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17:運命だから①
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「ウォーレン・城・ジラルドさん」
「はい」
ウォーレン・城・ジラルド。
イギリス系アメリカ人の母と、日本人の父のハーフ。
家族からは「ジル」という愛称で呼ばれている。
十二歳までアメリカで育ち、中学に上がる頃に日本に来た。
そして、日本で受けたバース検査で分かった。
「おめでとう、あなた。アルファみたいよ」
俺はアルファだった。
そして、それはどうやら「おめでたい」事らしい。
◇◆◇
俺が、「運命」に疲れ始めたのは、いつからだっただろうか。
『ジル。結婚式どうしようか?』
『……お前はどうしたいんだ?希望はないのか?』
『俺は、こういうの決めきれないから。ジルが、決めて』
『……そうか、分かった』
分かった、と言って俺は資料を見ながら、適当な式場と、適当な料理、適当なスケジュールを手早く組んでいく。
いや、適当という言葉では聞こえ方に語弊があるかもしれない。俺は、きちんと考えて「適したモノ」を選択し「適した場所」へと当てはめていった。
淡々と。そして、粛々と。
『これでいいか?何か不満はないか?』
『うん、ジルが決めた事なら……これでいいよ。ありがとう』
『……結婚式、楽しみだな』
『そうだね、ジル』
静かに微笑む相手に、俺も微笑む。そう、俺はもうすぐ「運命の番」と本当に名実ともに結ばれるのだ。
なんという幸福だ。そう、俺は幸福なのだ。
俺はアルファだ。そして、そんな俺は「運命の番」と巡り合う事が出来た、“幸運な”アルファだ。
「運命の番」
それはアルファとオメガにだけ与えられた、世界が決めた運命の繋がりだ。
「運命の番」は、出会えばすぐに分かる。そう、幼い頃から性教育で教えられてきた。ただ、そんな唯一無二の相手と出会えるのは稀で、一生自分の「運命」と出会えない者も居るらしい。
故に『運命』と番う事の出来たアルファとオメガは、至上の幸福なのである、と。
『ふーん』
そんなモノかと、運命を知らない若い俺は思った。
知らないモノには執着しない。なにせ、その頃……中学の頃の俺には、もっと夢中な事があったのだ。
『次の文化祭は、来場人数を去年の倍に増やす!売上は前年比三倍を目指すぞ!』
山奥の人里離れた男子校。小等部から高等部までの一貫した全寮制のその学園は、昔から各界の著名人の子供が集められる、日本でも有数の進学校だった。アメリカから来たばかりの俺は、そこに入れられた。
『いいか!?絶対に去年よりも……いや、過去のどの文化祭よりも、素晴らしいモノにしよう!』
俺はそこで、生徒会長を務めていた。
俺はアルファで、家柄も申し分なく、ハーフという事も相成って、その見た目の良さから、生徒の人気も高かった。だから、当たり前のように人前に立ち、誰もが無理だと思った事を、その手で成し得ていった。
『おいっ!皆、聞いてくれ!去年より来場者も売上も三倍以上になったぞ!これで来年の予算も大幅に組める!』
正直、毎日が楽しくて仕方が無かった。俺は、昔から、困難や、数字や、勝負事が……大好きで、自他ともに認める負けず嫌いだった。
それは、俺がアルファだからではない。俺は元々、そういう「性格」なのだ。
そんな中、俺は出会った。
自らの“運命”に。
『ジル!コイツ、俺の友達!すっごい良いヤツだから!ベータだけど仲良くしてやってな!』
『……ベータ?』
『っ!』
その出会いは、偶然だった。
いや、偶然を人は「運命」と、大仰に呼ぶのかもしれない。季節外れのやってきた転校生が、俺を『運命』と巡り合わせた。
『お前、ベータなんて嘘だろ』
『俺、ベータです!だって……ほんとに、ベータだったんです……俺も、こんなのっ初めてで』
どうやら、俺の『運命』は、第一次検査の時はベータの診断を受けていたらしい。そして、実際にずっとベータだった。俺と出会った事で、その性が変化したのだ。そんな事、起こるのは稀だ。しかし、それは起こった。
『俺の所に来い、お前は俺が一生守る』
『……ジルッ』
俺は目の前に現れた運命に、そりゃあもう翻弄された。それは向こうも同じだったようで、若い俺はすぐにアイツのうなじを噛んで『番い』になった。コイツのフェロモンが俺ではない誰かを惹き寄せる事が許せなかった。
幼い俺達は「一生」や「運命」という言葉に、ともかく酔っていた。
『お前は、俺のモノだ』
『うん、俺はジルのモノだよ』
番った直後、元々ベータのアイツは周囲からの嫉妬で、そりゃあもう大変な目に合った。「運命」という言葉に酔いしれ、全ての敵からアイツを守った。本能に従ったその行動は気持ちよく、俺を腹の底から歓喜させた。
『じるっ、も……早くキて』
『っはぁ、っは……っく』
定期的に、そして突発的に訪れる発情期には、互いの境がどこにあるのか分からなくなる程、互いを求め合った。
体中が「運命」を求め。そして「運命」からも求められる。腹の底から幸福だと、あの時は心の底から言う事が出来た。
しかし、そのせいで失ったモノも確かにあった。
「はい」
ウォーレン・城・ジラルド。
イギリス系アメリカ人の母と、日本人の父のハーフ。
家族からは「ジル」という愛称で呼ばれている。
十二歳までアメリカで育ち、中学に上がる頃に日本に来た。
そして、日本で受けたバース検査で分かった。
「おめでとう、あなた。アルファみたいよ」
俺はアルファだった。
そして、それはどうやら「おめでたい」事らしい。
◇◆◇
俺が、「運命」に疲れ始めたのは、いつからだっただろうか。
『ジル。結婚式どうしようか?』
『……お前はどうしたいんだ?希望はないのか?』
『俺は、こういうの決めきれないから。ジルが、決めて』
『……そうか、分かった』
分かった、と言って俺は資料を見ながら、適当な式場と、適当な料理、適当なスケジュールを手早く組んでいく。
いや、適当という言葉では聞こえ方に語弊があるかもしれない。俺は、きちんと考えて「適したモノ」を選択し「適した場所」へと当てはめていった。
淡々と。そして、粛々と。
『これでいいか?何か不満はないか?』
『うん、ジルが決めた事なら……これでいいよ。ありがとう』
『……結婚式、楽しみだな』
『そうだね、ジル』
静かに微笑む相手に、俺も微笑む。そう、俺はもうすぐ「運命の番」と本当に名実ともに結ばれるのだ。
なんという幸福だ。そう、俺は幸福なのだ。
俺はアルファだ。そして、そんな俺は「運命の番」と巡り合う事が出来た、“幸運な”アルファだ。
「運命の番」
それはアルファとオメガにだけ与えられた、世界が決めた運命の繋がりだ。
「運命の番」は、出会えばすぐに分かる。そう、幼い頃から性教育で教えられてきた。ただ、そんな唯一無二の相手と出会えるのは稀で、一生自分の「運命」と出会えない者も居るらしい。
故に『運命』と番う事の出来たアルファとオメガは、至上の幸福なのである、と。
『ふーん』
そんなモノかと、運命を知らない若い俺は思った。
知らないモノには執着しない。なにせ、その頃……中学の頃の俺には、もっと夢中な事があったのだ。
『次の文化祭は、来場人数を去年の倍に増やす!売上は前年比三倍を目指すぞ!』
山奥の人里離れた男子校。小等部から高等部までの一貫した全寮制のその学園は、昔から各界の著名人の子供が集められる、日本でも有数の進学校だった。アメリカから来たばかりの俺は、そこに入れられた。
『いいか!?絶対に去年よりも……いや、過去のどの文化祭よりも、素晴らしいモノにしよう!』
俺はそこで、生徒会長を務めていた。
俺はアルファで、家柄も申し分なく、ハーフという事も相成って、その見た目の良さから、生徒の人気も高かった。だから、当たり前のように人前に立ち、誰もが無理だと思った事を、その手で成し得ていった。
『おいっ!皆、聞いてくれ!去年より来場者も売上も三倍以上になったぞ!これで来年の予算も大幅に組める!』
正直、毎日が楽しくて仕方が無かった。俺は、昔から、困難や、数字や、勝負事が……大好きで、自他ともに認める負けず嫌いだった。
それは、俺がアルファだからではない。俺は元々、そういう「性格」なのだ。
そんな中、俺は出会った。
自らの“運命”に。
『ジル!コイツ、俺の友達!すっごい良いヤツだから!ベータだけど仲良くしてやってな!』
『……ベータ?』
『っ!』
その出会いは、偶然だった。
いや、偶然を人は「運命」と、大仰に呼ぶのかもしれない。季節外れのやってきた転校生が、俺を『運命』と巡り合わせた。
『お前、ベータなんて嘘だろ』
『俺、ベータです!だって……ほんとに、ベータだったんです……俺も、こんなのっ初めてで』
どうやら、俺の『運命』は、第一次検査の時はベータの診断を受けていたらしい。そして、実際にずっとベータだった。俺と出会った事で、その性が変化したのだ。そんな事、起こるのは稀だ。しかし、それは起こった。
『俺の所に来い、お前は俺が一生守る』
『……ジルッ』
俺は目の前に現れた運命に、そりゃあもう翻弄された。それは向こうも同じだったようで、若い俺はすぐにアイツのうなじを噛んで『番い』になった。コイツのフェロモンが俺ではない誰かを惹き寄せる事が許せなかった。
幼い俺達は「一生」や「運命」という言葉に、ともかく酔っていた。
『お前は、俺のモノだ』
『うん、俺はジルのモノだよ』
番った直後、元々ベータのアイツは周囲からの嫉妬で、そりゃあもう大変な目に合った。「運命」という言葉に酔いしれ、全ての敵からアイツを守った。本能に従ったその行動は気持ちよく、俺を腹の底から歓喜させた。
『じるっ、も……早くキて』
『っはぁ、っは……っく』
定期的に、そして突発的に訪れる発情期には、互いの境がどこにあるのか分からなくなる程、互いを求め合った。
体中が「運命」を求め。そして「運命」からも求められる。腹の底から幸福だと、あの時は心の底から言う事が出来た。
しかし、そのせいで失ったモノも確かにあった。
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