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第3章:俺の声はどうだ!
156:ちょっとマニアックなお願い
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『飯塚さんの時も思ったけどさぁ。結構マニアックなこと聞くよな。サトシって』
中里さんが講師としてやって来た“あの日”の事だ。
金弥は、俺の質問ノートを上から下まで眺め、呆れたような声を上げた。
『そうか?』
『そうだよ。なにこの「目が覚めて一番最初にやる事はなんですか?」って』
『え?気になるじゃん。何してんのかなって。モーニングルーティンとかってヤツ?』
『モーニングルーティンねぇ』
どこか下らないとでも言いたげな口調で復唱してくる金弥に、俺は少しばかりムッとしてしまった。
『いいだろ!俺は気になるんだ!』
『はいはい』
そう、俺は何でも形から入るタイプだ。
だから、憧れの人のモーニングルーティンがあれば真似してみたいし、その人特有の何かがあれば、生活に取り入れてみたい。
でも、これはどちらかと言えば“声優”という職業に関する質問というより、ファンとして好きな人の事を知りたいって感じの質問だ。だから、
『ソレは別に後回しでいいからな?聞けたらでいいから』
『まぁ、当たり前だよね。俺は聞かないから』
『だから、優先順位としては、最初がコッチで』
『ん?……ちょっと待って!この一番下のヤツ……まさか、サトシ。中里さんにもコレ言うつもりかよ!?』
『ん?んーー……言えたら?』
金弥からの呆れ気味だった視線に、少しの不機嫌さが混じり始めた。いや!ふざけてるワケではないのだ!俺も真剣なんだ!
『これ、飯塚さんにも言ってたよね!あれ、言って貰えたのってたまたまだからな!?』
『でも、言うだけタダだし』
『……』
ジトっとした金弥の目が、容赦なく俺を見つめてくる。そんな風に言われると、何だか恥ずかしくなってきた。顔が熱い。
『さとしぃ、その顔。外ですんの……ヤめて』
『……悪かったな。キモくて』
『キモくない。でも、ヤめて』
金弥から珍しく、俺を否定する言葉が漏れた。こんな事、顔の良い金弥に言われてしまえば「ハイソウデスカ」と頷かざるを得ない。
畜生。俺だって格好良くなりたいわい。今や声優も、顔出しが当たり前の世界なのだ。ビジュアルも良いに越した事はない。
でも、今更それを言った所でどうしようもない。
『話戻すけどさ……ねぇ、これ何?正直、大量に質問するより、ソレ一つ質問する方が大分恥ずかしいと思うけど』
『……元気なくなった時に、頭の中で再生してモチベーション上げたいから』
『頭の中で再生って……!そういうトコがマニアックなんだよ。まぁ、録音するとか言い出さないだけマシか』
『ホントは録音したいけど、許可もなくそんな事したら、相手に失礼だし』
『いや、失礼っていうかさぁ。なぁ、サトシ。こんなの、俺がいくらでも言ってやるよ』
『は?金弥から言われたって意味ないし』
『……俺じゃ不満なのかよ』
『不満って言うか……お前だって、俺にコレ言われたからってモチベーションは上がんねぇだろ?』
『上がるけど!凄く上がるけど!?』
『ちょっ!顔!ちけぇから!』
鼻先がこすれる程に近寄ってきた金弥に、俺は思わず後ろに数歩後ずさった。
やめろ!他の女の子達も見てるだろうが!漏れなく『ひゃあっ!』って声まで漏れてきたぞ!
『別に!講義の最中にソレを言おうなんて思ってねーよ!中里さんの……帰り際とか。こないだの飯塚さんみたいに、慣れてきたトコで……言えたらなって』
『……だから、その顔止めろって』
『だから悪かったな!?キモイ顔で!』
『ちがうっ!だから、別にそんな事言ってないだろ!』
と、そんな俺と金弥の言い争いは、中里さんの講義が始まるまで続いた。
講義中、ちゃんと質疑応答の時間もあり、聞きたい事はあらかた聞けたと思う。というか、俺と金弥以外、誰も手を挙げなかったせいで聞き放題だったのだ。ラッキー過ぎる。
まぁ、モーニングルーティンを聞こうとした時は、金弥に口を塞がれて止められて聴けなかったけど。
『ふう……殆ど聞けた!ありがとな!金弥!』
『ん。どういたしまして』
講義も終わった。あとは、帰り際に中里さんに声をかけて、“アレ”をお願いできたら。今日の俺の望みは全て叶う!
俺は中里さんが講師室から出てくるのを、今か今かと待ち構えた。そんな俺の隣では金弥が黙って俺を見ている。
『鍵、渡しとくから。先にうちに帰ってていいぞ?』
『いや、俺もサトシと一緒に中里さんを待つ。俺も言いたい事あるし』
『なんだよ、キン。お前何か企んでないか?中里さんに失礼な事言うなよ?』
『それ、サトシにだけは言われたくないんだけど』
『俺?俺はお前と違って常識あるから、変な事は言わないし』
『……はぁ、サトシのそういう天然なトコ、嫌いじゃないけどね』
イケメンが涼し気な顔で『嫌いじゃない』なんて言えば、それはまるで恋愛ドラマのワンシーンのようだ。問題があるとすれば、台詞の相手が俺という事くらいだろう。クソ、なんか腹が立ってきた。
そんな事を思っていると、それまで静かだった廊下が騒がしくなった。金弥の体ごしに声のする方を見ていると、そこには待ちに待った人物が見えた。
中里さんだ!
『では今日はありがとうございました。時間は大丈夫ですか?』
『ちょっとギリギリだなぁ』
『タクシー、もう前まで来て貰ってるので!』
『ありがとう』
何やら急いでいるようだ。
これじゃ、さすがに“あんな事”言っている余裕はないかもしれない。そうこうしているうちにバタバタとした様子で、中里さんが講師室から出て来た。そして、そのままの勢いで俺達の前を駆け抜けて行く。
「お」
ただ、通り過ぎる瞬間。中里さんが、チラと此方を見て小さく微笑んでくれた。きっと、俺達があまりにも沢山質問をしたから、覚えていてくれたのだろう。
『かっこいいなぁ』
『……』
本当に、年齢の割に凄く若く見える人だ。話しかけられなかったけど、待ってて良かった。そう、俺が感激しまくっている時だ。それまで隣で静かに腕を組んでいた金弥が、廊下の真ん中まで歩いて行った。
そして次の瞬間、金弥の真っ直ぐと通る声が建物中に響き渡った。
『中里さーーーん!』
『は!?おいっ!金弥!何してんだ!』
俺は何事かと、思わず金弥の肩を掴んだ。しかし、金弥は俺の方など見ようともしない。
--------俺も言いたい事あるし。
おい、金弥。お前は一体何を言おうとしてるんだ?
そう、俺が金弥の行動に息を呑んで、玄関の方を見て見れば、そこにはタクシーに乗り込もうとした体制で固まる中里さんの姿があった。
『大丈夫。サトシには、俺が言ってあげるから』
『え?』
そう、金弥の口から漏れたワケの分からない言葉と共に、その顔には、どこか勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
え、え、え?まさか。
『“頑張れ!金弥!”って言って貰っていいですかぁぁぁっ!』
『っっっっ!?』
言った!コイツ!言いやがった!俺がお願いしたかった事を!この状況で!あんなに急いでる中里さん相手に!
うわっ!馬鹿だコイツ!
しかし、そんな俺の思考は、鼓膜の奥を震わせる、あの艶のある声のせいで一気にかき消されてしまった。
『ははっ!頑張れよ!金弥君!』
『へ?』
う、嘘だろ?あの状況で?中里さん、言ってくれた。遠くから、中里さんの愉快そうな笑い声が聞こえてくる。嘘だ嘘だ!こんなん普通はシカトだろ!タクシーの人だって吃驚してるし!
『う、うそだろ……?』
違う!違うんです!本当は、それ俺が言って欲しかったヤツなんです!中里さん!
そう、俺が心の中でどんなに叫ぼうと、時すでに遅し。そして、声に出さねば言葉は相手に伝わらない。当たり前の事だ。
中里さんは笑いながらタクシーに乗り込むと、バタンと扉を締め、気付けば俺の視界からは消えてしまっていた。
うそ、だろ。
『……』
『サトシ、帰ろ』
『……』
『なに?その顔』
『……』
顔を上げて見れば、そこには悪びれた様子など一切ない金弥の顔。でも、確かにそうだ。金弥が悪いわけではない。でも、これは完全に俺への当てつけだ。
金弥は俺が言って貰いたくて言って貰いたくて堪らなかった『頑張れ、サトシ』を、横からかっさらって行ったのだ。
『……』
『なぁ、サトシ?』
『……』
金弥が、どこか勝ち誇ったような声で俺を呼ぶ。そして、次に続いた言葉に、俺の頭は完全に頭の中が沸騰した。
『飯塚さんの金言、何だったっけ?失敗を恐れてチャンスを棒に振れ、だったっけ?』
『~~~っっっ!』
『なに?サトシ?俺なんか間違った事言った?』
『っ!』
悪びれた様子など欠片もない。
そんな、どこか挑発するような金弥の“格好良い顔”に、俺は余りの悔しさに肩を震わせながら叫んでいた。そう、まるで幼い頃に戻ったかのような稚拙な言葉を使って。
『キンなんかもう嫌いだ!もう絶交する!縁切った!』
『……え?』
その日から一週間、俺は本当に金弥と一切口をきかなかった。
------------
--------
----
「あのっ!『頑張れ、サトシ君』って言って貰っていいですかっ!」
「は?」
俺は“あの日”の記憶をその身にやつしながら叫ぶと、その場で土下座をするように頭を下げた。ずっと、ずっと。俺は心残りだったんだ。あの時、横から金弥にチャンスを奪われた事が。
中里さんに『頑張れ、聡志君』って言って貰えなかったことが。
『サトシ!ごめん!ごめんなさいっ!俺が代わりに言うから!頑張れサトシ!頑張れ……って、サトシ!?無視しないで!ごめん……ごめぇぇんっ!』
ずーっと、心残りだったんだ!
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『飯塚さんの時も思ったけどさぁ。結構マニアックなこと聞くよな。サトシって』
中里さんが講師としてやって来た“あの日”の事だ。
金弥は、俺の質問ノートを上から下まで眺め、呆れたような声を上げた。
『そうか?』
『そうだよ。なにこの「目が覚めて一番最初にやる事はなんですか?」って』
『え?気になるじゃん。何してんのかなって。モーニングルーティンとかってヤツ?』
『モーニングルーティンねぇ』
どこか下らないとでも言いたげな口調で復唱してくる金弥に、俺は少しばかりムッとしてしまった。
『いいだろ!俺は気になるんだ!』
『はいはい』
そう、俺は何でも形から入るタイプだ。
だから、憧れの人のモーニングルーティンがあれば真似してみたいし、その人特有の何かがあれば、生活に取り入れてみたい。
でも、これはどちらかと言えば“声優”という職業に関する質問というより、ファンとして好きな人の事を知りたいって感じの質問だ。だから、
『ソレは別に後回しでいいからな?聞けたらでいいから』
『まぁ、当たり前だよね。俺は聞かないから』
『だから、優先順位としては、最初がコッチで』
『ん?……ちょっと待って!この一番下のヤツ……まさか、サトシ。中里さんにもコレ言うつもりかよ!?』
『ん?んーー……言えたら?』
金弥からの呆れ気味だった視線に、少しの不機嫌さが混じり始めた。いや!ふざけてるワケではないのだ!俺も真剣なんだ!
『これ、飯塚さんにも言ってたよね!あれ、言って貰えたのってたまたまだからな!?』
『でも、言うだけタダだし』
『……』
ジトっとした金弥の目が、容赦なく俺を見つめてくる。そんな風に言われると、何だか恥ずかしくなってきた。顔が熱い。
『さとしぃ、その顔。外ですんの……ヤめて』
『……悪かったな。キモくて』
『キモくない。でも、ヤめて』
金弥から珍しく、俺を否定する言葉が漏れた。こんな事、顔の良い金弥に言われてしまえば「ハイソウデスカ」と頷かざるを得ない。
畜生。俺だって格好良くなりたいわい。今や声優も、顔出しが当たり前の世界なのだ。ビジュアルも良いに越した事はない。
でも、今更それを言った所でどうしようもない。
『話戻すけどさ……ねぇ、これ何?正直、大量に質問するより、ソレ一つ質問する方が大分恥ずかしいと思うけど』
『……元気なくなった時に、頭の中で再生してモチベーション上げたいから』
『頭の中で再生って……!そういうトコがマニアックなんだよ。まぁ、録音するとか言い出さないだけマシか』
『ホントは録音したいけど、許可もなくそんな事したら、相手に失礼だし』
『いや、失礼っていうかさぁ。なぁ、サトシ。こんなの、俺がいくらでも言ってやるよ』
『は?金弥から言われたって意味ないし』
『……俺じゃ不満なのかよ』
『不満って言うか……お前だって、俺にコレ言われたからってモチベーションは上がんねぇだろ?』
『上がるけど!凄く上がるけど!?』
『ちょっ!顔!ちけぇから!』
鼻先がこすれる程に近寄ってきた金弥に、俺は思わず後ろに数歩後ずさった。
やめろ!他の女の子達も見てるだろうが!漏れなく『ひゃあっ!』って声まで漏れてきたぞ!
『別に!講義の最中にソレを言おうなんて思ってねーよ!中里さんの……帰り際とか。こないだの飯塚さんみたいに、慣れてきたトコで……言えたらなって』
『……だから、その顔止めろって』
『だから悪かったな!?キモイ顔で!』
『ちがうっ!だから、別にそんな事言ってないだろ!』
と、そんな俺と金弥の言い争いは、中里さんの講義が始まるまで続いた。
講義中、ちゃんと質疑応答の時間もあり、聞きたい事はあらかた聞けたと思う。というか、俺と金弥以外、誰も手を挙げなかったせいで聞き放題だったのだ。ラッキー過ぎる。
まぁ、モーニングルーティンを聞こうとした時は、金弥に口を塞がれて止められて聴けなかったけど。
『ふう……殆ど聞けた!ありがとな!金弥!』
『ん。どういたしまして』
講義も終わった。あとは、帰り際に中里さんに声をかけて、“アレ”をお願いできたら。今日の俺の望みは全て叶う!
俺は中里さんが講師室から出てくるのを、今か今かと待ち構えた。そんな俺の隣では金弥が黙って俺を見ている。
『鍵、渡しとくから。先にうちに帰ってていいぞ?』
『いや、俺もサトシと一緒に中里さんを待つ。俺も言いたい事あるし』
『なんだよ、キン。お前何か企んでないか?中里さんに失礼な事言うなよ?』
『それ、サトシにだけは言われたくないんだけど』
『俺?俺はお前と違って常識あるから、変な事は言わないし』
『……はぁ、サトシのそういう天然なトコ、嫌いじゃないけどね』
イケメンが涼し気な顔で『嫌いじゃない』なんて言えば、それはまるで恋愛ドラマのワンシーンのようだ。問題があるとすれば、台詞の相手が俺という事くらいだろう。クソ、なんか腹が立ってきた。
そんな事を思っていると、それまで静かだった廊下が騒がしくなった。金弥の体ごしに声のする方を見ていると、そこには待ちに待った人物が見えた。
中里さんだ!
『では今日はありがとうございました。時間は大丈夫ですか?』
『ちょっとギリギリだなぁ』
『タクシー、もう前まで来て貰ってるので!』
『ありがとう』
何やら急いでいるようだ。
これじゃ、さすがに“あんな事”言っている余裕はないかもしれない。そうこうしているうちにバタバタとした様子で、中里さんが講師室から出て来た。そして、そのままの勢いで俺達の前を駆け抜けて行く。
「お」
ただ、通り過ぎる瞬間。中里さんが、チラと此方を見て小さく微笑んでくれた。きっと、俺達があまりにも沢山質問をしたから、覚えていてくれたのだろう。
『かっこいいなぁ』
『……』
本当に、年齢の割に凄く若く見える人だ。話しかけられなかったけど、待ってて良かった。そう、俺が感激しまくっている時だ。それまで隣で静かに腕を組んでいた金弥が、廊下の真ん中まで歩いて行った。
そして次の瞬間、金弥の真っ直ぐと通る声が建物中に響き渡った。
『中里さーーーん!』
『は!?おいっ!金弥!何してんだ!』
俺は何事かと、思わず金弥の肩を掴んだ。しかし、金弥は俺の方など見ようともしない。
--------俺も言いたい事あるし。
おい、金弥。お前は一体何を言おうとしてるんだ?
そう、俺が金弥の行動に息を呑んで、玄関の方を見て見れば、そこにはタクシーに乗り込もうとした体制で固まる中里さんの姿があった。
『大丈夫。サトシには、俺が言ってあげるから』
『え?』
そう、金弥の口から漏れたワケの分からない言葉と共に、その顔には、どこか勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
え、え、え?まさか。
『“頑張れ!金弥!”って言って貰っていいですかぁぁぁっ!』
『っっっっ!?』
言った!コイツ!言いやがった!俺がお願いしたかった事を!この状況で!あんなに急いでる中里さん相手に!
うわっ!馬鹿だコイツ!
しかし、そんな俺の思考は、鼓膜の奥を震わせる、あの艶のある声のせいで一気にかき消されてしまった。
『ははっ!頑張れよ!金弥君!』
『へ?』
う、嘘だろ?あの状況で?中里さん、言ってくれた。遠くから、中里さんの愉快そうな笑い声が聞こえてくる。嘘だ嘘だ!こんなん普通はシカトだろ!タクシーの人だって吃驚してるし!
『う、うそだろ……?』
違う!違うんです!本当は、それ俺が言って欲しかったヤツなんです!中里さん!
そう、俺が心の中でどんなに叫ぼうと、時すでに遅し。そして、声に出さねば言葉は相手に伝わらない。当たり前の事だ。
中里さんは笑いながらタクシーに乗り込むと、バタンと扉を締め、気付けば俺の視界からは消えてしまっていた。
うそ、だろ。
『……』
『サトシ、帰ろ』
『……』
『なに?その顔』
『……』
顔を上げて見れば、そこには悪びれた様子など一切ない金弥の顔。でも、確かにそうだ。金弥が悪いわけではない。でも、これは完全に俺への当てつけだ。
金弥は俺が言って貰いたくて言って貰いたくて堪らなかった『頑張れ、サトシ』を、横からかっさらって行ったのだ。
『……』
『なぁ、サトシ?』
『……』
金弥が、どこか勝ち誇ったような声で俺を呼ぶ。そして、次に続いた言葉に、俺の頭は完全に頭の中が沸騰した。
『飯塚さんの金言、何だったっけ?失敗を恐れてチャンスを棒に振れ、だったっけ?』
『~~~っっっ!』
『なに?サトシ?俺なんか間違った事言った?』
『っ!』
悪びれた様子など欠片もない。
そんな、どこか挑発するような金弥の“格好良い顔”に、俺は余りの悔しさに肩を震わせながら叫んでいた。そう、まるで幼い頃に戻ったかのような稚拙な言葉を使って。
『キンなんかもう嫌いだ!もう絶交する!縁切った!』
『……え?』
その日から一週間、俺は本当に金弥と一切口をきかなかった。
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「あのっ!『頑張れ、サトシ君』って言って貰っていいですかっ!」
「は?」
俺は“あの日”の記憶をその身にやつしながら叫ぶと、その場で土下座をするように頭を下げた。ずっと、ずっと。俺は心残りだったんだ。あの時、横から金弥にチャンスを奪われた事が。
中里さんに『頑張れ、聡志君』って言って貰えなかったことが。
『サトシ!ごめん!ごめんなさいっ!俺が代わりに言うから!頑張れサトシ!頑張れ……って、サトシ!?無視しないで!ごめん……ごめぇぇんっ!』
ずーっと、心残りだったんだ!
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