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第2章
13:毒盛り野郎
しおりを挟むシルヴァノ・フランシス。
彼は、アルディの腹違いの弟だ。まぁ、弟と言っても腹違いゆえに同い年である。
「それで?お前はまた我が兄さまの毒殺を試みるつもりか?」
まったく、出会い頭に酷い言われようだ。
まだ成長途中のスルリとした細身の身体からは、どこか人を見下すような気品が漂う。
アルディの雪月風花な銀髪に対し、シルヴァノは豪華絢爛な金髪だ。
双方、髪の色はそれぞれの母親から受け継いでいる、という設定である。情緒のない事を言ってしまえば、単純に見目被りを防ぐ為の措置だろう。
ただ、その瞳の色はアルディと同様に燃えるような深紅。髪色とは異なり、その瞳は現国王である父親から受け継がれている。
「おい、何か言ったらどうだ」
「あ、いや……その。えっと」
何も答えない私に、シルヴァノは不機嫌そうに目を細めつつも口角は同じ角度を保ち続ける。
十三歳ながらに、ここまでシニカルな笑みが似合うキャラクターはこの世界ではこの子以外に居ないだろう。
もちろん、彼もまたこの世界では攻略対象者と呼ばれる人物だ。
「何だ、どうして俺と目を合わせようとしない?何かやましい事でも?」
やましいことでも――と、あまりにも真っすぐに図星を突かれ、心臓が跳ねるように鼓動を打った。
未成年にも関わらず酒の匂いにつられて食堂に入ろうとしてしまったからです、なんて馬鹿正直に言えるワケがない。
「あの、シルヴァノ様は……どうしてここに?」
「兄の命を狙う自作自演の人殺し野郎を見張るのは、弟として当然だと思うが」
シルヴァノはゆったり隣までやって来ると、その腕をスルリと私の肩に通した。
「なぁ、毒盛りマルセル?」
近い。あと、そのセンスの無い呼び方はやめてくれ。
耳元に声を吹きかけられた瞬間、ミントとムスクが混ざり合った涼やかで透明感のある香りが鼻孔を掠めた。
「知ってるんだぞ?お前が兄様の信頼を勝ち得る為に、わざと毒を盛り、その上で必死で助けるフリをしている事くらい」
「シルヴァノ様、だからそれは誤解で……」
「だが、残念だったな?兄さまはお前などに騙されるほど愚かではない。お前はあの無邪気な笑顔の仮面に騙されているんだよ」
まったく、この子ときたら。いつも他人の話など聞きやしない。
鼻先が触れ合うほど間近に迫る整った顔を前に、私はどう言ったモノかと答えに窮した。むやみに他人との距離感が近いところはアルディそっくりだ。
腹違いとは言え、さすがアルディの弟である。
「マルセル。本当は相手にされていないのに気付きもせず、必死に兄さまに付きまとって……挙句、アッサリと見捨てられて。哀れなヤツ」
しかし、この王族らしい高慢な態度と皮肉っぽい口調はアルディとは似ても似つかない。ビジュアルが似ている分、こういったセリフ回しで明確な性格の差異を表現するのはとてもよろしい。
「いいか?兄様がどれだけお前に心を開いているように見せたとしても、あれは演技だ。アイツは裏で、誰に対しても同じように接している。決してお前だけが〝特別〟なんかじゃない」
「っ!」
「だから、あまり調子に乗ると痛い目に……ん?」
ほら見ろ、やっぱり!やっぱり私のアルディの解釈は間違ってなかった!
疑いかけていたアルディの公式設定を裏付けるこの言葉に、私は思わず笑みを噛み殺し、小さく拳を握りしめた。
「……なにを嬉しそうな顔をしてるんだ。気持ち悪い」
「っあ、いや。凄く悲しいです!」
私の返答に、これまで微動だにしなかったシルヴァノの口角が、ここでようやく下がった。どうやら私は笑みを殺しきれていなかったらしい。
「おい、バカにしてるのか?」
「す、すみません」
いけないいけない。
思わず本音を隠そうと下手なセリフを口にしてしまうのが、私の大根役者たるゆえんだ。脚本家はキャラクターの思った事をそのまま口にさせるモノではない。
私は悲しい!私は嬉しい!私はとても怒っている!
日常生活の会話でそんな言葉が出てくるか?いいや、あり得ないね。
そんな、まるで情緒の無い掛け合いなど脚本家として到底許せるモノではない。
「……まったく。なんで、兄さまはこんなパッとしない毒盛り野郎を傍に置くのか。これも何かの策略の一環か?」
とうとう毒盛り野郎になってしまった。ただ、コッチの方が呼び方としてはマシだ。
シルヴァノはマルセルと違ってなかなか口が悪い……というか庶民染みている。
「アルディはただ王太子として周囲と馴染めていない俺を放っておけないだけですよ」
「っは、そんな事を本気で思っているんだとしたら、お前はとんだ愚か者だ。俺達王族が一体どんな教えを受けて育つのかまるで分かってない」
シルヴァノは眉間に皺を寄せると、私の返答など待つことなく言葉を続ける。
「なぁ、マルセル・ギネス。教えてくれよ。なんでお前はわざわざ危険な橋を渡ってまでアイツを殺そうとする?こんな事を続けても、アイツの懐には入れてもらえないぞ。むしろ、いつか捨て駒にされるかもな」
「だから、俺はアルディに毒なんて盛ってな……」
「黙れ。その言葉は聞き飽きた」
私の言葉を遮ってピシャリと吐き捨てるように口にされたセリフに、私が仕方なく口を噤んだ時だった。
「しかし、だ」
シルヴァノは下げた口角を再び所定の位置に戻すと、更にその薄紅色の唇を私の耳元に寄せた。
「お前、俺に付く気はないか?」
「え?」
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