上 下
24 / 54

24:チームワークの要

しおりを挟む

◇◆◇

 あぁ、なんか疲れた。

「よし、今日はここで野宿するか!明日には聖王都に到着するぞー!」

 リチャードの明るい声が、俺の鼓膜を揺らす。
 リチャードはどうしてこうも元気なのだろう。いや、むしろ。どうして俺はこんなにも疲れてしまっているのだろうか。

「テル、大丈夫か?」
「……あ、うん。大丈夫」
「無理するな。眠いんだろ?少し休んでろ」
「……ごめん」
「いいって。同じ弓使いだ。気持ちはわかる」

 ニコリと笑って背中を叩いてくれるリチャードに、俺は申し訳ないやら、不甲斐ないやらで何も言う事が出来なかった。

「……はぁ」

 他の皆が食料や水、火の準備をしている中で、ドサリとその場に座り込んだ。

 頭がボーッとして、眠くて仕方がない。ただ、これまでの野営も、俺は見張りの順番を抜かしてもらっている。正直、居たたまれない。
 リチャードは「同じ弓使いだから気持ちが分かる」と言ってくれたが、正直、俺はその言葉を素直に受け取れずにいた。

「……なんで、あんなに普通に動けるんだよ」

 フィールド全体を見渡して注意を払っているのも、パーティの指揮を取っているのもリチャードだ。にも関わらず、リチャードは夜の見張りもこなすし、なんなら朝も早い。仲間達の話によると、いつも一番に目覚めてくるらしい。

「きっつ」

 俺なんて、未だに朝起きれないせいで、気付けばいつもセイフにおんぶされているというのに。

「俺の事、怒ってるんじゃないのかよ……」

 まぁ、俺を置いていくワケにも行かないし、体格的に背負えるの奴がセイフしか居ないから、と言われればそれまでの話だ。
 しかし、それでもあまり俺に振動がいかないようにゆっくりと優しく歩いてくれる、以前のままのセイフの歩調に、その時ばかりはホッとする。そのせいで、起きてもしばらくは寝たふりをする毎日だった。

「セイフ。最近、よく敵の攻撃を受けてるよな……怪我もしてる」

 でも、もちろんセイフは何も言わない。だから、ヒーラーも、誰も、セイフの怪我に気付かない。でも、今の俺がヒーラーに伝えても、きっとセイフは首を横に振るか、無視をしてくるだろう。というか、一度提案してみたが、見事に無視された。

「……仲間が多いと、戦士はその分、前に出されるからな」

 それに、戦士とは、そもそもそういう役割だ。だから、リチャードのセイフに対する指示も「前へ出ろ」というモノしかない。特に、剣の扱えないセイフは完全に囮役としてパーティ内で機能している。

 それぞれの各種の役割をきちんと把握し、戦闘において余計な私情を挟まない。リーダーとして、指揮役として、やっぱりリチャードは完璧だ。

「……囮役か」

 俺は強く襲ってくる眠気と、ずっと頭の中を占める戦闘でのセイフの動きに微かな吐き気を覚えた。
 あぁ、このままじゃダメだ。眠ろうにも眠れない。

「セイフに、声かけてみるか」

 無視されるのが怖くて、あまり言い出せなかったが、やっぱり回復してもらうように言った方がいいだろう。セイフは、自分で人に何かを頼むのが苦手だから。

「セイフどこ行ったんだろ。水汲み、かな」

 俺はフラつく頭を手で支えながら立ち上がると、そのままフラリと森の中へ入って行った。


◇◆◇


「セイフ。お前、あのテルってヤツの事、どこまで知ってる?」
「……」

「っ!」

 森の奥に入った瞬間、どこからともなく聞こえてきた声に俺は息を呑んだ。同時に、声のする方へと意識を集中する。少し距離があるせいで、ハッキリと姿が見えないが、その声から相手がリチャードだという事が分かる。ただ、いつもの明るい声とはワケが違う。

「どうせお前の事だ。相手の事なんて何も知らずに付いて回ってたんだろ」
「……」
「アイツは十中八九、勇者リチャードの仲間だった弓使いのテルだ。間違いない」

 突然、リチャードの口から出てきた、勇者パーティの名前に、俺は息が止まるかと思った。
 なんで、バレてるんだろう。俺は、コッチのリチャードに昔の事は何も話していないのに。それに、それはリチャードに限った話ではない。
 俺は、セイフにも過去の話はあまりしてこなかった。セイフは深く昔の事は聞いてこなかったし、それに何より。

「……嫌われてた頃の話なんてしたくねぇし」

 ボソリと思わず口を吐いて出た言葉と共に俯くと、そこには微かに震える自分の手が見えた。

「セイフ、お前。勇者パーティの話は聞いた事あるか?」

 リチャードの問いかけに、セイフは何も答えない。いつも通り、ただ静かに立っている。しかし、リチャードは気にした様子もなく話し続けていた。

「その中に〝テル〟って弓使いが居たらしい。でも、ソイツは弓の腕は確かだが、そりゃあもう相当な性悪だったそうだ。あまりにも自分勝手過ぎるんで、勇者パーティから追放されたそうだ」

 相当な性悪?なんだ、ソレ。
 しかし、その後リチャードからぽろぽろと零れ出た俺への評価に、俺はといえば心底納得してしまった。

 守銭奴で、討伐数を横取りする、自分の事しか考えていないズルいヤツ。
 それは全部、リチャードが俺に対して常々言っていた言葉だ。どうやら、俺はパーティを抜けた後も、ある事ない事好き勝手言われ続けていたらしい。

「リチャード。お前、マジで……そういうトコだぞ」

 パーティを抜けた相手の事を、噂になるほど悪く言うなんて。そんな事をしていたら、次、新しいメンバーを迎え入れた時に、将来的に自分もそう言われるんじゃないかと不安になるだろうが。

「ったく、いつまでガキでいるつもりだよ」

 俺は頭を抱えながら、久々に幼馴染であるリチャードの事を思い出していた。アイツは、本当に精神が幼かった。ただ、パーティをまとめるのに、自分の力量が足りない事を本能的に分かっているからだろう。

 アイツはメンバーをまとめ上げる為に、チーム内に〝敵〟を作った。

 それが、俺だ。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

処理中です...