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23:[オタク あふぇりえいと]【検索】
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そこから、タローさんは順調に脱毛の回数をこなしていった。
「アオイさん!」
「タローさん、こんにちは。最近暑いですねぇ」
「はい!」
脱毛三回目。俺は少し警戒していた。
営業活動の一環で、タローさんに対しては他の客よりは敢えてパーソナルスペースを狭くして接していたからだ。オタクはその辺の距離感を分からず、すぐ勘違いしてくる。客とあまりにも親密な関係になるのは、何に置いてもよろしくない。
------あ、あの。どうぞ!
それが相手からの一方的な感情ともなれば、尚更だ。オタクから友達面されても困る。店の外で見かけて話しかけられでもしたら、それこそ堪ったもんじゃない。
キーホルダーがそうだったように、下手にいらんプレゼントを寄越され続けたらどう対応するべきか。
そう、地味に悩んでいたのだが――。
それは杞憂だった。
「ありがとうございました」
「はい、次も頑張りましょうね。タローさん」
「はい!」
タローさんは、聞き分けも物分かりも最高に良かった。俺の言った事に楽しそうに頷いたり、相槌を打つのが主で、オタクの癖に一方的に喋り散らかして予約時間をオーバーする事もない。
もちろん、施術中も大人しく指示に従う。髭以外の脱毛にも入ったが、やはり痛みがあるのか目をギュッと瞑って体を硬直させる姿は、どこか笑えるモノがあった。
そんなある日の事だ。
「なぁ、おい。高梨。コレ見てみろよ。この書き込み」
「ん?」
オーナーが面白そうに俺を呼んだ。
どうした?とパソコンの画面を覗き込んで見れば、そこには、この店に対する初めてコメント付きの評価が掲載されていた。
-----------
Kotaroさん
雰囲気5/接客サービス5/技術・仕上がり5/メニュー料金5
お店のスタッフさんも凄く優しくて、最初は緊張して怖かったですが、すぐに慣れる事が出来ました!
此方の様子に凄く気を遣ってくれて、出来るだけ痛くないように、気がまぎれるように丁寧に施術をしてくださいます。いつも、「今日も一緒にがんばりましょうね」「次も頑張りましょうね」と声をかけてくれるのがとても嬉しいです^^
------------
「コレ、絶対お前のあの客『タローさん』だろ。HNコタローだし」
「……だねぇ」
この店の初めてのレビューは、あの、タローさんからの書き込みだった。
しかも、コタローって。HNも安直過ぎでウケた。
文章の雰囲気も、最後に付けられた「^^」の顔文字も、何からなにまでその文章にはタローさんが滲み出ている。しかし、決定的なのは最後の一文。
「保育園児じゃあるまいし。他の客に『今日も一緒に頑張りましょうね』なんて言わねぇわ」
「まぁ、そうだろうな」
此方を見て同じく苦笑を漏らすオーナーに、俺は今日一日、ずっと気になっていた事を聞いてみた。
「なぁ、ブログのあふぇりえいとりんくって何か分かる?」
--------アオイさんのブログとかでアフェリエイトリンクがあれば、そこから買います!
日焼け止めを勧めた時に、タローさんに言われた。
聞いた事はあるのだが、イマイチ分からない。何だろう、オタク用語だろうか。クソ、勉強不足だった。そんな俺に、オーナーは「あぁ」と納得したように、そのままパソコンの画面を指さした。
「ウチのサイトにも載せてる、ネット広告の事だよ。こうやって商品を紹介するブログを書いて、商品のリンクを張っとくとするじゃん」
「うん」
「そして、コレ見た誰かがこのリンクを経由して商品を買うと……」
--------そしたら紹介料を、
「ウチに紹介料が入るワケか」
「そういうコト」
何だ、アイツ。ちょっとお勧めの日焼け止めを教えてやっただけで、俺にマジで金を払おうとしたのかよ。オタク、意味わかんね。
そこから、タローさんは順調に脱毛の回数をこなしていった。
「アオイさん!」
「タローさん、こんにちは。最近暑いですねぇ」
「はい!」
脱毛三回目。俺は少し警戒していた。
営業活動の一環で、タローさんに対しては他の客よりは敢えてパーソナルスペースを狭くして接していたからだ。オタクはその辺の距離感を分からず、すぐ勘違いしてくる。客とあまりにも親密な関係になるのは、何に置いてもよろしくない。
------あ、あの。どうぞ!
それが相手からの一方的な感情ともなれば、尚更だ。オタクから友達面されても困る。店の外で見かけて話しかけられでもしたら、それこそ堪ったもんじゃない。
キーホルダーがそうだったように、下手にいらんプレゼントを寄越され続けたらどう対応するべきか。
そう、地味に悩んでいたのだが――。
それは杞憂だった。
「ありがとうございました」
「はい、次も頑張りましょうね。タローさん」
「はい!」
タローさんは、聞き分けも物分かりも最高に良かった。俺の言った事に楽しそうに頷いたり、相槌を打つのが主で、オタクの癖に一方的に喋り散らかして予約時間をオーバーする事もない。
もちろん、施術中も大人しく指示に従う。髭以外の脱毛にも入ったが、やはり痛みがあるのか目をギュッと瞑って体を硬直させる姿は、どこか笑えるモノがあった。
そんなある日の事だ。
「なぁ、おい。高梨。コレ見てみろよ。この書き込み」
「ん?」
オーナーが面白そうに俺を呼んだ。
どうした?とパソコンの画面を覗き込んで見れば、そこには、この店に対する初めてコメント付きの評価が掲載されていた。
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Kotaroさん
雰囲気5/接客サービス5/技術・仕上がり5/メニュー料金5
お店のスタッフさんも凄く優しくて、最初は緊張して怖かったですが、すぐに慣れる事が出来ました!
此方の様子に凄く気を遣ってくれて、出来るだけ痛くないように、気がまぎれるように丁寧に施術をしてくださいます。いつも、「今日も一緒にがんばりましょうね」「次も頑張りましょうね」と声をかけてくれるのがとても嬉しいです^^
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「コレ、絶対お前のあの客『タローさん』だろ。HNコタローだし」
「……だねぇ」
この店の初めてのレビューは、あの、タローさんからの書き込みだった。
しかも、コタローって。HNも安直過ぎでウケた。
文章の雰囲気も、最後に付けられた「^^」の顔文字も、何からなにまでその文章にはタローさんが滲み出ている。しかし、決定的なのは最後の一文。
「保育園児じゃあるまいし。他の客に『今日も一緒に頑張りましょうね』なんて言わねぇわ」
「まぁ、そうだろうな」
此方を見て同じく苦笑を漏らすオーナーに、俺は今日一日、ずっと気になっていた事を聞いてみた。
「なぁ、ブログのあふぇりえいとりんくって何か分かる?」
--------アオイさんのブログとかでアフェリエイトリンクがあれば、そこから買います!
日焼け止めを勧めた時に、タローさんに言われた。
聞いた事はあるのだが、イマイチ分からない。何だろう、オタク用語だろうか。クソ、勉強不足だった。そんな俺に、オーナーは「あぁ」と納得したように、そのままパソコンの画面を指さした。
「ウチのサイトにも載せてる、ネット広告の事だよ。こうやって商品を紹介するブログを書いて、商品のリンクを張っとくとするじゃん」
「うん」
「そして、コレ見た誰かがこのリンクを経由して商品を買うと……」
--------そしたら紹介料を、
「ウチに紹介料が入るワケか」
「そういうコト」
何だ、アイツ。ちょっとお勧めの日焼け止めを教えてやっただけで、俺にマジで金を払おうとしたのかよ。オタク、意味わかんね。
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