神様の遊び場

桜羽ひじり

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11話「黒塗りの少女」

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 黄鬼との戦闘を終えた俺は、転移陣の中で意識を失い、夢を見ていた。

「待ってよ●ちゃん! もう僕走れないよ」
「遅いわよ和哉かずや! 早くいかないと神社のお祭り終わっちゃうわよ!」
 
 神社の石段を駆け登っていく少年少女の姿が見えた。
 しかし、何故か時折ノイズが走り少女の名前は聞き取れなかった。

「そ、そんなに急がなくても……まだ始まったばかりだから大丈夫だよぉ……」
「今日は出てる屋台全部回るの! 早くいかないと売り切れのお店がでちゃうかもしれないでしょ!」
「うぅ……わかったから、もう少しゆっくりぃ……」
「もう、全くしょうがないわねえ。ほら、手引っ張ってあげるから早くいきましょ」
「……うん」

 少し上の石段から手を伸ばす女の子。
 少年は恥ずかしそうな、でも少し嬉しそうな表情を浮かべながら少女の手をとる。

「じゃあ、行きましょうか」

 少女は少年に向けてそう言った。
 その時、俺は少女の顔を見た。
 だというのに俺は、彼女の顔を認識できなかった。
 それものそのはず。
 何故なら少女の顔は、初めから画用紙に描かれた絵のように、黒塗りにつぶされていたのだから。

■■■

「うっ……うぅん…………あれ? ここは……?」
「大丈夫ですか……?」
「うわっ! え、え? 誰だ?」

 目を開けると、同い年くらいの知らない男の子が俺の顔をのぞき込んでいた。

「あ、すみません……その、僕は四ノ宮和哉しのみやかずやって言います。あ、怪しい物じゃないです! ここに急に光の柱が立って、様子を見に来ただけなんです!」
「え……? あっ、あー……そっか。俺、転移陣で……」

 さっきまで自分の身に起きていた出来事を思い出した俺は、気を失ってからどれくらい経ったのか、空中に浮かぶディスプレイを確認する。
 ■■■残り1時間23分42秒■■■
 時間はそこまで経っていなかったようでまだ一時間以上も時間が残っていた。

「目が覚めたらまだこの世界……さっきまでの事も現実なのか……」

 そう、自分の中で確認をしていると、黄鬼から受けた傷がないことに気づいた。
 更には身体の痛みは無くなっており、いつも通り身体を動かすことが出来た。

「あれ? ……なんでだ? さっきまでは痛みで全然動かせなかったのに、今は全然痛くない……でも、口の中はまだ血の嫌な味がするし……」

 怪我けががなくなった理由を考えていると、何故か申し訳なさそうに、おどおどした様子で男の子が俺に質問をする。

「あの、起きがけで申し訳ないのですが、茜色あかねいろの、赤色に近い髪の女の子を見ませんでしたか? 高校1年で身長は僕ぐらいなんですけど……」
「女の子? いや、俺は――」

 そこで俺は気付いた。
 この目の前にいる男の子は、草原で腰を抜かしていた男の子だということに。
 女の子ってのはこの子の手を引っ張ってた子か。
 ということは、はぐれたのか?

「ショートの活発そうな女の子だよね? 見てな――」
「え! 知ってるんですか!?」

 言い終わるより早く、食い気味で肩をつかまれる。

「いやいや、鬼ごっこが開始してからは知らないよ? 君が、和哉君が草原で女の子に手を引っ張ってもらってたのを見てただけで、今どこにいるかは知らない」
「あ、そういうことでしたか……」 

 気落ちした様子でうつむき、とても心配していそうな苦しそうな焦っている様な表情を浮かべていた。
 この子にとってその女の子が大切な人だと顔を見ればすぐにわかった。
 そのこともあり、力になりたいと思った俺は一つ提案をする。

「もしよかったら一緒に探そうか?」
「ほ、本当ですか!?」
「なんか困ってるみたいだし、この状況だと一人は危ないからね。手伝うよ」
「――っ! あ、あ、ありがとうございます!! 本当に助かります! …………えっと、お名前は?」
「夢木うつつ。夢を見るの夢、木材の木で夢木、うつつはそのままひらがなだね。あと、そんなにかしこまらなくていいよ、俺も高校2年で一つしか違わないし」
「そう、ですか? ……じゃあ、うつつさんて呼ばせていただきますね。よろしくお願いします」

 あまり変わってない気もするが、敬語の方が話しやすいのだろう。
 俺は手を前に差し出し、呼び捨てで彼に言う。

「よろしく、和哉」

 握手を交わした後、俺と和哉は小走りで林の中を進んだ。
 周囲に目を向けつつも、二人に何があったのか話しを聞くと、どうやら和哉と女の子は転移陣で離ればなれになってしまったらしい。
 俺と同じ様に、ほこらを見つけた和哉と女の子は中から奉納されているアイテムを取り出すと、祠が消えて転移陣が出現した。
 和哉は外から転移陣を調べてると、女の子が一人で陣の中に入り、離れ離れになってしまったと。
 その話を聞いた俺は苦笑いを浮かべずにはいられなかった。
 あんなわなみたいなの、そりゃ誰でもかかるわな……。

「ところで、和哉は光の柱を見てここまで来たって言ってたけど、俺以外に誰かいなかったか?」
「いや、ぼくが来た時には誰もいなかったですよ」
「じゃあ俺の怪我は和哉が?」
「怪我、ですか? うつつさん怪我をされてたんですか?」
「いや、知らないならいい。忘れてくれ」
「……まだ痛むなら、無理をしない方が……」 
「心配してくれてありがとう。でも、もう痛くもなんともないんだ。気を失って起きたらかすっかり治っててな、ははっ、もうこうやって走れるし、よくわかんないけどラッキーだったよ」

 まあ、吐血するほどに内臓を痛めてたはずだから、あんな大怪我一般人が治せるはずがないよな。
 ということは人間じゃない誰かが通りがかった?
 それとも転移陣の副次的効果? 夢の中は自然治癒力が高いとか? 
 まあ、こんな常識はずれな状況を考えれば、きりがないか……。

「うつつさん」
「ん、なんだ? 向こうから人の声が聞こえます」

 指をさす方向に耳を傾ける。
 耳を澄ますと、確かに人の声らしき音が聞こえてきた。

「確かに聞こえるな、しかも複数。もしかしたら、はぐれた子がいるかもしれないな」

 和哉はうなづいて返答すると、一目散に音の方向へと走り出した。

「あ! おい! ちょっと待てって!」 

 和哉の後ろをついて行く。
 木の葉を踏みしめ、地表に露出している大きな根を避けながら走っていく。
 すると、必然的に聞こえる声も大きくなるわけだが、その声にある違和感を持った。

「これって……」

 悲鳴だった。
 女性の甲高い声、男性の野太い声から、大勢の人がパニックになっていることがわかった。
 同時に、この先に鬼がいることも。
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