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いきなり魔物に襲われました 2

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◆◆◆◆



ざざっ



「んー?、確かこっちから悲鳴が聞こえてきたような…いたいた。ホラ、レイシス来いよ」

「はあはあ、全くお前は…一人で先走るな!

俺は魔法専門なんだから体力馬鹿の貴様には付き合いきれんと何度言ったら分かるんだ。

全く…ふ~…。

ふむ、これは大物だな。途中で鳴き声が聞こえなくなったが、捕食中だったか」



茂みをかき分けた先には巨大に成長した『モンスターフラワー』が蠢いている。

花が膨らんでいるからきっと中に誰か入っているのだろう。

こりゃあ、ついてる。

取り込まれたやつにゃ気の毒だが、この花の蜜を取るには生贄は不可欠。俺らのどっちかが囮になるか、代わりになる生き物を用意しないといけないから面倒なんだ。

でもこれなら目的のブツが即手に入る。



いっちょ行きますか。

相棒に声を掛けると俺は地面を蹴って飛び上がった。



「じゃあ早速やるか、援護頼む」

「ちょッ…ガロス!貴様~~~っ!

注意した直後に単独攻撃に出るとは、貴様の頭は鳥以下か!!」



後ろから何か喚いている声が聞こえるが、しーらね。

別にこのモンスターは厄介じゃあるが、ケガをする心配もない。そんな狩りでちんたらしてられるかってんだ。

俺は空中で腰の剣を引き抜くと、花の中心部分に突き立てた。



にぎゃっ!



獣のような鳴き声を立て、口からごろんと塊を吐き出す。

その後抜いた剣をさらに横に払い、茎から花を切断してやる。

すると花と触手はしばらく不規則に動き回っていたが、そのうちおとなしくなった。絶命したようだ。



「へっ。俺にかかりゃこんなもんよ。ッてぇっ!」



いい気分で獲物を見下ろしていると、いきなり後頭部に衝撃がきた。

ったー…氷か?

レイシスの奴、気に入らないことがあると味方にまで攻撃魔法を掛けてくって性格悪すぎねえか?



「いってえな、何すんだよ!」

「お前ッ!ちょっとは考えて行動しろと言ってるだろう!中の捕食者に刺さったらどうするんだ!」

「あ~?俺を誰だと思ってんだよ。ランクBの冒険者だぜ?そんなヘマするかよ」

「万が一がない保証なんてないだろうが。

もしそれで市民に傷でもつけてみろ、ランクどころか冒険者の資格すら剥奪されるんだぞ。

緊急事態でもないんだ。もう少し考えてより確実で安全な方法でだな…」

「あー!うるせえうるせえ!お前は俺の母ちゃんか!

上手くいったならいいじゃねえか。中の奴も結局ケガしてないだろ?」

「!」



レイシスがハッとして、花から出てきた人物へと向かう。

なんだよ、小言言ってたわりにはお前も花に食われてた奴のこと見てねえんじゃねえか。

こいつは魔法もすげえし俺と違って冷静だから、戦闘要員としてはパーティを組むのも悪かないんだけど、とにかく堅物でうるせーんだよな。



ブツブツ文句言いながら、レイシスの言ったほうへとのんびり向かうと意外にも奴が真剣な顔で問題の人物に見入っている。

? えっまさか、剣が当たってた?



いやいやまさか!もし人に当たったりしたらもっと別の手ごたえがあるはずだし、そもそもあの深さなら花の内部までは刺さってないはず。

でもレイシスの表情を見ていたら、こっちまで気が焦ってきて、思わず小走りに奴の方まで近づいた。



「おい、どうした!?まさか…」



そうして、奴を押しのけて見た問題の人物は…











「かわいいな…」

「美しい…」





◆◆◆◆





「…ウッ、ゴホゴホッ!」



暗闇に光が差し、ホッとしたのも束の間。口の中に入った謎の液体にむせ返り激しくえずいた。

うぇぇ、生臭い匂いが気持ち悪い…なにこれ?

う~~~~、ぺっぺっぺっ。

はぁはぁ。

ようやく息が落ち着き、辺りを見渡す。



あれ?悪夢からやっと覚めたのかと思ったけど…景色が変わってないよ?

あいかわらず森の中だし…ひっ!?



何気なく横に目を向けると、先ほどのバケモノ花が横たわっていた。

尻をついたまま後ずさる。なんで助かったのか分からないけど急いで逃げないと!



ん?

あれ?よく見ると、動いてない??



さっきまで不気味に蠢いていたはずなのに、目の前の花は今はぴくりとも動いていない。

しかもよく見れば茎から花の部分がばっさり切られている。



これって誰かが切った後だよな?

もしかして、誰かに助けられたの、俺?



その時になってようやく自分の上に影を落としている人物の存在に気が付いた。

陰に沿って視線を上げると、男二人がこっちをじっと見降ろしてる。



思わず俺の方も目を見開いて見入ってしまった。



だって二人の様子がどうにもおかしいのだ。

たぶん30代くらい?の男たちは外国人っぽい顔立ちをしていた。

体格もやたらよくて見上げているせいか余計にでかく見える。



2人とも布切れを巻いたような変わった服を着ていた。

が、それよりそのうちの一人の腰に…もしかして、あれって剣!?

ど、ど、どうなってるの???

この人たちは助けてくれた味方?それとも敵?どっち?



「え、えっと…?」



ずっとただ凝視されてたので困ったように声を上げると、ハッとしたように二人は動き出した。



「お前、めっちゃかわいいなー!」

「え?は、はぁ?」

「食われているのがオッサンだったら、後処理はギルドに任せようかと思ってたけど、あんたなら大歓迎だぜ!

この後俺がきっちり面倒見てやるから」

「???」

「…ガロス、お前は蜜を早く採取しろ。捕食後で大量に出ているとはいえ余り時を置けば乾くぞ」

「あー、そうだな。そこのあんた、まだ平気だよな。すぐに済ますからちょっと待ってな」



いうが早いか、ガロスと呼ばれた無精ひげの男は花の方へと向かっていった。



全然状況は分からないけど、話を聞いた感じだと誘拐犯とかではないみたい。

たぶん、この人たちが俺を助けてくれたんだよな?



「ええと…」

「私はレイシス。向こうにいるのはガロスだ。

君のことは我々が責任をもって保護をするので安心していい」

「俺は、桐花咲夜といいます。あの、ありがとうございました…」



無表情で俺を見下ろしてくるメガネの男に礼を言う。

怖い…怒ってんのかな?でも世話になったなら礼をきちんと伝えるのは我が家の家訓だ。



メガネ男はふうとため息をつくとこっちを見下ろしながら口を開いた。



「いや、礼には及ばない。

私たちの目的はモンスターフラワーの蜜の採取だ。むしろ君のおかげで採取が容易になったのだから礼を言うのはこちらの方かもな」

「え…、でもあなた達が来てくれなかったら、たぶんあのバケモノに食べられて死ぬところだったし…」

「? 死ぬ?」



俺の発言に、メガネ男はピクリと眉を動かした。

あれ?何か変なことでも言っただろうか。



「あの花の生態を知らない…。君はこの辺りの住民ではないのか?」

「えっ。えーと」



たぶん、違う。というか世界そのものが違う気がする。

あ、でもそういえば、言葉は通じてる。それは助かるけど何故なんだろう。



ものすごくぶっ飛んだ考え方だけど、なんとういかいきなりファンタジーな世界に紛れ込んでしまったような…そんなふざけた推理が一番しっくりくるんだよな…。

でも、こんなのどう説明したらいいんだ?俺にだってさっぱり分からないのに。



「うーん、俺もよく分からなくて…くしゅんッ」



色々な衝撃で気づかなかったけど、自分の体を見てみると全身べったり濡れていた。

うええ、気持ち悪い。



「すまない、話は後にした方がいいな。そのままでは風邪を引く。それに蜜を長時間肌に触れさせるのもまずい。

濡れた服を脱いで、そうだな…これを着るといい」



そういうと、めがねさんは羽織っていた外套を脱ぎ俺に手渡した。



「あいにく他に手持ちがなくてすまないが…。これでも濡れたままでいるよりましなはずだ」

「いえ、ありがとうございます!」



俺は外套を受け取るとさっそくトレーナーをめくりあげた。

濡れた服が肌に張り付いて気持ち悪い…。

ん?



目線を感じて顔を上げると、メガネさんがこっちを凝視していた。



「あの?」

「ばっっっ!馬鹿か君は!!!着替えるなら着替えるといいなさい!」



いうや否や、ぐりんとすごい勢いで回れ右をして向こうを向いた。顔が赤い?



「お…女の子がそのような…はしたないッ」

「はぁぁあ?」



何言ってんだこの人。



「あ、あのー、俺はー」

「いいから早く!」

「え、でも俺はおと-」

「ぐずぐずしてるとガロスが戻ってきてしまう!脱いだら早く隠すんだ!」

「ええっ」



誤解を早く解きたいけど、急かす声につられてとりあえずわたわたと着替える。

にしても、どこをどうやったら俺が女に見えるんだろう?

メガネの度が全然あってないのかな?



「あのー、着替えたので、もう大丈夫です」



俺がそう声を掛けると、メガネさんは恐る恐るといった感じでこちらを振り返った。

そしてその後再び固まった。

今度は何が見えたんだろう?



「あ!それいいなー!!!」

「わっ」



後ろから大声を上げてひげ男が近づいてきた。



「レイシスってむっつりだったんだな~。かわいこちゃんに自分のコート着せるとか。荷物置いてるとこまで戻れば着替えくらいあるじゃん」



あ、あれ?確か他に服がないって話だったよな…。



「うるさいだまれ彼女が風邪をひきそうだったんだ早く着替えないとまずいからしかたなかったんだそれ以外に理由はない」

「わははっ、お前も男だったんだな!でも見た目最高!この下ってもしかしてすっぽんぽんなの?」

「え…はい」

「「ぐふっ!!!」」



冷静に考えたら俺の恰好って裸コートなわけで、立派な変態の格好だ。

それで引いてるのかな?

固まってた二人はしばらくすると、ぎこちなく笑顔を浮かべながら俺の手を引いた。

そして対して力を入れる様子もなく俺をひょいっと担ぎ上げた。



「ほら、早く行こうぜ!あっちに荷物と一緒にカローリが待っててくれてるからさっ」

「わわっ、あの!俺、歩けます…!」



これはドラマとかで見かける姫抱っこというやつでは!!

本当を言えば、死にかけたショックで腰が抜けていてまともに歩けない状態だったが、だからといって男がやすやす人に抱えられるってどうなの?情けなさ過ぎて無理!

っていうか、この抱かれ方って顔が見えて…恥ずかしい!

せめておんぶにしてくれ~~~!



「軽いな~♪ こんくらいで照れてんの?かわいい~!でもそんなんじゃ、今から大変だぜ?ホラ練習だと思って!

…あ、おーい!カリー!」

「クエエッ」

「きょ、恐竜!?」



ひげ男ことガロスさんの呼びかけにどかどかと可愛くない足音を立ててやってきたのは、馬くらいの大きさの…やっぱりどう見ても恐竜なんですけど!

やっぱり、思ってたけど、ここって別世界なの…?



恐竜は見かけと違って人懐っこい性格らしい。

俺に鼻面を近づけてきてぎょっとしたが、ガロスさんに言われ頬の辺を撫でてやったら嬉しそうにすりすりしてきた。

…かわいい。



「まったく、お前の騎獣は飼い主そっくりだな。カロ!」

「クエっ!」



メガネさんが呼び掛けた先にはもう一匹恐竜がいる。その下にはリュックみたいな布袋があった。この荷物の番をしていたのだろうか。

メガネさんは恐竜にも声を掛けながら、手早く荷物を括り付けていく。

そうしている間に俺はさらに抱え上げられ、恐竜の上に跨がされた。



「わわっ!」

「んー、鞍が一人用しかないんだよな。どう?座れる?」

「彼女はこちらに乗ったらいい。この天幕を下に敷けば痛くないだろう」

「それナイスアイデア!もらうぜ。ほら、これ敷きな♪」

「あっコラ!」



どう?と聞かれたが、そもそも俺は馬に乗ったこともない。

痛いとかどうとかよりバランスが取れず落っこちそうで恐竜の首にしがみついた。

その後ろにひげ男がひらりと乗り込む。



「大丈夫!カリーもあんたのこと気に入ったみたいだな。振り落としたりしねえから安心して乗ったらいい。

それに心配ならこっちにもたれればいいんだぜ?」



そういってグイっと状態を後ろに引っ張る。ひえっと思ったら暖かい厚みのある胸板にボスンと収まった。

さっきも思ったけど、この人でかい…。

体格を比べると俺とこの人たちって大人と子供くらいに違うのだ。



「チっ!…ずいぶん時をかけてしまったな。急ごう」

「へへ~、男の嫉妬は醜いぜぇ。レイシス」



そうして俺は何とか森から脱出したのだった。
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