【完結】くつろぎ君はコーヒーがキライじゃない!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
6 / 56
4月:マスターの苦労

5

しおりを挟む

 良い子だと思っていた寛木君の正体は、とんでもないインテリチャラ男モンスターだった。

「ますたー、全然気づかなかったですねー」
「ミハルちゃんは、けっこーすぐ気付いてくれたのにねぇ」
「はい!ゆうが君は、おどろくほど演技がヘタでした」
「……ミハルちゃん、さーすがぁ」

「……」

 今日も今日とて、金平亭は忙しかった。というか、毎日忙しい。それなのに、五月の収支も安定して赤字。
 そんなワケで、六月もこの店は火の車の状態でクラウチングスタートを切った。

「はい、寛木君!」

 ドンと俺が乱暴に彼の前に差し出したのは、コーヒーではなく紅茶だった。しかもティーバッグのお徳用のヤツ。バカな俺は、寛木君の「マスターのコーヒーは最高です」という言葉にまんまと騙され、毎日毎日腕によりをかけてコーヒーを淹れていたのである。

 彼はコーヒーより紅茶が好きなのに!まったく、俺のコーヒーの方が絶対美味しいだろうが!
 ……いや、俺は一体何に腹を立てているんだ。

「ハーイ、マスター。やっすい紅茶をあんがとー」
「文句言うな。紅茶は専門外なんだよ」
「ダイジョーブ。大企業様の作った大量生産された商品は、再現性高くバカでもサルでもある一定のレベルで美味しく淹れられるようになってっから。……マスターみたいに〝唯一無二〟を目指して、拗らせてませんからね?」
「……くぅぅっ」

 コテリと小首を傾げながら、嫌味なくらい良い笑顔で言われた。最後だけ、〝良い子の寛木君〟になっているのがまた嫌味ったらしい。
 〝あの〟衝撃の本性を暴露されてから、寛木君は店が開いている時以外は、完全に本性を現すようになった。

 そう、この寛木君の目的は「俺の店が潰れるのを見届ける事」なのだ。
 いや、マジで最低なヤツだ。それを俺は、寛木君が俺の淹れるコーヒーどころか、俺自身を好きだなんて勘違いして。

「はぁっ」

 あの時の俺は完全に黒歴史だ。好かれていると勘違いして浮足立って、断り方をシミュレーションしたりなんかして。最早、恥ずかしいを通り越して悲しくなってくる。
 本当はこんな事を言ってくる子と仕事をするなんて……と思ったのが、如何せん彼は仕事の時は非常に真面目で……やっぱり良い子なのだ。

『マスター、少し休憩に入ったらぁ?この辺の片付け、全部俺がやっとくから』
『……ありがと』

 それに、必修単位を取り終えている彼は、田尻さんが学校で居ない平日の昼間もガッツリシフトに入ってくれる。正直、性格云々など言ってられない程、寛木君には助けられているのである。
 俺が残ったコーヒーをカップに注ぎながら溜息を吐いていると、カウンターに座る二人がとんでもない事を話し始めた。

「ねぇ、ミハルちゃん。もうこの店、今年の十二月までに潰れると思うんだけど次のバイト先を探さなくてダイジョーブ?」
「ひえっ、そうなんですか!?困ります困ります!私、来年の四月から東京のダンススクールに入るつもりでいるのに。せめて来年の三月まで頑張って欲しいです!そーゆう計算で貯金してるんですから!」
「だってぇ、マスター?」

 そう、紅茶のカップを片手にニヤリと嫌な笑みを浮かべてくる寛木君は、完全に身も心も優雅の極みだった。

「この店は……潰れないし!」

 大丈夫、そう。まだ大丈夫だ。
 赤字と言ってもお客さんは毎日沢山来てるのだ。どこかのタイミングで収支も必ず黒字になるだろう。店は、客さえ来てれば潰れたりしないんだから。

「はぁ、よかったー。ゆうが君、マスターがお店は大丈夫だって」
「ふーん?」
「それに、こんなにお客さんもいっぱいで人気のお店なんだから、絶対に潰れたりしませんよ!私のSNS広告のお陰です!」

 田尻さんが、俺と同じ意見でこちらに向かって真昼間みたいな明るい笑顔を向けてくる。

 あれ?何でだろう。田尻さんと全く同じ意見で「大丈夫」だと思っていると考えると、急に不安になってくる。
 まるで、高級なカニと、スーパーのカニカマを食べ比べて「コッチ!が高級カニ!」と思ったら田尻さんと同じ意見だった。そんな気分だ。

「ま、俺的にも就職するまでの暇つぶしはほしーから、三月まではもってくれると有難いかなー……ま、無理だろうけど」

 そう、最低な事を呟きながらお徳用の紅茶をカップですする彼は、悔しいけれど本当に優雅だった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園

蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。 王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。 ※今のところは主人公総受予定。

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※溺愛までが長いです。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...