足?ということはやはりあなたも知らないのか。」
「仮にここに来たことがあったとして、俺はただの旅人だぞ?そんな裏事情なんて知るか。」
「それもそうか。…いや、すまない。俺はあなたが全知全能だと勘違いしていたようだ。」
「…なんかムカつく言い方だな。」

 世間はちょっとした混乱状態にあるが、会社や学校、研究機関、公共交通機関など社会システムはいつも通り動いている。理研特区の人口と寄生された人の数を照らし合わせてみるとまだ全体の5%に満たないようだ。とはいえ全人口の5%も理性を失った人間がいれば大きな事件も起こりかねない。
「直也様、お探しのものでございます。」
「ああ、ありがとう。」
学校から帰宅すると頼んでいた歴史書が届いていた。…といっても恐らく今回も大したことは書かれていないのだろう。大抵の書籍や資料には電子工学研究科が規則違反を犯したとあるが、一体どの規則を破ったのかは明確にはされていないし、最初優勢だった電子工学研究科が壊滅した理由もさっぱりである。当時の生態研究科のトップはうちの先祖だったようだが、だとしたら電子工学研究科への制裁として始めたこの戦争に勝利した一文路一族はむしろ英雄になるのではないだろうか。
「重罪人の一族…か。」
あの日本部の研究室で俺に向けられた目を思い出す。きっと自分の無知を訴えても聞き入れてはもらえなかっただろう。それほどまでに“ 一文路”は恐ろしいことをしたのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蝶、燃ゆ(千年放浪記-本編5下)

しらき
SF
千年放浪記シリーズ‐理研特区編(3)”背中を追う者たちの話” あの戦争から100年後、理研特区では人間に寄生し理性を奪う恐ろしい人工寄生虫が街をパニックに陥れていた!立ち向かうのは2人の少年・少女。しかし両者の思惑は全く異なるもので…

Prisoners(千年放浪記-本編4)

しらき
ファンタジー
千年放浪記シリーズ-ヴァッフェル編 “ 囚われた者たちの話” 素晴らしい食と芸術に支えられた観光地、ヴァッフェル王国は国の第一王子が何者かに誘拐されたことで大混乱。事件に関わるのは欲望の”囚人”たち。だがホルニッセ王子自身もまた、ある感情に執着する”囚人”なのであった…

蒼緋の焔~The Crisis Hijiri Railway(千年放浪記-本編1)

しらき
キャラ文芸
The Crisis of Hijiri Railway…”時間に殉じた者の話” 千年放浪記シリーズ蒼緋編序章。齢30で命を落とした聖電鉄の若き社長、三又聖は現世復帰のチャンスを得る。時間はたくさん与えられた、今度はもっと自由に暮らそう。もうあの頃のような生活はやめて… ※ジャンルやタグをより有効活用するために以前投稿していた蒼緋の焔総集編から序章のみ切り離しました。

炎の騎士伝

ラヴィ
ファンタジー
 今から十年前、幼いシラフはとある儀式の最中で火災に巻き込まれ、家族を失いながらも炎の力に選ばれた。  選ばれた炎の力は祖国の英雄が振るったとされる、世界の行方を左右する程の力を秘めた至宝の神器。  あまりに不相応な絶大な力に振り回される日々が長らく続いていたが、ようやく彼に大きな転機が訪れる。  近い内に世界一と謳われる学院国家ラークへの編入が決まっていたのだ。  故に現在の住まいであるラーニル家の家族と共に学院へと向かおうとすると、道中同じく向かう事になった謎の二人組ラウとシンに会遇する。  彼等との出会いを皮切りに学院に待ち受ける苦難の先でこの世界は大きく動こうとしていた。

転生したらチートスライムになりまして。~前世の前世も悲惨だった事を思い出したので三周目の人生はモンスター生活を満喫します~

As-me.com
ファンタジー
サレーナの人生はツラく悲惨なものだった。 自分を虐げる美しい姉と両親。さらにはそんな姉に罪を擦り付けられて家から追放されたサレーナだったが、森の奥でモンスターに食べられてしまい絶命してしまう。 ……ん?なんかおかしくない?どうなってるの、これーっ?! ※この作品は一部【本編・スピンオフ完結】婚約者を断捨離しよう!~バカな子ほど可愛いとは言いますけれど、我慢の限界です~の番外編とリンクしております。

RAMPAGE!!!

Wolf cap
SF
5年前、突如空に姿を表した 正体不明の飛行物体『ファング』 ファングは出現と同時に人類を攻撃、甚大な被害を与えた。 それに対し国連は臨時国際法、 《人類存続国際法》を制定した。 目的はファングの殲滅とそのための各国の技術提供、及び特別国連空軍(UNSA) の設立だ。 これにより人類とファングの戦争が始まった。 それから5年、戦争はまだ続いていた。 ファングと人類の戦力差はほとんどないため、戦況は変わっていなかった。 ※本作は今後作成予定の小説の練習を兼ねてます。

ヘルメン

赤崎火凛(吉田定理)
青春
親友・藤井が死んだ。 『ヘルメン』という謎の言葉を残して。 未発表の曲を残して。 冴えない大学生の男・西村は、友の才能と死に翻弄され、荒れた日々を過ごしていた。 選ぶのは、友情か裏切りか。 『ヘルメン』の本当の意味とは。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...