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19:付記3
しおりを挟む諦めなければ、必ず運が巡ってくる?いいや、違うな。
人生、何事も諦めが肝心である!
これこそが、今の俺の腹に据える信条だ。
「っはぁ。ループ……ループ」
「っン、あ……あの、カミュ。い、いつまでこんな事……」
「いつまで?そうだな、その答えは簡単さ!」
ずっとだ!
俺は星マークの隣に101という数字を浮かべたループを腕の中に閉じ込めながら、ただひたすらにキスをした。何度も何度も。そう、何度も!
「っぁ、あ……ぅ。カミュ、でも」
「ん?」
可愛い俺のループが、その顔を真っ赤に染めながらジッと此方を見上げている。101回目の再会から早数ヶ月。その始まりは、俺の突然のプロポーズから幕を開け、こうして今に至る。
「皆が、来るかも……」
「みんな、か」
ループの口にした「みんな」という言葉に、俺は静かに目を閉じた。苦い記憶が脳裏を過る。
——黙れよ。この薄情者共が。
俺は、再びループに会う事が出来た。同時に、他の皆とも再会を果たした。当たり前だが、みんなあの時の事など欠片も覚えちゃいなかった。
「見つかったら、セゾニアに叱られるだろうな」
「うん、いい加減にしなさいって凄く怒ると思う!」
「……そうだな」
最後に見たセゾニアの傷付いた表情が未だに記憶に染み付いて消えない。
俺は最低なヤツだ。でも、最低なのは今も変わらない。なにせ、セゾニアに再会した時、俺は卑怯にもこちらのセゾニアに謝罪してしまったのだから。
——は、急になによ?……あ。まさか、アンタだったの!?私のデザートを勝手に食べたのは!
この世界のセゾニアに謝っても意味などないというのに。俺は、俺の中にある罪悪感を少しでも消したくて、自分の為に謝ったのだ。今日も今日とて、俺は自分への期待を裏切り続けている。でも、もういいだろ。
俺は、もう諦めたんだから!
「大丈夫か、カミュ?」
「……ループ」
あぁ、ループは生きて俺の腕の中に居てくれる。この世界で、俺が唯一諦めないのは〝ループ〟だけで十分だ。
「いや、なんでもない。じゃあ、そろそろ皆のところに戻るか」
「っあ、あれ。ほ……ほ、本当に戻るの?」
俺がアッサリと引き下がった事があまりにも予想外だったのか、ループの顔に驚きと落胆の表情が浮かぶ。どうやら、口ではあんな事を言いつつ、なんだかんだ二人きりで居たかったらしい。
「……っはは」
この世界はクソで不条理だが、ループが居るというこの一点に置いては素晴らしい事この上ない。
「いいや、冗談だ!皆の所に戻るなど、ありえないな!」
「っあ、え?」
「俺はまだまだループとの時間が足りん!セゾニアにバレたら俺が盛大に謝っておくから心配いらん!」
なにせ、セゾニアには何度謝っても謝り足りないのだから。今回、俺が死ぬまでの間に、出来るだけたくさん謝っておこうと思う。
すると、そんな事など知る由もないループが、パッと笑顔を浮かべながら言った。
「じゃあ、俺も一緒に謝るよ!それに、セゾニアは優しいから、なんだかんだ許してくれるさ!」
「ループ……」
「ふふ、やっぱりカミュは良いヤツだなぁ」
ループがしみじみと俺の背中に腕を回しながら口にする。それは、初めて出会った頃から一貫して告げられてきた、ループの俺への評価だ。そう、ループの前だけでは、俺は卑怯者ではなく、真っすぐだったあの頃のままでいられる。
「……まったく、どっちが良いヤツなんだか」
今度こそ、ループを死なせたりしない。物語の筋道通り、俺が先に逝く。
——カミュ、今度こそ……お前が先に進む番だよ。
いいや。もう、あんな絶望しかない未来はごめんだ。
「なぁ、ループ。本当にお前は出会った頃から最高だな」
「か、か、カミュは!俺を褒め過ぎだっ!まだ出会ったばっかりなのに、そんな……」
「出会ったばかり?いや、そんなことはない。だって俺達は——」
百年の付き合いだろう!と、口にしようとしたその瞬間、容赦なく喉から言葉が奪われた。
「カミュ?」
「……いいや、なんでもない」
俺の「死」に世界の強制力なんて、まったく関係なかった。しかし、どうやらそれ以外の「世界の強制力」とやらは、紛れもなく存在したらしい。物語の筋道に影響しそうな不都合な事を口走ろうとすると、こうして容赦なく言葉を奪われる。
「っクソ」
正直、最高にもどかしい。俺も百年分の過去を全て振り返りながら、ループに全身全霊で愛を囁きたいのに。どうしても、それは叶わない。そのせいで、未だにループにとって俺は「出会って数カ月程度しかない男」という認識なのである。
「……まぁ、別にいいか」
ループに対する想いは正直に告げられる。なにせ、俺からループへの愛は「一回目の俺」から一切変わっていないのだから。
「あぁ、ループ……愛おしい」
「っぁ……ン」
俺は再びループに溢れる愛を囁くと、再びその口に自らの唇を重ねた。ループの恥ずかしそうな表情や真っ赤に染まったうなじを見ていると、体の一部が容赦なく脈打つ。
「うぅ、かみゅ。あの、お、なかが……熱い」
「腹……あぁ、これか」
ループの顔が朱に染まっている理由は、俺の口づけだけではない。自分でも呆れるくらい服の中で主張を続けるペニスは、恥ずかし気もなくループを求め、ただひたすらに熱を滾らせている。
「いや、すまない。コレの事は気にするな」
「カミュ、でも……」
気にするなという言葉に、普段はカラリと明るいループの瞳にしっとりと涙の膜が張った。漏れる呼吸も酷く熱っぽい。
あぁ、堪らない。興奮し過ぎて視界が霞む。気を抜くと腹からせりあがる激しい情動に呑まれてしまいそうだ。
「今はこうして二人で共に居られるだけで最高だからな。いいんだ」
俺の言葉に、ループの潤んだ瞳が大きく見開かれた。
昔の俺ならば、容赦なくループに「繋がりたい」だの「一つになりたい」だのとのたまい、その秘孔に自身の熱をぶち込んでいた。
ループは男だから。勇者だから。俺はこれまでループのせいで死に続けてるんだから、多少乱暴にしたところで別に構いやしない。なんて、何とも最低な理屈を並べ立てながら、身勝手な行為をループに強いてきた。
「あぁ。最低だな、俺は」
ループはずっと俺の為に、終わりの無い繰り返しの中を共に生きてくれていたというのに。
こんな最低な男はループと百年の愛を囁き合う資格などあろうはずもない。
それに、ループの中で今の俺はまだ出会ってひと月も経たない仲間の一人に過ぎない。だとすれば、もう少しだけ時間を置かねば、ループの気持ちが付いて来ないだろう。ただでさえ、出会い頭のプロポーズで戸惑わせてしまったというのに。
「さぁ、我儘を言ってしまったな!ループ、そろそろ本当に皆の元に戻ろうか!」
そう、俺が腕の力を緩めた時だった。
「あ、あ、あの!カミュ!」
「ん?」
ループが慌てた様子で俺に声をかけてきた。未だにその顔は真っ赤で、どこか緊張したようにはくはくと肩で息をしている。一体どうしたと言うのだろう。
「お、男同士のセックスは……お、お尻を使うんだ」
「は?」
「カミュは……その、知らないかもしれないけど……で、できるんだ」
「んーーーーーー???」
ループが、とんでもない事を言い出した!なんだ、なんだ。これは一体どんな状況だ!?
「それに、お尻だけど……そんなに汚くないと思う!ほんと、大丈夫なようにしてるから!」
顔を真っ赤にしながら真剣な様子で口にされる言葉は、俺の予想を遥かに超えていた。
今ループは何と言った?大丈夫なようにしている?おいおいおい。〝してる〟って——。
「ループ、お前。まさか」
「……っは、ン」
俺はとっさにループの尻に手をやると、服の上からその後孔を撫でた。その瞬間、ループは俺の胸に真っ赤な顔を押し付けながら、消え入るような声で言った。
「い、いつでも大丈夫なように……ちゃんと、ナカまで毎日洗って……ひ、広げてあるから、カミュのもちゃんと入る、よ」
震えた。
どうやら、人というのは感情が高ぶると恐怖でなくとも体が震えるものらしい。視界が霞む。呼吸すらままならない。俺は、ループに殺されるのだろうか。
「それも、いいッ」
やはり、ループは俺なんかとは違って凄い奴だ。変えられぬ繰り返しの中、心を闇に覆われる事、なくこうして真っすぐ歩み続けてきたのだから。
「なぁ、ループ」
「な、なんだ?」
しかしながら、俺ときたら心底性根が捻じ曲がってしまった。先ほどまで、俺の言動が世界によって牛耳られているせいでループと過去百回分の愛を囁く事が出来ないと嘆いていたのに!
「その、無知ですまない。俺は戦いしかしてこなかったせいでイマイチそのやり方が分からないのだが……」
今の俺は掌を返したように世界に感謝している!あぁ、ありがとう世界!そう、俺は何も知らない!
「やってみせてくれないか?」
いけしゃあしゃあと口を吐いて出た言葉は、紛れもない俺の本心だった。
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