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森でまた攫われました 1

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言いたいことはごまんとあるが、レイシスさん指導の魔法レッスンのおかげで俺の魔法は一気に精度が上がった。
そのおかげで晴れて通常戦闘でも役に立てるようになったのだ!やった!

「レイシスさん!火魔法が来ます!」
「了解。氷の盾で防ぐ」
「ウィル!狙われてる!」
「おう!」
「これでもくらえっ!」

ずううううん

巨大なネコ型モンスターがとうとう倒れる。
こちらに大きな被害はなし。ふう、よかった!

そう、俺にできるのは魔物の心を読んで知らせること。
知能があるモンスターならできるかも、と思っていたんだけど、どの魔物も簡単な思考くらいは持ってるみたいで意外に出番は多かった。
まあ、動物も犬や猫ならなんとなく意思疎通もできるしな。虫なんかじゃ難しそうだけど。

ようするに俺のやっていることは、戦闘のサポートのさらにサポートである。
…いや、初めに比べたら少しは役に立ててるはず!できることを頑張ろう、うん。

「サクヤ、やるじゃないか。戦闘がずっと楽になった」
「そうですか?それなら嬉しいけど」

レイシスさんにそう言ってもらえるのは嬉しい。
ただこの人は基本的に紳士で優しいからな。お世辞かもしれないけど。
それでもいわば魔法の俺の師匠である彼にそう言われると自然と頬が緩んでしまう。
そうした本音もこの魔法を使えば真偽はすぐ分かるんだけど、俺は練習の時と敵相手以外にはこの魔法をまだ使ったことはないし、これからも使う気がない。
心を覗くのは便利だけど、それじゃ本当の信頼は生まれないと思うしな。

「ふふ…、相変わらず謙虚だな」
「でも魔力がどうしても足りなくなるから使いどころをもっと工夫しますね」
「ああ、規格外の魔法だから仕方ないが消費量が半端じゃないからな。今のように小まめに発動と解除を繰り返して節約するのはいいアイデアだ」

褒められたのが嬉しくて思わず気の抜けた顔で笑ったら、口元を手で覆い「…まぶしい」と呻かれた。
確かに晴れて太陽も出てるけど、俺と話してるから見上げるような体勢でもないのにどうしたんだろう。

「ゴホン。サクヤは十分頑張っているぞ」
「ありがとうございます。ただ俺の魔法は直接攻撃できる訳じゃないし。本当はもっと役に立てる魔法が使えたらもっとよかったんだけど……」
「ふふ。向上心が強いんだな。
嘆く必要はない。魔法は工夫次第でどこまでも可能性があるものだ。使い方はもちろんだが、同じ魔法でも術者の理解度やレベル、想像力で効果も質も全く変わるくらいに。さらに対象範囲の変動、発動条件の追加などカスタマイズしていったら際限がない」

へ~、さすが魔法の専門家だ。詳しい!
俺はまだレベルを上げて使える魔法を増やしたり、使い方をちょっと工夫したりくらいしかできないけど、頑張ればいくらでも先はあるらしい。、魔法って奥が深い。
そうだよな。グチるよりも努力が先。気合いを入れ直していると、レイシスさんは励ますように俺の肩を優しく叩いてくれた。

ほんとにいい人なんだよな~…。
こういうところを知ってるから、先日の鬼のお仕置き事件も結局うやむやに流してしまった。
まあ、魔法は本当に上達したし…う~ん…いいよな?

「サクヤ―!どう?俺の活躍しっかり見てた!?」

あれから正式にウィルはパーティーに入った。
二人はあくまで魔女のとこまでの臨時メンバーだって口を酸っぱく言ってたけど。
それでも二人がウィルのことをちゃんと認めてるのは知っている。
戦闘能力が高いのはもちろんなんだけど、獣人ならではの能力がとにかくすごいのだ。
この前の街で罰だってことで大量の買い物プラス人探しを命じられてたんだけど、人探しの方は正直無理だって思っていたらしんだよな。なんでも目当ての占い師はかなり謎な人物で見た目も不明。神出鬼没で気まぐれに店開きをするらしい。
それを自慢の聴覚視覚嗅覚をフル活用し見つけ出したのでレイシスさんも驚いていた。
それで無事に占いをしてもらえたお陰で、魔女が今住んでいる居場所をさらに絞れることができたのだ。

うーん、ウィルはやっぱりすごいなぁ。
まあ俺としては能力がすごいから仲間になって欲しい訳じゃなくて、子供だからほっとけないっていうのが一番だ。
だからこうして一緒に行動できてるってことがうれしい。
どうせ自分の街に戻らないなら、側にいて一緒に行動した方が安心なんだよね。

「俺、すっごい頑張っただろ~?ほめて!」
「ウィル。うん、すごかったな。あのモンスター、ウィルの方にずっと気を取られてたし」
「サクヤ!それなら止めを刺した俺のが活躍してんだろ!?」
「ガロスさん!?は、はい。すごかったです」

ウィルは大きな図体にもかかわらず言動は弟みたいな感じでなかなか可愛い存在だ。褒めて伸びるタイプっぽいし俺は気づいたことがあるたびにこうして声をかけている。
だけどガロスさんも毎回こうして褒めを要求してくるんだよな。
あれ?この人ってすごい冒険者なんだよね?今更俺が褒めないでもすでにみんなにすごいって言われまくってると思うんだけど…。

まあ、何はともかく4人に増えたパーティーは賑やかで、なかなかいいチームだと思う。

あと何より嬉しいのは、4人パーティになってから夜は一人寝を死守しているのだ!
前回、開けてはいけない扉が見えた気がした俺としては、この冷却期間は本気でありがたい。

「まあ、サクヤは体力がないからな…。野宿の間は無理をさせるわけにもいくまい」
「ワンコロ、昨日みてえに抜け駆けしようとしたら、また吊るすからな」
「オッサンこそ、こそこそサクヤのテントに入ろうとしてたじゃねえか!俺の耳をごまかせると思ってんのか」
「全く貴様らは?欲望の塊だな!時と場所をわきまえろ!」
「む~街にでたらめっちゃするから!」
「同じく!」
「言うまでもない」

あ、また3人でなにやら盛り上がっている。
口喧嘩も多いけどなんだかんだ言って仲がいいんだよな。


◆◆◆


テントの中で一人目を閉じながら、とりとめもない事を考える。

魔女を探す目的で旅に出たんだけど、冒険者生活は案外楽しい。
ガロスさん達もこうして普通に過ごす分には、面白いし頼もしいし、一緒にいてすごく心地いい。
あの変な体質が治ったら、冒険者になるのもいいかもなぁ。

それでできたらでいいんだけど……、このパーティに加えてもらえたら嬉しいな、なんて。

……。
でもそれなら今よりもっと役立つようにならないと無理だよな。なんたってB級冒険者だ。
ウィルだって冒険者としての等級こそ低いけど実力はすごいんだし。

うん、魔法の練習をもっと頑張ろう。

……。
魔女に会って、呪いを解いて。
それだけでもすごく嬉しいんだけど。
もし…、もし呪いを解くだけじゃなくて、魔女の力で元の世界に帰れることができたら?

おじさん、おばさん。
両親が死んでからずっとお世話になったし、早く大人になって恩返しをするのが夢だった。
それに人のために役に立てるような人間になりたくて介護士になるためにずっと勉強してた。

もちろん元の世界に帰れるなら帰りたい。
帰りたいんだけど……、なら代わりにこの世界を捨てれるのかって言われるとすぐに頷けない自分がいる。

色んな人と知り合って、もうとっくにこの世界にも情が移ってしまった。

……やめよ。
ここでぐるぐる考えたって意味がない。今できるのは早く寝て明日に備えることだ。


◆◆◆


目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。
以前に通ったエルフの森を思い出す。
魔女の城を目指すにはこの森を抜けないといけないらしい。

森に入る前にその傍にあった小さな集落に立ち寄って、情報収集をすることになった。
俺は顔を出すとだめらしくフード付きのコートを着て後ろについていくだけだけど。
畑仕事をしているおじさんにさっそくガロスさんが声をかける。

「あの森に入るのか?あそこは確かオークが住み着いていて村人は誰も近寄らん。止めておきな」
「オークくらい俺らにかかりゃ問題ねえ……が、妙だな。しばらく前から居座られてるのに討伐依頼出してねえのか?」
「うーん、それがなぁ。それらしきもんを見たって話はよく出るんだが今んとこ被害は出てねえんだ」
「オークが?あいつら村を見つけたら考えるより先に襲ってくるだろう」
「そうなんだよなぁ。だが見たやつの話を聞くと見間違えとも思えねえし……。ああ、群れでいるのは誰も見てねえぞ。どいつの話を聞いても見かけたのは一匹だけだ。たまたま群れからはぐれてこの辺をうろついていただけだったのかもしれねえな。被害がないのは群れに戻ろうとこの森から出て探しに行ったからかもしれん。だが用心に越したこたぁねえからな。村じゃずっと森は避けてるぞ」

レイシスさんが眼鏡をくいっと上げて呟く。

「ふむ、聞いた限りではオークではなさそうだな。オークなら絶対に群れをはぐれたりしない。仕組みは謎だがどうも奴らの間だけで情報の共有がされるらしい。たとえはぐれそうになってもその伝達によりはぐれることなく群れの場所に戻れるし、人間を発見したなら群れに信号を送り大挙して村に押し寄せてくるはずだ。姿が似た人型の魔物ではないか?」
「?」
「ああ、サクヤは知らないか。オークは習性として群れて生きる魔物なんだ。
知能がかなり低いから攻撃事態は単純だが、数で攻めてくる上に個々の攻撃力も高く頑丈だ。そしてオークは人間のメスを好む。力が弱く孕みやすいからな。そのため村の存在に気づいたらすぐにメスを奪いに襲撃してくるため、大抵は発見情報があればギルドに討伐依頼が出されるのだ」
「コワ…」

下手なホラー話の100倍怖いんだけど。
モンスターが大挙として押し寄せてくるのはもちろん、大事な家族が攫われるかもしれないなんて想像しただけでも怖すぎる。

「安心しろ。今回はオークではないようだ。だが気を付けるに越したことはない」
「もしオークだったら、サクヤなんかすぐに攫われてヤられちまうからな!絶対に近づいちゃダメだぞ!」
「いやいや、攫うのは女の人だけなんでしょ。まあ戦える自信はさらさらないので逃げますけど」
「サクヤはわかってなーい!こんなに美味しそうなメスの匂いなんて、そうそうないんだよ!?」

そんな会話をした数時間後。


さっそく攫われました。


何故!?
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