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5話「夢と現実」
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他の人達が逃げていく間にも俺は、アマテラスの言葉を頭の中で反芻し、考えていた。
アマテラスの説明の仕方には、おかしな点がいくつかあったからだ。
例えば、
『今の段階の君達じゃ、やられに行くようなものだからね』
『じゃあ、頑張って生き残れるよう島中を逃げ回ってね。そこに生き残れる可能性があるかもね』
含みのある言い方だ。
今の段階じゃということは、段階を踏めば対抗できるようにもとれる。
島中を逃げ回ってねという言葉も、そこに生き残れる可能性があるという言葉も、まるで鬼に対抗するための道具があるような言い回しじゃないか。
島内を逃げる時はよく観察しておいた方がよさそうだ。
『5分後にこの草原の中央に鬼を転移させるから、それから更に15分後に鬼ごっこを開始するわね』
20分後に開始じゃなく、わざわざ5分+15分に分割した意味。
この状況下で、冷静に生き残るための判断を下せるかどうかを、見ているんだろうか?
鬼から少しでも離れたいと思うのが心情だが、ここで5分待って鬼の姿を確認しなければ、敵がどんなものなのか、わからない。
もしかしたら空を飛んでいるかもしれないし、猛獣かもしれない。
もしくは俺たちと変わらない人間の見た目かもしれない。
そんな情報もないまま島を逃げ続けるのは困難だろう。
「あー、もしかしてこれ……もう、選抜試験みたいの始まってんのか……?」
「アマテラスは神に仕える巫覡? になってもらうって言ってたし、そういうことか……」
突拍子のないことばかりで頭がパンクしそうだったが、ようやく情報が整理できてきた。
狭くなっていた視野が広がった気がした。
だからか、後ろから聞こえる、せかすような声もよく聞こえてきた。
「――く! 早く立ちなさいよ! ここから離れるわよ! あんた足遅いんだからすぐ追いつかれるわよ!!」
アマテラスの説明が終わった後、全員この草原から離れたと思っていたが、何人かまだ残っている人がいるようだ。
声の方向へと振り向くと、茜色の髪を後ろにまとめる活発そうな女の子が、尻もちをつきながら、震えている黒髪の少年の腕を引っ張っていた。
「ごめん、その……腰が抜けちゃって……僕のことは気にせずに先に行って。あとで追いつくから」
苦笑いをしながら、男の子は言った。
腰が抜けているせいか、気まずそうに、申し訳なさそうに顔を逸らしながら。
「なっ、置いていくわけないでしょ! 久々に会ったかと思えば、全然変わってない! 大体あんたねえ――」
女の子は容赦なく文句の嵐を男の子に向ける。
鬼ごっこ開始前という状況を忘れているのか、男の子への文句が止まらなかった。
俺は、そんな二人の様子をつい見てしまっていた。
「……さっきからあんた、私の顔見ないようにしてるけど、もしかしてまだあの時のこと気にしてるの?」
「…………」
あの時のこと――どうやら、二人はなにか訳ありのようだった。
女の子は溜息をつき、一度うつむくと、何かをボソッと呟く。
少し離れている俺には、何を言ったのかよく聞こえなかった。
女の子は男の子の目の前に膝をつくと、男の子の両頬を掴み、力づくで顔を上げさせた。
「ほら! よく見なさいこのバカタレ!! 昔の傷なんか全然残ってないわよ! それにあの時は私が悪かったんだから、あんたが気にする必要なんてないの! もう何回も言ったでしょ!!」
少年が少女の顔を見る。
一瞬顔が強張るが、少女の顔を見た少年は、すぐに表情を笑顔に変えた。
「……ああ、本当だ……よかった……綺麗に治ってるね」
「――! また、その顔…………まあいいわ。分かったなら良いのよ」
「うん……」
そんな二人のやり取りを横目で見ていると、突然、草原中央に光の柱が立った。
5分が経ち、鬼役の登場のようだ。
光が徐々に消えていくと、そこには――
6人の人と、水に包まれた何かが1体いた。
それらの周りには、円形状に結界の様ものが張られており、まるで檻のようになっていた。
結界の中には、和服を着た、赤髪、緑髪、黒髪の男性、青髪の女性、黄髪の男の子、白髪の女の子がいた。
どの人も髪色は違うが、黒色がベースの二色髪になっていた。
そこで俺は、ようやく気付いた。
6人の人だと思っていたものの頭に角がついていることに。
それが飾りなのか、本物なのかは判断がつかなかったが、今なら本物の鬼だと言われても信じてしまうだろう。
そういう非常識を、この短時間のうちに多く経験した。
「……ここでなら、俺の病気の原因もわかるのかな」
いつの間にかそう呟いていた。
ここに来た時、ここは夢の中だと自分が判断したにもかかわらず。
「あれ、おかしいな……ここは夢の中なんだから、病気の原因もなにもないよな」
目の前で次々に起こる、常識では測れないものが、おとぎ話に出てくるような者が今目の前にいる。
現実なわけがない。
「これは俺の病気が見せてる夢で、現実は教室で寝てるだけ……こんな訳の分からない設定の夢を見ているだけのはずなのに……」
ここが夢の中だと忘れていた。
いや、忘れたわけじゃないか。
心の奥底ではわかっていたのに、アマテラスの話を信じ、鬼ごっこへの対策を考えていた。
生き残るために。
本能が、ただの夢じゃないと言っている気がしたから。
「…………どうにも、いつもの夢と違うんだよな……」
いつもなら、誰かの記憶を追体験するような夢。
それも悪夢だ。
こんなファンタジーチックで自分の意志で動ける空間じゃない。
「……現実にしろ、夢にしろ、死ぬような行動はとらない方がいいか」
気づけば、草原には俺一人だけになっていた。
空を見る。
アマテラスが出したディスプレイのようなものには、鬼ごっこ開始まで13分22秒となっていた。
一度ストレッチをし、身体をほぐす。
深呼吸をした後、意識を切り替えることに努める。
「すぅぅぅぅ…………ふぅぅぅぅ……」
これは、夢じゃない。夢じゃないんだ。
生き残るために何ができる。
考えろ。
そう自分に何度も言い聞かせた後、俺は思い切り大地を蹴り上げ、山を駆け登った。
アマテラスの説明の仕方には、おかしな点がいくつかあったからだ。
例えば、
『今の段階の君達じゃ、やられに行くようなものだからね』
『じゃあ、頑張って生き残れるよう島中を逃げ回ってね。そこに生き残れる可能性があるかもね』
含みのある言い方だ。
今の段階じゃということは、段階を踏めば対抗できるようにもとれる。
島中を逃げ回ってねという言葉も、そこに生き残れる可能性があるという言葉も、まるで鬼に対抗するための道具があるような言い回しじゃないか。
島内を逃げる時はよく観察しておいた方がよさそうだ。
『5分後にこの草原の中央に鬼を転移させるから、それから更に15分後に鬼ごっこを開始するわね』
20分後に開始じゃなく、わざわざ5分+15分に分割した意味。
この状況下で、冷静に生き残るための判断を下せるかどうかを、見ているんだろうか?
鬼から少しでも離れたいと思うのが心情だが、ここで5分待って鬼の姿を確認しなければ、敵がどんなものなのか、わからない。
もしかしたら空を飛んでいるかもしれないし、猛獣かもしれない。
もしくは俺たちと変わらない人間の見た目かもしれない。
そんな情報もないまま島を逃げ続けるのは困難だろう。
「あー、もしかしてこれ……もう、選抜試験みたいの始まってんのか……?」
「アマテラスは神に仕える巫覡? になってもらうって言ってたし、そういうことか……」
突拍子のないことばかりで頭がパンクしそうだったが、ようやく情報が整理できてきた。
狭くなっていた視野が広がった気がした。
だからか、後ろから聞こえる、せかすような声もよく聞こえてきた。
「――く! 早く立ちなさいよ! ここから離れるわよ! あんた足遅いんだからすぐ追いつかれるわよ!!」
アマテラスの説明が終わった後、全員この草原から離れたと思っていたが、何人かまだ残っている人がいるようだ。
声の方向へと振り向くと、茜色の髪を後ろにまとめる活発そうな女の子が、尻もちをつきながら、震えている黒髪の少年の腕を引っ張っていた。
「ごめん、その……腰が抜けちゃって……僕のことは気にせずに先に行って。あとで追いつくから」
苦笑いをしながら、男の子は言った。
腰が抜けているせいか、気まずそうに、申し訳なさそうに顔を逸らしながら。
「なっ、置いていくわけないでしょ! 久々に会ったかと思えば、全然変わってない! 大体あんたねえ――」
女の子は容赦なく文句の嵐を男の子に向ける。
鬼ごっこ開始前という状況を忘れているのか、男の子への文句が止まらなかった。
俺は、そんな二人の様子をつい見てしまっていた。
「……さっきからあんた、私の顔見ないようにしてるけど、もしかしてまだあの時のこと気にしてるの?」
「…………」
あの時のこと――どうやら、二人はなにか訳ありのようだった。
女の子は溜息をつき、一度うつむくと、何かをボソッと呟く。
少し離れている俺には、何を言ったのかよく聞こえなかった。
女の子は男の子の目の前に膝をつくと、男の子の両頬を掴み、力づくで顔を上げさせた。
「ほら! よく見なさいこのバカタレ!! 昔の傷なんか全然残ってないわよ! それにあの時は私が悪かったんだから、あんたが気にする必要なんてないの! もう何回も言ったでしょ!!」
少年が少女の顔を見る。
一瞬顔が強張るが、少女の顔を見た少年は、すぐに表情を笑顔に変えた。
「……ああ、本当だ……よかった……綺麗に治ってるね」
「――! また、その顔…………まあいいわ。分かったなら良いのよ」
「うん……」
そんな二人のやり取りを横目で見ていると、突然、草原中央に光の柱が立った。
5分が経ち、鬼役の登場のようだ。
光が徐々に消えていくと、そこには――
6人の人と、水に包まれた何かが1体いた。
それらの周りには、円形状に結界の様ものが張られており、まるで檻のようになっていた。
結界の中には、和服を着た、赤髪、緑髪、黒髪の男性、青髪の女性、黄髪の男の子、白髪の女の子がいた。
どの人も髪色は違うが、黒色がベースの二色髪になっていた。
そこで俺は、ようやく気付いた。
6人の人だと思っていたものの頭に角がついていることに。
それが飾りなのか、本物なのかは判断がつかなかったが、今なら本物の鬼だと言われても信じてしまうだろう。
そういう非常識を、この短時間のうちに多く経験した。
「……ここでなら、俺の病気の原因もわかるのかな」
いつの間にかそう呟いていた。
ここに来た時、ここは夢の中だと自分が判断したにもかかわらず。
「あれ、おかしいな……ここは夢の中なんだから、病気の原因もなにもないよな」
目の前で次々に起こる、常識では測れないものが、おとぎ話に出てくるような者が今目の前にいる。
現実なわけがない。
「これは俺の病気が見せてる夢で、現実は教室で寝てるだけ……こんな訳の分からない設定の夢を見ているだけのはずなのに……」
ここが夢の中だと忘れていた。
いや、忘れたわけじゃないか。
心の奥底ではわかっていたのに、アマテラスの話を信じ、鬼ごっこへの対策を考えていた。
生き残るために。
本能が、ただの夢じゃないと言っている気がしたから。
「…………どうにも、いつもの夢と違うんだよな……」
いつもなら、誰かの記憶を追体験するような夢。
それも悪夢だ。
こんなファンタジーチックで自分の意志で動ける空間じゃない。
「……現実にしろ、夢にしろ、死ぬような行動はとらない方がいいか」
気づけば、草原には俺一人だけになっていた。
空を見る。
アマテラスが出したディスプレイのようなものには、鬼ごっこ開始まで13分22秒となっていた。
一度ストレッチをし、身体をほぐす。
深呼吸をした後、意識を切り替えることに努める。
「すぅぅぅぅ…………ふぅぅぅぅ……」
これは、夢じゃない。夢じゃないんだ。
生き残るために何ができる。
考えろ。
そう自分に何度も言い聞かせた後、俺は思い切り大地を蹴り上げ、山を駆け登った。
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