【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
101 / 284
第2章:俺の声はどう?

88:エーイチ先生の授業

しおりを挟む

-----------
--------
-----

 エーイチは、只者ではなかった。そして、俺は本当に只者だった。

俺はいつもそうだ。

 俺の価値って、一体どこにあるんだろう。


--------サトシ、ビットやってー!


 なぁ、キン。教えてくれよ。


        〇


「さーて、休憩時間に入ったところで。僕は“商い”をしてくるよ!」
「……あぁ、いってらっしゃい」
「サトシも一緒にやる?お給金も出すよ?」
「いや、いいよ」
「そっか」


 一週間も経てば、炭鉱での共同生活にも慣れてくるもので。
そうして、その奇妙な集団生活は、外界とは異なる、少し変わった社会ルールを作り上げていた。


「はーい!みんなお疲れ様―!濡れタオルが欲しい人―!」
「あぁ、コッチにくれ」
「はーい!三ヴァイスです」
「ほらよ」
「まいどありー」
「おい、エーイチ!こっちもくれー」
「はーい!ただいまー!」
「おい、エーイチ。服と靴下が破れちまったんだけど」
「じゃあ、預かるね。それぞれ五ヴァイスです」
「金取ってくるわ」
「はーい!」


 掘削作業の休憩時間。
コロコロとエルフ達の中を駆け回りながらせっせと“商い”に励むエーイチの姿に、俺はただただ関心するしかなかった。

「ホント、商根逞しいなぁ」

 どうやらエーイチは、このクリプラントで、“金持ち”になりたいらしい。その為に、孤児だったエーイチは、ゲットーという人間の住まう地域から、自ら志願して兵士になったとか。

--------サトシ?モノや奉仕、情報の価値はどうやって決まるか分かる?

 俺はエーイチのしてくる“お金の授業”を思い出しながら、ぼんやりと動き回るエーイチの姿を追った。
 どうやら、テザー先輩もエーイチに何かを頼んでいるらしい。その口元を見れば、薄く笑みを浮かべている。

「なんだよ、俺に言ってくれればそのくらいやるのに」

 あれ、俺は一体何をこんなにモヤモヤしているんだろうか。

--------相手が、ソレをどのくらい欲しがってくれているかによって決まるんだよ?濡れタオルも、洗濯も、裁縫も。きっと、こんな場所じゃなければ、誰もお金を払って、僕にやって貰おうなんて思わない。


「だいたいさぁ。金、金、金って。金のコトばっか言うのもどうかと思うわ」


 俺にはいつだって金が無い。向こうの世界でも、コッチの世界でも。
 俺はいっつも「金がねぇなぁ」と、地味に背中に張り付く感情を背負いながら生きてきた。

今なんて、買い物の時にテザー先輩に、一部立て替えてもらった分もあるので、借金がある程だ。だから、今のところ、俺がエーイチに対して金銭を支払って何かを求めた事は、一度だってない。

 様々な知識も、苦言も、エーイチに言わせれば“タダ”で恵んで貰ったモノだ。


--------あぁ、あと。商売をするのにはね?信頼関係も大事だよ。特に、僕らみたいに格下の存在って言われている人間が、エルフと対等に商売をしようとしたら、そこが必要不可欠だ。じゃなきゃ、買い叩かれて終わりだもん。


 エーイチが言っている事は正しい。
 きっと、俺が突然、皆に対し「五ヴァイスで破れた作業着を繕いますよ」なんて言ったら、きっと怒鳴られて笑われた挙句、「黙ってやれ!」と、仕事だけを投げられただろう。

 買い叩かれる。
 俺にとっては、この一文無しの状況を引き起こしたのが、まさにエルフ達からのソレが原因であった為、中々に耳の痛い話だ。
 でも、

「……テザー先輩の分くらいなら、お金なんて貰わなくても、俺がやるのに」

 モヤモヤする。
 そうだ。俺は先輩には言ったのだ。お金なんか払わなくても、俺がやるよ、と。毎朝うがいの為の雪兎だって貰っているんだ。それくらいお安い御用だというのに。

『いや、いい』
『へ?』

 先輩は断った。エーイチに頼むからいい、と。

「なんだよ!俺に懐いて欲しいんじゃなかったのかよ!」

--------あのね?サトシ。この狭い世界のルールを、僕がもう作っちゃったんだよ。奉仕を受けるには、金銭が必要だっていう。当たり前のルールをね。そこに、タダで何の見返りもナシにやりますよ?なんて言われたら、対価を支払わない奉仕行為に、違和感を覚えちゃうのさ。


「でも、俺は……金なんか。いらねぇし」


 あぁ、俺はなにをこんなにイライラしているのだろう。皆の中で、笑顔で駆けまわるエーイチの姿に、俺はコツコツと足を鳴らした。

 俺は、一体何に対して、こんな……

「おいっ!そこの役立たず!」
「っ!」

すると、次の瞬間。声が響き渡った。“誰か”をバカにする声が。あぁ、誰のことだ?役立たずって。

「テメェだよ!テメェ!この中で役立たずっていやぁ、お前ぇしか居ないだろうが!」
「……」

 その声に、俺は“人間”とも、“サトシ”とも、限定する固有名詞を使われているワケでもないのに、とっさに顔を上げてしまった。
“役立たず”
 その言葉が、俺の耳の奥で反響する。そう、俺のモヤモヤの原因はソコにあった。

「いいよなぁ、お前は。何もせず座ってるだけでいいんだもんよ!エーイチみたいに可愛げも、役にも立たねぇ!見てるだけでイライラするぜ。なぁ、みんな?」
「……」

 そうだ。俺は、ここで圧倒的に“役立たず”なのだ。存在意義を、一つも感じられない。それが、なんとも言えず苦しかった。
 日に日に、苦しさが増していく。

「おい、やめておけ。人間相手に、見苦しいぞ」
「……テザー先輩」
「なんだぁ?お前、あんなクソの役にも立たねぇ人間を庇うのか?」
「そういう問題じゃないだろう」

 テザー先輩がエルフ達の間に割って入る。チラと俺を見ると、すぐに叫ぶエルフへと対峙した。なんだよ、先輩ってそういうキャラじゃないだろ。
 すると、庇いに入ったテザー先輩に対しても、そのエルフ達は鼻で笑ってみせた。

「へぇ。そういや、お前。あの人間とは、仲が良いみてぇだもんな?」
「お前には関係ない」

 短く答えるテザー先輩に、そのエルフはとんでもない事を言い始めた。

「分かった。ありゃ、テメェの穴ペットだな?まぁ、それぐらいにしか使い用が思いつかねーわ」
「……黙れ」
「穴っつっても、俺はアレじゃ勃たねーわ。お前も、物好きだなぁ。綺麗な顔してる癖に、とんだゲテモノ好きの変態か」
「……」

 エルフの下品な言葉だけが、坑道の中に響き渡る。今、テザー先輩は、一体どんな顔をしているのだろう。

--------このままでは、貴方はイーサ王子の足手まといにしかなりませんよ。

 浅い呼吸を繰り返す俺に、マティックの言葉が頭を過った。

「わかってる、わかってるけどさ」

エーイチに反論したように、俺は、自分が人間だからと言ってアイツらより“劣っている”なんて思わない。自分でそんな風に思うのは、間違いだって思ってるから、絶対に思わないようにした。

 でも、俺が思っているだけじゃダメなんだ。

--------頼むから、長生きしてくれ。

 そうテザー先輩が俺に言ってくれた時、俺は嬉しかった。最初の時とは違って“本当に”そう思ってくれているのが分かったから。それなのに、俺のせいで、先輩までバカにされている。

 俺の存在が、先輩やイーサの足手まといになる。


--------ねぇ。サトシ?“人間”っていう元々低い価値に対して、僕たちは一体どうしたらいいと思う?どうやったら、差別という縛りの中から“自由”になれると思う?

「……自由」

 そう、それは、俺の大好きなビットが一番望んでいたモノでもあった。

『オレは全部から自由になりたいんだ!自由に生きたい!誰にも、何にも支配されたくないんだ!』

【自由冒険者ビット】
 それが、俺の、子供の頃から大好きなアニメのタイトルだ。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

関係転換学各論A

はいじ@書籍発売中
BL
スゲェイケメンが来てから、それまで学校1のイケメンポジションに居た普通のイケメンは女子から睨まれ、男子から憐れまれる。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...