【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
129 / 284
第2章:俺の声はどう?

115:いつか現れる選択肢

しおりを挟む

『すみませんね。先輩。イーサの我儘のせいで』
『いや、別に……というか。俺は何故お前に謝られてるんだ?訳が分からん』
『あと、俺が先輩の立身出世のために役に立つなら、どうぞご自由にお使いください』
『は?』
『だって俺、先輩に懐いてますし。それで、先輩に優しくしてもらえるなら安いモンですよ』
『っ!』

 何でもいい。先輩が俺を自分の立身出世のために優しくしてくれるなら、俺は優しくして貰いたいから、先輩の役に立とうと思う。

『俺も自分の為に、自分の立場を利用して先輩に優しくしてもらいますよ。それでいいじゃないですか』
『……』

 俺はいつの間にか俺の腕から離れていたテザー先輩の手に、エーイチに対してネックレスを付けようとしていた動作を再開した。
 今は、少しでもエーイチを回復させる事が先決だ。今、エーイチはギリギリの所で生きているのだから。

『それに、先輩。俺、多分鉱毒マナの事、事前に気付けるみたいです』
『は?お前、なにを……というか、そうだったな。お前、最初に次の分かれ道は自分に決めさせろとか何とか言ってたが、』

 それはどういう事だ?
 先輩の戸惑いに満ちた目が俺を捕らえる。それに対し、ネックレスを付け終わった俺は、先輩に向かって自分の喉を指さした。

『俺、あの分かれ道に入った後から、ずっと喉に違和感がありました』
『……あぁ、そう言えば。あの頃からだったな。お前がやたらと水を飲みたがるようになったのは』

 そう、先輩なら分かる筈だ。俺はいつも先輩に水を貰いに行っていたから。俺が異様に飲み水を貰いに行き始めたのが、いつからか。
 そう、俺が先輩の目を見て言うと、次の瞬間、先輩は目を大きく見開きながら言った。

『は?まさか、それが鉱毒マナへの反応だったと言うんじゃないんだろうな?』
『絶対そうですよ。だって、俺昔から喉弱いし。ちょっとの埃にもすぐ反応するくらいだし』
『待て待て待て!待ってよ!?それは余りにも、判断が早計過ぎっしょ!?それだけで、道の選択権をお前になんて渡せるワケねぇ!』
『だから、実験したいんです』
『実験?は?お前、何する気だよ!?』
『今までと変わりません。俺は“炭鉱のカナリア”をやります』
『なっ!』

 そう、俺は改めて決断したのだ。知らずにやらされていた“カナリア”ではなく、今度は自分から進んでなる事を。
 それが、俺の此処での役割だというなら、やらされるのではなく、自らやる。

俺の長い長い自問自答の結果が、ソレだ。

『元々、俺はその為に此処に連れて来られたんですよね?その目的自体は同じです。ただ、少しやり方を変えるだけ。カナリアの俺だけ先に行く』
『なにを……言ってんだよ?』
『だから、そのままの意味ですって』

 俺はエーイチの首元に輝くネックレスを見ながら言った。
なんだ、今日の先輩はいやに物分かりが悪い。頭の良い筈なのに。その物分かりの悪さが、俺には少し嬉しかった。心配して貰えてる、そう肌で感じれるから。

『俺は少しでも違和感を持ったら、そこが鉱毒マナのスポットだって判断出来る可能性が高い。だから、分かれ道が現れたらほんの少し俺が先に行って……そうだな、一晩くらいかな?まぁ、ある一定時間をそこで過ごします』
『……それで?』
『それで何も俺の喉に違和感がなかったら、何もないって事でソッチに進みましょう。一晩無駄にはなるけど、何事も急がば回れっていいますからね』

 俺の言葉に、テザー先輩は苛立ったように腕を組んで此方を見ていた。

『だったら、尚の事。そのネックレスはお前がすべきだろう。もしもの時の為に』
『ダメだ』
『なぜ』
『鉱毒マナのスポットは、どこに発生するか分からない。そう言っていたのはテザー先輩じゃないですか』
『……確かに、そうだが』

 そう、そうなのだ。
 俺達は今、“大いなるマナの実り”を採掘するために此処に来ている。だからこそ、俺達は毎日奥へと進んでいる訳だが、だからと言ってマナスポットがこの奥にしか発生しない保証なんてどこにもない筈だ。

『だったら、今居る此処も、時間経過によっては鉱毒マナのスポットになるって事は、充分あり得る話ですよね?』

 これは、俺の予想でしかない。
でも、ずっとずっと一人で考えて、不安を一つ一つ洗い出していったコレもその一つだ。エーイチを死なせたくないから。俺だって、たくさん考えたんだ。

『さすがに、そんな事は……そうそう、ある事ではない』
『……やっぱり。無いワケじゃないんだ』
『確率は少ない』
『無いワケじゃない』
『屁理屈を言うな!』
『屁理屈じゃない!その少ない確率でも、エーイチの命がかかってる!俺はそれが嫌なんだ!』

 そう、エーイチはあと僅かでも鉱毒を体内に含んでしまえば死んでしまう。それに、俺の選択が完全に正しいモノを選べる自信もない。
 今後の道に対する保険の意味でも、このネックレスは今後エーイチが身に着けるべきなのだ。

 そう、拳を握りしめながらテザー先輩を見ると、先輩は眉間に皺を寄せながら、なんだか泣きそうな顔で俺を見ていた。

『お前は、バカだ。サトシ・ナカモト』
『俺は馬鹿だけど、間違っちゃいない』
『間違ってるよ』
『大丈夫ですよ。俺は死なないので。絶対に鉱毒マナにも気付ける自信があるし』

 何故か先輩の顔を見ていられなくて、俺はフイと顔を逸らしながら言った。だって、先輩のそんな顔、初めて見るから。
 すると、顔を逸らした俺に先輩の、あの羨ましい程に色気のある声が震えながら言った。

『……お前は色々と一人で考えたんだろう。本当に、色々とな』
『そうですよ。誰も教えてくれないから、考えるしかなかった』
『じゃあ、お前は“ここまで”考えたか?』
『へ?』

 先輩の手がいつの間にか俺の顎に添えられ、力いっぱい先輩の方へと向けられた。目の前には、眉を寄せ、やっぱり泣きそうな、いや、苦しそうな先輩の顔。

『次に、俺が倒れたら……お前はどうする?』
『へ?』
『ネックレスを外すという選択肢の先にある……酷な決断に、お前は堪えられんの?』

 テザー先輩の大きくて白い手が、俺の輪郭をなぞるように撫でた。そこは撫でられたら気持ちがいいところだ。

--------じゃあ、どう撫でたらお前は気持ち良いんだ。言ってみな?

耳の奥で聞こえてきた先輩の優しい声に、そんなバカみたいな考えが、俺の頭を過った。

『今は症状を発症しているのがエーイチだけだからいい。けど、そのうち必ず俺や他のヤツらにも倒れる者は現れる。その時、お前の手にある一つしかないネックレスを、お前はどうする気だ?』
『っ!』
『俺かエーイチか。お前はコレを外した瞬間から、お前が背負うべきでない苦しみを、選ぶ事になるんだぞ。命の選択権を、お前は手にしてしまう』
『今ならまだ間に合う。お前が付けろ。いいんだよ、それでさ』


 お前は、生き残るという選択肢から“選ばれた”んだから。


 そう言ったテザー先輩の顔は、完全に俺に懐いていた。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

関係転換学各論A

はいじ@書籍発売中
BL
スゲェイケメンが来てから、それまで学校1のイケメンポジションに居た普通のイケメンは女子から睨まれ、男子から憐れまれる。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...