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月城の始まり

華の月城

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 剣崎…と呼ぶと支障があるので、勇と呼ぶべきだろうか、勇は自信満々に宣言した通り月城にたくさんの演奏家だけでなく客も集めてきた。それに伴い僕は住宅や店などに使う建物をいくつも造ることになりかなりのエネルギーを消耗したが、これはむしろ嬉しい悲鳴であった。
 「…志都、大丈夫か。」
「これでも人間の何倍も強いつもりなんだけどね…。それより若槻、君は確か首都の人間関係が嫌でこちらに来たのだろう、こんなにここが栄えたのは都合が悪いんじゃないかい。」
「…ここは自由な街だ。剣崎兄妹はそういう売り出し方をしていたはずだからな。」
「随分あの2人のことを信頼しているんだね。」
「ふん、腹の底が知れない勇の方はともかく、遥の方は真っ直ぐな女(ヒト)だからな…」
確かに剣崎勇の妹である剣崎遥は活発で言いたいことはハッキリと言うタイプの人間だ。初めて会った時も“ あなたが神様!?すごい!ねぇ、ねぇ、どんなことが出来るの?”などと興奮気味に話しかけてきたのだった。
「あっ!志都さんに、若槻さん!やっぱ2人って仲良いよね。なんの話してたの?」
「ああ、ちょうど君たち兄妹の話をしていてね。若槻が―」
「ちょっ、志都!それは言うな!」
「え、なんで?」
「…なんでも。」
「なーに?2人してあたしがやかましいとかそんな話をしてたわけ?」
「いや、別に若槻は否定的なことを言っていたわけではないんだ。何故言いたくないのか僕にもわからないくらい…」
「ふーん。そっか、ならいいか。そうだ、あたし若槻に用があったんだった!」
「俺に?」
「教えて欲しいパートがあるの!」
「そうは言っても貴女は打楽器の担当だろう。俺に教えられることなんて…」
「いいから、いいから!」

 「なんだかんだで若槻さんも満更でもなさそうですね。」
「…勇!いつからそこに?」
「面白そうだったから少し遠くで観察していたんです。身内のこととなるとちょっと変な感じはしますけど人の恋路は見ていて楽しいですねぇ。」
「恋?」
「えっ、まさか気付いてなかったのです?私が見る限りあの二人、なかなかいい感じだと思いますけど。」
全然気付かなかった。初めて会った時からそうだったが若槻は素直じゃない人間だから彼の言動から気持ちを察するのはなかなかに難しいのである。かたや遥も誰に対しても同様の態度を取るのでまさか若槻に特別な感情を抱いているとは思わなかった。もしかして若槻が僕の発言を止めたのはそれを遥に知られることが恥ずかしかったからなのだろうか。
「…僕は人間の関係性には疎いんだ。」
「貴方も全知全能とはいかないわけですね。…その方が親しみやすくて私は好きですよ。」
「ものを創造する以外何も出来ないさ。きっと君の方が生きるのは上手い。」
「またまた。生きるのが上手かったとしたらどうして私は若槻のように女性に恵まれないのでしょう。」
「いい相手はいないのかい?」
「残念なことに、誰も相手してくれないのですよ。」
「それを言うなら僕もさ。」
「貴方は人と恋する方が辛いのでは?」
「…それもそうだね。」
そんなことを言われたせいか、薄ら忘れようとしていたことを思い出してしまった。今こうして交流している彼らも遅くともあと半世紀ほどで二度と会えなくなってしまうのだ。
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