【完結】頼むから、死亡フラグくらい立ててくれ!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
上 下
19 / 28

19:付記3

しおりを挟む


 諦めなければ、必ず運が巡ってくる?いいや、違うな。
 人生、何事も諦めが肝心である!

 これこそが、今の俺の腹に据える信条だ。

「っはぁ。ループ……ループ」
「っン、あ……あの、カミュ。い、いつまでこんな事……」
「いつまで?そうだな、その答えは簡単さ!」

 ずっとだ!
 俺は星マークの隣に101という数字を浮かべたループを腕の中に閉じ込めながら、ただひたすらにキスをした。何度も何度も。そう、何度も!

「っぁ、あ……ぅ。カミュ、でも」
「ん?」

 可愛い俺のループが、その顔を真っ赤に染めながらジッと此方を見上げている。101回目の再会から早数ヶ月。その始まりは、俺の突然のプロポーズから幕を開け、こうして今に至る。

「皆が、来るかも……」
「みんな、か」

 ループの口にした「みんな」という言葉に、俺は静かに目を閉じた。苦い記憶が脳裏を過る。

——黙れよ。この薄情者共が。

 俺は、再びループに会う事が出来た。同時に、他の皆とも再会を果たした。当たり前だが、みんなあの時の事など欠片も覚えちゃいなかった。

「見つかったら、セゾニアに叱られるだろうな」
「うん、いい加減にしなさいって凄く怒ると思う!」
「……そうだな」

 最後に見たセゾニアの傷付いた表情が未だに記憶に染み付いて消えない。
 俺は最低なヤツだ。でも、最低なのは今も変わらない。なにせ、セゾニアに再会した時、俺は卑怯にもこちらのセゾニアに謝罪してしまったのだから。

——は、急になによ?……あ。まさか、アンタだったの!?私のデザートを勝手に食べたのは!

 この世界のセゾニアに謝っても意味などないというのに。俺は、俺の中にある罪悪感を少しでも消したくて、自分の為に謝ったのだ。今日も今日とて、俺は自分への期待を裏切り続けている。でも、もういいだろ。

 俺は、もう諦めたんだから!

「大丈夫か、カミュ?」
「……ループ」

 あぁ、ループは生きて俺の腕の中に居てくれる。この世界で、俺が唯一諦めないのは〝ループ〟だけで十分だ。

「いや、なんでもない。じゃあ、そろそろ皆のところに戻るか」
「っあ、あれ。ほ……ほ、本当に戻るの?」

 俺がアッサリと引き下がった事があまりにも予想外だったのか、ループの顔に驚きと落胆の表情が浮かぶ。どうやら、口ではあんな事を言いつつ、なんだかんだ二人きりで居たかったらしい。

「……っはは」

 この世界はクソで不条理だが、ループが居るというこの一点に置いては素晴らしい事この上ない。

「いいや、冗談だ!皆の所に戻るなど、ありえないな!」
「っあ、え?」
「俺はまだまだループとの時間が足りん!セゾニアにバレたら俺が盛大に謝っておくから心配いらん!」

 なにせ、セゾニアには何度謝っても謝り足りないのだから。今回、俺が死ぬまでの間に、出来るだけたくさん謝っておこうと思う。
 すると、そんな事など知る由もないループが、パッと笑顔を浮かべながら言った。

「じゃあ、俺も一緒に謝るよ!それに、セゾニアは優しいから、なんだかんだ許してくれるさ!」
「ループ……」
「ふふ、やっぱりカミュは良いヤツだなぁ」

 ループがしみじみと俺の背中に腕を回しながら口にする。それは、初めて出会った頃から一貫して告げられてきた、ループの俺への評価だ。そう、ループの前だけでは、俺は卑怯者ではなく、真っすぐだったあの頃のままでいられる。

「……まったく、どっちが良いヤツなんだか」

 今度こそ、ループを死なせたりしない。物語の筋道通り、俺が先に逝く。

——カミュ、今度こそ……お前が先に進む番だよ。
 いいや。もう、あんな絶望しかない未来はごめんだ。

「なぁ、ループ。本当にお前は出会った頃から最高だな」
「か、か、カミュは!俺を褒め過ぎだっ!まだ出会ったばっかりなのに、そんな……」
「出会ったばかり?いや、そんなことはない。だって俺達は——」

 百年の付き合いだろう!と、口にしようとしたその瞬間、容赦なく喉から言葉が奪われた。

「カミュ?」
「……いいや、なんでもない」

 俺の「死」に世界の強制力なんて、まったく関係なかった。しかし、どうやらそれ以外の「世界の強制力」とやらは、紛れもなく存在したらしい。物語の筋道に影響しそうな不都合な事を口走ろうとすると、こうして容赦なく言葉を奪われる。

「っクソ」

 正直、最高にもどかしい。俺も百年分の過去を全て振り返りながら、ループに全身全霊で愛を囁きたいのに。どうしても、それは叶わない。そのせいで、未だにループにとって俺は「出会って数カ月程度しかない男」という認識なのである。

「……まぁ、別にいいか」

 ループに対する想いは正直に告げられる。なにせ、俺からループへの愛は「一回目の俺」から一切変わっていないのだから。

「あぁ、ループ……愛おしい」
「っぁ……ン」

 俺は再びループに溢れる愛を囁くと、再びその口に自らの唇を重ねた。ループの恥ずかしそうな表情や真っ赤に染まったうなじを見ていると、体の一部が容赦なく脈打つ。

「うぅ、かみゅ。あの、お、なかが……熱い」
「腹……あぁ、これか」

 ループの顔が朱に染まっている理由は、俺の口づけだけではない。自分でも呆れるくらい服の中で主張を続けるペニスは、恥ずかし気もなくループを求め、ただひたすらに熱を滾らせている。

「いや、すまない。コレの事は気にするな」
「カミュ、でも……」

 気にするなという言葉に、普段はカラリと明るいループの瞳にしっとりと涙の膜が張った。漏れる呼吸も酷く熱っぽい。
 あぁ、堪らない。興奮し過ぎて視界が霞む。気を抜くと腹からせりあがる激しい情動に呑まれてしまいそうだ。

「今はこうして二人で共に居られるだけで最高だからな。いいんだ」

 俺の言葉に、ループの潤んだ瞳が大きく見開かれた。
 昔の俺ならば、容赦なくループに「繋がりたい」だの「一つになりたい」だのとのたまい、その秘孔に自身の熱をぶち込んでいた。

 ループは男だから。勇者だから。俺はこれまでループのせいで死に続けてるんだから、多少乱暴にしたところで別に構いやしない。なんて、何とも最低な理屈を並べ立てながら、身勝手な行為をループに強いてきた。

「あぁ。最低だな、俺は」

 ループはずっと俺の為に、終わりの無い繰り返しの中を共に生きてくれていたというのに。
 こんな最低な男はループと百年の愛を囁き合う資格などあろうはずもない。

 それに、ループの中で今の俺はまだ出会ってひと月も経たない仲間の一人に過ぎない。だとすれば、もう少しだけ時間を置かねば、ループの気持ちが付いて来ないだろう。ただでさえ、出会い頭のプロポーズで戸惑わせてしまったというのに。

「さぁ、我儘を言ってしまったな!ループ、そろそろ本当に皆の元に戻ろうか!」

 そう、俺が腕の力を緩めた時だった。

「あ、あ、あの!カミュ!」
「ん?」

 ループが慌てた様子で俺に声をかけてきた。未だにその顔は真っ赤で、どこか緊張したようにはくはくと肩で息をしている。一体どうしたと言うのだろう。

「お、男同士のセックスは……お、お尻を使うんだ」
「は?」
「カミュは……その、知らないかもしれないけど……で、できるんだ」
「んーーーーーー???」

 ループが、とんでもない事を言い出した!なんだ、なんだ。これは一体どんな状況だ!?

「それに、お尻だけど……そんなに汚くないと思う!ほんと、大丈夫なようにしてるから!」

 顔を真っ赤にしながら真剣な様子で口にされる言葉は、俺の予想を遥かに超えていた。
 今ループは何と言った?大丈夫なようにしている?おいおいおい。〝してる〟って——。

「ループ、お前。まさか」
「……っは、ン」

 俺はとっさにループの尻に手をやると、服の上からその後孔を撫でた。その瞬間、ループは俺の胸に真っ赤な顔を押し付けながら、消え入るような声で言った。

「い、いつでも大丈夫なように……ちゃんと、ナカまで毎日洗って……ひ、広げてあるから、カミュのもちゃんと入る、よ」

 震えた。
 どうやら、人というのは感情が高ぶると恐怖でなくとも体が震えるものらしい。視界が霞む。呼吸すらままならない。俺は、ループに殺されるのだろうか。

「それも、いいッ」

 やはり、ループは俺なんかとは違って凄い奴だ。変えられぬ繰り返しの中、心を闇に覆われる事、なくこうして真っすぐ歩み続けてきたのだから。

「なぁ、ループ」
「な、なんだ?」

 しかしながら、俺ときたら心底性根が捻じ曲がってしまった。先ほどまで、俺の言動が世界によって牛耳られているせいでループと過去百回分の愛を囁く事が出来ないと嘆いていたのに!

「その、無知ですまない。俺は戦いしかしてこなかったせいでイマイチそのやり方が分からないのだが……」

 今の俺は掌を返したように世界に感謝している!あぁ、ありがとう世界!そう、俺は何も知らない!

「やってみせてくれないか?」

 いけしゃあしゃあと口を吐いて出た言葉は、紛れもない俺の本心だった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

天使の分け前

ゆなな
BL
勉強ができることしか取り柄がない陽也は、天使みたいに清らかな学園の人気者である綾人が好きだった。 地味で勉強ばかりしている陽也とも友人として優しく付き合ってくれる綾人に劣情を抱いてしまうことに陽也は罪悪感を感じていたが─── 普段は天使みたいなのに、ベッドでは野獣に変身する攻めが書いてみたかっただけのお話。お気軽にお読み下さい。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

処理中です...