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修行4:たくさん甘えろ(4)
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何度も何度も問われた。
『俺、師匠の弟子の中で何番目に強い!?』
-----兄ちゃん、弟の中で俺が何番目にすき?
その問いに対し俺は繰り返し、こう答えてきた。
「俺にはお前しか居ないよ」
相手がそう答えて欲しいのを分かっているから、何度問われても俺は繰り返し同じ答えを口にしてきた。飽きもせず、毎日、毎日。
だって、嬉しいじゃないか。「お前しか居ないよ」という答えを望む相手にも、俺しか居ないんだから。
◇◆◇
「シモーン」
俺は一向に帰って来ないシモンを探しに、スラムの街を歩いていた。視界の端に沈む夕日が、スラム街全体を濃い橙色に包み込む。
もうすぐ夕食の時間だ。
「シモン、帰ろう」
「……師匠」
まぁ、探すと言ってもシモンの居る場所は最初から分かっていた。だから、すぐにシモンは見つかった。
シモンはいつもの裏路地で体を丸めて蹲っていた。ただ、以前と違うのはシモンの体が成長して、もう俺の膝の間に納まるのは難しくなってしまったという事くらいだろうか。
「お腹空いただろ?今日の肉は……前より、ちゃんと味が付いてると思う」
「……俺、今日はいい」
「なんで?お前の為に作ったのに」
俺は以前のようにシモンの隣に座り込む事はせず、シモンの目の前に立った。今日はゆっくり話し込む時間はない。今日はこれからも忙しいのだから。
「シモン、お前用に新しい剣も買ったぞ。あ、木刀じゃないからな。ちゃんと真剣だ」
「は?な、んで?」
「だって、今晩から実践のモンスター狩りに行くんだろ?木刀じゃあんまりだ」
俺の言葉に、シモンの目が大きく見開かれた。何をそんなに驚いているのか、俺にはワケが分からない。
「約束したよな?俺に一太刀浴びせたらダンジョンに連れて行くって」
「で、でも」
「でも?」
そう言って、シモンは再び膝を抱える腕に力が籠った。つい最近までひょろひょろだったその腕は、今は筋肉がついて血管の筋が浮かぶ程ガッシリとしてきた。
「あれは、ヤコブが来たから……たまたま、当てられただけだ」
視線を逸らしながらそんな事を言ってくるシモンに、俺はそういう事か、と合点がいった。あれは邪魔が入ったからノーカウントだろ、と言いたいらしい。だから、あんなにヤコブに対して珍しくキレていたのか。
「シモン、戦闘に置いては“運”も実力のうちだ」
俺はシモンのすぐ脇に浮かび上がるステータス画面を見ながら言った。
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名前:シモン Lv:25
クラス:熱心な見習い勇者
HP:2012 MP:297
攻撃力:159 防御力:81
素早さ:69 幸運:17
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ロールプレイングゲームには「幸運(運)」という数値が存在する場合が多い。そして、この数値によって戦闘の勝敗が左右されるなんて事は、よくある話だ。そして、それはまさに人生と同じだと、俺は思っている。
「でもっ!」
「それに、あれは運じゃないよ。シモン、お前の実力だ」
「ウソだっ!じゃなきゃ、あんなに簡単に、師匠に一太刀浴びせられるワケないっ!」
うわ、簡単だったんだ……。
地味にシモンの台詞に肩が落ちてしまう。今やレベルに差はあれど、潜在能力の高さからシモンの実力は、俺より上を行っている。もう、俺はシモンに追いつかれてしまったのだ。
「これだからホンモノの勇者って奴は……」
「師匠?」
俺は周囲をキョロキョロと見渡すと、座り込むシモンの前に腰を下ろした。
「分かった。シモン、コレ見ろ」
「へ?」
裏路地とは言え、さすがに大っぴらに服を脱ぐのは憚られる。俺はシモンにしか見えないように服の前のボタンを外すと、中に着ていた肌着をたくし上げた。
「へ?」
俺の突然の行動にシモンが目を瞬かせている。いや、その反応は正しい。確かに、急に目の前で師匠が自分に対して肌を露出し始めたら、それは師匠チェンジの案件だ。変態の可能性もある。
でもちょっと待って!すぐ終わるから!
「よく見てろよ」
「あ、えと……」
それまでせわしなく視線を動かしていたシモンが、俺の声に従うようにソロソロと顔を上げた。その顔は、夕陽に照らされているせいか少しだけ赤く見えた。
「お前がどんな攻撃をしてくるか、俺は全部分かってたよ」
俺がシモンに見せたかったモノ。それは今日の稽古でシモンが俺に付けた傷だった。
「うわ」
思わずシモンの口から驚愕の声が漏れる。
その傷は既にうっ血して真っ赤に腫れており、俺の体の真ん中を見事に一刀両断するように付けられていた。
「な?しっかり傷が入ってるだろ?」
俺もまさかここまでハッキリと傷が残るとは思わなかった。避けはしなかったものの、ダメージは最低限になるようにした筈だったのに。それだけ、シモンの攻撃力が凄まじかったのだろう。
「よーし、じゃあ今から稽古の検討会に入る」
「検討会?」
「そう、シモンの攻撃のどこが良かったか。コレを避けていたら、どうなっていたか。師匠が解説してやる。ちゃんと聞いてろよ?」
「は、い」
「まずは、この傷」
俺はシモンの腕を掴むと、人差し指で俺の傷を下から上に、付けられたようになぞらせた。シモンの視線は、俺の傷に釘付けだ。
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何度も何度も問われた。
『俺、師匠の弟子の中で何番目に強い!?』
-----兄ちゃん、弟の中で俺が何番目にすき?
その問いに対し俺は繰り返し、こう答えてきた。
「俺にはお前しか居ないよ」
相手がそう答えて欲しいのを分かっているから、何度問われても俺は繰り返し同じ答えを口にしてきた。飽きもせず、毎日、毎日。
だって、嬉しいじゃないか。「お前しか居ないよ」という答えを望む相手にも、俺しか居ないんだから。
◇◆◇
「シモーン」
俺は一向に帰って来ないシモンを探しに、スラムの街を歩いていた。視界の端に沈む夕日が、スラム街全体を濃い橙色に包み込む。
もうすぐ夕食の時間だ。
「シモン、帰ろう」
「……師匠」
まぁ、探すと言ってもシモンの居る場所は最初から分かっていた。だから、すぐにシモンは見つかった。
シモンはいつもの裏路地で体を丸めて蹲っていた。ただ、以前と違うのはシモンの体が成長して、もう俺の膝の間に納まるのは難しくなってしまったという事くらいだろうか。
「お腹空いただろ?今日の肉は……前より、ちゃんと味が付いてると思う」
「……俺、今日はいい」
「なんで?お前の為に作ったのに」
俺は以前のようにシモンの隣に座り込む事はせず、シモンの目の前に立った。今日はゆっくり話し込む時間はない。今日はこれからも忙しいのだから。
「シモン、お前用に新しい剣も買ったぞ。あ、木刀じゃないからな。ちゃんと真剣だ」
「は?な、んで?」
「だって、今晩から実践のモンスター狩りに行くんだろ?木刀じゃあんまりだ」
俺の言葉に、シモンの目が大きく見開かれた。何をそんなに驚いているのか、俺にはワケが分からない。
「約束したよな?俺に一太刀浴びせたらダンジョンに連れて行くって」
「で、でも」
「でも?」
そう言って、シモンは再び膝を抱える腕に力が籠った。つい最近までひょろひょろだったその腕は、今は筋肉がついて血管の筋が浮かぶ程ガッシリとしてきた。
「あれは、ヤコブが来たから……たまたま、当てられただけだ」
視線を逸らしながらそんな事を言ってくるシモンに、俺はそういう事か、と合点がいった。あれは邪魔が入ったからノーカウントだろ、と言いたいらしい。だから、あんなにヤコブに対して珍しくキレていたのか。
「シモン、戦闘に置いては“運”も実力のうちだ」
俺はシモンのすぐ脇に浮かび上がるステータス画面を見ながら言った。
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名前:シモン Lv:25
クラス:熱心な見習い勇者
HP:2012 MP:297
攻撃力:159 防御力:81
素早さ:69 幸運:17
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ロールプレイングゲームには「幸運(運)」という数値が存在する場合が多い。そして、この数値によって戦闘の勝敗が左右されるなんて事は、よくある話だ。そして、それはまさに人生と同じだと、俺は思っている。
「でもっ!」
「それに、あれは運じゃないよ。シモン、お前の実力だ」
「ウソだっ!じゃなきゃ、あんなに簡単に、師匠に一太刀浴びせられるワケないっ!」
うわ、簡単だったんだ……。
地味にシモンの台詞に肩が落ちてしまう。今やレベルに差はあれど、潜在能力の高さからシモンの実力は、俺より上を行っている。もう、俺はシモンに追いつかれてしまったのだ。
「これだからホンモノの勇者って奴は……」
「師匠?」
俺は周囲をキョロキョロと見渡すと、座り込むシモンの前に腰を下ろした。
「分かった。シモン、コレ見ろ」
「へ?」
裏路地とは言え、さすがに大っぴらに服を脱ぐのは憚られる。俺はシモンにしか見えないように服の前のボタンを外すと、中に着ていた肌着をたくし上げた。
「へ?」
俺の突然の行動にシモンが目を瞬かせている。いや、その反応は正しい。確かに、急に目の前で師匠が自分に対して肌を露出し始めたら、それは師匠チェンジの案件だ。変態の可能性もある。
でもちょっと待って!すぐ終わるから!
「よく見てろよ」
「あ、えと……」
それまでせわしなく視線を動かしていたシモンが、俺の声に従うようにソロソロと顔を上げた。その顔は、夕陽に照らされているせいか少しだけ赤く見えた。
「お前がどんな攻撃をしてくるか、俺は全部分かってたよ」
俺がシモンに見せたかったモノ。それは今日の稽古でシモンが俺に付けた傷だった。
「うわ」
思わずシモンの口から驚愕の声が漏れる。
その傷は既にうっ血して真っ赤に腫れており、俺の体の真ん中を見事に一刀両断するように付けられていた。
「な?しっかり傷が入ってるだろ?」
俺もまさかここまでハッキリと傷が残るとは思わなかった。避けはしなかったものの、ダメージは最低限になるようにした筈だったのに。それだけ、シモンの攻撃力が凄まじかったのだろう。
「よーし、じゃあ今から稽古の検討会に入る」
「検討会?」
「そう、シモンの攻撃のどこが良かったか。コレを避けていたら、どうなっていたか。師匠が解説してやる。ちゃんと聞いてろよ?」
「は、い」
「まずは、この傷」
俺はシモンの腕を掴むと、人差し指で俺の傷を下から上に、付けられたようになぞらせた。シモンの視線は、俺の傷に釘付けだ。
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