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第1章:俺の声は何!?
幕間6:クリアデータ7 01:30
しおりを挟む「キタキタキタキターーー!ヤキモチイベントッ!やっぱ、恋シミュレーションの醍醐味はここでしょ!ここ!相手からの、ヤ、キ、モ、チ!」
上白垣 栞は、ズリズリと膝を床にこすりつけながらテレビ画面へと近寄り、そのまま画面の隅々まで舐めるように見渡すと、「ほうっ」と、うっとりした溜息を洩らした。
「全部、全文……かわ、いいっ!」
そこには、イーサの書いた手紙が、画面いっぱいに映し出されていた。
そう、このイーサの章は、他のキャラの章とは異なり、ストーリーの進行上、イベント発生時に得られるスチルが、今のところ全て“手紙”なのだ。
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皆、私が優秀である事を、当たり前のように言う。
勇猛で、知性に優れた父の息子であればこそ、そんな事は当たり前なのだと。そこに、私のどのような努力の山が裏にあろうとも、私はそれを欠片も表には出せぬのだ。
--------------
通常であれば、ヒロインと攻略キャラは実際に関わり合いながら、親密度を深めていく事が多いので、スチルも美麗なグラフィックが用いられるのだが……。
「最初は何コレって思ったけど……手紙スチルも良いわねぇっ!設定画集とか出たら、イーサの手紙全集とか言って、全文掲載してくれないかなぁっ」
迷い伝書鳩をきっかけに始まったヒロインと、クリプラントの王イーサの手紙のやり取り。しかし、ストーリの展開上、まだ互いに互いの正体を知らないという設定だ。
「っていうか、この“父”ってヴィタリック王の事でしょ?そうよね、そうよね!あんなのがお父さんだったら、完全にプレッシャーよね?苦しいわよね?でも、誰にも本当の気持ちを吐露できないのよねっ!?あぁんっ!もうっ!母性本能全開で今すぐイーサを抱きしめてあげたいっ!」
そして、現在。ゲームの展開は着実に動乱の時代へとコマを進めつつあった。
今は、聖女の力を持つ、異世界トリップした現代のヒロインが、国家間の陰謀や事件に巻き込まれ、エルフの大国クリプラントに潜入する事を余儀なくされた所である。
その中で、差別や戦いに巻き込まれながらも、無意識にイーサとの物理的な距離を詰めつつあるという展開は、プレイヤーにとって胸熱過ぎるモノがあった。
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その中で、お前だけは唯一、俺の背後にある努力の塵の山を、認めてくれているモノだと思ったのに。
それなのに、どうしてお前まで、手紙を使ってまで、他の男の事をそんな風に褒める?
あぁ、腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ!
そして、俺は何故こんなに腹を立ててしまっているのだろうか!分からない事に、また腹が立って仕方がない!
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「あぁぁっん!可愛い!かーわいい!さぁ、さぁ、さぁ!この手紙への返事はどうしてやろうかしら!」
栞は、画面に広げられた手紙を前に、その口角をこれでもかという程上げた。どんなに、戦闘システムが優れていても、育成要素が充実していても、腐っても【セブンスナイト】は恋愛シミュレーションだ。
他の要素がどんなに優れていたとしても、根幹である、恋愛シミュレーション要素がお粗末では、話にならない。
「……なんかもう、本当に文通してるみたいなのが良いのよねぇ。手紙一つにしても、便箋から、羽ペンの種類、それにインクの色まで選べるし。最初《文字を滲ませる》って選択肢を見た時は、なになにっ!?って思ったモンよ。まったく……策士過ぎっ!」
そう、この【窓際の恋:イーサの章】における、“会話が出来ない”という、他にはない特殊な状況。
最初こそ、どうなる事かと思いきや、そこは制作スタッフの妙技が光る結果となった。
むしろ、“会えない”という事が、フラストレーションになる事なく、プレイヤーの心を期待感で常に満たす結果となっているのだ。
「何なら地味ぃに、イーサの方も、便箋とか、インクの色とかさぁ。前回の私の書いた手紙の内容に踏まえたモノになってたりするのがね……。今回のは、私が好きって言った花柄の便箋だしぃぃ!イーサ……あんたって奴は、俺様の癖に尽くすタイプかっ!ひゃっはー!」
このように、隠しルートとして盛大にプレイヤーの予想を裏切り続けている【窓際の恋:イーサの章】。しかし、このイーサルートの持つ、他ルートと一線を画する点はもう一つ別にあった。
それは――
「あぁ、もどかしいっ。今イーサの好感度って、どんなモンなのかしら?この手紙の返事からいっても、まぁ、悪くはないと思うんだけど」
恋愛シミュレーションゲームでは恒例ともいうべき【好感度ゲージ】が、プレイヤーに示されないのだ。4のこれまでの六人。それに、シリーズを通して「セブンスナイトシリーズ」をプレイしてきた栞にとっても、これは初めての仕様だった。
「もしコレ、途中で大きく選択肢をしくじってたりしたら……トゥルーエンドの為に、最初っからやり直しって事になるのよねぇ。いやはや。こーれは、賛否の分かれそうな大幅な仕様の変化ねぇ」
セブンスナイトは、キャラとの好感度の値によって、最終イベントの際、選べる選択肢が大幅に変化するように作られるのが恒例だ。つまり、好感度が規定値以上でなければ、選べない選択肢が出てくるという事である。
そして、その好感度が高くないと選べない選択肢の中にこそ、トゥルーエンドへの鍵は隠されているのだ。
「好感度の非公開仕様といい、イーサの章だけは……異様に難易度を高くもってきてある。これは、最後の最後で、凄まじい選択肢を迫られそうな気がするーー!!まぁ、選べる所まで行ければ、の話だけど」
ここまで攻略難易度を高く設定すれば、否の意見が生まれるのは目に見えている。けれど、それを今回の制作スタッフは是として、ゲームをこうして世の中に売り出したのだ。
「でもまぁ。これってリアルの恋愛では、当たり前の事よね?」
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お前が、他の男の事を書いたり褒めたりすると、腹が立つ。
腹も立つが、不安にもなる!
決めた!もうお前は手紙では、他の男の事を書くな!俺の事だけ書け!それが、歴史上有名な賢王であったとしても、だ!
それが守れるという事なのであれば、お前には褒美をやろう。
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手紙の中で、どんどん崩れる文章。一人称の変化。必死な筆圧。
そして、必死に書かれた手紙の最後に添えられる「良き返事を待つ」という、偉そうな癖に、どこか子供っぽい強がりの見え隠れする言葉。
「相手の気持ちが分からないからこそ、恋愛は面白い。難易度が高いっていうか、そもそもソレがノーマルモードよ。そんなワケで……」
栞はメニュー画面を開くと、道中で見つけた染料アイテムを調合し、返事にピッタリのインクを生成した。インクの種類だけでも百種類以上ある。このインクのコンプリートは、出来れば、この七週目で共に完遂したい。
「今は!この返事をどう書くか。楽しむわよーー!」
栞はゲームを分析するばかりだった攻略者としての瞳を、パチリと一旦閉じた。そして、次に目を開いた時は、ただの恋愛を楽しむ、一人の女に身を翻すと、手紙の内容を選ぶ選択肢に、じっくり目を通した。
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