【完結】俺の声を聴け!

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第1章:俺の声は何!?

15:ごはんの時のアニメ

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「めでたし、めでたし」


 俺は昨日の夜に起こった達成感満載の記憶からどっぷりと浮上すると、手に持っていた記録用紙をパタリと閉じた。

「はぁぁっ、いい」

 いやぁ、何度思い出しても腹の底から気持ちの良い記憶だ。あそこまでコッチの思った通りの素直な反応を返してくれる視聴者など、なかなか居るモノではない。
斜に構えていない、あの素直さは、そうだな。

「……めちゃくちゃ素直な8歳児みたいな」

いや、まぁ、あながち間違いではないのかもしれない。なにせ、イーサは“王子様”なのだ。

というか、イーサ王子って人間でいうとだいたい何歳くらいの子なのだろう。
 “王子”というくらいなのだ、まだ成人してはいないのだろうが。まぁ、種族が違うので、年齢の感覚は、さっぱり分からない。

「……けど、あの後めちゃくちゃ恥ずかしかったな」

 そう、あの「人魚姫」のお話会の後には地味に続きがある。俺が情感たっぷりに、そりゃあもう真剣にお話会をしている後ろに、もう一人、完全に冷めた目の観客が居たのだ。


『もう、よろしいでしょうか』
『っ!え?え?』

 真後ろからヌルリと、その存在と声を表してきたのは、あのいつもイーサの食事の皿を引きにくる、無感情なメイドの女だった。
今日も今日とて高い位置で結われた金髪のポニーテールと、そこから覗く白いうなじのコントラストが素晴らしい。

 ではなくっ!

『あの……いつから?』
『聞きたいのですか?』
『……い、いえ』
『どいてください。皿を下げます』

 メイドの女に、俺は完全に顔に熱が集中するのを止められぬまま、ひたすら視線を足元へ向ける事しか出来なかった。どこから聞かれていても、もう遅い。男の俺が、情感たっぷりに女の高い声を真似ながら、恋心を語ったのだ。

 死ぬほど、恥ずかしいっ!
 しかも相手は美人の女!マジで、本気で、恥ずかしい!!

 更に言っていいなら、相手がソレに何も触れてこないのが、恥ずかしさに拍車をかけてくる。こんなの、面と向かって「キモイんだよ!テメェ!」と罵られた方が、幾分マシである。

コンコン。

 女が二度のノックをする。それに対し、いつもならすぐに女の片手に食事の盆が乗るのだが、その日は違った。

コンコン。

 そう、二度のノックが返ってきた。
 イーーサーー!違う!違うぞーー!
このノックは俺のノックじゃない!こっちの会話、聞こえてなかったのかなーー!?あーー!泣くのに夢中でそれどころじゃないかーー!

 そんないつもとは全く異なる扉の向こうからの反応に、女の無表情が少しだけヒクリと動いた。どうやら、戸惑っているらしい。

『イーサ……王子、様。違う。ご飯のお盆返して、ください、だそうですよ』
『……な』

 俺がコソリと扉の向こうに声をかける。思わず、いつものように“イーサ”と言ってしまいそうになるのを寸での所で堪えた。

『っ!』

すると、次の瞬間、女のひらかれた掌に、いつものように食事の盆が乗っていた。そして、よく見ればその盆の中の食事には、どうやら一切手をつけられていないようだった。

『食事が……』

 女が盆の中を見て眉を顰める。
そして、顰めたついでにチラと此方を、その目に非難の色を込めて見てきた。どうやら、俺のせいという事らしい。
いや、あながち間違いではないのかもしれない。夕ご飯の最中、アニメに夢中で、まったく食事に手が付けられない子供のアレと、今のイーサは全く同じ状況に違いない。

そして、アニメを見せていたのは……他でもない。

『人間。お前は部屋守としての仕事にだけ専念なさい』
『……はい』

 グウの音も出ねぇ。
 俺が俯いていると、女は手の付けられていない食事の皿を持ち、そのままスタスタと何の余韻もなく去って行った。

 それが、「人魚姫」のお話会のアフターストーリーである。正直、完全に俺が泡になって消えたい気分だった。


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