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5:可愛い人
しおりを挟む俺の仕事場には、とても可愛い人が居る。
俺よりもとても小さくて、けれど俺よりも三つも年上の先輩だ。ローラーという彼は、俺の就職した郵便飛脚商会で、唯一事務員をしている人間だった。
そりゃあそうだと思う。あんなに細い彼に、こんな重い荷物なんて運べる訳がないし、運ぼうとしたら、俺がきっと止めるだろう。だって、そんな事をしたら、ローラーの腕が折れてしまうかもしれない。
茶色の髪の毛に、黄色の肌。その肌に埋め込まれた真っ黒の瞳は、光を帯びて、いつだってキラキラと輝いている。
どうやら、お頭に俺がこの国の人間ではないと嘘を吐かれたようで、俺が此処に入って二つの季節が過ぎ去った今も、俺をサファリ出身者だと勘違いしている。
-------ゴーランド!むーばー!
-------ゴーランド!めろでぃぺっとー!
未だに元気よく俺だけにかけられるサファリ語の数々。
サファリ出身の父を持つ俺の見た目は、確かにこの国の“普通”とは異なる。しかし、俺自身はこの国から出た事がない。だから、普通にこの国の言葉は分かるし、理解も出来る。むしろ、サファリ語の方が分からない。
「ゴーランド!」
「ローラー」
俺は、人と会話をするのが非常に苦手な人間なのである。
ただ、それだけ。それだけなのだが、本当に俺は話すのが下手くそで、相手の目を見て話そうとすると、緊張して何も言葉が出なくなる。
だから学舎を卒舎する時も、あまり人とは関わらずに済む仕事はないかと教授に頼み込み、やっとの事で紹介してもらったのが、家からは大分離れた、この「郵便飛脚商会」だった。
「見て!これ、ゴーランドだけにあげるね!後で、休憩の時に食べるんだよ!あっ!他の皆には、すかい!」
「……」
すかい。
確か、サファリ語で“ひみつ”と言う意味の言葉だった筈だ。ニコニコと嬉しそうな顔でローラーから差し出されるお菓子は、きっとサファリの伝統的な菓子なのだろう。
「あり、がと。ローラー」
「すいんがー!」
えっと、確か“すいんがー”は、どうしたしまして、だった筈だ。多分。
「ローラー。こーびたー」
「うん!また事務所で!ゴーランド!めろでぃぺっとー!」
こーびたー。いってきます。
俺は最近、一冊の本を買った。サファリ語の本だ。
本当はローラーに、俺はこの国の言葉は普通に理解できると伝えた方が良いのは分かっている。
けれど、ローラーに特別扱いして貰える事を、俺はとても気に入ってしまったのだ。
今だって、人と話すのは苦手だ。話さなくても良いのであれば、それに越したことはない。
それに、ローラーを前にすると普段以上に緊張して酷く落ち着かない気持ちになる。
それなのに、ローラーからの特別扱いは、とても嬉しいと思えるから不思議だ。だから、ズルいのは分かっていても、俺は今晩も、異国の地の言葉を勉強する。
明日も、特別扱いをして貰う為に。
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