【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
8 / 284
第1章:俺の声は何!?

3:仕事始め

しおりを挟む
-----
--------
------------


「ここが今日からお前の仕事場だ」
「……はい」

 一つの大きな扉の前まで案内されると、俺はただただ驚愕しながらその扉を見つめた。そんな俺の隣では、気だるそうな声で話す一人の背の高い男。

「さっき言われた通り、お前の前任の人間が、長時間立っていられなくなったと部屋守の職を辞した。だから、今日からはお前がイーサ王子の部屋守だ」

 そう、俺の前を歩いていたキラキラとした銀色の髪を靡かせ、髪をひとくくりにした相手が、チラと俺の方を見ながら淡々と口にする。チラと髪の毛の隙間から覗くその耳は、やはり鋭く尖っていた。

「……はい」
「はぁ……ついこないだ、同じ説明をしたと思ったんだがな」

 溜息を吐きながら口にされた言葉は、明らかにウンザリとした色が聞き取れる。
あぁ、この男の声は悪くない。アンニュイな感じの声が、どこか須崎さんを思わせる。呼吸の仕方だろうか。語尾の空気が抜ける感じに、怠惰な色気を感じるタイプの声だ。この手の声は、なかなか真似しにくい。

「なんだ。俺の顔に何かついているか」
「いえ、何でもありません」
「お前ら人間の寿命の短さにはウンザリだ。どうせ気付いたらお前も老いだ寿命だと騒ぎ立てて、仕事を辞し、俺はまた次の人間に同じような事を言う羽目になる。こんな徒労、他にない」

スッと細目られた目が、蔑みの色に染められる。

「頼むから、長生きしてくれ」
「はぁ」

 急に孫がジジイに言うような温かい台詞を吐くじゃん。

まぁ、その声は一切合切、そんな温かみなどは皆無だったが。
 こうして周囲の人間と……エルフ達と話していくうちに、俺は少しずつ理解し始めていた。

「もう簡単に説明する。お前はイーサ王子の部屋守だ。ここに立っていろ。敵や不測の事態がきたら、イーサ王子を守れ。以上だ」
「あの、」
「なんだ」

 そう、俺は完全に夢を見ているらしい。
なにせ、ここは俺がオーディションに落ちた【セブンスナイト4】の世界のようなのだ。俺の制服のベルト部分に縫い付けられた、クリプラントの国章。そして、目の前の明らかに人間ではない男。そして、そして。

「俺のような新人が一人で、王子の護衛なんて……それはちょっとあんまりじゃ」
「一人居れば十分だ。どうせ、何も起こらん」
「でも、次の王様の部屋守なのに……」

 イーサ王子の部屋守。
 もちろん、“イーサ”は最新作にしか出てこないキャラだ。ただ、その他の固有名詞を聞けば、それはもうシリーズを通してプレイした俺だからこそ分かる。

『水流壁に頭ぶち込ませてやるからな!』

 先程の騎士の上官らしきエルフが言った“水流壁”は、セブンスナイトシリーズでは序盤に使われる水魔法の一つだ。俺的には使いどころが微妙に分からな過ぎて、正直、技のカスタムに入れた事があまりない。
 だから、最初はピンとこなかったが、俺はこの世界で使われる単語に対し、どれもこれも違和感がなかった。

今、俺が着ているこの青い隊服も、三作目でクリプラント防衛戦の時に自陣に居たキャラが、こんなのを着ていた筈だ。

「っは、次期王か……。ゲットーには此方の内政までは流れないのか」
「いえ、俺が……その、少し情報に疎くて」
「次期王候補の部屋守だとしたら、お前など……いや、マナも魔法も扱えぬ人間などは絶対に選ばれないだろうな」
「え?」
「もういいだろう。お前はここで、その短い人生の間、死ぬまで立っていればいい。そうすれば、安くない給金が支払われる。どうせ、何も起こりはしないのだから」

 俺から目を逸らし、大きく荘厳な扉に目をやるエルフにつられ、俺も扉の方を見る。静かだ。ここに、本当にイーサが居るのだろうか。

 俺が演りたくてたまらなかったキャラ。
 俺が落とされ、金弥が選ばれた。

 あの、イーサ王が。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

関係転換学各論A

はいじ@書籍発売中
BL
スゲェイケメンが来てから、それまで学校1のイケメンポジションに居た普通のイケメンは女子から睨まれ、男子から憐れまれる。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない

時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。 通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。 黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。 騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない? ◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。 ◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき
恋愛
 服部舞香は弟と二人で暮らす二十五歳の看護師だ。両親は共に蒸発している。弟の進学費用のために働き、貧乏生活をしながら貯蓄を頑張っていた。  そんなある日、付き合っていた彼氏には二股掛けられていたことが判明し振られる。意気消沈しながら帰宅すれば、身に覚えのない借金を回収しにガラの悪い男たちが居座っていた。どうやら、蒸発した父親が借金を作ったらしかった。     その額、三千万。    到底払えそうにない額に、身を売ることを決意した途端、見知らぬ男が現れ借金の肩代わりを申し出る。    だがその男は、とんでもない仕事を舞香に提案してきて……  

処理中です...