上 下
24 / 73

24:[オタク 客 あたり?]【検索】

しおりを挟む

「なぁ。タローさん、今日もクリーム買って行った?」
「あぁ。毎回買っていくぞ、あの人。絶対家にまだ余ってると思うんだけどな」
「ふーん」

 やっぱりか。俺がお勧めしてから毎回買って帰って、本当に律義なモノである。まぁ、店の売り上げになるからいいけど。

「……バカか。でも、そんなにあっても意味ねぇだろ」

 そろそろ次回辺り買うのを止めさせた方が良いかもしれない。売上の為に客を潰すのは俺の性分に合わない。
 俺が店内に置いてある商品の在庫を確認していると、再びオーナーが俺に声をかけてきた。

「あぁ、あとさ。そのタローさんの予約の曜日変わったから」
「は?担当替え希望じゃねぇだろうな」

 その時の声が予想よりも遥かに低く、自分で自分に驚いてしまった。俺は一体何に機嫌を悪くなってんだ。

「いや、違ぇよ。担当はお前のまま。日曜の今の時間から、木曜の二時に変更だ」
「おい、それって……」

 オーナーの口にしてきた日時に、俺はハッとした。その時間帯は、一週間で一番客の少ない時間帯である。

「一番予約の少ない日を教えてくださいって言って変えていったよ」
「……そっか」
「今日、お前が忙しそうだったから、気ぃ遣ったんだろ」

 最近、店が認知されるようになってきて客が増えた。しかし、どうしたって土日に予約が集中してしまう。平日と休日で、客足がフラットになるなんて事は、まずあり得ない。対面型の業種には付き物の、頭の痛い問題だ。

「なーんか、タローさんって客っぽくないよな」

 ポツリと呟いたオーナーの言葉に、俺は保湿クリームの在庫を一つ、手に取った。やっぱり、次は買うのを止めさせよう。

「……うん」
「最初、全身ジャージで来た時はヤベェ奴が来たと思ったけど……アタリ客で助かったよ」
「……うん」
「それに、お前も珍しく気に入ってるみたいだし」
「あ゛?別に気に入ってねぇし」

 オーナーの面白がるような言葉に、俺は眉を顰めた。誰があんなオタク気に入るかよ。キモい事言ってんじゃねぇし。
しかし、そんな俺の思考を見透かすように、オーナーは再び笑った。

「なんだよ、わざわざ日焼け止めをロッカーから取って見せに来といて、よく言うぜ。施術時間を早く切り上げた分、もう少し話したかったんだろ?」
「っ!」

 そんなワケあるか!と言い返そうとして、止めた。ここで何を言い返しても、意味が無い。
 俺は客とは割り切った感情でしか付き合わないようにしている。踏み込み過ぎるとトラブルの元だ。施術には全力を尽くすが、それ以外はあくまで「施術スタッフ」と「客」に過ぎない。

「もう帰る」
「おう、お疲れ」

 俺はロッカールームに向かうと、ポケットからロッカーのカギを取り出した。すると、未だに鍵に引っ付いている「好きピ」のキーホルダーに目を細めた。最初はタローさんが来る時以外はずしていたコレも、今やつけっぱなしだ。もうアニメも終わってしまったのに。

「外すか」

 こんなの、ずっと付けていたら新しいスタッフにも、コレが俺の趣味だと思われかねない。しかし……。

「……でも、失くすと面倒だしな」

 結局俺は、キーホルダーを外さなかった。
 ずっと付けているせいで、髪の毛の部分に少し傷が入っている。しかし、その瞳は今日も変わらずキラキラと光り輝かせながら、俺の事を見ていた。この目は、夢中になれるモノがある人間の目だ。

------アオイさん!

 おかしい、なんだかこの好きピの葵がタローさんと被って見えて仕方がない。見た目は似ても似つかない三十半ばのオッサンの癖に。

「あー、キモ」

 俺は小さく呟くと、自分の中にある「客」の範囲について目を逸らした。


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...