156 / 284
第3章:俺の声はどうだ!
幕間13:クリアデータ7 04:45
しおりを挟む上白垣栞は、歓喜の渦に呑まれていた。
「きたきたきたきたーーー!やっと恋愛シミュレーションゲームっぽくなってきたじゃない!!もーーー!待たせやがって!いや、むしろお待たせしましたーー!」
病は気から。心配は身の毒。万の病は心から。
なんて事はよく言ったもので、気持ちの持ちようで病気のありようなどは良くも悪くもなるという意味の言葉達だ。
今の栞なんかは、まさにその通りである。
つまり、先程まで「過労(ゲームのし過ぎによる)で死んでしまう」などと、弱気な発言を見せていた栞も、今は画面に映し出される美麗なグラフィックと、色気のある男達の声の演技によって、完全に元気を取り戻していた。
-----------
【???】
シオリ。この男は一体何だ
-----------
そうやって、突然画面に現れたのは、黒髪の見慣れぬ姿をしたキャラだった。
-----------
【シオリ】
(この人、一体誰だろう?)
-----------
ゲーム画面に移り込む後ろ姿の主人公が、突然現れた黒髪のキャラに首を傾げている。ここに来て新キャラか。いいや、そんな事はない。
なにせ、そのキャラデザは完全に脇役のソレではなかった。短い黒髪。切れ長のクールな目元。そして、ラフな服装の袖から覗く四肢には、薄いながらもしっかりとした筋肉が付いている。
圧倒的なイケメンキャラ。それは、どこからどう見ても、恋愛シミュレーションゲームの“攻略対象者”のオーラを放っていた。
「あ、ああ、あぁ……なんてこと!ここに来て、まさか……!」
しかし、【セブンスナイトシリーズ】は必ず攻略対象者は七人と決まっている。タイトルからしても、今後もその法則が破られる事はないだろう。
新しい攻略対象者でも、サブキャラでもない。だとすると、この見慣れぬキャラの示す相手はただ一人だ。
栞は歓喜に震えた。
そのキャラには見覚えはなかったが、その“声”には、大いに聴き覚えがあったからだ。
-----------
【???】
シオリ。まさか俺の事が分からないのか?
-----------
「イーーーサーーー!」
-----------
【シオリ】
まさか……イーサ?
-----------
余りの予想外な展開に、栞は勢いよくその場から立ち上がった。震えて、そして叫び散らかした。
「貴方、姿を変えるタイプのキャラだったのーーー!?どうせアレでしょーー!お忍びの時はこの姿で街に下りるとかでしょーー!最高のキャラデザ過ぎぃっ!一つで二つの味を楽しめるなんて……最高じゃないっ!」
栞の予想は概ねその通りであった。
イーサは定期的に王としての姿をマナで変化させ街へ下りると言う、軽い放浪癖のあるキャラだった。本人曰く、見聞を広める為、という事らしい。
「あぁっ!イーサっ!私の事が心配で付いて来ちゃったのね……イケメンなのに可愛すぎっ!ギャップ萌えにも程があるでしょ!」
そして、今回。
無事にナンス鉱山から帰還したシオリが、仲間達と“生還の宴”をするというのが気になって、シオリの後をコッソリ付いて来た、と。つまりは、栞の言う通りの経緯なのである。
そう、ナンス鉱山からの生還後、あれほどまでに主人公をペット扱いしていた筈のイーサが、徐々に“異性”としての扱いをチラつかせ始めた。
「あぁっ。長かった。本当にここまで長かった……ナンス鉱山での三十日間の夜会話の選択肢を丁寧に選んでいった甲斐があった……!やっぱり男女は夜にこそ、その親密さを増す!」
これまでの、金策に次ぐ金策。疲労と過労死に怯える日々。
正直、栞はこれまでずっと、本当に自分が今プレイしているのは、恋愛シミュレーションゲームなのか?と心の中で問いかける事山の如しであった。
それが今やどうだ。
-----------
【テザー】
おい、シオン。この無礼極まりないヤツは一体誰だ?
-----------
-----------
【イーサ】
シオン?っは、貴様何を言っている。まぁ、お前などシオリの偽りの名でも口にしているといい。
-----------
-----------
【テザー】
なんだと?
-----------
-----------
【シオリ】
二人共、ちょっとこんな所で喧嘩なんて止めて。
-----------
画面では、主人公を巡って二人のイケメンキャラが牙を向け合っているではないか。
「あぁっ。コレよ、コレ!私の見たかった光景は、まさにコレ!」
もう感極まり過ぎて、栞は涙が流れそうな程だった。ここまでの道のりが長く、険しく、困難であった分、辿り着いた時のこの感動はひとしおだった。
まぁ、まだまだゲームは終わらないのであるが、栞の中では軽くゴールテープを切ったような気持ちである。
-----------
【テザー】
おい、シオン。今夜は俺の所に来い。お前とは二人で色々と話したい事があったんだ。いいだろ?
-----------
-----------
【イーサ】
貴様、何を言っている?シオリは俺のモノだ。シオリは今夜、俺の寝所に来るんだ。なにせ、シオリは、俺のモノだからな?
-----------
「二人の男が私を巡って争っている。最高……なのに!!」
そしてここに来て、画面に現れた選択肢に栞は拳を握りしめた。
どう答える?
【テザー先輩、ごめんなさい。今晩は予定があって……】
【イーサ、ごめんね。今晩は予定があって……】
【ごめんなさい。今晩はマティックに呼ばれてて……】
「だからっ!選択肢全部同じじゃないっ!」
栞はコントローラーを握りしめながら、心底思った。
恋愛シミュレーションゲームという舞台の上で、自分は“恋愛”にではなく、制作スタッフに弄ばれているのではないか、と。
「でも!良いっ!私は弄ばれて本望ですっ!」
それはそれで、一切先の見えぬ展開に、知らず知らずに胸を躍らせてしまっている。やはり、栞は根っからの“ガチオタゲーマー”だった。
31
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない
時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。
通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。
黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。
騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない?
◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。
◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる