【完結】最強福の神は、ド底辺鬼を閉じ込めたいっ!

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11:ド底辺鬼の長い長いお留守番!

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 福の神様が出雲へ出て三日が経った。
 まだ、たったの三日だ。まだ半分も経っていない。

「……いち、に、さん。やっぱり三日だ」

 俺は居間の壁に引っ掛けられた暦表を見ては、何度も何度も福の神様が出て行ってからの日付を数える毎日だった。今、お婆さんは家に居ない。多分、いつものように公民館の寄合に行っているんだと思う。

「福の神様は出雲へ行くと言っていたけど、出雲って一体どこなんだろう。ここから、どのくらい離れているのかな。古い大きな社で凄い神様が居るところ、ってあの箱は言ってたけど……」

 ちょうど、福の神様が出て行ったその日。こたつに入って寝こけてしまったお婆さんを布団に運ぼうと部屋に忍び込んだ時だった。俺は福の神様の言っていた「出雲」なる場所について初めて知った。

≪出雲大社は、日本最古の神社のひとつであり、縁結びの神様として知られる大国主大神を祀っています。毎年10月には全国の神々が集まる神在祭が行われることでも有名です≫

 いつもお婆さんが観ている四角い箱から「出雲」という言葉が聞こえてきて、俺はピョンと体が跳ねるのを止められなかった。その箱の中には、出雲大社と思われる大きな社が映し出されていた。
 ここに、福の神様が居るのかと、思わず四角い箱に釘付けになる。

≪もうすぐ行われる節分祭では、出雲大社でも豆撒きが行われます。鬼を追い払い、福を呼び込む伝統行事として、多くの参拝者が参加します≫

 続いて流れてきた説明に再びピョンと体が跳ねる。
 そうだ、そうだった。そろそろアレの季節だ。「鬼は外、福は内」の季節。
 俺は箱の説明を聞くのが嫌で、そのままお婆さんを寝床の部屋まで運んだ。だから、それ以上詳しく「出雲」の事は分からない。

「もうすぐ節分なのに、この家には福の神様は居なくて、鬼の俺が居るなんて……ヘンテコだ」

 俺は暦表に「節分」と書かれた日を眺めながら、なんだかとても寒々しい気分だった。まぁ、実際に季節は冬で寒いのは当たり前なのだけれど、なぜだからいつもの寒さとはワケが違う。

「福は内なのに……鬼は外なのに」

 節分の日も、福の神様は出雲だ。
 お婆さんしか居ないこの家には「節分」は関係ない。だから鬼の俺が祓われる事もなければ、福の神様のご機嫌を損ねて追い出される事もない。
 それは良い事の筈なのに――。

「……出雲大社の節分祭で、福の神様が別のお気に入りの鬼を下部(しもべ)にされたらどうしよう」

 そうしたら、俺はお払い箱で、福の神様は別の鬼の乳を吸うのだろうか。

「い、いやだ」

 寒い寒い。今年の寒さはなんとも耐え難い。俺が産まれてきてから、一等強い冬将軍のお出まししているのかもしれない。そんな事を考えていると、玄関の方からガラガラと扉の開く音が聞こえた。

「お、お婆さんだ!」

 トタトタといつもよりも急くような足音を響かせながらこちらに近寄ってくる足音に、俺はとっさにこたつの中へと飛んで隠れた。
 いや、お婆さんには俺の姿は見えないので別に隠れる必要などないのだが、そういう問題ではない。俺は劣性鬼なので、誰かと面と向かうのが恥ずかしくて耐えられないのだ。

「あー、忙しい忙しい。これは大変な事になったよ」

 いつもはのんびりしているお婆さんが慌てた様子で部屋に駆け込んでくる。こんなに慌ててどうしたのだろう。あまりに慌て過ぎて転ばなければいいのだが。

「急に日本に戻ってくるなんて。一体何年ぶりだろうねぇ。こりゃこりゃ、お爺さんにも報告しないと」

 おばあさんは暦表の前で足を止めたかと思うと、そのまま慌てた様子で座敷へと向かった。

「お婆さん、どうしたんだろう?」

 こたつの中からひょいと顔を出す。すると、暦表の中に先ほどまでは書かれていなかった文字が書き記されていた。

≪2日 孫≫

「孫?お婆さんの孫が来るってことかな?」

 というか、お婆さんに孫なんて居たのか。息子は居たような気がしたが、いつの間にか家から居なくなっていた。

「おばあさん、なんか嬉しそうだったな」

 大変な事になった、なんて言っていたけど、あれは「嬉しくて大変」という様子だった。
 声しか聞こえてこなかったが、お爺さんが祭壇になってからお婆さんのあんな弾んだ声は初めて聞く。

「俺も、お婆さんの為に何かお手伝いしよう」

 そう思うと、先ほどまでの寒々しい気持ちが少しだけ和らいだ。
 どうせ福の神様も居ないし。お婆さんの孫が来るなら、いつも以上に家を綺麗にして迎える準備をするのもいいだろう。
 まずは、お婆さんがするのが難しいであろう高いところの掃除から始めようじゃないか。

「いち、に、さん。明日で四日目。半分越える。七日で福の神様は、福は内される。福は内、福は内」

 最後に、福の神様がこの家から発って何日目か数えて、俺は居間から飛び出した。いつの間にか、俺の中で「福は内」は口癖の鼻歌になっていた。

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