【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
224 / 284
第4章:俺の声を聴け!

204:旧友との再会

しおりを挟む
---------
------
----


「では、これで一旦話し合いは終わりだ。各々解散してもらって構わない」

 カナニの声がクリプラント王宮の一室に響く。それと同時に、それまで話し合いの体を保っていた場の空気が一気に緩む。
 いや、あれを話し合いと言ってよいかは分からないが、思ったより楽しめた。そう、エイダがザワつき始めた周囲に目を向けた時だ。

「エイダ、リーガラントからの返答はいつ頃になりそうだ?」
「あ?」

 いつの間にか、すぐ隣から堅苦しい声が聞こえてきた。

「カナニ。本当にお前ときたら……」
「なんだ。何か文句でもあるのか?」
「いや」

 まったく、この男ときたら周囲がどうであれ、人前では緩むという事を知らないらしい。
 そうえいば昔からそうだった。そう、エイダは視線だけカナニへ向けながら肩をすくめてみせた。

「さぁてな。まぁ、今晩あたりジェロームから返事が来るんじゃないのか?アイツ真面目だし」
「そうか」

 エイダは伝書鳩を送った相手が、体を丸めてウンウンと悩む姿を想像し、思わず笑った。いやはや、あのジェロームという男。彼は、まだまだ年若い癖に、苦労と苦悩を塗り重ねたような老成した表情を浮かべるのがひたすら得意だ。

「エイダ。使者の件、頼むぞ」
「そんな信じてますみたいな顔して。カナニ、どうせお前の事だ。俺が裏切った後の別案もしっかり用意してあるんだろ?」

 お前は抜け目ないからな?とエイダがカナニに揶揄うように言ってやると、相手は表情一つ変えずに深く頷いた。

「当たり前だろう。俺はお前など一度も腹の底から信用した事などないのだからな」
「いいねぇ。お前のそういうトコ、俺は嫌いじゃないぜ」

 エイダは舞い込んできた旧友との会話に興じながら、ふと、腹の底に湧き上がってきた感情に蓋をした。
 するとそれと同時に、部屋の一角からそりゃあもう騒がしい声が響き渡ってきた。

「サートシ!なんでそんなに怒るんだ!イーサに分かるように説明しろ!」
「……ふん」

 その、どこか甘えを帯びた子供のような声に、エイダはヒクとその尖った耳を震わせた。その声は、何故だか酷く懐かしい気がする。

「サトシ!なんでだ?どうして怒る?ちゃんと味もしないようにマナだけ生成してやってたのに!なぁ、味はしなかっただろう?触感は……残っていたかもしれないが。しかし、それは仕方のない事で……」
「あーーー!うるせぇっ!もう、何も言うな!もうお前とは口利かない!」
「っな!でも、アレを飲まないとサトシは喋れないぞ!アレを飲むか、イーサと口付けをするか!サトシには、どちらかしかないんだ!」
「ぐっ」
「イーサは別にどっちでもいいんだぞ。どっちでも!」
「くぅぅぅっ!」

 そこには見た目の一切異なる二人の男が、向かい合って大声を上げている。口論というには幼く、喧嘩と言うには余りにも放たれる言葉に攻撃性はない。つまり、あれは子供のじゃれ合いのようなモノだ。

 その光景に、エイダは思わず懐かしさと共に湧き上がる笑いを堪え切れなかった。

「ははっ、アイツら本当に面白ぇな。なぁ、カナニ。今世の王は、あのネックレスを人間なんかに渡してるぞ?いいのか?止めなくて」
「……アレに関しては、誰も口を挟む権限を持っていない。なにせ、王の意思だからな」
「そうだよなぁ?ヴィタリックがお前にソレを渡した時もそうだった」

 カナニは、面白そうにペラペラと口を動かすエイダに肩をすくめた。次に何を言われるのか、あらかた想像がついたからだ。

「『元奴隷なんかに!』って、あの時の反対は、そりゃあもう凄まじかった」
「そうだな」

 元奴隷。そう、カナニは元々王宮に仕える高貴な身の上ではなかった。

「懐かしいな」

 カナニは奴隷出身の孤児だった。
 別に隠しているワケではない。ただ、その事実は長い時と、カナニ自身の多大なる功績もあって今や殆ど周囲には知られていない事実でもあった。


--------カナニ、コレをお前にやる!
--------これは?
--------これは“証”だ!
--------何の?


 少年だったヴィタリックに何かも分からぬまま手渡されたシンプルな国章のネックレスに、まさかこんな深い意味があるとは、当時のカナニは知りもしなかった。

--------カナニ、俺がお前のモノだという証だ!


「まったく、大変なモノを貰ってしまった」

 まさか、そんな事を言う王子がこの世のどこに居ると思う?王子である自分の身を、奴隷であったカナニのモノだと言いながら渡してくるなんて。まったく、普通は逆だろうに。

「何を言っても、他人の言う事など聞きはしないさ。なにせ、彼らはヴィタリックの子なのだから」

 そう言ってカナニの見つめる先に居るのは、子供のように喧嘩をするサトシとイーサ。そして、自分と同じく奴隷の身でありながらソラナよりネックレスを渡されたメイドのポルカが居た。

「それに、どんなに反対されたとしても時は全てを解決してくれる。あの時、俺の事をゴミのように扱っていた者達は、今やこの世に一人だって居やしないからな」
「っはは。その通りだな。慣例や常識っつーのは、時間によって驚くほどひっくり返るモンだ。考えるだけ無駄ってヤツか」

 そう、当時はあんなにも周囲から反対されたというのに。今や、カナニの息子であるマティックですら、当たり前のような顔で宰相職に就いている。まるで、それがカナニの血脈による世襲制であるかのように。所詮、肩書などそんなモノだ。

 そう、“宰相”も“奴隷”も同じ一人のエルフに他者が付けた、勝手な称号に過ぎない。

--------カナニ。これからお前に色々と言うヤツが居るだろうが。そんな事は大した問題ではないからな!気にするな!
--------気にするなと言われてもな。
--------いい!気にするな!お前にとって大切なのは、ヴィタリックがカナニのモノであるという事だけだ!いいな?それ以外は何の問題でもない!

「あぁ、確かにそうだったよ。ヴィタリック」

 今ある“当たり前”が、未来も同じように“当たり前”であるワケではない。カナニにとって変わらないモノ。それは腹の底にある、ソレだけだった。

「……お前はずっと俺のモノだ」

 このネックレスがある限り、ヴィタリックは自分のモノだ。この世からいなくなっても、それだけは変わらない。

「なぁ、エイダ」
「なんだよ」

 カナニは自身の胸にあるネックレスにソッと触れながら、懐かしくも愛おしい相手を思い出しながら旧友の名を呼んだ。

「今晩、少し話さないか?」
「……どうすっかなぁ」
「頼む。共にヴィタリックに会いに行こう。こうして過去を語れる相手は、もうそう多くはない」

 カナニの寂し気な横顔に、エイダは「仕方ねぇな」と軽く息を吐いた。この、常にポーカーフェイスを貫いてきた男が寂し気な表情を隠そうともしない。その事実が、やっとエイダに旧友ヴィタリックの死を、現実のモノとした。

「あーあ。お前と二人なんてつまんねぇなぁ」
「そう言うな。私だってお前と二人など本意ではない」
「……ヴィタリックも一緒だったら楽しかっただろうにさ」
「……ああ」

 カナニは隣で飄々としながらも同じ“寂しさ”に身を焦がす、やっかいで信用できない悪友の横顔を眺めながら、再びネックレスに触れた。

「あぁ、ヴィタリック」

--------カナニ!カナニ!早く来てくれ!仕事?何を言ってるんだ!お前の仕事は俺を抱き締める事だろう!

 もう、思い出の中でしか会えない。

「サートシ!今から部屋であもを喋らせろ!“イーサ”はサトシのなんだから大事にしろ!ぜーんぶしろ!」


「はは。まったく」
「ったく、よく似てるぜ」

 二人の男は、旧友の息子の声にハッキリと血脈を感じた。
 血は水よりも濃い。男の遺したモノは確かにこれからも続いていく。未来に向けて。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

関係転換学各論A

はいじ@書籍発売中
BL
スゲェイケメンが来てから、それまで学校1のイケメンポジションに居た普通のイケメンは女子から睨まれ、男子から憐れまれる。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...