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15:刈り取る者達
しおりを挟む「もしかして兄ちゃん達か!最近、ギルドで有名になってる戦士と弓使いの二人パーティってのは」
「え?」
「確かに、ギルドで言われてた通りの特徴だ。ドデカイ全身甲冑の戦士と、チビの弓使い。最初は仲間っぽくなかったから気付かなかったぜ」
なんだ、ソレ。いや、つーか俺はチビじゃねぇし。セイフの隣に立っているせいで〝相対的に〟小さく見えているだけで……って、え?ってか、ギルドで有名?
「なんの事?」
「なんの事って……お前らだろ?ここら辺のダンジョンのモンスターを狩りまくってるのは」
「あーー、まぁ」
それは、確かにそうだ。
最近、俺とセイフは金とアイテム収集の為、この辺のダンジョンを片っ端から攻略している最中だった。
「もしかして気付いてなかったのか?お前ら、ギルドじゃ〝刈り取る者達〟とか言われて有名になってるぞ」
「え、刈り取る者達?」
なんだ、その中二臭い二つ名は。ダサ過ぎだろ。
「えっと、何かの間違いじゃ……?」
うん、ソレは絶対に俺達じゃない!前世と合わせて四十路過ぎの俺が、そんな二つ名の付くようなイタい事をするワケがない。リチャードと違って俺は目立つのが好きなタイプじゃないし。どちらかと言えば潜んでいたいタイプだし!
「そうなのか?なんか、ソイツらの通った後は、死屍累々でやべぇ死体も転がってるとか色々スゲェ話が出回ってるが。お前らじゃないのか?」
「ぐふっ」
やべぇ死体。そこまで聞いて、俺は改めて確信した。
その中二臭い二つ名で呼ばれている二人パーティは……すみません!絶対に俺達でした!と。そして、そのヤベェ死体を積み上げているのは、他でもない。
「……ん?」
俺に向かって兜越しに首を傾げてくるセイフに、俺は頭を抱えたくなった。いや、実際に抱えた。
「刈り取る者達かぁ」
うん、まぁ確かにそうかもしれない。
セイフがトドメを刺した敵は、基本ぐちゃぐちゃのぺしゃんこになる。口で言う分には可愛いモンだが、正直、かなりグロい。確かに、あんな死体を生み出せるヤツは、そうそう居ないだろう。
「まぁ、俺からすりゃ、お前ら誰でも構いやしねぇけどな」
「ハハ。そっすね」
道具屋の親父は興味を失くしたように言うと、こちらに向かって矢の釣りを手渡してきた。
あぁ、今後は少しモンスターを狩る量を減らした方がいいかもしれない。でも、金は欲しい。出来れば、稼げるうちに稼いでおきたい。
俺が財布に金を仕舞いながら今後のダンジョン攻略について思考を巡らせていると、道具屋の親父が口元にニヤリと笑みを浮かべて話しかけてきた。
「ただ、弓使いにここまで言ってくれる仲間も珍しいからな。兄ちゃん、お言葉に甘えて何か買って貰ったらどうだ?」
「ったく、商売上手だな。親父」
「そりゃそうだ。弓使いは少ねぇからな。客は一人たりとも無駄にしねぇって決めてんのさ」
それは言えてる。まったく、商魂たくましい事で。
でも、それは出来ない。
「俺達、パーティじゃねぇから」
「は?」
「さ、行こうか。セイフ」
どこか呆けた声を上げる店主に、俺はアッサリと背を向けると、傍に立っていたセイフの肩を叩き、店を後にした。
そう、俺とセイフは、ギルド登録された正式なパーティではない。一緒に行動して、一緒にモンスターを倒すものの、今の俺達はあくまで〝ソロ〟と〝ソロ〟だ。
「テル」
「セイフ?どうした」
「……」
街道を歩きながらセイフが俺の名を呼ぶ。しかし、聞き返しても何も言ってこない。まぁ、セイフが何を言わんとせんかは分かっている。
「セイフ、聖王都までもう少しだ。頑張ろうな」
「……ん」
セイフは、俺とパーティが組みたいのだ。
それは、ずっと前から分かっている。でも、俺は敢えてその事に触れない。なにせ、弓使いである俺は〝ソロ向き〟なのだから。
「三度目の正直」という言葉が頭を過る度に、俺は自分に「二度ある事は三度ある」と言い聞かせる。同じ轍は、何度も踏みたくない。
「テル」
「んー?どうした」
再び、セイフから声がかかった。今回はちょっとしつこい。もしかしたら、パーティの事に触れられるかも。そう、俺が少し身構えた時だった。セイフから予想外の言葉が漏れた。
「テルの、欲しい、ものってなに?」
「え」
「さっき、店の人に、言ってた。欲しいの、あるって」
セイフに言われ、先ほどの道具屋での会話を思い出す。
--------へぇ、なんか欲しいモンでもあんのか。
--------まぁな。
「あぁ、さっきの」
「なにが、ほしいの?たかいの?」
セイフにしては、珍しくグイグイ聞いてくる。いや、むしろ物理的にもグイグイこられているせいで、俺はいつの間にか道の脇まで追いやられていた。
「テルの、欲しいもの、しりたい」
「っ!」
宝石のような金色の瞳が、きらりと光を帯びて俺を捕らえる。今や、俺の体は完全に路地裏の壁に押し付けられていた。セイフは大人しい癖に、かなり行動が一直線だ。あと、鎧を着ているせいか周囲からの視線に無頓着。
セイフの鎧が、俺の鼻先に触れる。
「セイフ、ちょっ!」
「テル、なにが、ほしい?なんのために、お金、ためてる?」
「っうぅ」
ヤバ、気を付けないと、また傭兵とか自警団を呼ばれるかも。それに、セイフがあまりにも熱の籠った目で見てくるもんだから、変にドキドキしてきた。
「あー、えっと。その、使い魔が欲しくて」
「使い、魔?」
「そ。主人に従属する動物の事だ」
「じゅう、ぞく」
俺はやんわりと、セイフの体を押すとその背中に手を回した。ひとまず、路地裏から出よう。
「弓使いはな、使い魔を連れてると凄く活動の幅が広がるんだよ」
「活動の、幅?」
「そう、多いのは鷹とか狼とか。チビっこい時から飼って、ちゃんと躾けて育てるんだ」
そう、俺がずっと昔から欲しかった、全弓使いの憧れの的。
それが〝使い魔〟だ!
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