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第3章:俺の声はどうだ!
131:口付けが一番、
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「結局。あの後イーサとキスする羽目になっちまったし」
そう。結局あの後、声が出せないのは困るという事で、俺はイーサにキスをした。しかも、イーサのマナを俺の体内に摂取しなければならない為、その……深いヤツを、だ。
そして、今こうして再び声が出せているワケだが。
「あー……何やってんだろ。俺」
自分からキスをしたのだって、あのイーサの夢の中が初めてだったのに……ディープキスなんて、童貞には難易度が高すぎる。
しかも相手は、あのイーサだ。
何故だ。俺はどうして乙女ゲームの攻略キャラとキスをする羽目になっているんだ。どうしてこうなってしまったのか。
最早考え始めると心が虚無になる。なので、キスの是非については、もう考えるのは止めた。
「……でも、キスが一番難易度が低かったもんな」
そう、ただ最初は俺も抵抗したさ。
マティックに「マナを摂取するには他に方法はないのか?」と、筆談で尋ねて、何とか他の方法を模索しようとはしたのだ。
しかし、返ってきた言葉は最高に知りたくない現実だった。
『唾液以外にマナの摂取方法はないのか?別に何だっていいんですよ。王族はその体内に大量のマナを含有していらっしゃるのですから』
そう、ここまでは良かった。じゃあ別にキスじゃなくてもいいんじゃないか!と、俺が喜んだのも束の間。続いた言葉に絶句する羽目になった。
『髪の毛や、爪、皮膚。何でも構いません。ただ、どれも摂取するのに、両者負担を伴うものばかりですね』
『!?』
『なので、定期的な摂取が必要な以上、肉体的損傷の伴うものは避けて欲しいですね。なにせ、この方は一応尊い身でいらっしゃいますので』
『うむ。イーサは尊いから、痛いのはダメだ!』
俺だってそんなのは嫌だ!そう、俺がペンに文字を走らせようとした時だ。その後の言葉は、完全に聞かなかった事にしたいレベルのモノだった。
『摂取のしやすさ、という観点でいくならば液体系ですね……血液、排泄物、涙。あとは……精液。こんな所ですかね』
『――――っ』
こんな所ですかね。じゃねぇっ!
何でもいいのは分かったが、どれもこれも論外過ぎた。唯一イケると思ったのは“涙”だったが、イーサに『今は悲しくないから泣けない』と一蹴されてしまった。
ただ、イーサはこれ幸いと『精液でもいいぞ!』などと笑顔で服を脱ごうとするモノだから、その瞬間、俺は腹をくくった。
『んーーーー!』
気付いたら、俺はイーサの口を塞いでいた。もう、色気もクソも無かった。これは唾液を貰う為の行為。そう、それだけだと割り切ってイーサの口に、自らの口を重ね合わせる。舌を動かして、イーサの口の中から唾液をさらう。
結果、ディープキスになる。全部、見様見真似だ。
誰の見様見真似か。そんなのもちろん金弥だ。俺のキスの経験は、金弥しかないのだから。
『んっ、んっ、んっ』
イーサを押し倒し、俺は必死にイーサから唾液を貰った。こんな色気のないキス。きっと世界のどこを探してもお目にかかれないに違いない。しかし、それなのに、だ!
『ちょっ!はっ!?い、いっ!イーサ!?』
『っはぁ、さとし、さとし。さとしぃ』
『おいおいおいおい!待て!待たんかい!』
『っひぅ!くるしい、くるしぃ』
『ひぃぃぃっ!こすりつけてくんじゃねぇっ!』
結局、その途中でイーサは再び発情し、マティックに助けを求める事になったのは言うまでもない。
「だから……!なんで女じゃなくて俺に勃つんだよっ!」
尋ねてみたが、イーサは『サトシが良いからだ!』と言うだけで、何も建設的な答えは返ってこなかった。そんなワケで、俺もイーサと一つ約束をする事にした。
『イーサ、お前。俺がキスしてる時は……ぜったいにお前は動くな!』
『えぇっ!イーサは王様なのにか!』
『王様なんだからジッとしてろ!ドンと構えとけ!絶対に動くなよ!動いたら絶交だからな!?』
『ぜっこう?ぜっこうとは何だ?』
『仲違いをして、付き合いを止める事だ!』
『っ!い、いやだ!イーサはサトシと“ぜっこう”したくない!ジッとする!動かない!だからサトシ!ぜっこうは嫌だ!』
-------いやだ!オレ、サトシとゼッコーなんかしない!ごめんって!サトシ!ゼッコーだけは嫌だ!
金弥の声で、まるで金弥みたいな事を言うイーサに、俺は何だか妙な気持ちになってしまう。そう、イーサの声が金弥の声だと認めてしまってから、これまで以上に昔の記憶が蘇るようになった。
--------サトシがいい。キン君。サトシがいい。
そんな所も、金弥と同じ。イーサと同じ。金弥はイーサ。イーサは金弥。そうなのか。どうなのか。
あぁ、俺のこの夢は……この世界は、一体いつまで、
「……続くんだろ」
そう、俺が真っ青な空を見上げながら呟いた時だ。
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