48 / 284
第1章:俺の声は何!?
38:サトシ穴
しおりを挟むあれ?この人、こんなキャラだったっけ。
「俺の家は、代々王家の側仕えに就く貴族の名家の一つだ。お前も知っているだろう。ステーブル家という」
「あ、あの。そう言うのいいんで、あの、訓練に必要なモノが何か教えてもらっていいですか」
「ちなみに、」
「あ、続ける感じですか」
現在、俺はテザー先輩と並んで、再び夜の街へと下りていた。
ここに至るまでの道中、先輩は普段の寡黙さからは全く想像できないような饒舌さで、聞いてもいない事をベラベラと喋り続けている。
マジで。ほんと、俺は何も聞いちゃいないのに、だ。
「仲本聡志は、隣を歩くお綺麗な顔のエルフの尖った耳が、未だにほんのりと色付いているのを見逃さなかった」
わかる、わかるさ。
なにか照れくさかったり、後ろめたかったりする時ほど、聞かれてもいない事をベラベラ喋ってしまうモノだ。
いや、それにしたって、“あの”寡黙な上に、クールで誰も寄せ付けない、いつものテザー先輩からは想像もつかない。だって、「ひゃっはー!」って言ってたからね。「ひゃっはー!」って。
いや、ホント。どっちが本当の先輩のキャラなんだろうか。
「俺はステーブル家の現当主の、十三番目の子供だ。八男五女。跡目の相続順位としては、八番目という事になる」
八男五女だって?計十三人?そりゃあ凄い。日本なら大家族の番組が取材に来そうなレベルじゃないか。
「それは……お父さんもスゲェけど、お母さんも大変だったろうな。十三人も」
「は?何を言っている。母親は全員違うに決まっているだろうが」
「え、あ。そうなんすね」
「……まったく。俺達エルフを、お前ら人間のような多産早死の生き物と一緒にするな」
「多産って?別に人間だってそんなに子供は産みませんよ」
犬や猫じゃあるまいし。
そう、テザー先輩の言葉に、俺は思わず首を傾げた。
エルフからすれば確かに早死にと言われても仕方がないが、人間はそれほど多産という訳でもないと思うが。
「お前……ゲットー出身とは言え、さすがにモノを知らなさ過ぎだろう。エルフの出産適齢期は寿命に反して非常に短い。それに、一人のエルフが生涯のうちに産める子供の数は基本一人だ。稀に二人産む者も居るには居るが、あまりにも体への負荷が大きすぎるからな。推奨されない」
なんと。長命なエルフに、まさかそんな特性があったとは。
エルフというのは、俺が思っている以上に、人間とは別の生き物なのだと、その時改めて思い知った。
だとすれば、テザー先輩の家は十三人の奥さんと、それぞれに一人ずつ子供が居るという事になる。……それは、それは。
「色々と複雑そうな家庭っすね」
「なにが複雑なものか。王族、貴族、名だたる軍家と呼ばれる名家は、だいたいそんなモノだ。別にウチが特別な訳ではない」
「へぇ。ソレが“普通”ねぇ」
「あぁ、そうだ」
--------あの家で俺の事気にしてるヤツなんか一人も居ないしぃ。あーぁ。サミシーサミシー。
そう、昨日の先輩の言葉が頭を過る。
隣を歩くテザー先輩に目をやると、先輩は感情の読み取れない目でまっすぐと前だけを見ていた。そうだ。そういえば、昨日はこの涼し気な目元に、真っ赤なアイラインが引かれていたのだ。思い出してしまうと、なにやら揶揄いたくなってきた。
ちょうど耳の赤みも取れている事だし、また赤くしてやろうじゃないか。
「じゃあ、末の末の末端の子供に生まれたテザー先輩は、家族に相手にされない不満から、あんな風に“夜遊び”をするようになったんですか」
「そうだ」
俺が揶揄するような口調で尋ねてみると、予想外にもアッサリとした回答が返ってきた。そして、それまで前だけを見ていたテザー先輩の目が、チラと俺の方へと向けられる。
「なんだ、その顔は」
「いいえ。つまらないなと思っただけです」
「っは。昨晩、己の不覚で記憶を失くした挙句、今日になって、周囲の連中に昨晩はお前と飲んでいたのか?などと尋ねられた時点で、俺はもう諦めた」
「……そうですか」
どうやら先輩は、俺に対して無理に隠すのは止めたらしい。所以、開き直ったとも言える。
こうして、聞かれてもいない事をベラベラと俺に喋ってくる程だ。むしろ、「王様の耳はロバの耳」の童話の如く、俺の事を、秘密を打ち明ける為の体の良い“穴”だと思っている節すらある。
「いいぞ?バラしたければバラすといい」
「また、そんな事を」
「どうした。俺は構わんが」
まぁ、あの話と違うのは、人間の俺では、周囲のエルフ達に何をどう言いふらした所で、テザー先輩のあんな姿の事など、誰一人信じてくれないだろうという事だ。
それが分かっているからこそ、先輩は何の気のてらいもなく、こうして俺に平気な顔をしていられるのだ。
「さすがに、俺も無駄だと分かっている事なんてしませんよ。むしろ無駄どころか、俺が変人扱いされかねない」
「賢明な判断だな」
きっと、テザー先輩の耳が再び朱に染まる事はないのだろう。あぁ、つまんねぇの。
「それにしても。まさか、あの酒場でお前が飲んでいたとは思わなかった。まったく、よく人間のお前なんかが、入店を許可されたモノだ。確か、あそこのせがれは人間嫌いで有名だった筈だが」
「……いやぁ」
先輩は、俺が給仕の“ポチ”だとは、未だに気付いていない。いや。というより、あの時のテザー先輩の泥酔具合は凄まじかったので、記憶が無いのかもしれない。好都合だ。助かった。
これは予想でしかないが、副業とかアルバイトとかって、あの職場では禁止されていそうな気がするのだ。騎士って公務員っぽいし。
わざわざ自分からバラして、怒られる事もない。また水流壁を食らって溺れさせられるのはごめんだ。
「……しかも、俺だとバレるとは。一生の不覚だ。これまで、知り合いに遭遇しても、一度たりともバレた事などなかったというのに」
「……あはは」
声で一発でしたよ、とは中々言い辛い。なにせ、普通の人間なら気付かないだろう。あのテンションの変化は、声で「あれ?テザー先輩?」と瞬時に分かった俺ですら、にわかには信じ難かった。
「これに懲りて、夜遊びは止めたらどうですか?」
「……お前に何が分かる」
「テザー先輩?」
その時、先輩の声がハタと変わった。
淡々と、そしていつもの如く語尾に色気を漂わせていた先輩の声に、僅かな怒気という熱が籠る。そんな声の変化に、俺は「味わい深い声になったな」なんて場違いな感想を抱いてしまった。
50
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない
時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。
通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。
黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。
騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない?
◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。
◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜
橘しづき
恋愛
服部舞香は弟と二人で暮らす二十五歳の看護師だ。両親は共に蒸発している。弟の進学費用のために働き、貧乏生活をしながら貯蓄を頑張っていた。 そんなある日、付き合っていた彼氏には二股掛けられていたことが判明し振られる。意気消沈しながら帰宅すれば、身に覚えのない借金を回収しにガラの悪い男たちが居座っていた。どうやら、蒸発した父親が借金を作ったらしかった。
その額、三千万。
到底払えそうにない額に、身を売ることを決意した途端、見知らぬ男が現れ借金の肩代わりを申し出る。
だがその男は、とんでもない仕事を舞香に提案してきて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる