苦労性の俺は、異世界でも呪いを受ける。

TAKO

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魔女退治を始めます 1

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もし元の世界に帰れるとしたら。

……俺はどうするのかな。


◆◆◆


「ここが魔女の城…」

想像を裏切らない佇まいに、ごくりと唾を飲み込む。
だって濃い霧が常に漂うような深い森の中、打ち捨てられた古城のような雰囲気で建っているのだ。
エルフの城も大概酷かったけど、ここまで不気味じゃなかった。

「本当にあったんだなぁ」
「ここまで厳重に隠密状態にされているとは……。今まで噂でしかその存在を聞けなかったのも納得だな」

そうなんだよね。
霧もすごかったけど、さらに城が隠れるような隠蔽の魔法まで何重も掛けてあったのだ。
エルバード君の救出作戦で大活躍したウィルの鼻も、魔女の魔術の前じゃ無力だった。
魔女特有の甘ったるい匂いがしない訳じゃない。ただここら一帯全てから漂っていて、場所が特定できないんだって。
どうやら魔女の住処だけあって、エルバード君の軟禁場所に掛けられていた隠蔽魔法とは比べ物にならない強力な状態だったらしい。
だから魔女とつるんでた悪徳領主のワールダーから白の場所を聞いていたのに、全然近づけない状態だったんだ。

そこで意外にも役立ったのが、俺の魔法。
ゴードンさんを好青年に、エルバード君を立派な大人に変えてみせた、真実の姿に変身させる魔法だ。
自棄になってとりあえず使えるものは何でも使おうと魔法を掛けてみたんだけど、これが意外にも対象が人じゃなくてもOKだったのだ。
それで、その魔法を掛けたら何もないところから道が出てきたんだよな。

「う~…。この辺り、いや~な匂いがますますひでぇ。その魔女、めちゃくちゃ性格悪いぞ」
「てめえ、このくそ犬!どさくさに紛れてサクヤに引っ付くな」
「ずっとこんなん嗅いでたら鼻が曲がるだろうが!」
「ちょっと、喧嘩はやめてくださいってば!」
「はぁ…全く緊張感のない…」

確かに。
でもそれがありがたい。今までの苦労も全てはここに来るためなんだと思うと、さっきから落ち着かないんだ。

これでうまくいけば呪いが解けるかもしれない。
やっと普通の体に戻れると思うとすごく嬉しい。

…それに、元の世界にも戻れるかもしれない。
こっちは考えると嬉しさだけじゃないモヤモヤが心を占めるんだけど。

とにかく俺はそんなことを考えてしまって、さっきから緊張が取れないんだ。
レイシスさんにはそんな俺の考えはお見通しらしく、ちらっと顔を覗き込まれて苦笑された。

「サクヤ、大丈夫か?……行こう」

そうだ。今はとりあえず魔女をまず見つけないと!
気合を入れて頷き返す。

「はい!」

朽ちかけた城門を潜って、城の敷地内を慎重に歩いていく。
そして城の入り口にやってきた。目の前には見上げるような大扉。
金属製っぽいし、相当重そう……。どうやって中に入ったらいいかな、なんて考えていたらいきなり横をすごい魔力の塊が通り抜けた。

どおおおおん!!

土煙が静まった後に見えたのは、扉に開いた大穴。

「ええっ!?」

こんな事したら侵入したのがバレバレになるんじゃ?
しかもこれはたぶん高熱の火魔法。勢いで生きてるガロスさんやウィルなら分かるんだけど、冷静なレイシスさんがこんな豪快な真似をするなんてどうしたんだ?

戸惑ってる俺を見てレイシスさんが苦笑した。

「魔女には俺達が城に入ったことなどお見通しだ。それなら無駄に時を掛ける方が悪手だろう」
「そうそう、どうせバレてるなら下手に小細工したって時間の無駄だからな」
「な、なるほど……」
「俺に任せろ、サクヤ。悪い魔女なんかぶっ飛ばしてやる!」
「えっ、ウィル待って。一人でずんずん行ったら危ないよッ」

大穴から俺も城内に入る。
吹き抜け広い空間が広がっている。豪華な作りのようだけど、薄暗いのも合って不気味さしか感じない。
辺りには人気がまるでない。
魔物を手下にうじゃうじゃ従えてるかと思ったんだけど違うのかな。
静寂が逆に不気味で緊張をしながら伺っていると、急に頭の中に声が響いた。

「妾の城に侵入とはなにものじゃ!」

魔女!?
周りを見回してもやはり気配はない。声の聞こえ方も何だか変だ。テレパシーみたいな魔法なのか?
皆も声は聞こえているらしく、戦闘態勢に入って警戒を強めている。

「……む?お前は妾が連れてきた玩具」
「お、おもちゃ?」

人の人生を変えたことなんて何とも思っていない口調に唖然とする。
そんな俺の気持ちなんて気にも留めないようで、魔女はマイペースに話し続けた。

「近くに来ているのは知っていたが、この城は見つけられないはず。
ああ、そういえばお主。変わった魔法を持っておったな」

それって俺の真実の魔法のこと?
その口ぶりだと俺が持っている魔法の特性については魔女は関与していないのか。
魔女はしばしの沈黙の後、愉快気な笑い声を上げた。

「ふふふ、面白い。ちょうど退屈してたところじゃ。
妾のとこまで来れるものなら来てみろ。そうしたら話しを聞いてやらなくもないぞ。まあ、人間風情には無理だろうがな。くくく」


◆◆◆


気づけばさっきと全然違う部屋にいた。
瞬きをしている間に、いきなり当たりの様子だけが違ったのだ。思わずパチパチと二度見した。

「……転移魔法か」
「それも被術者に感知させないほどの即時発動。腐った性根には反吐が出るがさすがは魔女の魔法と言わざるをえんな」

レイシスさんは自身が魔法の専門家だからか、気付かれず魔法を掛けられたことに悔しげだ。

辺りを見回すが、広々とした部屋には何もなくガランとしていた。
僅かな灯りがついただけのがらんどうな空間には窓が一つもなくて、ここが二階なのか地下なのかも分からない。
家具なんかも一切なく、あるのは前後の壁沿いにある両開きの大きな扉だけ。
それも今は堅く閉じられている。

「ここ、城のどこなんでしょう?」
「さあな。だが魔女がわざわざ送り込んだんだ。絶対に罠があるとしか思えねえ。だが、このまんまここでぼーっとしていても仕方ねえし。とりあえず移動すっか」

罠……。そうだよね、相手は魔女だ。何も考えず俺達を城のどこかに転移なんてしたりしないよな。
思わずゴクリと喉が鳴った。
だめだ、弱気になるな。不安だけどガロスさんの言う通り、俺達に進まない選択肢なんてない。
よし、気を引き締めて行こう。

気合いを入れて歩き出したが、すぐ横にいるウィルはじっと立ち尽くしたまま動こうとしない。
緊張する性質とも思えないしどうしたんだろうと顔を覗くと、鼻を抑えて眉をハの字に顰めていた。

「ウィル、どうかしたの?あっ、魔女の匂いがここは強いのか?」
「違う。魔女じゃねえ……。魔女じゃねえけど、ひでー匂いだ。この部屋にいるだけで、マジで頭が痛くなる。
この臭い……、これは生き物が腐った臭い?」

その途端、目の前の扉がギギギ…と音を立てながらゆっくり開いた。
瞬時に三人は俺の前に移動し、戦闘態勢に入る。

コツコツ。カツカツ。コツコツ。
軽やかな足音が響く。

「我が主人が排除せよと命じたのはあなた達ですか」
「魔女を相手に挑もうとは何と愚かな」
「優しい我々がその考えが間違いだったと教えてあげましょう」

現れたのは長身の三人組。
顔立ちが似ているところを見ると兄弟なんだろうか?
燕尾服を着こなすそのシルエットは皆シュッとしていて見た目だけいえばかっこいい。顔も美形だ。

だが、三人が三人とも異常に顔色が悪い。
病人の様…ってのを通り越して、土気色なんだけど!

そんな彼らに向かって、ウィルが叫ぶ。

「この臭い……、お前らゾンビだな!?」

ああ、だから顔色が…って、え!?ゾンビ?

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