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狼は道で倒れているところを見つかったらしい。外傷がなく、薬物の反応もなかったという。車に轢かれたとか、誰かに刺されたとかが死因ではないようだった。薬のやりすぎでそのままぶっ倒れたわけでもない。ただ倒れて、そのまま死んでしまった。
よっぽど、誰かに刺されて死んでいたりしたほうが、狼らしい気もするなと羊は思った。
葬儀のことなどはまったく分からずじまいで、狼の親族だという人が狼のほとんどをそっくりそのまま持って行ってしまったらしい。それ以上もう、狼のことはわからない。
ヤモリが、例のライブハウスに少しだけ残っている遺品があるので羊にも貰ってほしいと言う。羊は断った。そんな物はいらないし、狼との思い出なんてなにもない。だが、ヤモリはなぜか引かなかった。どうしても受け取ってほしいという。だんだん面倒になった羊は、今から行くと言って電話を切った。一度行けば向こうは満足するのだろう思った。知人を亡くした可哀想な自分の演出に俺が必要なのだろう。亡くした友人の知人。くだらない。くだらないが付き合ってやる。可哀想な自分に酔っている人間の顔を拝んでやろう。
ライブハウスについて扉を開けると、入り口のあたりで人が数人集まっていた。羊はそこに向かう。女が泣いていた。それを慰める男。慰める男の肩に手を置く男。うわあ、想像していた通りだ。
「狼の遺品があるって、ここ?」
ひとりが顔を向ける。ヤモリだった。
「あ、羊さん」
羊はヤモリの顔を見た。ヤモリが頬を赤らめる。羊はその表情に一瞬嫌悪を表すと、すぐに目をそらした。テーブルに物がいくつか並んでいる。羊はそこに、ボディピアスをみつけた。自分の口にねじ込まれたあのピアスだった。狼の右耳を思い出す。
羊はそのボディピアスをつかむと、これを貰っていくよと言って踵を返した。後ろからヤモリが声をかける。
「あのっ、羊さん、狼と親しかった奴らで集まって飲もうぜって言ってるんです。また連絡します」
羊は一瞥すると、なにも言わずにライブハウスを出た。
よっぽど、誰かに刺されて死んでいたりしたほうが、狼らしい気もするなと羊は思った。
葬儀のことなどはまったく分からずじまいで、狼の親族だという人が狼のほとんどをそっくりそのまま持って行ってしまったらしい。それ以上もう、狼のことはわからない。
ヤモリが、例のライブハウスに少しだけ残っている遺品があるので羊にも貰ってほしいと言う。羊は断った。そんな物はいらないし、狼との思い出なんてなにもない。だが、ヤモリはなぜか引かなかった。どうしても受け取ってほしいという。だんだん面倒になった羊は、今から行くと言って電話を切った。一度行けば向こうは満足するのだろう思った。知人を亡くした可哀想な自分の演出に俺が必要なのだろう。亡くした友人の知人。くだらない。くだらないが付き合ってやる。可哀想な自分に酔っている人間の顔を拝んでやろう。
ライブハウスについて扉を開けると、入り口のあたりで人が数人集まっていた。羊はそこに向かう。女が泣いていた。それを慰める男。慰める男の肩に手を置く男。うわあ、想像していた通りだ。
「狼の遺品があるって、ここ?」
ひとりが顔を向ける。ヤモリだった。
「あ、羊さん」
羊はヤモリの顔を見た。ヤモリが頬を赤らめる。羊はその表情に一瞬嫌悪を表すと、すぐに目をそらした。テーブルに物がいくつか並んでいる。羊はそこに、ボディピアスをみつけた。自分の口にねじ込まれたあのピアスだった。狼の右耳を思い出す。
羊はそのボディピアスをつかむと、これを貰っていくよと言って踵を返した。後ろからヤモリが声をかける。
「あのっ、羊さん、狼と親しかった奴らで集まって飲もうぜって言ってるんです。また連絡します」
羊は一瞥すると、なにも言わずにライブハウスを出た。
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