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魔女退治を始めます 6

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魔女は恐ろしく強かった。

ゾンビ達と違って聖魔法以外効かないといった特殊性こそなかったけど、物理攻撃も魔法攻撃も耐性が強いのかなかなか効かない。
さらにとんでもない魔法をすごいスピードでばんばん放ってくるんだ。こっちは息付く暇もない。
俺ができるのは、せいぜい後ろからその思考を盗み見て、魔法を打つタイミングや場所を叫ぶくらい。

ガロスさんも、レイシスさんも、ウィルも、俺が頼んだせいでこんなにボロボロになって戦ってくれてるのに……。
今更ながら自分のふがいなさが嫌になる。

「サクヤ様?どうしましたか?」

ゾンビ達は俺を守るように、ずっと側に付いてくれている。三人とも心配そうだ。

「何でもない」

そうだ。落ち込んでいる場合じゃない。
自分の駄目さ加減に直ぐ落ち込むのは悪い癖だ。
少しでも俺にできることを探すんだ。何か手伝えること……。

その時、魔女の攻撃がピタリと止んだ。
不思議に思って様子を見ていると、魔女がわなわなと震えだしたのが分かる。
そしてその後に膨れ上がったのは強烈な怒り。心を読んだままだったので、目が眩みそうな強い激情がそのまま雪崩れ込んできて吐きそうになる。

「サクヤッ!?」
「だ、大丈夫…です。それより、魔女の様子が…」
『おのれ…、よくもよくもよくも…!!!!!』

突然の魔女の豹変ぶりに、俺だけじゃなくてガロスさん達も戸惑っていた。

「ああ。一体どうしたってんだ?さっきの攻撃が効いたのか?」
「いや、先ほどの攻撃なら完璧に弾かれていたぞ」
「それじゃあ、一体……」

『よくも妾の顔に傷をつけたなああああああ!!!!!』

んん?
聴こえてくる心の声に思わず目が点になる。

顔に傷?目を凝らして魔女の顔を凝視する。でも傷なんてついているか?
真っ白い顔には赤い唇が歪んでいるのが見えるけど、他に赤いものなんて見当たらない。
とはいえ、ここから魔女の場所までは距離がある。
魔物の彼らなら分かるかも、とゾンビ達に話を振ってみた。

「あの、魔女が顔を傷つけたってめっちゃ怒ってるんだけど……傷、ある?俺には血とか、全然見えないんだけど」
「あー…」
「まあ、あるんでしょうねぇ。肉眼で見える程のものかは謎ですが」
「針より小さい傷でも魔女にとっては大事ですから。奴は自分の美貌を傷つけられるのを何より嫌うんです」

美への執念がすごい。

ふと、エルフから聞いた助言を思い出した。
『魔女は美に対して、誰よりも強い執念を持っている』って。
それは本当なんだろう。この城に来てゾンビ達からも散々聞いたし、本人の口から出てくる言葉の端々からもそれは分かった。

ただ思うんだけど……、ガロスさんも言っていたように、魔女のいう『美』って外側だけ、見てくれだけだよな。
肝心の中身は、傲慢さや嫉妬、意地悪な性根が凝り固まっていて、お世辞にも美しいなんて思えない。
自分勝手な言動は聞いているだけで、ぶっ飛ばしてやりたくなるほど酷い。

本当の美人は性格も素晴らしいっていうのを聞いたことがあるけど、あれって本当だと思うんだ。
確かにこの魔女は絶世の美女のはずなのに、今の姿は歪んだ心の中が表情にも出て、全然きれいに見えなかった。
ガロスさんが初めて魔女を見た時に『まるで魔物だ』って言っていたけど本当だ。中身だけいえば確実にモンスターだよ。

「あ」

待てよ?

「サクヤ様、どうかしましたか?」
「こうして…、これも追加して…うまく条件付けをすれば…。うん、いけるかも!」

とっさに思いついただけの思い付き。
しかも練習なしの初めての発動。
上手くいくとはとても思えないけど、思いついた以上試さないでなんていられない。

お人好しだって散々言われてる俺だけど、この魔女には本当に腹が立ってんだから!

「おい、魔女!お前の自分勝手な行い、俺は絶対許さねえからな!これでも食らえ!」
「「「サクヤ!?」」」
「むっ!?何じゃこの魔法はッ!」

俺の手からありったけの魔力が魔女に向かって放出される。
怒りのせいで魔力耐性がちょっと緩んでいるようで、俺の魔力でも何とか魔女に届きそうだ。

こんな使い方は初めてだけど、レイシスさんは魔法は細かい部分をカスタマイズできるって言っていた。
だから同じ魔法でも使う人の精度や、使い方で効果がまるで違うらしい。
さらに魔法を極めていけば、工夫次第で色んなことができるんだって。

だからこの思いつきだって、きっと間違っていないはず。
後はきちんと俺の魔法が発動するかどうかだ!いけ~!!!

「ぎゃあああああ!」

魔女の悲鳴が響き渡る。次の瞬間、眩い光が辺り一面を包み込んだ。



◆◆◆



どうなったんだろう。
強烈な光が止み、再び部屋の中は薄暗くなったが、光の落差に目が眩んで辺りがよく見えない。

あっ、しまった!相談せずにいきなりやったから、皆も同じ状態になってるんじゃないか!?

「ガロスさん!レイシスさん!ウィル!皆、大丈夫ですか?」
「びびった~。さっきのはサクヤの魔法?目はショボショボするけど、俺は鼻の方がよく効くから目が眩むくらい平気!」
「おう、こっちも問題ねぇ。ビビったけどとっさに片眼を閉じたからな」
「それより、さっきの魔法は?あれは攻撃魔法ではないようだが…なぜ魔女は悲鳴を上げていんだ?」

不思議そうなレイシスさん。魔法の師匠でもある彼に向けて、俺は笑顔で説明をした。

「はい。俺ができるのは真実の魔法だけ。だから俺ができるその魔法で、魔女が一番嫌がる特大のをお見舞いしてやったんです!」

やがて闇に慣れ、視界が戻って来る。
先程までの危険な殺気は感じないとはいえ、警戒は解かないまま視界の先を注意深く見つめた。

そこにいたのは、真っ黒いヘドロをまとった醜いモンスターだった。
身動きもせずに地面にポツンと倒れている。

「? 新しい魔女の手下か?」
「見たことがないモンスターだ。新種か、合成魔物か?だとしたら厄介な……」

ガロスさん達の会話にゾンビ達が堪らずといった勢いで割り込んだ。

「いえ!あれは手下ではありません!」
「そうです!魔女は例え戦闘用のモンスターだとしても醜い者は許しません!あんな手下を持つはずがない」
「何?じゃあ、あいつは……」

混乱する面々に冷静にウィルが一言呟いた。

「魔女本人だろ?」
「「「はあ?」」」
「だって匂いが同じだ。いくら手下だってここまで同じ匂いには染まらなねーもん」

「ええッ!?言われてみれば……服は同じか?びりびりになってっけど。でも、なんでいきなり、あんな見た目に????」
「真実の魔法……そういう事か、サクヤ!」

レイシスさんがこちらを振り向いたので、こくりと頷く。
その時、目の前の黒い塊がのっそり動き出した。
どうやら意識が戻ったようだ。

「な、何が起こって…?な、なんじゃこの声は!まるで老婆のような…妾の濡れた美声ではない。
そ、それに…手…これが妾の手…?」

皺だらけなのにずんぐりした形の自分の手を見つめて魔女が呆然と呟く。

「お主、お主……、妾に一体、何をした!?」
「魔法を掛けたんだ!人の真実を映し出す魔法!その姿がお前の本性だ!」
「な!何を……」

俺の言葉に呆然とする魔女。
その様子にレイシスさんが愉しげに笑い声を上げた。

「くっくっくっ、面白い。そら、お前も早く自分の姿を確認したいだろう」

レイシスさんが右手を宙に翳し何事か唱えると、魔女の側に水で出来た水球が現れ、薄く広がっていった。
水に色を付けているらしく薄い板状に広がった水は辺りの景色を反射している。どうやら水を操って鏡のようなものを作ったらしい。
それを覗き込むなり魔女は悲鳴を上げた。

「ぎやああああああああ!!!!!!!!!
な、な、なんと悍ましい姿…、これが妾なのか!?」

魔女が絶叫したのも納得だ。
その姿はさっきとは別物だった。
ぶよぶよに弛んでいるのに皺だらけの皮膚はゴワゴワして黒ずんでいる。
自慢だった黒髪は、色こそ辛うじて保っているものの、ほとんど生え残っていない。
何よりシルエットが女性云々を超越して人間離れしたものに変わっていた。ダルマみたいな丸っこい体に小さな手足がちょこんと生えている。
俺からしたらさっきまでの姿より愛嬌があると思うんだけどな…。

「お前、殺してやる!!」

まるで火を噴くような殺気をもろに向けられ、心臓が縮み上がる。
俺が使った魔法は真実の姿。
魔女の醜い本性からこの姿になったけど、こいつが使う強大な魔法とこの姿は相反していない。だから、この姿になっても強さは元のままのはずだ。
魔女が魔法を使わせないように、すかさず俺は声を張り上げた。

「言っておくけど、俺を殺しても魔法は解けないぞ!」

そう、最後に習得したこの魔法は一度掛けると術者の腕を離れるようなんだ。
オークのゴードンさんも、子供みたいに虚弱だったエルバート君も、この魔法で立派な青年に変身した。
俺が側を離れても変わらずそのままの状態は維持される。
俺が解こうとした時に限り解くことができるけど、そうしない限り一生解けることはない。それは術者の俺が例え死んだって同じらしい。
今までこちらの行動を監視してたなら、この魔法のことも知っているはずだ。
思い当たる節があるのか、魔女は魔力をこちらに放つのを思い止まってくれたようだ。

「殺しても解けぬだと…そんな、馬鹿な…」
「あと、こういう醜い行動をする度に、もっと醜くなっていくから!」
「ば、馬鹿な……。『鏡よ、ここに出でよ』……あああ!!先ほどよりシワが増えておる!!」

「なるほど、オリジナルを加えたか。まだ教えていないはずだがこんな緊急時に成功させるとは、なかなかやるな、サクヤ」
「レイシスさん、ありがとうございます。はい、普通だったら魔法を掛けた時の姿のままのはずなんです。そのまま年月相当に老いていくだけ。でも今回の魔法は常時心の姿を反映するようにカスタマイズしてみました」

これなら攻撃も封じれると思ったんだよな。
美への執念を逆に利用させてもらったって訳だ。

「にしてもシワねぇ。すげえな~、俺にはさっきと違いが全然分からんわ」

ガロスさんが横で呟いてるけど、完全に同意。
そんな細かい部分にも気づいて絶望するなんて、本当に見た目に対してすっごい拘りがあるんだなぁ。

「お前は今まで酷い事ばっかしてきたんだろ!少しは反省しろ!!」
「「「サクヤ様~!」」」
「かっこいい!」

俺がビシッと言うとゾンビ達とウィルはこちらをキラキラした目て見つめてきた。
そんな目で見られると照れる!

「ぐぐぅ…、わ、わかった!反省する!ど、どうすれば元の姿に戻るのじゃ!」
「魔法に条件を付けている。
俺を殺しても解けないっていうのは言ったよな?それだけじゃなくて、俺自身でももう解けないようにもした。だから脅したりしても意味ないからな。
解除の方法は一つだけ。お前が本当に心から反省すること。本当に反省して、綺麗な心になったら元の姿に戻れる」
「な!!」

解除方法を聞き、愕然とする魔女。
黙って俺と魔女の会話を聞いていたガロスさんが、堪らないといった様子で噴き出した。

「ぶっ!がははは!」心から反省って!そりゃ~、永遠に無理だろ」

魔女自身もそう思ってるようで絶望って顔をしている。表情分かりにくいけど。

「無理じゃないですよ」

心外だったのでちょっと唇を尖らせつつ、ガロスさんに反論する。
すると魔女が驚いたようにポツリと問いかけてきた。

「……お主は妾にそれができると思うのか」
「えっ?…そりゃ、できるでしょ」

それだけの執念があるんだ。美に対してそこまでの思いがあるなら、どんなことだって頑張れるんじゃないかな。できないことはないだろう。
ただすっごく時間はかかるとは思うけど。

それ以降、魔女はパタリとおとなしくなった。
何か自分の中で整理がついたんだろうか?さっきまでの毒気がすっかり抜けてしまっていて調子が狂う。
そんなことを考えていたら、後ろから不満げな顔をしたウィルが抱きついてきた。

「サクヤ!こんな魔女にまで優しくしないの!」
「してないよ!?」
「だって今の魔女相手なら煮るなり焼くなり自由にできるのに、そのまま見逃してやるつもりなんだろ?普通だったら自分に取り返しのつかないようなことしてきた相手、絶対復讐するとこだろ?」
「それは……」

だってやっつけたって、何が変わる訳じゃないし。
それなら心から反省してくれた方がずっといい。それに

「そりゃ帰れないのは悔しいけど……でも魔女をやっつけたところで同じだろ?
少なくともこれでこれから同じ目に合う人が出ないならそれでいいかなって」

すっかりおとなしくなってしまった魔女の方にちらりと目を向ける。

「本当に反省して……それでいい魔女になりなよ。
そしたら元の姿に戻れるから。いや、元の姿じゃないか。見かけだけじゃない、本当の美人に生まれ変わるよ」

魔女の様子を見てると何だかこっちが虐めているようで居心地悪いというか…、つい慰めるような言葉を掛けてしまった。
我ながら甘いなぁと思う。
でも間違ってないよな?もし彼女がいい魔女になれば、たくさんの人助けをしてくれるかもしれない。そこで救われる人々を思ったら、俺が復讐してスッキリすることなんて大したことじゃない気がするんだ。
俺の言葉を聞くと三人はしばらく黙っていたけど、やがて仕方ないなとでも言うようにため息を吐いた。

「お前って奴は…」
「本当にお人好しというか」
「でもそれでこそサクヤだよなあ」

みんなも魔女の処遇に納得してくれたみたいだ。
よかった、よかった。
これで一件落着……じゃない!
本題!

「そんな事より!反省したなら俺の呪い、早く解いて!」
「わ、妾に指図する気か!」
「反省!」
「ぐぅ…」

魔女が言い負かされている様子を見て、ゾンビ達の目がさらに輝き出している気がするけど、そんなの気にしている場合じゃない!

この旅の一番の目的!
大変だったことも全てはこの為だったんだ!
これで、俺も普通の人間に戻れる!!!
今までのは全部悪い夢!異世界ではあるけど俺は地味に慎ましく生きていくんだ!

魔女は詰まらなそうな顔はしているものの、もう文句は言わなかった。どうやら呪いを解いてくれるらしい。
ついに解けるの?
ああ、緊張でドキドキしてきた。

「…ふん、仕方ない。それ」
「うわ」

魔女の指先から金色の光がふわっと広がり、それが俺の周りをくるくる回る。
そしてしばらくして光が一瞬強くなったかと思ったらスッと闇に溶けた。

「え、これで……解けたの?」

見た目に変化がある訳でなし、体調だって変わらないしで全然実感がない。
戸惑う俺にレイシスさんがフォローをしてくれる。

「サクヤ、ステータスを見てみるんだ」
「あ、そうか!…ステータスオープン」

えーっと、あ、レベルが上がってる。いや、今そんなことはどうでもよくて…。
目をあちこちに動かして隈なく全項目をチェックする。
結果、ステータスのどこを見ても魔女の呪いの文字はなくなっていた。

「ない…ない!と、と、解けた~~~!!」
「やったな!」
「おめでとう」
「よかったな~」

わっと皆にぎゅうぎゅうハグされる。

「皆さんのおかげです。本当に、本当に…ありがとうございました!」
「何言ってんだよ!保護者が世話するのは当然だっての!それに何よりサクヤのためなら、なんだってするって言っただろ?これからもこの俺に任せろって!」
「ガロスさん……」

がはは、と豪快に笑ってくれる。例え魔法を使わなくても本心だって分かる。
ガサツなとこもあるけど優しい人なんだ。はじめからそう思ってたけど、この旅で一緒に過ごして本当によく分かった。
優しい言葉に思わず胸がジンとなった。

ガロスさんはそんな俺の気持ちをなだめるように、優しく頭を撫でてくれた。
あ、そうか。これからはもう撫でられる度に警戒しなくていいんだ。
大きい手。安心する……。



……

…ん?

「サクヤ?」
「どけ!どうした、魔力切れで体調を崩したか?」
「サクヤ?顔赤い…それにめちゃくちゃいい匂いする…これ…」

待った!言わないで、ウィル!

「はぁはぁ…、ちょっ!魔女ッ!呪いは解けたんじゃ!?」

混乱しながら俺が叫ぶ。するとこちらの様子をずっと眺めていた魔女は、その姿になって初めて心底楽しそうな笑顔を浮かべた。

「くっくっく。もちろん呪いは解けておる。
そう言えば、お主は呪いだと言いつつ毎回ずいぶん楽しんでいたのう。どうやらお主の体は、すっかりそれを覚えてしまったようじゃなぁ」
「そ、それって…」
「お主の素質の賜物じゃな♡」
「つ、つまり…体がすでに例のスイッチで欲情すると記憶してしまった、と?」

レイシスさんが喉をゴクリと鳴らしながらこちらを見ている。
対する俺は顔を真っ赤にして、前かがみになって息を荒げている状態だ。
うぅ、ウィルが言わなくてももうバレバレだよね…。

「サクヤ~くんくん。いい匂い…舐めていい?」
「ぐ…ただでさえ、戦闘の後はむらむらするってのに…我慢できねえ!
もう用は終わっただろ!すぐ街の宿まで戻るぞ!」

わちゃわちゃする俺達に魔女が親切顔で微笑む。

「まあ、待て。それならこの城の一室を貸してやろう。
ゾンビ達よ。一等の客室に連れて行ったらいい。あそこなら特大サイズのベッドがある。大人数人が上に乗り運動をしても問題ないぞ」
「いいですね!サクヤ様、我々がすぐにご案内致します」
「ご安心を。どの客室も我らがいつもぴかぴかに清掃済みです」
「そして出来たら我らにもあの魔力をつまみ食いを」

本音が漏れてるんだけど!
…っていうか、あれ?さっきまでみんな戦ってたよね?
なぜか俺以外の一同全員が結託してない?

「ああ、遠慮は一切不要だぞ。妾は親切だからな。それにすぐには終わらんじゃろう。飲み物の用意や風呂の介助など必要に違いない。妾も部屋の中でずっとついていて面倒を見てやろう。安心せい」

うそだ!その顔は俺の絶望したところを楽しんでる顔だ!
っていうか、横から見られるとかありえないから!

「まぁいいじゃねえか。お前の可愛さを見せつけてやればいい」
「そうだな、サクヤの愛らしさを間近で見たら真実の美というものが何かよく分かるだろう」
「クーン…サクヤ~早く行こう~我慢できない…」

言いたいことは山ほどあるのに、頭がピンク色にとろけて何も言い返せない…。

そうして最後の死闘を繰り広げるはずの魔女の城で、俺たちは数日間めくるめく日々を過ごすのだった。
魔女とゾンビ達にに見守られながら。

…ちょっと泣いてもいい?



◆◆◆




数百年後ーー

とある村に住む6歳の少女は、祖父のお話を聞くのが大好きだった。
祖父は若い頃に行商をしていて、国中あちこち旅をしてらしい。
だから色んな地方に伝わる物語をたくさん知っているのだ。

今日はどんな話が聞けるかな?
ワクワクしながらベッドに潜り込む。
ベッド脇のチェアに腰かけた祖父がゆっくり話し始めた。

「昔々のお話じゃ。悪い魔女が悪さを繰り返し、人間たちは困っておった。
そこに遠い遠い国からお姫様がやってきたのじゃ」

お姫様は魔女に呪いまで掛けられて、とっても苦労しながらも仲間と一緒に試練を乗り越えていったらしい。
あちこちで繰り広げられる大冒険。
とうとう魔女のお城に辿り着いたところまで話が進んだときには、握っている拳に汗を掻くくらいむちゅうになっていた。

「そうして仲間達と力を合わせ、とうとう魔女をやっつけてくれたのじゃ」
「すごーい!お姫様、かっこいい!すごく強いんだね」
「ああ、お姫様は強く、世界一美しく、何より心優しい娘だった。悪い魔女はお姫様の力でいい魔女に生まれ変わったそうじゃ」
「へええ、お姫様はその後どうしたの?」
「誰からも愛されたお姫様は何人もお婿さんを迎え、忠実な僕に見守られ、ずっとずっと幸せに暮らしたそうじゃ」
「そうなんだ~よかった~」

今日のお話もとっても面白かったなあ!
少女は大満足して布団に潜り込み、夢の世界に旅立ったのだった。



おしまい
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