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第3章:俺の声はどうだ!
158:嘘の昔話
しおりを挟む-------お前良い声をしているな。ちょっと俺に付いて来い。お前にピッタリの役をくれてやる。
そう、出会いなんて、いつも突然だ。飯塚さんと、中里さんがそうであったように。そして、
--------ねぇ、なまえ。なんていうの?
俺と金弥が、そうであったように。“始まり”には、大した意味なんてないのだ。
「『良い声をしてるな。お前、名前は何というんだ。ちょっとコッチに来て話さないか?』って。そう、中庭の椅子に腰かけていたエルフに言われたんです」
「……中庭?」
カナニがヒクリと眉を寄せて此方を見た。未だにその目に色濃くあるのは、揺るぎようのない不信感だ。
「そう、中庭のベンチに、そのエルフは一人で腰かけてました」
「……そう、か」
ただ、状況に不自然さは無い筈だ。なにせ、ヴィタリックはゲーム中でも、よく公務を抜け出して城下に下りるような……やんちゃな王だったのだから。
それがきっかけで、三作目の主人公とも出会っている。
病床に伏していても、きっと部屋を抜け出すくらいの事はやってのけていた筈だ。
「最初、俺はそのエルフがヴィタリック王だって分からなくて……でも、声が良いって言われたのが嬉しくて、頷いたんです。そしたら、『今日は気分が良いから、誰かと話したいんだ』って。そう言ってました」
少しだけ、カナニの表情が曇った。
ヴィタリック王が長年病に伏していた事は、イーサ役のオーディションの為に配られた資料に書いてあった。そして、本編開始直前に、亡くなってしまっている事も。
「俺、人の声を真似するのが得意なんです。だから、色々な人の声でヴィタリック王と話しました。そしたら、物凄く喜んでくれて」
俺はヴィタリック王と会話した事なんて、もちろん一度もない。だから、これは全部真っ赤な嘘だ。だけど、こんなにスラスラと言葉が出てくるのは、やっぱり一人の人を思い浮かべながら喋っているせいだろう。
飯塚邦弘。
俺は、あの人と話した“あの日”の思い出を、今、こうしてカナニ様に語っている。中里さんに飯塚さんとの思い出話を語るように。
「で。その中で、一番気に入ってくれたのが……この声です」
--------ヴィタリック!またお前勝手に城を抜け出していたのか!いい加減にしないか!
「っ!」
これは、ゲーム中にカナニがヴィタリックに言っていたセリフだ。
最早、口癖と言っていいほど、若い頃の彼はヴィタリックに対してこの台詞を口にしていた。
「大切な人の声に似てるらしくて。俺、後半はずっとこの声で喋ってました。だって子供みたいに凄く喜んでくれるから、俺も嬉しくなっちゃって」
「……ヴィタリック」
そうだ。中里さんの弔辞にも書いてあった。
飯塚さんはずっと病気で、本当は会いに行こうと思っていたのに、なかなか会いにいけなかった、と。
きっと、それはカナニ様も同じだ。
ヴィタリック王が病気になって、きっと一番忙しくなったのは……宰相のカナニ様だろう。だとしたら、以前のようにヴィタリックとゆっくり話す時間なんてなかったんじゃないだろうか。
「色々な話を聞いていくうちに、この人は王様なんじゃないかなって思ったりもしたんです。でも、なんとなく、それは口にしない方が良い気がして。だから、俺。普通にいっぱい話しました。別れ際には友達みたいに接して貰えて、嬉しかったなぁ」
--------久々に友と話せたようで楽しかった。ありがとう、サトシ。
「……」
やはり、俺がどんなに頑張っても飯塚さんの声真似は、イーサには遠く及ばない。でも、今はそれでいい。
カナニ様は、ただ黙って俯いている。何をどう思い出しているのか。
彼が、友との最期の時を一体どのように過ごしたのかは分からない。ただ、きっとどんなに満足のいく時間を過ごしたとしても、「もっと一緒に居たかった」という気持ちが消える事はないのだろう。
「別れ際に、俺からお願いして『頑張れ』って言ってもらったんです。さっき、カナニ様にお願いしたみたいに。優しかったです。それに物凄く格好良かった」
「何故、君はそんな事をアイツに頼んだんだ?」
「ずっと頑張ってきた人の言葉で『頑張れ』って言われたら、俺も、これから先も、頑張り続けられると思って」
「……君は、何かを頑張りたいのか?」
カナニ様がふと、俯いていた顔を上げて尋ねてくる。その問いに、俺は一瞬ハッとした。
「えっと」
なぜだろう。
俺、飯塚さんに「頑張れ」って言ってもらったのに、一度頑張るのを止めようとした。
いや、実際に止めたんだ。それなのに、俺はまたここでカナニ様に「頑張れ、サトシ君」なんて言ってもらおうとしている。
金弥に先を越された俺は、もう夢を諦めたんじゃなかったのか。それなのに、どうして俺はまたこんな事をしている?
「サトシ」
「どうした、キ……イーサ」
丁度良いタイミングでイーサが話しかけてくる。そのせいで、思わず「キン」と言いそうになるのを、寸での所で堪えた。そんな俺に、イーサはと言えば、不満気に口を尖らせながら言った。
「サトシがアイツやカナニに“頑張れ”と言って貰いたいのは、この二人がシワシワだからではなく、」
まだ、シワシワなんて言ってやがる。よく本人を前にして、そんな事が言えたモンだ。そう、俺がイーサを諫めようとした時だ。俺の腕を掴んでいたイーサの手に、力が加わった。
「あの二人が、頑張ってきたヤツらだからか?」
「……っ」
そんなイーサからの問いに、俺は少しだけ考えた。
そうだ、その通りだ。自分より、うんと長い間頑張り続けた人達だからこそ、尊敬もするし、その言葉に力を貰える。だから、俺は彼らに「頑張れ」って言ってもらいたかったのだ。
「うん、たぶん……」
あれ。だとすると。もしかして、アレか。
もしかして俺って、また頑張ろうとしているのか。
「そうだな」
そうだな。と漏れた自分の声が、イーサの質問に対する答えなのか、それとも自問に対する答えなのか。ハッキリとは分からない。
ただ、ハッキリと分かるのは。今の俺は、
まだ夢を諦めきれていないと言う事だ。
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