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魔法を使ってみました 2
しおりを挟むふぅ、ひどい目にあった…。
異世界じゃ日本式の遠回し表現はタブーだと実感した。
半ば耐久レースの心境で次々に詰め込まれてたもんな。
どれも美味しかったけど量がエグイ。
ジュースを飲んで一息つく。
あの後ガロスさんは、ホットドッグに骨付き肉までペロリと食べてた。
しかもどれも俺の3倍は買っていた。
お店の人も不思議そうにはしてなかったから、きっとこの世界ではあのくらい食べるのは珍しくないんだろう。
まあ、体格差もあるしな。
それにしてもこのジュース美味しいな。
甘すぎないし、優しい味わいはちょっとミックスジュースみたいな感じで、なんとなくほっとする味だ。
それにキンとしっかり冷えてるから、歩き回って渇いた喉に気持ちいい。
何気なく器を揺らすと小さくカランと音がした。
…氷?
こんな時代に冷凍庫なんてもうあるの?
なんとなくだけどこの世界は中世くらいの文明だと思っていたから、思った以上の科学の発達具合に驚いた。
あれ、でも屋外で冷凍庫なんて用意できるのかなぁ。
向こうの世界とは仕組みが違うとか?
不思議に思って屋台を覗く。すると注文を受けてジュースの用意をする店員さんの手元が淡く光った。そして光が消えたかと思ったらコップの中に小粒ながら氷が出現した。
すごい!!魔法だ!
気を付けて回りを見れば、それはこの店に限らなかった。
フードを少しずらして屋台を伺う。
豪快に肉の丸焼きをしてる店では店員が横から火を出しているし、鍋に手をかざして水を貯めてる人もいる。
そうだ。
思い返してみればここは剣や魔法やモンスターのファンタジーな世界なんだった。
こうした生活面でも使うことができるのか。めちゃくちゃ便利だなぁ。
「みんな魔法が使えるんですね!」
「ん?まあ、人によるけどな。半々くらいか?俺なんか魔法はからっきしだしな」
「へえ~…」
「そんなに珍しいか?この辺の商売人がつかう魔法なんて初歩のだろ?」
「すごいですよ!俺のいた世界じゃ魔法なんてなかったから…わっ、すごい…あの人雪を作ってる…」
魔法で出来る細かいかき氷につい見入ってしまう。
まるで映画の中に入ったみたいだ。
いきなり知らないとこに飛ばされて散々な目にあったけど、今初めて異世界にワクワクしてるかもしれない。
「ぐ、かわいい…」
「?」
「ごほッ、ってかサクヤ。お前も魔法使えたじゃん」
「え?使えないですよ。そりゃできたら楽しいけど」
「ほら、昨日見たろ?ステータス。あそこに書いてあったろ?」
「ああ!」
そういえばあった。
魔女の呪いの方に目が行ってすっかり忘れてた。
「確か…真実の魔法だったっけ?どんな魔法なんですか?」
「んー聞いたことねえな~、俺が魔法に詳しくねえってのもあるけど火とか水みたいにメジャーなやつじゃないし。
レイシスに聞けば分かんじゃねえ?アイツ魔法オタクだから、自分が使えない魔法にもすっげえ詳しいぞ」
レイシスさん…
先ほど向けられた強張った顔を思い出してずーんと落ち込む。
「どんな魔法か知らねーけど役に立つかもしんねえし。魔法を一回も使ったことがないなら、町を出発する前に使えるように練習しといた方がいいだろ」
「使い方はやっぱりレイシスさんに聞いた方がいいんですよね…」
「? どうした?魔法を使いたいんだよな?」
「それはもちろん使ってみたいけど…俺、レイシスさんに嫌われちゃったみたいだから、教えてもらうのも悪いなあって思って」
「はぁ?まさか本気で言ってんの?」
「へ?」
「ないない。むしろサクヤのことが気になって仕方ねえだけだって。態度悪いのは照れてんだろ。
あいつ女嫌いがものすごいからさー、かといって男にもいかねえし。下の話も全然のらねえし、ほんとつまんねーやつなんだよな。だってあの年で童貞だぜ?信じられる?」
え!
ヒゲやムキムキマッチョなところはともかくヤンチャでどこか子供っぽいガロスさんに比べたら、レイシスさんはいかにもできる大人の男って感じなのに。
正直意外だ。
うーん、でも世の中には恋愛に興味ない人だっているしな。
俺だって恋愛なんて大して興味なかったし、彼もそういうタイプなのかもしれない。
むしろそうだとしたら、そんな潔癖そうな人に無理やり昨夜あんなことをしてしまった罪悪感が半端ない。
はぁ…俺が悪いんだけど、いや一番悪いのは魔女か。
ガロスさんは嫌われていないって慰めてくれてるけど、レイシスさんのあの鋭い目つきや、俺との距離の取り方を見るに、明らかに俺のこと嫌がってるよなぁ。
ただ気は重いけど、このままギクシャクしたままじゃ問題なのは確かだ。
レイシスさんは今朝になっても俺を旅には連れて行くのは同意してくれていたし、俺の旅支度準備についても何も言わなかった。
約束をした以上きちんと面倒を見てくれるつもりなんだろう。本当に優しくて義理堅い立派な人だ。
とにかく頑張ってこれ以上迷惑かけないようにしないと!
まずは何とか和解して、少しでも役に立てるよう魔法の練習を頑張ろう!
◆◆◆
午後からは宿屋でレイシスさんと魔法の講義になった。
ガロスさんに無理やり引きずられてきたレイシスさんは、先ほどから厳しい顔で窓の外を見つめたまま動かない。
ちなみにガロスさんはレイシスさんを連れてきた直後、旅に必要な食糧品を買ってくるといって出て行ってしまったのでこの部屋には二人きり。気まずいことこの上ない。
本当なら自分を嫌っている人に近づくなんてストレスを掛けてしまうからよくないことなんだろうけど…。
でも俺は魔法を使えるようになりたい。
只でさえ2人にはすごく迷惑を掛けているんだ。だから自分にも旅の助けになるような力が少しでもあるのなら身に付けたい。
覚悟を決めて、大きく息を吸い込むと声を上げた。
「あ、あの!時間を取らせてすみませんが、俺に魔法の使い方教えてください!
よろしくお願いします」
「うっ、分かってる。
んんッ…ごほん。時間が勿体ないな。さっそく始めよう」
「はいッ」
「君は魔法は全く扱ったことがないんだったな…。
まず魔法は生まれつき使える者と、使えない者がいる。これは鍛えてどうにかなるものではなく生まれついての体質だ。
さらに使える者も、全ての魔法が使えるわけじゃない。
自分に適性のある魔法しか拾得することはできない。
私の場合は水と氷が一番相性が良かった。その他にもレベルは落ちるが雷、空間魔法も使えるな。
君の場合だが、まず魔法の使用は問題ない。
むしろこのレベルでその魔力量はすごい。かなり魔術に長けた素質を備えていると言える。
次に属性についてだが、確か『真実の魔法』といったか…これは私でも聞いたことがないな。使い手の少ない希少魔法の一種だろう」
「じゃあ、俺は火の魔法とかは使えないんですか」
がーん。
火とか水とか、こういかにも強そうな魔法が使えたら恰好よかったのに…
『真実の魔法』って何かわからないけど、絶対地味な気がする。
「いや、まだ取得していないだけで他にも属性を持っているかもしれない」
「でも昨日の見たステータスじゃ、その変な魔法しか乗ってなかったですよ?」
「『ステータスオープン』では簡単な情報しか見られない。あの時のように目を閉じて今度は『プライベートオープン』と唱えてみなさい。そうしたらもっと詳しいことが載っているはずだ」
言われた通りに目を閉じて集中してみる。
確か手のひらが暖かくなるような感覚だった。…うん、この感じ。
次に小さく「プライベートオープン」と呟くと、瞼の裏側…いや、頭の中か?昨日のようなパソコン画面が現れる。
おお…昨日よりももっといろいろと書いてある。
昨日は出身が日本までしかなかったけど細かい住所まで書いてあったり。
なるほど。さらに詳しい情報はむやみに見せないで済むように本人にしか見えない仕様なのか。
えーと…魔法の欄は…
「あっ!光属性ってあります!」
「光属性を持っているのか…。鍛えれば回復魔法も使えるようになるかもしれん」
えっ、すごい!それなら二人の役に立てるかもしれない。
浮きたつ気持ちのまま読み進めていたが、続く文面に思わず眉を寄せた。
「括弧して、自己修復特化型とありますが…これは一体…」
「聞いたことがないが…、専用というならサクヤ本人にしか効かないということか。詳細はないのか?」
「詳細…、発動なしで自動で発生。現在lv0。レベルの上昇と比例し修復効果が増大する。
ケガの治癒、状態異常無効化、疲労回復力アップ、精神汚染防御、身体の柔軟性アップ、アンチエイジング効果、細胞活性化による美肌美髪化…」
自分だけとか、意味ねぇ~~~ッ。
いや、ありがたいんだけど。病院とか健康保険なんてなさそうなこの世界だからケガや病気のリスクがなくなるのは、とってもありがたい。
ただ二人のために役立てるとぬか喜びした後だけにガックリくるのだ。
しかも効果欄の後半に至っては意味不明だし…これって必要か?
「すごいな…それぞれの効果を持つレアアイテムはあるが、それを初めから兼ね備えているなんて。しかも複数…もはや神による『加護』といってもおかしくない」
目を開けてレイシスさんの表情を見るに、俺が思っている以上にすごい能力のようだ。
うーん、でも加護があっても呪いもあるしなぁ、俺。
プラスとマイナスが合わされば平和に…ってならないし。
どっちもない平凡な体が一番よかった。
まぁ、ないものは仕方ない。次行こ、次。
再び瞼を閉じる。
今度はすでに取得魔法として載っていた『真実の魔法』について詳しく見てみる。
真実の魔法、lv1『偽りの言葉に罰を』
えーと、対象者と手を繋ぎ魔法を発動。対象者が偽りを述べたら即時、衝撃波を与える…。
なお、衝撃波によるHPダメージは0である。
何これ…この戦いの上で一切役に立たなそう…。
これっていわゆるあれじゃない?ウソ発見器。
モンスター相手にウソを見破ってどうする!
黙り込んだ俺を不審に思ったのかレイシスさんがこちらを伺ってくる。
こんな情けない魔法、非常に言いづらい…。
でも黙っているのも失礼だ。笑われるのを覚悟で書いてあったことを説明した。
レイシスさんは意外にも真剣に話を聞いてくれた。
「それは…ある意味、非常に恐ろしい魔法かもしれん」
へ?
ええっ?ダメージも当てられないのに?
「とりあえず実践してみよう。取得しているため魔法はすでに使えるはずだ」
「えっ、どうやって?呪文とか唱えるんですか?」
「ステータスを見た時を思い出すといい。あの状態と同じ様にまず魔力を両手に巡らせる。あとは使う魔法を頭の中でしっかりイメージすれば発動するはずだ。呪文はいわば意識の切り替えを行いやすくするためのツールだな。あくまで自分がイメージを固定しやすくするためのものだから一つの魔法に特定の呪文があるというようなものではない。もちろんイメージが明確にできるなら呪文を唱えずとも魔法の発動に問題はない」
思ったよりシンプルな仕組みでホッとする。
「じゃあ、さっそく試してみてもいいですか?」
はい、と両手を上にしてレイシスさんへ差し出す。
「え?」
「え?」
「…」
「あの…、この魔法を使う条件に手を握るって」
「そ、そうだったな。わかった」
レイシスさんはぎこちなくこちらに近づくと、怖々と俺の手に自分の手を重ねた。
チラリと顔を見上げると口を真横に引き結んで真っ赤になっている。
…うう、これって明らかに昨日のこと思い出してるよな。こっちまで辺な気分になってきた!
そうだつい昨夜のことなんだ。この大きな手をぎゅっと握ったまま俺は…。
ハッ!違う!今は魔法の練習!
ぶんぶん頭を振り気を取り直す。
「えーッと、俺が適当に質問するので、嘘を言ってもらえますか?」
「わ、わかった」
お互いの手汗がひどい。
この魔法の練習は何だか心臓に悪い。なるべく早く覚えないと。
まず深呼吸して気持ちを落ち着かせる。その後は?えーと、まず魔力を巡らせて…、うん、手があったかくなってきた。その後は魔法をイメージ…
…
これでいいのかな?
「それじゃあ、いきます。
え~、レイシスさんが一番得意なのは火の魔法ですか?」
「…違う。ぐっ!!!」
途端に下を向いて、レイシスさんか悶え出す。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。雷魔法みたいな電撃が体を駆け抜けた…
実際に攻撃力はないようだが、これで平静を装うのは難しいだろうな」
魔法は無事に使えたようだ。
ただ派手なものと違って目に見えないからあんまり実感がない…やっぱ、地味…
俺がため息をついていると、目の前から思わずといった呟きが漏れた。
「これはすごいな…」
「ええ?めちゃくちゃ地味だと思いますけど…、使う場面も思いつかないし」
「ふっ、サクヤはまっすぐ育ったのだな」
あ、笑った。
口元がわずかに綻んだだけだけど、今朝からずっと厳しい態度だったから、表情がわずかに緩んだだけでもほっとする。
だけどこの魔法がすごいというのは疑問だ。
俺が落ち込んでいるから励ましてくれただろうか?
「例えば、警備兵などは喉から手が出るくらい欲しい能力だろう。
怪しい容疑者を捕まえたあとの尋問の時間がかなり短縮できる。
そういう意味では国の騎士隊も同様だな。拷問が楽に終わる」
ひえっ。
「それならまだいい。
スパイとしても優秀だ。どんなに相手が隠そうとしても推測さえできて言えば真偽が問える。
国の隠密はもちろん、闇組織のやつらもそんな力があると知れば目を付けるだろう。
…この能力はなるべく人に知らせないほうがいいな。下手をすると誘拐されかねん。
後でステータスを誤魔化す魔道具も買い足しておこう」
さすが異世界。かなり怖い使い道があるようだ。
必死にコクコク首を振る。
「魔法は使い始めは発動率が低い。
特にこの魔法の場合、100パーセント発動しないと審議判定として使えないな。
もう少し練習して精度を上げよう」
そのこと自体には納得するんだけど、それってレイシスさんをずっと実験台にするってことだよな。
「いや、それは悪いですよ!何か他に練習方法はないんですか?」
「ない。とにかく数をこなすのが一番早い。これでも魔法耐性はかなり強いんだ。
ダメージ自体はほぼないのだし心配するな」
「~~~っ。じゃあ、本当にすみません!しばらく練習相手をお願いします!」
応援ありがとうございます!
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