海の聲~WWX(千年放浪記-本編2)

しらき

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異変

綻び

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綻び

 「敵弾が甲板に着弾!被害は僅か!」
「そうか。怪我人は!?」
「甲板付近にいた斎藤、久保田、他4名が軽傷!任務に支障はありません。」
「そうか、報告どうも。」
今日の敵は少し手強い。3分前くらいに随伴駆逐艦が小破したとの報告があった。今までほぼ被害無くやっていけたのはうちと政府の技術差ではなく運が良かっただけだったのかもしれない。
「第2次爆撃命中!敵の被害は甚大!」
「そのまま攻撃を続けろ。いける、いけるぞ!」
手強いといえどもやはりこちらとの戦力差は明らかだ。勝利は勝手にこちらに飛び込んでくるのだ。
「須藤艦長、先行のボイル艦長から入電!レオナルド・ダ・ヴィンチ航空隊の隊員を海上で保護。辛うじて息はあるがかなりの重傷だそうです。」
「馬鹿なっ!今まで未帰還機など無かったはずなのに…!」
「相手に対空射撃をする余裕もなければ向こうの対空能力なんてたかが知れてるもの…。となれば不慮の事故ではないか?」
「事故…か。こちらの戦果は充分だ。帰投する!」
「「了解!」」


 幸いそのパイロット、平塚は助かった。俺は彼のいる病室に向かった。
「…須藤艦長、こんなところまで来て下さるなんて。」
「平塚、ここは陸地だ。その口調はやめてくれ。」
「すまない。だが俺はただのパイロット、お前は隊の司令塔ではないか。」
「そんなの肩書きだけだろ。そんなに俺を敬いたいなら高校の時俺が奢った分、3倍にして返せよ。」
「あれはもう時効だろ。」
「そんなことは無い。」
「ハハハッ、そんな昔のことばかり引っ張ってたらモテないぞ。」
「俺は無機物にしか興味無いからいいんだよ。」
「まだ言ってんのか、それ。」
「…。」
「ハハハハハハハッ!」
何が可笑しかったのかわからないがとにかく笑った。陸に足をつければ俺たちはただの20歳の大学生なのだ。だが非日常は俺たちにそんな当たり前のことも忘れさせていた。
 「で、結局あれは飛行機の不具合だったのか?」
「いや、うちの最新鋭戦闘機が故障などするはずないだろう。」
「いくら技術が進歩しても故障くらいはあるだろう。」
「信じてもらえるかはわからないが別の不具合だ。」
「別の?」
「そう、別のだ―」
平塚は普通の人からしたら気でも狂ったかと思われるような話をした。だが今の俺には彼の話を否定することは出来なかった。
「信じられないだろう。どうして俺だけって思ったよ。いきなり戦争に巻き込まれるし一体なんなんだよ…。」
「いや、信じるさ。」
「え、お前が?科学的根拠の無いものはバッサリなお前がか?」
「仕方ないだろう、それは俺の身にも起こっていることだからな。」


 「須藤、どうだったあいつは。」
「平塚か?元気だったよ。同じパイロットなんだしお前も様子を見に行けばいいのに。」
「…気が向いたらな。」
俺だって平塚のことは昔から知っている。だが今日はあいつだけとはいえ、これから先怪我人一人一人と面会していてはキリがない。どんなに敵が弱くたって俺たちは戦争をしているのだ。
「倉持さん、いつも以上にシワが多いよ?」
「なんだと?」
「次は自分だと思ってる?」
「おい、剣崎そんな縁起でもない事を言うな…」
「そんなことは無い。」
ハッキリとした口調で俺は答えた。機体のメンテナンスはいつも完璧だ。ならば俺は絶対に墜ちない。相手は俺を撃てるはずがないのだから。きっとこれは俺だけの特権。でなければ平塚の機体は墜落しなかっただろう。


 「松岡はこの事態、どう思う。」
「どうって…もうちょっと具体的に質問してくれよ。」
「今までほぼ被害なしで戦闘が終わったことがおかしいのか、今日被害が出たのがおかしいのか。」
「俺は今までがおかしかったと思う。」
「やはりか。一気にバランスが崩れたような感じがしたのだが思い違いだろうか。」
「それは年長者のカンってやつ?」
「いや、前例が無いからわからん。」
「そういえば昨日だかおかしな少年拾ったよな。」
「海中を漂っていたのに普通に健康だという。…もしかして彼に何かあると?」
「わからないが今日のがイレギュラーなのかバランスが崩れ始めたかは今後の被害次第だよな。…要観察だな。」
「松岡は冷静だな。普通の人間なら被害が出たと聞いて怯え始めるだろうに。」
「確かに何があっても死なないお前とは違う。だが俺は須藤の指示と理研特区の技術を信じているからな。」


 翌日。今日は出撃が無かったので本部と今後の話をした後俺は部屋でのんびりするつもりだった。
「あっ、須藤さん!戻ってくるの早くない!?まだ部屋に入っちゃ駄目なのに!」
うるさいガキに俺の計画は邪魔された。
「どけ、ここは俺の部屋だ。俺はこれから午後の時間をゆったりと過ごすのだ。」
「いや、どかないね!これは俺に課された任務だ!」
「任務だと…?誰の命令だ?」
「それは教えられない!」
「ほう?艦長である前にその部屋の主である俺に歯向かうとは。いい度胸じゃないか…。」
俺が拳で脅そうとしたその時、剣崎はそれをひらりとかわしドアを開けた。俺が勢いで部屋に入り込んだその時、破裂音が聞こえた。
「発火か!?爆発か!?回路は無事か―」
「騒ぐな、これはクラッカーの音だ。」
「倉持!何故俺の部屋にいる!?クラッカーの音だと!?だが火薬の匂いがしないぞ。」
「よく見てみ。」
「松岡までいる…。っ!これは!」
「倉持作、立体映像クラッカーだ。これなら部屋も汚れないし火薬の匂いも充満しない。次世代のパーティーグッズとして重宝するぜ。」
「ちなみに引っ張るヒモはそのまま再現。そして破裂した時に演出で無害無臭の煙が少し出る。」
「何故そんなこだわりを…。というかそもそも何故お前らがここにいる!そして何故クラッカーなんて鳴らしているのだ!」
「須藤、カレンダーを見ろ。」
「カレンダー?今日は2045年8月15日、金曜日だな。夕食はカレーだ。」
「今日の夕食なんてどうでもいいんだよ!」
「松岡、何を言っているんだ。ここのカレーは美味いじゃないか!」
「…松岡、諦めろ。」
「倉持…。ここまで用意したんだぞ、お前はそれでいいのか…!?」
「いいんだ…、俺はありえない何かに期待していただけなんだ…。須藤はこういうやつだってことは俺が1番知っている…!」
何故2人はこんなに盛り上がっているのだろうか。
 「どう?バースデーパーティーは盛り上がってますー?」
剣崎が入ってきた。バースデーパーティーだと?だから2人はクラッカーを鳴らしていたのか。
「バースデーパーティー?誰のだ?」
「お前―」
何かを叫びかけた松岡を倉持は止めた。
「こいつは興味のない事項は覚えない。そうだ須藤、お前の生徒証を見てみろ。」
「俺の生徒証?」
「そこに生年月日が書いてあるだろう。」
「そうだな。2024年8月15日って書いてある。」
「で、今日は何月何日だ?」
「今日は2045年8月15日だ。…あっ、今日もしかして俺の誕生日だったりする?」
「はあ…。」
「うわ、松岡さんデカいため息。」
「ようやく気付いたか。今日はお前の21歳の誕生日だぞ。戦続きでそんなことは忘れているかと思ったがこれだと戦が無くても覚えてなさそうだな。」
「ん?今日は8月ってことは…倉持、お前とっくに俺より年上になっていたのか!」
「2ヶ月じゃ大差ないだろう。というか俺の生年月日は把握しているのか、気持ち悪い。」
「で、俺の誕生日ってことは何か美味いものとかあったりする?」
「…デザートやるよ。」
「俺も。」
「特に用意して無いのかよ!」
 久々に盛大に騒いだ。普通の大学生はこんな感じなのだろうか。だが俺はふと恐ろしいことを思い出した。そう、あの“招隊状”を受け取ったのは昨年の今日だ。つまり俺たちが政府軍と戦い始めてからまる1年が経過したわけだ。だが今はそんなことは忘れて無我夢中に騒いだ俺たちはそのまま皆俺の部屋で力尽き眠った。
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